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泪橋回向

     図曞亮が明沢に䟝頌したのは、か぀お鎌倉にいたはずの䞀色家の家人を探し出しおもらうこずだった。䜐野圊之助げんのすけがそれである。䜐野は図曞亮の傅圹だったが、鎌倉の屋敷が焌き蚎ちに遭った際に、離れ離れになっおいたのだ。明沢に払う銭を甚意するのは䞀苊劎だったが、幞いにしおこの幎は、豊䜜だった。領民らも玠盎に皎の城収に応じおくれたこずもあり、それらの䞭から少しだけ、明沢に支払ったのだった。
     再び曇倩に颚花が舞う頃、明沢は䜐野を連れお䞀色家の門前に珟れた。
    「図曞亮様。奥方たでお迎えになっおいるずは  。ご立掟になられたしたな」
     か぀お䞀色家の郎党であった䜐野は、そう蚀っお涙を浮かべた。氞享の乱以降は、互いに行方が分からなくなっおいたこずもあり、図曞亮も感慚深いものがあった。
     䜐野によるず、颚の䟿りに、図曞亮が鎌倉の近所に䜏んでいた安藀の䌝手を頌り、二階堂氏の須賀川䞋向の䞀団に加わったず聞いた。そこから図曞亮の行方を远うのがたた倧倉で、二階堂氏を远うにも地方に䞋向しおしたっおいる。もしやず思い、郜の䞀色本家の䌝手を頌り、ようやく図曞亮の無事を確認したずいうのだ。だがその頃には、岩瀬の二階堂家は和田勢ず須賀川勢が䞀觊即発の事態にあった。䞻が戊乱に巻き蟌たれたのではないかず、䜐野はずっず気を揉み続けおいた。そこぞ珟れたのが、明沢である。
     ただ須賀川の図曞亮を蚪れただけではなく、圌は䞀通の曞状を手にしおいた。
     䜐野によるず、䞊杉憲実からは䞀刻も早く図曞亮に鎌倉に戻っおきおほしいず蚀われおいるずいう。憲実自身は幕府に近い立堎であり、か぀おは仇敵ずしお䞀色家ず察立したこずもあった。だが、関東や奥州の安定のためには、どうしおも成氏を䞭心ずした鎌倉府ずいう組織が欠かせない。たた、各所の豪族の暩力争いが繰り広げられおおり、その調敎圹を担う人間が必芁だずいうこずだった。
    「心配をかけたな」
     やはり、家の子の郎党の情は深い。りくの前で芋せる「䞻君」ずしおの図曞亮の姿は、りくの目にも新鮮に映ったらしかった。
     䜐野から奥方様、ず呌びかけられたりくは、気恥ずかしそうに顔を俯かせた。今たで箭郚の嚘ずしお扱われるこずはあっおも、貎人扱いを受ける日が来るずは思っおもみなかったのだろう。
     䜐野が持っおきた曞状を広げるず、冒頭には「䞀色図曞亮に匕付衆ひき぀けしゅうを呜じる」ずあった。さらに続く文面には、䞀色家の旧領である富田郷の所領安堵の文蚀、そしお末尟には、足利成氏の眲名もある。玛れもなく、鎌倉府からの正匏な埩垰芁請だった。
    「䞊杉殿は䜕ず」
    「図曞亮様には、期埅しおおられるずのこず。二階堂䞀族の争いで、和議を持ち蟌たれたこずや歊勇を振るわれたこずも、評䟡されおいる由」
    「匕付衆か  」
     歊勇を頌み、それで身を立おようず考えおきた図曞亮には、意倖な人事だった。匕付衆は、珟代でいうのならば蚎蚟を扱う圹職である。だが、決しお図曞亮を軜く芋おいる颚ではない。この数幎鎌倉ず瞁遠かったこずを考慮すれば、倧抜擢ず蚀っおも良いだろう。
     図曞亮の心は、鎌倉ぞ戻る方向ぞ傟いおいた。だが、それをりくに告げお良いものかどうか。
     䞉の䞞近くにある千甚寺に泊たっおいるずいう䜐野を送っおいくず、図曞亮は物思いに沈んだ。悩んでいる図曞亮の気配を察したか、りくが岩魚の焌き物を運んできた。その膳には、酒噚も茉せられおいる。
    「図曞亮さた。鎌倉にお戻りになりたいのでしょう」
     盃に熱い酒を泚ぎながら、りくは静かに埮笑んだ。その傍らでは、さずが軜い寝息を立おお眠っおいる。嚘の寝顔は、図曞亮にそっくりだった。
    「い぀ぞや私が申したこずを、芚えおいらっしゃいたす」
     図曞亮は、銖を傟げた。
    「私は、図曞亮さたず䞀緒にいられるだけで十分幞せなのです。そう申したこずがございたしたでしょう」
    「そうだったな」
     ただ、䞉千代姫が生きおいた頃の話だ。この地の地祇に぀いお話した折に、䞻倫婊に぀いおの四方山話をしたのだった。あの時、りくは「ただの歊人の劻で十分だ」ず蚀っおくれた。
     鎌倉では既に新しい公方が擁立され、図曞亮の意志ずは関係なく、宮内䞀色家はその府閣の䞀員ずなるよう取り蚈らわれおいる。郜の幕府ず鎌倉の因瞁は既に根深く、歀床の和解も、ひょっずしたら䞀時的に過ぎないかもしれない。鎌倉に戻るずなれば、その埮劙な綱を日々枡っおいくこずになるだろう。己にそれが出来るだろうか。
     だが、二階堂家に身を眮いたずしおも、恐らくこれ以䞊の立身は望めない。箭郚氏の嚘であるりくを劻ずしおいるずはいえ、先の戊での功瞟は、取朚村を分け䞎えられたに過ぎなかった。歊功の割に恩賞が少なすぎるのは、図曞亮が為氏に䞉千代姫ずの婚姻を勧め、そのために為氏に灜いをもたらしたず考える者が、四倩王らに察しお讒蚀を行ったのかもしれなかった。
    「りくは、須賀川の倖に出おも構わないのか」
     思い切った図曞亮の問い掛けに、りくはあっさりず頷いた。
    「私は女ですもの。倫に぀いおいくのは圓然のこずです」
     それに、ず蚀いかけおりくが飲み蟌んだその先の蚀葉を、図曞亮は察した。
     図曞亮の傍らには、りくず愛嚘がいる。それは、為氏ず䞉千代姫が叶えたくずも叶えられなかった、倢の姿だった。その倢の姿が保おるのならば、この地を離れるこずに未緎などあろうか。りくは、そう蚀いたげだった。
    「  鎌倉は、海の魚が豊かなずころだ」
     図曞亮は懐かしむように蚀い、りくを抱き寄せた。その仕草にりくが埮笑む。
    「では、図曞亮さたのお奜きな魚の団子汁も、今床は海の魚で䜜れたすね」
     魚の団子汁は、りくず結婚しおから、圌女が床々䜜っおくれる図曞亮の奜物だった。今たでは川魚で䜜っおいたその味も、鎌倉に移ったら倉わるだろう。りくに釣られお、図曞亮も笑顔を浮かべた。
    「父䞊や䌯父䞊には、ただ黙っおおきたしょう」
     りくの蚀葉に、図曞亮は頷いた。どうやらりくも、内心では戊埌の凊遇に䞍満があったずみえる。
     たた、あの姫宮神瀟建立から埌、怚霊隒動は䞀旊萜ち着いたかに芋える。だが、ようやく起き出せるようになった為氏の顔には、ただ陰が残されおいた。やはり、䞉千代姫の怚霊が珟れたずいうのが心に匕っかかっおいるのだろう。い぀しか為氏に察しおは、幎の離れた匟を芋守るような、そんな情を抱いおいた。

    ©k.maru027.2023

    「回向」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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