
青い石と祈りの女神ー戦場ヶ原神戦伝ー|舞台脚本
あらすじ
日光・戦場ヶ原に伝わる、赤城山と二荒山の神々の戦い。
現代の子どもたちが遠足で拾った一つの青い石は、千年の時を越え、彼らを伝説の世界へと導く。
そこは、命を守るために魂を妖魔に売った赤城山の神と、彼を愛した湖の女神・華厳、そして二荒の神々が生きる神話の舞台。
戦いの果てに問われるのは、「命より大切なものは何か」。
神と人、過去と未来が交差し、愛と誇りが試される最終決戦が始まる。
家族を守るために千年――祈り続けた女神の奇跡。
主要登場人物
勇気
日光に遠足に来た男の子。青い石を拾うことで伝説の世界に誘われる。
赤城
赤城山の土地神。山火事で消えゆく那由他の命を守るため、妖魔に魂を売る。
男体(ナンタイ)
二荒山の男神で華厳の父。大蛇の化神。
女峰(ニョホウ)
二荒山の女神で華厳の母。白鹿の化神。
華厳(ケゴン)
男体と女峰の娘。二荒の湖の女神。赤城と恋仲になるが…。
猿丸
武術の神と同じ力を持つ軽妙な男。婚活中。
なかよし
神の夢の案内人。執事の恰好をし、肩に鳥の人形を乗せたおじさん。
もくじ
0.プロローグ ── 焦土の峰
一.遠足に来た子どもたち ── 現代・戦場ヶ原の出会い
二.決戦の残響 ── 二荒湖畔に響くもの
三.赤城と華厳 ── 二荒神社、語られる真実
四.ふたりの赤城 ── 山が抱く二つの魂
五.赤城、再び現る ── 二荒神社に迫る影
六.武神・鹿島の神 ── 鹿島神社、力を継ぐ者
七.猿丸 ── 奥州の山奥にひそむ者
八.決戦前の祈り ── 二荒神社、最後の夜
九.最終決戦 ── 二荒の平野、天と地の狭間で
十.エピローグ ── 現代・戦場ヶ原に帰る声
※舞台用語集
• ト書き:セリフ以外の動作や演出の指示。舞台の動きを補う。
• 暗転:照明を落として場面を切り替える演出。
• 上手(かみて):観客から見て右側の舞台。
• 下手(しもて):観客から見て左側の舞台。
• 花道:舞台から客席へ伸びる通路。特別な登場や退場に使われる。
• 開帳場(かいちょうば):俳優が昇り降りできるように設置されたスロープ状の大道具。今回は舞台中央奥に設置。
※舞台脚本について
セリフを中心に舞台進行を記載したものが脚本です。始めて読むと、情景やキャラクターの心情がほとんど記載されていないので、慣れていないと小説と比べ物足りないかもしれません。その分、読み手に与えられる裁量は大きいです。このような脚本で「お客にどう感じてもらいたいのか、どう見せるのか」を考え指示する人が演出家です。
※本作品は2016年に日光市市政10周年記念で上演された舞台劇
日光市市政施行10周年の記念事業として舞台化された作品です。2日間限定の市民参加劇として上演され、惜しまれつつ幕を閉じました。その脚本をブラッシュアップした作品です。日光にまつわる伝説を現代の子供たちと共にお楽しみください。
脚本はちょっと…という方は、未完ですが小説版をお楽しみください。
▶小説版「青い石と祈りの女神」

第一幕
0.プロローグ ── 焦土の峰
開幕。神々と人の境界があいまいな時代。赤城山は未曾有の山火事に見舞われた。木々が燃えるパチパチという音と業火音。緞帳(ドンチョウ※一番客席寄りの幕)を上げる。火の海に苦しみのたうつ人々や獣。火の海の死体を抱きしめては次の死体へと右往左往し、涙する一人の神がいる。
赤城 みんな死んでいく!なぜ…俺は見ているだけなのか…。
妖魔 命を救いたいか?
赤城 …妖魔。…あの子も…この炎の向こうで…助けられるのか?
妖魔 ああ、お前の魂と引き換えに。
赤城 …俺の魂。
妖魔は妖魔の仮面を着用する。また、劇中妖魔に取りつかれている赤城山の神も妖魔の仮面を着用する。
暗転。
オープニングムービー テーマ曲 時の傷痕(一回目 歌あり 2:25 )
風すさぶ野原に咲き誇る
花々は時を止めるよに
語り継ぐ
神の石に導かれ
千代の想いここに甦る
大きな孤独の中で君が微笑む
凍える記憶の底で僕はつぶやく
今胸打つ強い鼓動は明日を変える勇気の力
生きる事は奪うことか それとも共に生きていくことか
さあ走り抜け夢の時間を 燃やした命が時の傷痕
一.遠足に来た子どもたち ── 現代・戦場ヶ原の出会い
楽しげな遠足の歌が聞こえる。歌が終わると遠足の集団が現れる。戦場ヶ原の看板が立っている。
先生 は~いみんな集合~。ここが戦場ヶ原です。
龍之介 なんにもな~い。
先生 そう見えるけど、ここには神様の戦いの伝説があります。
子供達 伝説?
先生 その昔、私たちの町の赤城山の神様と、二荒山の神様がここで戦いました。
勇気 神様が?
先生 赤城山の神様は大百足に、二荒山の神様は大蛇になって戦ったそうよ。
愛 先生!
先生 はい、愛ちゃん。
愛 二荒山ってどこ?
先生 あの男体山と女峰山あたり。昔はそう呼ばれていました。
美森 先生!
先生 はい、美森ちゃん。
美森 なんで赤城山と二荒山は戦争したの?
先生 中禅寺湖の所有をめぐって争ったそうよ。
龍之介 先生!赤城山の神は勝ったの?
先生 残念だけど負けちゃったの。始めは赤城山が優勢だったそうだけど、二荒山が弓の名手に助っ人を頼み、その人の弓で赤城山を破ったと言われているわ。
龍之介 えーなんでぇ、助っ人なんてずるいよ~。なあ勇気。
勇気 うん。
先生 つまり龍之介さん、赤城山は二荒山の神が助っ人を頼まないと勝てないほど強かったっことよ。
龍之介 よし!じゃあ俺が赤城山の神、勇気、二荒山の神。
二人じゃれ始める。
先生 それでは、散策オリエンテーリングをはじめます。各グループに分かれて、準備ができたグループからスタートしてください。は~い、スタート地点はこっちで~す。
愛 よし、美森ちゃん、行こう。
美森 うん。あれえ?愛ちゃん、勇気君と龍之介君は?
愛 えっと~、あ、あそこ。こら!二人とも早くしなさいよ!他のグループに負けちゃうでしょう。
龍之介 必殺!赤城スリーパー!
勇気 やめて~。
愛 龍之介!やめなよって。
龍之介 やだね~。
美森 龍之介君、離して。(かわいく)
勇気を離す龍之介。対応の違いに、呆気にとられる愛。勇気は咳込みながら地面を見る。ふと、なにやら不思議な形の石が目線に入り、拾い上げる勇気。
愛 …まあいいわ。二人とも準備はできてる?みんなもう先に行っちゃったじゃない。
龍之介 おう、まかしとけ。えっと地図地図、あれ、どこだ?
愛 ああ、先が思いやられる。
美森 あれ、勇気君、何それ?
勇気 …冷たい…あっ、美森ちゃん。
真っ青な勾玉を持っている勇気。彼らはまだ古代のアクセサリである勾玉を知らない。
美森 面白い形だねぇ。
愛 もう勇気!石なんか見てないで地図を見なさいよ!地図を!
勾玉をポケットに入れる勇気。とその時、ゴロゴロと低く雷鳴が聞こえてきた。全員軽い悲鳴。
勇気 何?
美森 雷?こんなにいい天気なのに?
龍之介 雷やだ~!(以後、雷嫌い、やだやだと連呼)
愛 あ~もう、龍之介、勇気、あなた達のせいよ。
勇気 え~っ。
雷鳴。全員悲鳴。おびえながら空を見上げる四人。
愛 ちょっと!嘘でしょう?雲なんか何処にもないわよ。いやだ龍之介!くっつかないでよ。
勇気 晴れてる時の雷は危ないってお母さんが言ってたよ。
龍之介 いやだ~、美森ちゃーん。
美森 触らないで。(きっぱり)
龍之介 (泣き)勇気~。
龍之介は残された勇気にくっ付く。龍之介を慰める勇気。不安になる四人。
愛 とにかく。クラスのみんなと合流しましょう。
雷鳴。全員悲鳴。辺りが暗くなる。勇気のポケットの中で拾った石があやしく点滅する。四人は気付かない。暗闇から声が聞こえる。
男体 二荒から出ていけ!
赤城(魔人) 聞けぬな。二荒の湖の女神、華厳は俺が偉大なる神、大神(オオカミ)になるために必要だ。
男体 ええい!身の程知らずめ。二荒の湖は、二荒が生んだ命の水だ。まして軍勢を引き連れてくるような奴に我が娘、華厳を差し出す道理など一つもないわ!
赤城(魔人) ならば神戦となるぞ。
男体 始めからそのつもりだろうが!
赤城(魔人) その通り、茶番は終わりだ!妖魔、百足の化身。
男体 大神、大蛇の化身。
音楽。戦場ヶ原神戦伝 テーマ曲 時の傷痕(二回目 歌無し、転調後の部分から)
勇ましい両軍の掛け声とともに、赤城率いる百足軍と男体率いる大蛇軍の戦いが始まる。大百足と大蛇の決戦のダンス。最後は大蛇達が赤城を囲み締め上げ、男体が赤城を倒し縛り上げる。
上手花道の子供たちに照明切り替え。
愛 ど、どうなってんのよ?
美森 伝説の時代に…来た?
龍之介 ここどこ?
勇気 周りが真っ暗…。
愛 でも、なんでここだけ明るいの?
あたりを見回す。勇気のポケットの中で華厳の石が光る。(青い照明点滅と効果音。※一幕中同様の処理)
龍之介 おい、あそこ!
上手花道から舞台へ照明切り替え
二.決戦の残響 ── 二荒湖畔に響くもの
男体 てこずらせおって!たかが神が大神に勝とうなど千年早いわ!おい、縛り上げろ。こいつの望んだ二荒の湖に沈めてやれ。
舞台中央平場にて男体の家来に縛りあげられる赤城。
赤城(魔人)いいのか男体。お前は俺の毒で死ぬぞ。
男体 毒?ぶわははは、お前の毒など効いておらんわ。ああ、命乞いか?かわいそうに命乞いの仕方も知らんらしい、遺言ならきいてやるぞ、ん?
赤城(魔人)遺言。ふふっ、お前の代わりに詠んでやろうか?
男体 棒を貸せ。
男体は棒でひとしきり赤城を打ち据えるが固い赤城の百足の鎧に阻まれる。ガギン、バギンと金属音が鳴り響く。
男体 くそ、固い奴だ。もういい、沈めろ。
赤城(魔人)良く聞け男体。俺はけっして死なん。死ぬのは貴様だ!うわぁー!
上手2階より二荒の家来に湖に沈められる赤城。見届ける男体山の神。
男体 ふん、遠吠えはあの世の友達に聞いてもらうん…ぐえお、うう…。
倒れこむ男体。
家来1 男体様!どうなされました!
下手2階より赤城山の神が現れる。
赤城山の神 この鈍感野郎め。やっと毒が効きだしたか。
家来2 な、なんだと!今確かに湖に沈めたはず?
赤城山の神 俺は赤城山の神体だ。人の体は捨てたよ。
大真名子 人の体を捨てた?できるのかそんなことが?
赤城山の神 だが、人の体を失ってしまった以上、貴様らに干渉する力はないがな…。言ったろう男体山の神よ、俺は死なんと。
男体 貴様…。
赤城山の神 じっくり毒に侵され苦しみながら死ぬがいい。お前がいなくなった後、ゆっくりこの二荒を頂いてやる。さらばだ。
男体 お前ら、何をぼうっとしておる。奴を…逃がすな…。
再び倒れこむ男体。家来一人を残し、赤城山の神を追う。
家来達 男体様!男体様
下手花道の子供たちに照明切り替え。
愛 どうなってんのよ勇気?
勇気 だから僕に聞かないでよ~。
美森 こことは違う風景が見られたわ…。
龍之介 あ~あ、やっぱり男体山の神が勝ったんだ。
愛 そんなことより、今の私たちの状況のほうが問題でしょう!
美森 私たちのいる場所だけ明るいってどういう事なのかしら?
勇気 わかった!これは、夢なんだ。
愛 夢?夢ねえ。頬っぺたつねってみたら?
勇気 わかった。
頬っぺたをつねる勇気。
勇気 いたぁ~い!夢じゃないかも~。
龍之介 だめだ、いって、(頬をつねっても)全然覚めないぞ。
勇気のポケットのなかで拾った石があやしく点滅する。
美森 あ!あそこ!。みんな見て!
舞台を指さす美森。花道と舞台の照明切り替え。
三.赤城と華厳 ── 二荒神社、語られる真実
音楽(失われた欠片 クロノクロスより)。華厳が舞台中央中段に登場。神体が抜けてただの人間となった赤城(※要着替え)が下手中段の床に寝る。華厳が近づいて看病する。
赤城 ここは?俺は…。頭が…。
頭や体が痛む赤城。まだぼんやりしている。
華厳 気がついたか。
赤城 うう、貴方は…。
華厳 二荒の、湖の神だ。
赤城 二荒の湖…。俺は…一体…。
華厳 お前はわが父、男体山の神との戦いに敗れ、二荒の湖に沈められたのだ。
赤城 男体山の神…。二荒の湖…。
華厳 夢うつつとはいい気なものだ。お前のおかげでわが父は…。
赤城 …男体山の神は?
華厳 お前の毒にやられて起き上がることも、食事をとることもできない。
赤城 俺は…。(沈黙)
華厳 何を黙っている!
赤城 …。
華厳 何をたくらんでいるのか知らぬが、お前はただの人間だ。神である我らには敵わぬぞ。
赤城 神の力…。すまない…。
華厳 ふざけるな!父を傷つけた前を、私がどんな気持ちで助けたか…。お前は言ったそうだな、男体山の神を助けられるのは自分だけだと。ならば父を助けろ!
赤城 …貴方が助けてくれたのか…。
思案する赤城。華厳がものすごい形相で赤城を睨んでいる。赤城は大きくため息をつく。
赤城 …分かった。そう睨むな。男体山の神を助けよう。…うっ。
立ち上がろうとするが、立てない赤城。華厳が支える。
華厳 つかまれ。…父のためだ。
赤城、華厳下手に退場。上手中段で男体が少し横になれるような椅子に伏せっている。女峰が看病をしている。
女峰 あなた、村の人たちが貴方の恵みを受けて作った粥ですよ。さあ召し上がって。
男体は食べようとしない。
女峰 あなた。水ですよ。
男体は呑み込むが、しばらくすると吐き出してしまう。
女峰 水も飲まなかったら死んでしまいます…。さあ。
男体は水を飲む、がやはり吐き出してしまう。
女峰 あなた…。
献身的な看病を続ける女峰。舞台中央開帳場より華厳に連れられて赤城が現れる。
華厳 お母さん。赤城を連れてきたわ。
女峰は無言で赤城に歩み寄り、平手打ちを見舞う。
女峰 赤城よ、私は二荒山の女神、女峰。今のであなたのこれまでの行いを許します。だから、男体を助けて…。
崩れ落ちるようにひれ伏す女峰。
華厳 やめて!お母さん。さあ、赤城!
自分の行いに、罪の意識を感じる赤城。男体を診る。
赤城 よく生きていたものだ…生きているなら、解毒薬を飲めば助かる。
女峰 ああ…。
安堵する華厳と女峰。赤城をにらみつけて治療を促す華厳。
華厳 なら、早く解毒薬を。
赤城 毒は神経性、全身麻痺から心停止に至る。解毒薬を作る。次の物を清めの酒に溶かして飲ませろ。言うぞ、ドクダミ、キンカン、シソ、オミナエシ、ノビル、百足だ。急げ!
華厳急いで出ていく。赤城は移動し舞台中央の階段に座ったところで。時が止まる音(SE:ガラスが割れるような効果音からの神の庭(クロノ・クロスより)10秒程度)と時が止まっている時の照明。終わると華厳が病室に駆け込んでくる。
華厳 薬が出来たぞ!
赤城 (驚)早い!どういうことだ、取り置きでもあったのか?
華厳 うるさい!お前の言ったもので間違いない!
赤城 ならすべて飲ませろ。一滴残らずだ。
華厳 父が助からなかった時は覚悟しておくんだな。
女峰 さあ、あなた。これを飲むと元気になれますよ。
男体は呑み込むが、しばらくすると吐き出してしまう。
女峰 ああ、何てこと。
華厳 赤城!
赤城 駄目だ。飲ませなければ死ぬ!
再度、男体に薬を飲ませる女峰。しかし、男体は吐こうとする。
女峰 あなた。頑張って!
華厳 お父さん!
苦しむ男体。
赤城 男体山の神よ!お前が倒れたら誰が二荒を守る!(華厳を抱き寄せる)
華厳 やめろ!
目を見開いて赤城を凝視する男体山の神。フグのように膨らんだかと思うと薬を飲み込み白目をむいて気を失う。
女峰 あなた!
華厳 お父さん!
駆け寄る、赤城。男体を診る。
赤城 もう大丈夫だ。
手を取り合う女峰と華厳。男体に寄りそう。
暗転。音楽(クロノクロスよりアルニ村)。男体・女峰・華厳退場。赤城は舞台中央下手寄りの階段に移動。
小鳥の声が聞こえてくる。二荒山神社の湖畔の縁側から二荒の湖を眺めている。そこには、妖魔のような邪悪さはなく、森とともに生きる一人の凛とした気高い神の姿があった。下手中段より歩み寄る華厳の気配に気付いた赤城が華厳に声をかける。
赤城 どうだ、男体山の神は?
華厳 ああ、快方に向かっている。
赤城 そうか、よかった。
華厳 …なにを見ていた。
赤城 森と湖…二荒の神々が美しい訳だ。
華厳 赤城山は?
赤城 …美しかった…。(目を閉じる)
華厳 美しかった?
赤城 赤城山には二荒の湖と同じように湖があるんだ…。湖の端に小さな島があって、その島には小鳥達が遊びにやって来る。俺は白樺の林にたたずみながら小鳥たちと話すのが好きだった。そのうち人間たちが俺のために、島に祠を建て祭ってくれた。幸せだった。…ところが、昨年の神無月、何百という落雷で山が燃えた。それは俺が今までに経験したこともないとてつもない数の落雷だ。赤城山すべてが火の海だ。みんな炎に焼かれ死んでいく。俺は赤城山の神。ところがどうだ、俺は神であるのに雨一滴すら降らすこともできない。ただ、ただ、ひたすらに消えゆく命の叫びを聞いた。痛い。苦しい。死にたくない。助けて。お母さん、お父さん。助けて。助けて。みんな、みんな死んでいく!俺は神なのに一つの命も救えない。俺は本当に神なのか?その時、赤い妖魔が俺の前に現れた。妖魔は言う。赤城山の命を助けてやろう、神の命を差し出せば、赤城山の命をすべて助けてやろうと。俺は神の命を差し出した。そして…神でありながら妖魔となった。俺は…間違っていたのだろうか?…後は貴方の知るとおりさ。
赤城の語りに合わせて赤城山の映像を流す。気付くと華厳が涙を流している。
赤城 すまない、悲しませるつもりは…。
華厳 命を見届け、記憶するのが土地神の役目。
赤城 分かってる…だが何とかしたかったんだ。
残念そうに微笑み、はにかむ赤城。その笑顔に華厳は見とれる。
華厳 お前は…優しいな。お前は人間みたいだ。
赤城 人間…人間か…。さて、薬草を取ってこよう。
華厳 まて、私が行く。お前もまだ癒えていないだろう。
赤城 もう歩けるさ。
華厳 なぜ背負い込む?
赤城 …できないことは、できる神に頼む…そういう道もあるか。
華厳 世話の焼ける神様。
赤城 もう神様ではないがな。
微笑みあう。
赤城 華厳…先生かな。薬草…お願いできますか?
華厳 分かりました。
上手花道の子供たちに照明切り替え。子供達は体育座りしている。
勇気 あ、明るくなった。
愛 どうなってんのこの感じって…。
龍之介 やっぱり赤城は良い神様だったんだな。
勇気 うん。(嬉しそうに)
美森 愛ちゃんが言ってるのは華厳と赤城の関係でしょ。
愛 美森ちゃんも気付いた。
美森 うん。二人の空気が変わった気がする。
龍之介 空気が変わったって?勇気、なんか匂ったか。
勇気 (くんくん匂いを嗅ぐ)うーん。(首を傾げる)
愛 あのね、匂いじゃなくて雰囲気。華厳と赤城が恋に落ちたってこと。
龍之介 え、どうして。
愛 鈍い男は男はもてないわよ。
美森 強い男の弱さを知った華厳。弱さを見せた赤城。恋の始まりかも!
龍之介 え~、どうしてそうなるんだよ?勇気分かる?
勇気 分かりませ~ん。
愛 ガキね~。
勇気のポケットのなかで拾った石があやしく点滅する。
美森 あ!また!見てみんな!
男体と女峰を前に正座する華厳と土下座する赤城。
男体 ならん!駄目だ!駄目だ!駄目だ!いったいこの一カ月に何があった。
女峰 あなた。抑えて。
男体 何がどうなっている?
華厳 だから、私、赤城山に、嫁に行きます。
男体 はあ?おやおやおや、私の頭も毒にやられてしまったのか?華厳よ、もう一度言ってみなさい。
華厳 赤城さんと結婚します。
男体 気でも狂ったか!そいつはわしを殺そうとした張本人だぞ!
華厳 分かってます。でも私、赤城と一緒に赤城山を二荒に負けない国にしたい。
男体 そいつは外神だ!しかも神どころかただの人ではないか!駄目だ。どっちらにしても駄目だ。駄目だ、絶対に許さん!
華厳 口を開けば、駄目だ駄目だって。じゃあどうすれば良いのよ?
赤城 華厳!抑えて。やはりまだ時期が。
華厳 赤城は黙ってて。
男体 む、そうか貴様か!貴様が華厳をたぶらかしおったのだな!
華厳 やめてよお父さん。私が決めたの、赤城には私が必要なの。
男体 なんという!この世に神はいないのか?
女峰 あなたが神ですよ。
赤城 申し訳ありません。たび重なる無礼をお許しください。
男体 許すか~!
華厳 お父さん!
男体 ああ駄目だ、目まいが、母さんお薬ちょうだい。
女峰 まったくもう。少し落ち着いてお話を聞いたらどうなのですか?
赤城 いえ、この度は時期をわきまえぬ申し出でした。出直してまいります。
華厳 ちょっと、赤城!なに言ってるの。
赤城 華厳、ここは一旦、なっ。
懇願する赤城。華厳の手を引き引き下がろうとする。しぶしぶ引き下がる華厳。二人は男体の部屋を退散する。
男体 二度と来るな~!母さん塩だ、塩を持ってこい!
女峰 はいはい。
男体の部屋を後にした赤城と華厳。男体の部屋の照明は落とす。
華厳 もう、なんで引き下がるの!
赤城 いや、やはり人間が神を身受けするには無理がある。ここは一度国へ帰って出直してくる。
華厳 国へ帰る?
赤城 ああ、今一度神となって出直してくる。
華厳 ならば、私も行く。
赤城 駄目だ。物事には順序がある。男体山の神は許さないだろう。
華厳 お前は今、神通力をなくしているのだぞ。
赤城 分かっている。
華厳 そんなお前を一人、妖魔が巣食うという赤城山に行かせられるものか。
赤城 大丈夫だ。元は赤城山の神。妖魔も手出しはしないだろう。
心配そうに赤城を見つめる華厳。
赤城 心配するな。
華厳 本当に大丈夫なのか?
赤城 ああ。
見つめ合う。赤城と華厳。
華厳 なら、この石を持って行け。
赤城 これは、首飾りの…。
華厳 ああ、この石に念を込めれば一度だけお前以外の時間をしばらくの間止めることができるだろう。
赤城 なんだって、時間を止める?
華厳 ああ、ただし、一度しか使えないから、どうしようもないときだけ使うんだぞ。
赤城 …すまない。
華厳 待ってる。二人で赤城の国を二荒に負けない美しい国にする。約束だぞ。
赤城 ああ、約束だ。
下手花道の子供たちに照明切り替え。
美森 勇気君、見た!
勇気 見た!
美森 勇気君がさっき拾った石って華厳ちゃんが持ってた石と同じ形だったわ。
愛 ほんとに、勇気?見せて。
勇気 うん、これ。
ポケットから謎の石ころを取り出す勇気。
愛 うん、似てる。華厳のネックレスに。
龍之介 ほんとだ!勇気!なんでお前が持ってるんだよ。
勇気 さっき拾ったんだ。
美森 もしかして、私たちが戦場ヶ原の伝説を見ているのはこの石のせいじゃないのかしら?
愛 この石のせい?じゃあこの石にお願いすれば、元の世界に帰れるんじゃない?
勇気 よし、じゃあ石さん石さん僕達を元の世…。
龍之介 待て!(大声で)
勇気 ひゃあ!(腰を抜かす)
愛 びっくりした~。どうしたのよ。
龍之介 俺、この後、赤城がどうなったのか見てみたい。
勇気 え~僕こわいよ~。
愛 そうね、私も最後まで見てみたい。美森ちゃんは?
美森 少し怖いけど、…私も最後まで見てみたいわ。
龍之介 勇気そういうことだから、次、赤城がどうなったか見せてくれ。
勇気 え~そんなこと僕に言われても、どうすれば…。あ!石が光った。
花道から舞台に照明切り替え。
四.ふたりの赤城── 山が抱く二つの魂
赤城の祠。赤城山の神が王座に座って高みの見物をしている。神を目指す人間たちが集まっている。舞台中央中段に妖魔。その他無数の百足が景気のいい音楽にのって盛り上げている。
神の基準 (曲:基準 約1:35)
ふざけんじゃねぇ 男体山
うぜぇ うざってぇ クソ大神
ただの怪力 あたまからっぽ 負けた俺たちかなりサイテー
むしゃくしゃする 体変える 集めて選ぶ人間ども
体探せ 体探せ 前より強い体探せ
神は選ぶ 体選ぶ 強さ選ぶ 人を選ぶ
ちょっといい?殺しあっいていい?
残った奴が神でいい?
あ~んこれは試練 あ~んこれは試験
神になるのは誰なのか 妖魔の世界はどこなのか
弱者 敗者 死者は排除
差別じゃないよ 区別しないと
戦え人間神は一人 残った奴が神の「基準」
赤城の山を真っ赤に染めろ お前の命で真っ赤に染めろ
赤城の山を真っ赤に染めろ お前の命で真っ赤に染めろ(フェードアウト)
赤城山の神 (椅子から立ち上がり)始めろ。
人間達の殺し合いが始まる。
暗転。場面は赤城山の山道。見張りのカラスとフクロウが佇む。
カラス カー……ついてねぇべ。なんで俺がこんな外れ見張り役なんだよ。神選びの武道会、観たかったのになぁ。
フクロウ ホー、全くだ。死人の肉くらい残してくれりゃいいがのう。
カラス カー……それにしても、人間限定って差別じゃねぇの?俺だって赤城山の神になりたかったべよ。
フクロウ ホー、仕方ねぇべ。知恵のある人間がこの世で最強だかんな。
カラス カー、人間なんざ俺のくちばし一撃でダウンだべ。
フクロウ ホー、自信満々だな。でもよ、俺たちは妖魔付きだから赤城様の神体は乗り移れねぇべ。
カラス カー、でもなフクちゃん。誰にも内緒だぞ。俺が本気出せば、赤城様だって赤子同然だべ。
フクロウ ホー、赤子って……お前、どんだけ実力隠してんだよ。それじゃ俺はお前についてくしかねぇな。
カラス カー、その通りだべ。俺はこれまでは赤城様に媚びてただけだから。これからは俺のこと「おカー様」って呼べ。
フクロウ カー様って…お母さんじゃねえんだから。(遠くに人影を見つける)おっと、カッちゃん、獲物が来たぞ。
カラス カー様って呼べって言ってんべ!しゃあね、俺の力、見せてやっからよ!一撃だ一撃。
カラスとフクロウ、赤城の目前に舞い降りる。赤城はまだ気付かない
カラス カー……そこの人間!妖魔が蠢く赤城山をよくも登ってきたな。
赤城 お前たちは……。
フクロウ ホー、人間よ。神選びの大会はもう始まってる。赤城様はルーズな奴が大嫌い。つまり、お前は食われるしかねぇってわけだホーッホッホー。
カラス カー……不運を呪え。俺のくちばし一撃で──ん?この顔、見覚えが……あれ?あかぁ…あかぁ…あかぁ〜!
フクロウ ホー、どうしたカラス?鳴きっぱなしじゃねぇか。
赤城 久しぶりだな、カラス、フクロウ。
フクロウ ホー?久しぶり?人間に知り合いいたか?……って、赤城様!?
赤城 ああ、俺だ。
フクロウ ホー、これは手強そうだべ。でも、ここには妖魔の中の妖魔、おカー様がいるべ!お前なんざ赤子同然だ!
赤城 ああ?(鋭い眼光をカラスに向ける)
カラス カー……フクちゃん、何言ってんだよ。赤城様に失礼だべ。
フクロウ ホー、そうだ失礼、ホ?(驚いてカラスを見る)
カラス カー……まさか赤城様とは気付かず…失礼しました!神体の赤城様は祠に戻られて以来、次の体を探しておられます。今は人間同士を戦わせ、最強の肉体を選んでいる最中なんです。
フクロウ ホー、お前、なんで戦わねぇんだよ!
カラス うるせぇ!赤城様の体を壊したら神罰が下るんだ!黙っとけ!
赤城 …噂は本当だったか。なら急いで戻らねば。お前たち、先に神体に伝えておけ。「俺が帰ってきた」と。
カラス カー、承知しました!行くべ、フクちゃん!
フクロウ ホー、お前の本気は、いつ見られんだ?
二匹、慌てて退場
赤城 嫌な予感がする…。
暗転。再び赤城山の祠前。既に生き残りは二人になっていた。赤城の山を真っ赤に染めろコールが鳴り響く。
熊の不動 残ったのは俺たち二人か。赤城一の怪力、熊の不動。命が惜しけりゃ逃げるんだな。
盗賊の十朗 へっ、死ぬ奴に名乗るのも変だがな。俺は盗賊、十朗。切り刻んで妖魔の餌にしてやるぜ、ひゃっはー!
二人が激突。熊の不動が倒れる
盗賊の十朗 勝った!俺が神だ!ひゃっはー!
カラスとフクロウが駆け込む
カラス カー!赤城様、大変です!
赤城山の神 今いいところだ。邪魔するな。
フクロウ ホー…赤城様の人体が戻られました。もうすぐここに…。
赤城山の神 人体…生きていたのか。分かった、下がれ。
カラスとフクロウ、顔を見合わせて退場。赤城登場。熊の不動の亡骸に駆け寄る。
赤城 これは…死んでいる…。神体、これは何だ?
赤城山の神 肉体が失われたから、次の器を選んでいた。目の前の男が、次の俺だ。
赤城 なぜ殺し合いを?命を奪う必要などないはずだ。
赤城山の神 俺が男体山の神に敗れたからだ。だから、より強い肉体を求めた。それが悪いか?
赤城 他者の命を犠牲にしてまで得る力に、神の意味はあるのか?
妖魔が死体を片付ける
盗賊の十朗 待て!約束通り、集まった連中は全部ぶっ殺した。さあ、神の力をよこせ!
赤城山の神 約束は守る。だが、まだ一人残っている。
盗賊の十朗 ちっ…そういうことか。(構える)
赤城 待て。俺は戦うつもりはない。
盗賊の十朗 じゃあ何しに来た?
赤城 神体と一つになるために。
盗賊の十朗 同じじゃねぇか!ふざけんな!
赤城 お前は神になって何をする?
盗賊の十朗 富と権力を手に入れる。
赤城 それを手に入れて、どうする?
盗賊の十朗 手に入れてから考えるさ!いくぞ!
十朗が切りかかる。赤城、紙一重でかわす
赤城 富も権力も、神にならずとも得られる。
盗賊の十朗 うるせえ!お前に俺のクソな人生が分かるか、俺は奪う事しかできねえ、だから神も奪ってやる。
赤城 俺は赤城山を守りたいだけだ。
盗賊の十朗 焼け焦げた山を守る?それじゃ神じゃなくて悪魔だな!
赤城 …なんだと?
盗賊の十朗 怒ったか?面白え。
赤城 神体よ、この戦いは無意味だ。止めさせろ。
盗賊の十朗 どうする、赤城の神さん?
赤城山の神 勝った方が神だ。戦え。
赤城 貴様…!
赤城山の神 弱い者に興味はない。
十朗が連続で切りかかる。赤城、必死にかわす。
盗賊の十朗 逃げ方だけはうめえな。
赤城 神になっても、幸せにはなれんぞ。
盗賊の十朗 腰抜けが!かかってこいよ!
赤城 お前は…盗賊の十朗だな。
盗賊の十朗 なんだと?俺はてめえなんか知らねえぞ。
赤城 俺はお前が生まれた時から知っている。
盗賊の十朗 イカレたか?殺してやるよ!
十朗が連続で斬りかかる。赤城、懐に飛び込み手元を抑える。
赤城 お前は奪うことしか知らない。だから誰にも愛されず、誰も信じない。
盗賊の十朗 それがどうした!生きるとは奪うことだ!
赤城 違う。お前に必要なのは──
盗賊の十朗 なんだってんだよ!
赤城 神の力でもない。
盗賊の十朗 聞き飽きた!
赤城 与えて得る心だ!
十朗が一瞬止まる。暗転。影声で。
十朗(幼少)母ちゃん…腹減ったよ…。
村の子 やーい、貧乏十郎ー。
照明戻る。
盗賊の十朗 …誰が与えてくれんだよ!
十朗、赤城を蹴り飛ばす。
盗賊の十朗 俺に神の座をよこせ!
赤城 聞け、十朗!
盗賊の十朗 死ねぇ!
華厳の神通力が発動。時が止まる。
赤城 …時が止まった?今しかない!
赤城、十朗の攻撃をかわし、強烈な一撃を叩き込む。十朗、吹き飛ぶ。時が再び動き出す。
盗賊の十朗 な、何が…?一度でいい…俺に…あ…(気を失う)
赤城山の神、立ち上がる。百足軍がどよめく。
赤城 …十朗。奪うだけの世界はあまりに寂しいだろう…。
百足達の、歓声とどよめきが起こる。手下の妖魔が死体を片付ける。
赤城山の神 貴様…何をした?
赤城 ……
赤城山の神 語らぬか。ならば、どうやって生き延びた?
赤城 ……
赤城山の神 捨てたことを恨んでいるのか?
赤城 いや…神体よ。
赤城山の神 言え。
赤城 お前は、人体を得て何を望む?
赤城山の神 大神となり、二荒を征す。
赤城 ならば、もう争う必要はない。
赤城山の神 どういう意味だ?
赤城 語らずとも、一つになれば分かるだろう。
赤城山の神 ……その力、俺の欲するところだ。
赤城 では戻ろう。我ら、もとは一つ。
赤城山の神 もとは一つ。
赤城・赤城山の神 いざ、一つに戻らん!
二人が片手を合わせる。音楽「その血の記憶」開始。鏡のような動きで融合。
赤城山の神 戻った…ふははは。男体山の神よ、今度こそ息の根を──なに!?
赤城 待て!そんなことをせずとも、華厳と私は──うっ…!
赤城山の神 俺が求めたのは華厳だけではない!
赤城 ぐう…大神になれば、我らの望みは叶うだろう!
赤城山の神 忘れたか!大神の力だけではない。妖魔が生きるは神の魂が必要だ!それこそが妖魔の命を繋ぐ唯一の道!
赤城 分かってくれ…誰かを想い、共に過ごす時間こそが命の輝きだ!
赤城山の神 救った命を捨てるのか! ならぬ…ならぬぞぉ!生こそ全て——…生きてこそ命!
赤城 命を踏みにじり、犠牲を重ねて何の神だ!
赤城山の神 命を守るため、お前の魂を俺にくれ!(妖魔の声 捧げろぉ…もっとだ…もっと捧げろぉ!)
赤城 やめろ!俺は過去を受け入れた!
赤城山の神 俺は赤城、魂は妖魔に売った!
赤城 華厳…俺に力を! 奪うためじゃない、共に生きるために!
赤城、華厳のネックレスを握りしめる
赤城・赤城山の神(同時) ぬあああああ! 俺は赤城!赤城山の命を──
赤城 取り戻す、赤城だ!
赤城山の神 守り抜く、赤城だ!
沈黙。自身を見つめ、確かめる赤城。赤城山の神は退場。赤城は椅子に座り、虚空を見つめる。取り巻きの百足達も静まり返る。しばらくして赤城は取り巻きの百足達を見回す、百足達は小さく赤城様、赤城様と何かを懇願するように口々に呼びかける。
赤城 妖魔は妖魔でしか生きられん…。お前達、もう元の姿には戻れないなのだな…。
妖魔が現れ、赤城の背後に立つ。
妖魔 そう、おまえはもう、逃げられない。
妖魔は赤城に妖魔の仮面をつけて消える。ゆっくりと椅子から立ち上がる赤城。
赤城(魔人)者ども聞けい!お前たちの神、赤城は今復活した。
百足達の歓声が湧き上がる。
赤城(魔人)赤城の国の全妖魔に告ぐ。戦だ!戦の支度をしろ!今度こそ男体を倒し、やつの魂を食らうのだ!男体を、二荒の地を真っ赤に染めろ!
熱狂する百足達。赤城、赤城と赤城コールが鳴り響く。笑う妖魔の声が鳴り響く。
上手花道の子供たちに照明切り替え。
龍之介 おい!勇気!赤城が悪い赤城に戻っちゃったぞ!
興奮してる龍之介。勇気の肩をつかんで前後に大きくゆする。勇気の首が大きく前後する。
愛 やめなさいよ龍之介。あーん、でもどうして悪い赤城になっちゃうの?
勇気 …でも、赤城山の神って本当に悪い神様なのかなあ?
美森 うん、赤城山を守ろうと必死だった。
愛 でも華厳との約束はどうなるのよ。
龍之介 そうだなあ。
勇気 僕、複雑だよ。
カッコウ。カッコウ。とカッコウが鳴く。徐々に静かな湖畔が聞こえてくる。
愛 あれ、カッコウが鳴いたわよ。
勇気 うん、鳴いた。
美森 みんな聞いてカッコウの歌が!
愛 なに?何が起きてるの?
静かな湖畔の輪唱がどんどん大きくなってくる。舞台中央奥が光り輝く。カッコウの歌が終わると、なかよしが現れる。
なかよし レディース・アンド・ジェントルメン、戦場ヶ原の伝説の舞台へようこそ、私が夢の世界の案内人、その名も、な・か・よ・し!ラブ・アンド・ピース。
一見執事風のダンディなおじさんだが、操り人形のような怪しい動きをする上に、肩にカッコウの人形を乗せている。ポカンとする四人。
愛 おじさん…。誰?
なかよし 夢の世界の案内人。
びよ~んと、怪しいポーズを決めるなかよし。楽しげな音楽(エドムントロスオーケストラの軍艦マーチ)。緞帳下げ。
なかよし あれ、なんで幕下がっちゃうの?出てきたばっかりなのに?えっちょと…後半につづく!
第一幕完。
~10分休憩。休憩中は音楽(神の庭 クロノクロスから※時が止まっているときに流す音楽)~
第二幕
五.赤城、再び現る ── 二荒神社に迫る影
ラテン系の楽しげな音楽(エドムントロスオーケストラの軍艦マーチ)。緞帳上げる。
なかよしが舞台中央に飛び出し、両手を広げる。
なかよし おまたせ!夢の続き、始めるぞ~っ!
動きは操り人形のような動作のなかよし。
なかよし 私は夢の世界の案内人、な・か・よ・し。そして、夢の扉を開け閉めする相棒、カッコウのユバ君だ。ほれご挨拶。
なかよしが肩の紐を引っ張ると、カッコウの鳴き声が響く
ユバ カッコー!
なかよし うん、礼儀正しい。
龍之介 おじさん、それおもちゃだろう…。
なかよし 違う!ユバ君は生きておる。なあ、ユバ君。
なかよしが肩の紐を引っ張ると、カッコウの鳴き声が響く
ユバ カッコー!クックックッ。
龍之介 笑った?
なかよし ラブ・アンド・ピース。(変な恰好を楽しんでいる)
勇気 おじさん。ここはどこなの?
なかよし ここは神様の記憶の世界、そう、夢の世界じゃ。
勇気 …夢の世界。でも僕たちさっき頬っぺたをつねったけど、目が覚めなかったよ。
なかよし ほっほっほ、ここは君たちの夢ではなく、神様の夢の中じゃからな。
愛 神様の夢の中?なんで私達がそんな世界にいるわけ?
なかよし それはな、神様が思い出したんじゃ。遠い昔の記憶を。
美森 遠い昔の記憶?
なかよし そう、そして君らはその華厳の石とともに神様の夢の中に導かれたのじゃ。
勇気 この石に?
美森 やっぱり華厳ちゃんの石だったんだ。
なかよし そうじゃ、できれば物語の始めから案内してあげたかったんじゃが、何せ千年ぶりの呼び出しだったもんでのう、いろいろ準備してるうちに遅刻してしもうた。いやすまんすまん。ほれ、ユバ君もお詫びじゃ。
ユバ どうもすいません。(※マイクを使った影声)
龍之介 あ、しゃべった。
美森 でも、上の方から声が聞こえたような?
なかよし ふっふっふ。では、物語に戻ろうかの。実体を取り戻した赤城山の神は、華厳との約束を破り、再び二荒に戦を仕掛けたのじゃ。ユバ君よろしく。
ユバ カッコー!カッコー!カッコー!(徐々に小さく)
花道から舞台に照明切り替え。音楽(死線 クロノクロスより)再びの赤城襲来に慌てふためく二荒の国。あちこちで二荒山の家来達がオロオロしている。
家来1 大変だ赤城がまた攻めてきた!
家来2 軍勢を率いてまたやってきた!
家来3 迎え討て!
大真名子 急げ!戦だ!戦の準備をしろ!
家来3 男体様!ご報告申し上げます。金精峠の守備隊が打ち破られ、赤城の百足軍、進軍止まりません。
男体 おのれ赤城、とっとと人体を始末しておくべきだったわ。大神を恐れぬ外神が、締め上げてくれる!大真名子、出陣じゃ!
大真名子 いけませぬ!男体様は我ら二荒の神々の総大将。ここは体調が戻るまでご辛抱を、前線には私が参ります。では。
男体 口惜しや~、しびれさえ抜けきれば、もう一度わしの剛力で締め上げてやるものを…。
フラフラする男体。
女峰 あなた大丈夫ですか?
男体 ああ、すまん。ところで華厳はどうした。
女峰 湖畔にいるとは思いますが、あの子そうとうショックを受けていたみたいですよ。
男体 だからワシは言ったのだ。あんな奴の言う事を信じてはならんと。
女峰 あなた。もう一度、赤城さんとお話…。
男体 黙れ!あの男は、わしを殺そうとしたのだぞ!
女峰 そのあなたを救ったのも赤城さんですよ。赤城さんには事情があるようですし、もっと話を聞いて…。
男体 これは話し合ってどうなる問題ではない!女峰よ!分かっておるのか?わしら土地神がその地を離れたらどうなるかを!
女峰 ええ、私たち土地神がその地を離れれば、土地は枯れ、追って土地神も消える…。
男体 そうだ。私たち土地神はその土地と共に生きねばならん。子供が誤った道を進もうとした時は親が止めるのだ。たとえ恨まれようとも、この身に変えてもだ。
女峰 …そうね。華厳は我らの大事な子。二荒が生んだ命の湖。今は辛いかもしれませんが、二荒と共に生きるのがあの子のためでありますものね。
男体 しかし、参った…。随分動くようにはなったが、体のしびれがまだ抜けておらん。この戦い、厳しいかもしれん…。
女峰 そうだわ!鹿島の神に助けを求めてみてはいかがでしょう?
男体 鹿島の神!
女峰 ええ、事情を話せばきっとお力を貸してくれるでしょう。
男体 それはいい。武術の神と言われる鹿島の神のなら奴など一ひねりだ。
女峰 ではお迎えに行ってまいります。
男体 頼んだぞ。女峰の神速なら常陸の国まで一日とかかるまい。
女峰 では。
暗転。映像 女峰が白鹿への変身する。映像終了後、上手花道に照明切り替え。
なかよし こうして、二荒の女神、女峰は白い鹿となって、鹿島の神に助けを求めに行ったのじゃ。
勇気 鹿島ってどこにあるの?栃木県?
なかよし いや、お隣の茨城県じゃ。鹿島には中禅寺湖から流れ出た命の水が流れついておる、つまり鹿島は二荒の恵みを受けており、二神は旧知の仲なんじゃ。だが、事はそううまくいかなかったんじゃ。
ユバ カッコー!カッコー!カッコー!(徐々に小さく)
花道から舞台に照明切り替え。
六.武神・鹿島の神 ── 鹿島神社、力を継ぐ者
音楽。精霊達が武術の稽古をしている。女峰が現れると精霊達はさっと道を作り奥に二人の鹿島の神が鎮座している。
建布都 わしが、鹿島の神、建布都である。
豊布都 わしが、鹿島の神、豊布都である。
建・豊布都 我ら雷神、武甕槌大神(タケミカヅチノオオカミ)である。
女峰 お久しぶりでございます鹿島の神。二荒山は今、赤城山の神に攻め入られ、窮地に陥っています。なにとぞそのお力をお貸しくださいませ。
建布都 我ら二荒に恩義あり。
豊布都 我ら二荒の高嶺に恩義あり。
女峰 では、お助けいただけるのですね。
建布都 それは、できぬ。
豊布都 残念だが、できぬ。
女峰 なぜ、なぜでございますか?
建布都 我ら動けぬ。
豊布都 我ら抑える。
建布都 この要石(カナメイシ)の下に大ナマズがいる。
豊布都 我ら要石の上にて大ナマズを抑えている。
建布都 我ら動けば、大ナマズが動く。
豊布都 大ナマズが動けば大地が揺れる。
建布都 今、大ナマズは起きている。
豊布都 今、大ナマズは寝ていない。
建布都 我ら動けぬ。
豊布都 我ら抑える。
女峰 それは困りました。何か良い知恵はないでしょうか?
建布都 我ら二荒に恩義あり。
豊布都 二荒の高嶺に恩義あり。
建布都 奥州へ迎え。
豊布都 奥州に猿丸あり。
女峰 猿丸?猿丸とはいかなるものでございましょう。
建布都 その力、古今無双。
豊布都 その力、我らに匹敵。
女峰 まあ、武術の神であられる鹿島の神に匹敵されるのですか?そのようなお方のお助けをいただければ有難いのですが、私はその猿丸様というお方と面識がございません。
建布都 我、倭国建国の剣を汝に貸さん。
豊布都 仏の御魂の剣(フツノミタマノツルギ)を汝に貸さん。
女峰 なんと!仏の御魂の剣とおっしゃいましたか。仏の御魂の剣といえば一振すればたちまち国中が平穏になるという伝説の霊剣。倭国八百万の神を平定した剣ではございませぬか。
建布都 猿丸、仏の御魂を探しけり。
豊布都 猿丸、仏の御魂を求めけり。
建布都 仏の御魂、猿丸の助力、引き出すであろう。
豊布都 仏の御魂、汝の望み、叶えるであろう。
建布都 唱えよ、神剣降臨、仏の御魂!
女峰 神剣降臨、仏の御魂!
天空よりまっすぐな細身の美しい長剣が現れる。
豊布都 唱えよ、神剣天空、仏の御魂!
女峰 神剣天空、仏の御魂!
長剣は天空に戻り金色の星となった。
建・豊布都 いざ行かれ、奥州へ。
建布都 汝、仏の御魂に導かれるであろう。
豊布都 二荒の高嶺に幸あれ。
女峰 鹿島の神、このご恩はいつか必ず。
一礼し、立ち去る女峰。
建布都 …行ったか。
豊布都 行ったな…。
建布都 豊布都よ、これでよかったのであろうか。
豊布都 建布都よ、これが今我らにできる罪滅ぼしであろう。
建・豊布都 仏の御魂よ、赤城と二荒を救い給え。
剣が天空に帰っていき、子供達に照明が切り替わる。
勇気・龍之介 かっこいい~。
龍之介 いくぞ、神剣降臨、仏の御魂!。
勇気 来ないね。
愛 すぐに影響を受けるんだから。
なかよし こうして、女峰は仏の御魂を授かり、奥州にいるという猿丸に助けを求める事になったのじゃ。
美森 神様にもいろいろ都合があるのね。
なかよし 鹿島の神は、要石で大ナマズを抑え大地を守っておるという事情もあるのじゃが、もう一つ、鹿島の神には赤城山の神に大きな負い目があってな、自ら動けぬ事情があったのじゃ。
美森 赤城山の神に大きな負い目?
なかよし では続きを見よかのう。鹿島の神から仏の御魂を授かった女峰は、今度は陸奥の国の猿丸に助力を求めたのじゃ。ユバ君、頼んだよ。
ユバ カッコー!カッコー!カッコー!(徐々に小さく)
花道から舞台に照明切り替え。
七.猿丸 ── 奥州の山奥にひそむ者
音楽。楽しげな歌が聞こえてくる。猿たちが歌とダンスの稽古をしている。
ウッキーモンキー楽しいね♪ (曲:ぼくコッシ― 2:04)
ウッキ、モンキ!
ウッキーモンキー楽しいね!
私は観猿、お喋りお猿
ウッキーモンキー楽しいね!
観て見ぬ振りして情報収集 井戸端会議で共有だ
喋って話して話して喋って 一息つかずにまた話す(ウッキー!)
猿だけど(ヘイ) うたえるよ~(ヘイ)
猿だけど(ヘイ) おどれるよ~(ヘイ)
朝までしゃべれるよ~(モンキー!)
尾ひれを付けよう 背びれも付けよう 会話は楽しくね
おしゃべり観猿~
おいらは岩猿 ダジャレが大好き
ウッキーモンキー楽しいね!
ダジャレが好きだと無口になるのさ だっていつでも考え中
頭を使えばお腹が減るんだ 減ったら石ころ食べるんだ(ウッキー!)
猿だけど(ヘイ) ダジャレるよ~(ヘイ)
猿だけど(ヘイ) 石食うよ~(ヘイ)
猿が去る~(モンキー!)
口を開けばダジャレが飛び出し みんなが石になる
腹減ったな~
I am 岩猿
アタイは貴家猿
綺麗なお猿
ウッキーモンキー楽しいね!
見た目は大事よ お化粧大事よ 猿は見た目が9割よ
アタイは好きなの 猿丸様が いつか夢見るウエディング(ウッキー!)
オスだけど(ヘイ) 乙女なのよ~(ヘイ)
オスだって(ヘイ) おしゃれなの~(ヘイ)
ラブリービーム(モンキー!)
思い込んだら周りはみえない 何にも聞こえない
アタイ貴家猿
ウッキーモンキー楽しいね!
観猿 さ~あ、猿丸様がいないけど、三猿そろって!
三猿 猿丸戦隊!サルバルカン!(ドラ音)
三猿そろってポーズを決める。ポーズの基本は日光の三猿をベースとする。お互いにポーズの駄目出しをしている。
白鹿(女峰) …あのーもし。
観猿が白鹿に気付く。が、見て見ぬふりをする。お互いの決めポーズの修正をしている。
白鹿(女峰) あのーもし。ちょっとお尋ねしたいのですが。
観猿 い~や~!しゃべった!鹿がしゃべった!
白鹿(女峰) ちょっとお尋ねしたいのですが。
観猿 見たくもないものが見えてしまっている!
白鹿(女峰) …先ほど、猿丸戦隊サルバルカンと申されましたが、もしや猿丸…
貴家猿 来たわ!芸能界からのスカウトよ!やったのよ観猿、岩猿。私たちついにやったのよ!
観猿 ええ!わたしたちやったの!行っちゃうわけ?京の都に行っちゃうわけ?ああ、私まだ心の準備が(照れくさそうに)…で、鹿よ、デビューの日はいつ?
白鹿(女峰) …いえ、私は猿丸様を探しているのです。
観猿 なによ~変な期待をしちゃったじゃな~い。猿丸様はあたしたちの親分だけど何か用?
白鹿(女峰) …よかった、私は二荒の国の女峰山の神でございます。
観猿 え?あなた神様なの?
白鹿(女峰) はい、今わが国は赤城山の神と戦になり、劣勢でございます。こたびは猿丸様を鹿島の神よりご紹介されました。なにとぞ猿丸様のお力を二荒にお貸しくださいませ。
観猿 鹿島の神の紹介?鹿島の神って…あの、おんなじこと何度も重複して喋る面倒くさい神さま?う~んどうしましょう、一応猿丸様に話…。
考え込んで遠くを見る観猿。もの影から見ていた猿丸が、黙ってろと口に指をあてた後、シッシと追い払っていることに気付く。
観猿 …するまでもないわね。他を当たって頂戴、猿丸様は戦が嫌いなの。
岩猿 鹿はシカトしちゃうよ~。(ものすごくうれしそう、うんうんうなずいている。)
観猿 余計な事言ってんじゃないのよ。
貴家猿 観猿ぅ~デヴュー曲はトイレのお猿様がいい。
観猿 (怒)あんたはいったい何を聞いていたのよ!この鹿は私たちをスカウトしに来たんじゃなく、猿丸様に会いに来たの。
貴家猿 あ~ん、そうなの~聞かなければよかった。貴家猿ショック♪(両手を頭に)
岩猿 鹿はシカトしちゃうよ~。(たまらなくうれしそう)
観猿 岩猿は喋んな。そういうわけだから遠路はるばる…あれ?あら?鹿がいない?どこ行っちゃったのかしら?あきらめて帰っちゃったのかしら?
人の姿となった女峰が現れゆったりと土下座する。
女峰 お願いでございます。なにとぞ猿丸様にお目通しください。でなければ私は国へ帰れませぬ。
観猿 え、ひょっとしてさっきの鹿?ホントに神様だったの。う~ん、だけど人の姿になっても猿丸様はお会いにはならないわよ。
猿丸 いいや、そうでもねえぜ。
観猿 えーっ!
岩・貴家猿 猿丸親分!
鹿の正体が綺麗なご婦人とわかったため態度をかえて出てきた猿丸。背中に「二代目」の文字が書かれた服を着ている。キザっぽいが三枚目。顔は猿顔。喋りはよく歌舞伎調になる。
猿丸 おう、おめえら、ご婦人になんて格好をさせてやがる。ささ、どうぞこちらにお掛けしておくんなせい。おう、観猿、茶を入れろ。岩猿は茶菓子を持って来い、間違っても石ころ出すんじゃねえぞ。貴家猿おめえは、俺の肩をもめ。してご婦人、もっとよくお顔をみせてくださいまし。もっとお顔を。
猿丸は猿顔にコンプレックスがあるため、顔にこだわりがある。
貴家猿 あ~ん。猿丸様~。私も見つめて~。
間に割って入る貴家猿。無言で貴家猿にアイアンクローをかけてどかす猿丸。
貴家猿 ちょっと、猿丸様、とても気持ちいいわ。(ご満悦)
猿丸 ほ~う。ほ~う。(女峰をじろじろ見る)それで、ご婦人ご用件は?
女峰 はい。私、二荒の国、女峰山の神でございます。今わが国では赤城山の神と戦になり、劣勢でございます。こたびは鹿島の神に猿丸様をご紹介いただきました。猿丸様、何卒お御力をお貸しくださいまし。
猿丸 …あんたの目、強ぇな。しかし女峰の神さんよ、遠路はるばる申し訳ねえが、戦に協力はできねえな。戦なんて負ければみじめ、勝ったところで恨まれ、回り巡って悲しみしか生みださねえ。そんな仏の道に背くことに、はいわかりましたと、簡単に、あ、引き受けることは、あ、できやぁしね~よ~。
見得を切る猿丸。
三猿 いよ、親分!
女峰 しかし、このままでは二荒と、わが娘、湖の女神華厳も赤城山の神のものとなってしまいます。
猿丸 娘?
女峰 もちろんただでとは言いませぬ。猿丸様、これを。神剣降臨、仏の御魂!
猿丸・三猿 仏の御魂!
天空より仏の御魂の剣が現れる。
観猿 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇ、ウソでしょう!なんで仏の御魂がここにあるの?猿丸様見て、仏の御魂~、仏の御魂よ~。
猿丸 ああ、ああ、こりゃぁ、こりゃぁ、驚れいたぁ~。女峰さんよ、これをどうやって手に入れた?いや、それよりもこれを俺にくれるのか?
女峰 いいえ。
猿丸・三猿ズッコける。
女峰 仏の御魂は鹿島の神よりお貸しいただきました。これを猿丸様にお貸しすれば猿丸様のお力添えを得られると。
猿丸 か、貸すだと~。あのドケチ野郎…。それにしても仏の御魂とは。宇宙にあっちゃあ探しても見つからねぇわけだ。
観猿 まあ、どうしましょう猿丸様。貸すといえど私たちが長年探し求めていた仏の御魂が目の前に。どうします、どうします猿丸様。
猿丸 ええい、黙らねえか観猿!まさか仏の御魂が出てくるとは思わなんだ。しかしだ、この猿丸、仏の道を極めんと遥か西方の地より修業を積む身、長年探し求めた仏の御魂、されど、この猿丸を見くびってもらっちゃあ困る。物につられる猿丸様じゃあねえぜ。それと女峰さんよ、勘違いをされているようだから教えといてやろう。俺と鹿島の神は友達じゃねえんだ。ついこの前もその仏の御魂が原因で一戦交えてやったのよ。ところがだ、キレた鹿島の野郎が雷を連打するもんだから下界は火の海だ、神々の戦は関係ねえやつらまで巻き込んじまうめえわくな話。てめえ達だけの問題じゃねえのよ。まっ、そういうこった。遠路はるばる申し訳ねえが、戦なんてするもんじゃねえぜ。事がまあるく収まるよう、あ、帰っててめえの旦那と、あ、あ、あ、あ~あ和議の算段でも、立~て~る~ん~だ~な~!
見得を切る猿丸。
観猿 いよ、親分!
貴家猿 あ~ん。しびれる~。
岩猿 男だねぇ~。
猿丸 …だが、まあ、しかしなんだ…。その湖の女神の華厳ちゃんはかわいいのか?
観猿 え?
女峰 あ、はい、華厳は我ら二荒の神が生み育んだ美しい湖の女神でございます。
猿丸 美しい…。華厳ちゃんは独身か?
女峰 え、あ、はい、独身でございます。その美しさゆえ赤城山の神に求婚されております。
猿丸 …女峰山の神。いやさ、お母様。
観猿 お母様?
猿丸 物は相談でございますが、赤城山の神を蹴散らしたあかつきには、華厳ちゃんをご紹介していただけることは可能でしょうか?
観猿 話が婚活になったわ。言葉づかいも敬語になってるし…。
岩猿 完全に立場が逆転しておりますな。
女峰 はあ、猿丸様は土地神様ではないようですし、ご紹介することはできますが…。
猿丸 やい、観猿!岩猿!貴家猿!話は聞いての通りだ。
観猿 聞きたくなかったわ。
猿丸 これは戦じゃねぇ。神助けだ!
猿丸戦隊サルバルカンが見栄を張る。
猿丸 さあさあさあ、我ら猿丸戦隊サルバルカン、これから母上の娘、華厳の姫を救いに二荒の国へ駆けつける。ああ、襲い来る赤城山の神を見事蹴散らし、命を掛けてぇこの猿丸が、華厳の姫を救って見せましょう!これから始まる冒険活劇とくとご覧にあそばせーい!いくぞ!
観猿 観猿!(決めポーズ)
岩猿 岩猿!(決めポーズ。)
貴家猿 貴家猿!(決めポーズ。)
猿丸 よっしゃ~っ!猿丸戦隊!
猿丸・三猿 サルバルカン!(ドラ音)
猿丸 出陣!
観猿 もう、見て見ぬふりはできないのかしら。
岩猿 物には釣られなかったが女に釣られたか。
貴家猿 あ~ん。私も婚活した~い。
舞台から上手花道に照明切り替え。
勇気・龍之介 かっこいい~。
愛 うそでしょ。
龍之介 いくぞ勇気!猿丸戦隊!サルバルカン!
決めポーズを取る勇気と龍之介。
なかよし (人数が)一人足りないね。
美森 なかよしのおじさん。
なかよし なんじゃい?美森ちゃん。
美森 赤城山の火事って、鹿島の神と猿丸の喧嘩が原因だったのね。
なかよし ほう、よく見抜いたのう。そうじゃ、そもそもの事の発端は鹿島の神と猿丸の喧嘩じゃったんじゃよ。後に鹿島の神が語ってくれたんじゃが、出雲大社での神々の会議の帰り道に猿丸から仏の御魂の在りかをしつこく問いつめられたそうじゃ。仏の御魂は、鹿島の神にとっては命と同じくらいに大事な神剣。猿丸に、もうこの世にないと言ったら、やたら嘘つき呼ばわりされたらしくてな。さすがの鹿島の神もキレて猿丸と大喧嘩したそうじゃ。後に自分達の喧嘩で赤城山が燃えてしまったという事実を知ったらしいんじゃが、それはもう後の祭りだったそうじゃ。
龍之介 それじゃあ悪いのは鹿島の神と猿丸じゃないか。
なかよし 今は人格化して見聞きしているからそうとも言えるかもしれん。しかし、本来神の所業は自然の所業、現実世界では只の落雷による山火事なんじゃよ。赤城山の神は火事で消えゆく命も歴史の一つとして受け入れなければならなかったのじゃが、それができなかったんじゃな。そして、妖魔の力を借りて運命を変えてしまったんじゃ、己の魂と引き換えに。その後は君たちも知る通りじゃ。
勇気 赤城山の神はとても優しいんだね。
なかよし そうじゃな、土地神としては失格じゃが、人としては良い人というのかもしれん。華厳もそういう赤城の神ならぬ人間臭さを愛したのかもしれんな。
美森 そうよね、なんか赤城ってほっとけない感じがするものね。
愛 あ、分かる~。
龍之介 でもまあ、俺たちがここで何言ったてしょうがないじゃん。昔の話なんだから。
なかよし ところが!そうとも限らないのじゃよ、のうユバ君。
美森 どういうこと?
なかよし 君たち、運命とは何か知っているかな?
美森 決まっている事みたいな?
なかよし その通りじゃ。運命とはあまたのつながりから導きだされた決まり事。勇気君が華厳の石を拾ったのも運命。そしてこれからお前さん達が神の夢の奥深くに進み行くのも運命なのじゃ。では、みんな準備はいいか?
愛 準備って何よ?
なかよし 今見てきた伝説の世界に行く準備じゃ。
愛 はあ?
何処からともなく静かな湖畔の輪唱が聞こえてくる。
なかよし わしらも神の記憶を辿り戦場ヶ原の伝説の舞台に参加するのじゃ!
愛 何言ってるの?参加できるわけないじゃない!これは夢なんでしょう!
なかよし 神の夢とは神の記憶、神の記憶とはそれすなわち現実なり。今こそ運命の扉を開かん!いでよ夢の扉!そして我らを戦場ヶ原の伝説の舞台へ導きたまえ!ユバ君頼んだよ、
ユバ イエス、オール・ライト。オープン・ザ・ドリーム。
舞台中央が光り輝き夢の扉が開く。
なかよし 運命の時は来た。勇気、愛、美森、龍之介、行こう伝説の世界へ!
光りの中に消えていくなかよし。華厳の石を見つめる勇気。
龍之介 よし、行くぞみんな。
愛 ちょっと待てよ、行ってどうすんのよ!
龍之介 分かんねえけど、さっきなかよしのおっさんが言ってたろ、運命だって。それに俺この物語最後まで見たいし。
勇気 え~、僕こわいよ~。
龍之介 勇気は俺と一緒な、お前、華厳の石持ってるし。
勇気 え~。
愛 美森ちゃんどうする?
美森 私も怖いわ。
愛 じゃあ止める?
美森 怖いけど、赤城山は私たちの故郷。行こう!
龍之介 よし決まった!行くぜみんな、大冒険の始まりだ!
愛 あんた軽いわね。
勇気 大丈夫かな~。
光りの中に消えていく子供達。カッコウの輪唱が終わる。
暗転。板付きで上手中段照明オン。
八.決戦前の祈り ── 二荒神社、最後の夜
男体 遅~い!女峰はまだか!鹿島の神はまだか!
家来2 はい、まだ戻られない御様子です。
男体 む~、まさか鹿島の神に助太刀を断られ…。いや、鹿島の神とは旧知の仲、断る道理が見当たらん。なぜだ、なぜまだ戻らん。まさか、女峰の身に何か…
家来1 男体様!大変でございます!
男体 どうした!
家来1 前線の金精峠に続き、湯滝の防衛線も突破されました!
男体 大真名子はどうした!
家来1 大真名子様…赤城に敗れ百足達の餌食に。
男体 なんという、なんという!おのれ赤城!
家来1 赤城より男体様に伝言があります。男体山の神よ二荒の平野で待つ。そして…その…その…。
男体 なんじゃ、申してみよ。
家来1 交渉不要により男体山の神はその…死に装束で来いと…。
男体 な、なめおって~!あんな外道にやられるこの男体ではないわ!もう一度血祭りにあげてくれる!皆の者、二荒の底力を奴らに見せてやれ!出陣じゃ!
華厳 待ってお父さん!
男体 待てぬわ!華厳、大真名子までやられた今、ワシはもう引かぬぞ!
華厳 引き留めません。私も行きます。
男体 む、その格好…。
華厳は戦いの装束を身に纏っている。
華厳 赤城は、私の命に代えても仕留めます。
男体 ぐむむむ。しかし、赤城の目的は…お前を行かせるわけにはいかん。
華厳 いいえ、お父さんがなんと言おうと行きます。もし、お父さんが赤城に敗れれば私は自害する覚悟です。
男体 むうう。そこまでの覚悟であればもはや止めはしまい。華厳よ、辛い戦いになるぞ。
華厳 私も二荒の神々の一人です。
男体 ならば行こう。皆の者!この平和な二荒の神領を侵す赤城山の神に正義の鉄槌をくだすのだ!全軍出陣!
家来達 おーっ!
暗転。静かな湖畔の輪唱がフェードイン。舞台中央が光り輝く。なかよし達が現れる。
ユバ アテンション・プリーズ、アテンション・プリーズ。ウィー・アー・アライブド・アト・フタラサンジンジャ・ア・ロング・ロング・アゴウ。センキュー、クローズ・ザ・ドリーム。
なかよし グ~ドトリップ、ユバ君。ラブ・アンド・ピース。ここは決戦前の二荒山神社じゃ。
龍之介 うわ~すげえ、ホントに来ちゃったよ。
勇気 誰もいない…。
愛 どうしたのかしら。
女峰が駆け込んでくる。後に猿丸達が続く。なかよしの裏に隠れる子供達。
女峰 あなた~あなた~!助っ人を連れてまいりましたわよ。だれか?だれか居らぬか?
猿丸 華厳の姫~!華厳の姫~!あ~あ、私が、あなた様をお救い申し上げる猿丸です。どこですか華厳の姫?華厳の姫~!
観猿 もう、猿丸様!落ち着いてくださいよ。盛りが付いちゃってるのがばれますって。
猿丸 どこですか?どこですか華厳の姫~!
岩猿 男はどっしり構えとかなあかんで。
貴家猿 あ~ん猿丸様~、はい投げキッス。猿丸様~無視しないで~。
なかよし 女峰様、男体様は、湯滝の防衛線が破られた為、今しがた二荒の平野へ向かわれました。
女峰 なんですって!もう、なぜあの人は待つという事が出来ないのかしら。猿丸様、申し訳ありません。私達も急いで二荒の平野に…
猿丸 いん~や、またれ。お母様、その前にぜひ一目華厳の姫に!
なかよし 華厳様も二荒の平野へ向かわれました。
猿丸 なに~っ!華厳の姫は、もうここにはいない…ショックだぜぃ。む~、戦の前に一度お顔を拝見しておきたかったなあ。
観猿 猿丸様!いいかげん顔にこだわるのは止めてくださいよ。
岩猿 だから結婚できんのや。
貴家猿 あ~ん、私はエブリデイウェルカムよ~。
猿丸 んん?
二荒の平野を見つめる猿丸。赤城の放つ妖気を感じ取ったらしい。
猿丸 おい、観猿、感じてるか?
観猿 ええ、あっちの方角からびんびん妖気を感じるわ。神って聞いてましたけどこれ妖魔ですよ。
猿丸 まあ、どっちにしろぶっ倒す事にはかわりねえさ。おっしゃあ!待ってておくんなせい華厳の姫!あ~あ、お母様!
女峰 は、はい。
猿丸 大船に乗った気分でここで待っていてくだせい、この猿丸が赤城を蹴散らし、御主人と、ああ、華厳の姫を助~け~て~、あ、ま~い~り~ます~。(耳元で)その後のお取り計らいは良しなに。
女峰 え、ええ、頼みましたよ。
猿丸 いくぜ、三猿!よっしゃ~久々に暴れるぜ!神剣降臨!仏の御魂!
二荒の平野に向かう猿丸と三猿。
女峰 なぜかしら、お強いはずなのに、不安だわ…。さて、その方何者じゃ、敵とは思わぬが二荒の者ではなかろうに。それに後ろの子供達は人間ではないか?ここは神領、どうやって入り込んだのじゃ?
なかよし 女峰様。この者達は華厳の石に導かれし運命の子。これまでの経緯を夢の世界にて見てまいりました。
女峰 夢の世界…。
なかよし 勇気君、華厳の石を女峰様に。
勇気 え、あ、うん。これ…。
女峰 これは!華厳の石!
華厳の石から何かを感じ取る女峰。(SE)
女峰 なるほど…みんなこの石に導かれたのね。なかよしちゃん、苦労を掛けたわね。そして勇気君。
勇気 え、どうして僕の名前を?
女峰 ふふふふ、美森ちゃん、龍之介君、愛ちゃん。華厳の石がみんな教えてくれました。華厳は赤城のためにこの
石を未来に託していたのですね。勇気君、この石には目に見えない想いがいっぱい詰まっているの。大事に持っていてね。
勇気 う、うん。
返された華厳の石を見つめる勇気。
女峰 みんな、こちらへいらっしゃい。私の神通力を貴方達に与えます。
キラキラ光る銀色の粉(照明で表現・SE)を子供たちに振り掛ける。
女峰 これで風のように走れるでしょう。貴方達は運命の子、二荒山の戦いを見届けてくださいね。なかよしちゃん、この子たちを頼みましたよ。
なかよし 分かりました。では行こうかの、最後の決戦じゃ。
暗転。
九.最終決戦 ── 二荒の平野、天と地の狭間で
音楽(龍神 クロノクロスより)。対峙する赤城軍と二荒軍。背後には妖魔となった盗賊の十郎と熊の不動が控えている。カラスとフクロウ。二荒軍は男体、華厳と家来達。
赤城(魔人) おや?案外早い到着だな。死に装束は元から用意していたのか?
百足軍の笑い声
男体 この外道が、今度はその五体引きちぎってくれるわ。
華厳 赤城、(前に出る)これがお前の答えか?
赤城(魔人) おっと、これは驚いた。華厳、出てきたのか?
華厳 赤城、説明しろ?
赤城(魔人) 何をだ?
華厳 何をだと!お前は私と一緒に赤城山を元の山に戻すんじゃなかったのか?
赤城(魔人) ふん。人体など那由他の命の前では、一つの命に過ぎん。
華厳 なっ…。
赤城(魔人) そう落ち込むな華厳。一つの命だが、俺は俺だ。貴方と過ごした日々を忘れたわけではない。だが、俺は人である前に赤城山の神だ。赤城山の命は俺が守る。
華厳 ならば、私と話し合え!なぜ戦など仕掛ける!
赤城(魔人) 俺の目的のためには男体山の神には死んでもらわねばならん。それを話しあって、おまえが納得するとは思わぬからな。
華厳 当たり前だ!なぜだ、なぜ男体山の神を狙う。
赤城(魔人) 妖魔が生きつづけるには、神の魂が必要だ!
華厳 そんな…。
男体 ええい、黙って聞いておれば、己の都合だけ押し付け負って、しかも妖魔だと、貴様、もう神とは呼べんな。
赤城(魔人) なんとでも言うがいい。お前の魂は俺がいただく。
華厳 違う!お前は赤城じゃない!お前は本当の赤城じゃない!赤城!
男体 ええい、お前達ここから華厳を連れ出せ!埒があかん。
華厳 赤城!目を覚ませ!赤城!
家来達に連れて行かれる華厳。退場。
赤城(魔人) ふう。どうも人体を得ると、我々神は人間臭くなって叶わんな、そうだろう男体山の神よ。
男体 そうじゃな、我々神は人体を得た事で半分は人間となり、人間の体を通して神通力をこの世界に行使する。しかし、人間は、考え、悩み傷つきながらも、愛し合い、支え合い、命の意味と生きる素晴らしさを我ら神に教えてくれる。だからこそ我ら神は人間となりてこの世にあらわれているのだ、人間から我ら神の真実を教わるために。赤城よ、人間を否定する事は、自分自身を否定しているのと同じだぞ。
赤城(魔人) ふん。大した講釈だ。その人間が言ったのだ、もっと生きたい、もっと力をとな!
男体 悲しいな。人間の負の部分に満たされたか?お前への怒りは憐れみとなったわ。
赤城(魔人) ならばその憐れな者どもに貴様の魂を差し出すがいい。ゆくぞ!
戦場ヶ原神戦伝 テーマ曲 時の傷痕(三回目 歌無し、曲は初めから)
静かなイントロ部で家来は退場。赤城と男体は日本舞踊のような立ち回り。赤城率いる百足軍と男体率いる大蛇軍の戦いが始まる。最後は百足が大蛇を飲み込み、赤城が男体を倒す。赤城の前に引っ立てられる男体。
赤城(魔人) ふはははは、命運尽きたな男体。おもしろい、この前とはまるで逆だ。そうだ、遺言を聞いてやろう。
男体 貴様には…神罰がくだる…。
各々が見合う、百足軍の笑い声。
赤城(魔人) ふははは、その罰は貴様が食らったのか?センスの良い遺言だったな。では男体よ二荒の魂もらい受ける!さらばだ!
赤城が刀剣を振り上げる。華厳の神通力によって華厳以外の周りの時が止まる。
華厳 時よ眠れ!
開帳場から華厳が現れ赤城を切り裂く。ガギンッと鈍い金属音が鳴り響く。
華厳 赤城…なぜだ。こんな事したくなかったのに。
時は再び動き出す。
赤城(魔人) なに、何が起こった?華厳?まさか、お前、俺を切ったのか?馬鹿な、俺は死ぬのか、そんな、そんな事はない!カラス、フクロウ、華厳を捕えろ。
カラスとフクロウに取り押さえられる華厳。
華厳 赤城、どうして…。確かに切ったはず。
赤城(魔人) ああ、自分の刀を見てみるんだな。
華厳 刃が欠けている…。
赤城(魔人) 華厳よ、そんななまくらで百足の鎧を切り裂く事はできんよ。残念だったな。さて、(男体に)では今度こそ本当にさよならだ。
華厳 やめろ、やめろ!赤城ーっ!
赤城(魔人) あばよ男体!
猿丸 まて~い!
赤城(魔人) 今度はなんだ?
猿丸 正しき道を行く者を、力で踏みにじるその行為!人はそれ、悪と言う。
赤城(魔人) 誰だ!姿を見せろ!
サルバルカンが一人づつ見得を切る。
観猿 この左目、物を見るのはできねえが、悪の気配が見えるのさ。観て見ぬ振りもここまでだ。隻眼の、観猿!
岩猿 腹が減ったら石さえ食べる。煮ても焼いても食えねえ悪も、食らい尽くすはこの拳。鉄拳の、岩猿!
貴家猿 貴方を誘うこの動き、明日を断ち切るゲイの技。男も女も差別なく、罪に合わせたお仕置きを。扇風の、貴家猿!
猿丸 誰が呼んだか呼ばれたか、会ったが最後運の尽き、神も仏も手を焼いた、父から譲りしこの力、使うは弱きを守るため。二代目斉天大聖、孫猿丸~っ!四人揃って!
猿丸・三猿 猿丸戦隊、サルバルカン!(ドラ音)
赤城(魔人) なんだお前らは、猿芝居なら他でやれ。
猿丸 あ~あ残念だがこの演目、赤城退治と申します!
赤城(魔人) くだらん。十郎!
盗賊の十郎 ひゃっはー。
赤城(魔人) 不動。
熊の不動 お~う。
赤城(魔人) 始末しろ。
十郎・不動 はっ!
猿丸 いくぜ三猿!
三猿 よっしゃあ!
音楽(よっしゃ~漢唄 CR花の慶次~斬より)。 猿丸がものすごい勢いで赤城を上手へ押し飛ばす。観猿は男体救出。岩猿は不動。貴家猿は十郎と戦う。
猿丸 うおおおおおおおお!おりゃあ!(赤城を吹っ飛ばす)
赤城(魔人) 何だと。
猿丸 よっしゃあ、観猿!後は任せた!
観猿 えーっ!ちょっと!あーもう!
赤城、男体を差し置き華厳を真先に救出に向かう猿丸。カラスとフクロウが立ちはだかる。
猿丸 おめえらじゃ相手にならねえよ。
カラスとフクロウは猿丸と刃をかわすが簡単にはじかれる。
フクロウ ホー、カッちゃん、本気出だ!本気出せ!
カラス カー、俺の本気みせてやるぜ、(武器を振りかざすが、踵を返して)カア~~~~~~~ッ!
カラスは開帳場に退場。
フクロウ ホー、カっちゃん、どこいくだ、カッちゃーん(カラスの後を追う)
フクロウも後を追って逃げる。
猿丸 あなたが、華厳の姫様?
華厳 そうだ。お前は何者だ。
猿丸 まずは安全な場所へ。ささ、どうぞこちらへ。
華厳を下手花道へ誘導する。
猿丸 ああ、こりゃあ、こりゃあ。
華厳の顔を凝視する、猿丸。
猿丸 マブイ…。(※美しいの俗語)
華厳 は?
華厳に見とれ、一瞬我を忘れる猿丸だが、我に返る猿丸。
猿丸 …はっ!失礼、申し遅れた。俺は猿丸。あなたを守る猿丸です。
華厳 猿丸?
猿丸 そう!女峰お母様から依頼され、華厳の姫と二荒山をお守りするように申しつけられた。そう!猿丸です。
華厳 母に…。
猿丸 もう大丈夫、安心しておくんな、華厳の姫。猿丸です。
男体 おい、猿丸とやら、こちらも頼む。
猿丸 チッ、誰だお前、ちょっと待ってろ。
華厳 父を助けてくれ!
猿丸 父だと…お父様!今すぐに!
猿丸は男体に駆け寄り縛る紐を解く。カラス、フクロウがビクビクしながら腰を低くして開帳場から出てくる。
フクロウ ホー、奴が後ろ向いた!行くか?
カラス カー、後ろからだなんて、鬼畜だな。
フクロウ ホー、何言ってんだ、オラ達鬼畜だべ。
カラス カー、フクちゃんよ、だめだ、紐ほどき終わっちまった、隠れるべ。
フクロウ ホー、俺らの役割ってなんだべな。
カラス・フクロウは再び開帳場に退場。男体を解放した猿丸は、男体と華厳を下手花道へ連れていく。
男体 すまん助かった。鹿島の神の友人か?
猿丸 まあ、そんなようなもんですぜ。ささ、そちらで見ていておくんなせい、今、この猿丸が妖魔野郎を退治しますから。この仏の御魂の剣で。
男体 なんと!仏の御魂の剣か!
舞台中央中段に移動しながら。
猿丸 ええ、この仏の御魂の剣は西の大陸では如意棒と呼ばれていたんですぜ。己の意のままにどんな形にも変化する。そうさな、この距離なら弓か。神剣転生、仏の弓矢(フツノユミヤ)!
開帳場に剣を放り投げると、弓と矢が代わりに飛んでくる。キャッチして一回転しながら弓を引く。
猿丸 うおおおおお!
上手花道、ライトアップ。なかよし達が追いつく。
龍之介 見ろみんな!
美森 猿丸が弓を構えてる!
なかよし みんな、聞いて欲しいことがあるんじゃ…。
愛 何よこんな時に!
なかよし 君たちは赤城山の神を助けたいか?
愛 何いってんの!助けるなら二荒山の神でしょう。
なかよし いや、妖魔に取りつかれていない赤城山の神じゃ。
美森 妖魔に取りつかれていない?
なかよし そうじゃ、赤城山の神は優しい土地神なんじゃ。
愛 なら分かるけど、どうやって助けるのよ。
龍之介 そうだよ、いくら足が速くなったて戦うのは、なあ。(勇気に合意を求める)
勇気 僕、こわいよ。
なかよし 戦わなくていい、言霊を届けてほしい。
愛 言霊?
なかよし そう、心ある言葉は言霊と言って神通力が宿るんじゃ
龍之介 そうなの?
なかよし 君たち四人の言霊に華厳の石が反応し、赤城山の神を救える力になる。じゃから頼む、言葉を、赤城山の神を元気付ける言葉を届けてほしい。
愛 元気付けるって、めちゃめちゃ元気そうじゃない?
なかよし 今はな。だが、もうすぐ赤城山の神は倒れ、君たちは赤城山の神の真実を知るだろう。
美森 でも、どんな言葉を?
なかよし 赤城山の麓で暮らした君たちならば、きっと赤城山の神が元気になる言葉を持っているはずじゃ。
勇気 赤城山の神を元気づける言葉…。
上手花道照明オフ。
猿丸 動くな~、動くな~、ふらふらすんじゃねえぞ~。
赤城(魔人) くそ、しつこい、だが!猿が神にかなうと思うな!
観猿 あ~らそうかしら、けっこう健闘させてもらっているけど、あれ、あれ、なんか変ね?
貴家猿 あ~ん体が、痺れる~。
岩猿 動か、ない…。
赤城(魔人) さて、毒が効いてきたようだな。まずは貴様から食らってやろう。妖魔、百足の化神!
百足の化神達に捕まる貴家猿。舞台中央、猿丸が平場に降り、赤城が中段に上り立ち位置を変える。
貴家猿 観猿!駄目!猿丸様!もう駄目!観猿が!
赤城(魔人) 死ね猿。
猿丸 おい赤城!お前の母ちゃん、しゃくれ~!
赤城(魔人) ああ?
猿丸 見たな。
猿丸が弓を放つ。暗転。映像で赤城の左目が弓矢で貫かれる。弓矢の音と貫かれる音が会場に響く。照明が落ちて映像が流れている間に赤城は弓矢が刺さった状態にする。照明戻る。
赤城(魔人) ぎゃあああ!なんだ!なんだこの弓矢は!うああああ!
弓矢を引き抜こうとするが、手が焼ける!合わせて妖魔が上手二階に登場し、苦しみだす。百足の化神達も苦しみ倒れていく。
赤城(魔人) うああああ!抜けない!手が焼ける!うああああ!
猿丸 妖魔にその弓矢を抜く事はできねえよ。妖魔必滅。
華厳 いや~っ!
猿丸 華厳の姫!
華厳が抱きついてくると思い両手を広げ幸せそうな猿丸。華厳は猿丸の横を素通りし、赤城の元に駆けつける。
猿丸 …えっ?
華厳 待ってろ、今抜いてやる。動くな、うう、やあ!(弓を抜き捨てる。仮面も取れる。)
赤城 があああ!ううううう…華厳…。
赤城を抱く華厳。
猿丸 え~~~~~~~~~~っ!(空気を抱いている)観猿!こりゃあどういうこった?
観猿 ん~、見るからに二人は恋人同士…とか?
猿丸 マジか…聞いてねえぜ…。でもまあ、赤城山の神を退治してくれって頼まれてんだ。止めは刺さなきゃならんだろう…。神剣転生!仏の御魂の剣。
仏の御魂の弓矢を拾い上げる猿丸。開帳場で弓を剣に変える。赤城の前に立ちはだかる猿丸。
猿丸 …どきな。
華厳 何をする気だ?
猿丸 そいつは、妖魔だ。妖魔ってのは既にこの世にない命が、世の理に背き闇の力でこの世にしがみつく命。華厳の姫も神ならわかるだろう。そいつはもうこの世にいちゃならねえ命なんだ!
必死に、赤城をかばう華厳。
華厳 違う、こいつは赤城山の命を愛した、赤城山の神だ!
赤城 …け…ごん…。
華厳 赤城、お前は妖魔なんかじゃないよ。
赤城 …こ…れ…。
華厳に首飾りの石を返す。
華厳 これは、私の石。持っていてくれたのか。
息を引き取る赤城。
華厳 …おい、どうした。おい、返事をしろ、おい。おい!
猿丸 …止めを刺すまでもなかったか。
刀を下ろす猿丸。
華厳 ふざけるな!おい!一緒に赤城山を美しい山に戻すって約束しただろう!目を覚ませ!赤城、赤城…死なせない。死なせるものか!私との約束、果たしてもらうぞ!赤城の時よ!思い出せ!
音楽(神の庭 クロノクロスより)華厳の周りに光の輪が幾重にも走る。
男体 おい!おい!華厳!何をしておる!何をしておるのだ!
華厳 赤城の時間を巻き戻す!
男体 な!時を止めるどころか巻き戻しなどしたら神通力を使い果たしてしまうぞ!
猿丸 な、なんと!仏の御霊の傷が、赤城の傷が治っていく!信じられん!
男体 華厳、やめなさい!やめろというのが分からんのか!やめなさい!
華厳 赤城、もう大丈夫よ。
神通力を使い果たし、崩れ落ちる華厳。目を覚ます赤城。赤城は妖魔の仮面を外している。
男体 なんということだ…。華厳から神通力が感じられん。ただの人間になってしまった。
しゃがみこむ男体。
赤城 うう、華厳…。
猿丸 さてと、せっかく傷が治ったところでもうしわけねえが、おめえにゃ妖気がある。すまねえが切らせてもらうぜ。
カラス 赤城様ーっ!カーーーーッ!
カラスが飛び込んで猿丸に襲い掛かるが、猿丸にバッサリ切られる。
フクロウ ホーーお前の本気見せてもらったーーーーーッ!
猿丸 無駄だ。
バッサリ切られるフクロウ。
赤城 カラス…。フクロウ…。
カラス 赤城様…。オラ、燃える前の緑豊かな赤城の山が好きだったんだべ…。
フクロウ 赤城様…。あんたおっかなくなっちまったけど、それでもワシらはあんたが大好きなんだべ…。
力尽きるカラスとフクロウ。
猿丸 なんだこいつら、妖魔らしくもねえ。
華厳 させない…。
力なく、赤城をかばう華厳。
猿丸 な、なぜだ!華厳の姫!なぜあんたは神を捨ててまで妖魔をかばう!
華厳 黙れ!赤城は妖魔じゃない、赤城は、赤城山の神、赤城だ!
赤城 華厳…。うっ、うっ、ぐっ、ぐああ!
雷鳴。赤城が人体と神体に分かれる。赤城は倒れ込むが、舞台中央開帳場より赤城山の神が現れる。
赤城山の神 もういい。
猿丸 な、なに?何が起こった。
男体 気を付けろ!そいつは人体と神体を切り分けられるぞ!
猿丸 するってえと、てめえが神体、いや妖魔か!
赤城山の神 …華厳。あなたの愛は俺に届いた。俺の人体と共に生きるがいい。
猿丸 …うん?てめえ、妖魔の呪縛から開放されたのか?
赤城山の神 いいや、仏の御魂のおかげで妖魔の力が弱まっただけだ。もうじき俺の魂は妖魔に食いつくされる。
赤城 なぜだ!神体よ、俺は今更自分の命を拾おうとは思わん。お前と一つになった時、俺の覚悟はすでに決まっている!
赤城山の神 だまらんか人間!お前と同じように!…俺もお前と一つになって華厳を愛したのだ。ならば!お前は華厳と共に生きよ!お前は…、俺だ。
赤城 しかしお前が…。
赤城山の神 お前の望みは、俺の望みだ。
猿丸 どうにもならねえのか?
赤城山の神 ならんな。妖魔に魂を売ったものの末路だ。思えば俺は、あの落雷による山火事の時にすでに死んでいたのかもしれん。
猿丸 落雷?山火事?(仏の御霊の剣を見て思案する。)
赤城山の神 心残りは、
赤城 妖魔と化した赤城山の命たち。
赤城山の神 俺の命尽きれば、時期、他の妖魔達も命尽きるだろう。
赤城 しかし、妖魔の、闇の心に縛られたまま命尽きるのはあまりに不憫だ。
赤城山の神 できるなら、その仏の御魂でこいつらの魂を救ってやれないか。
猿丸 え、あ、あ、あ~あ、妖魔に魂を売りやがった、くだらねえ神だと思ったが、粋じゃねえか!よ、ようし、てめえの後始末、この猿丸がつけといてやらあ、安心しやがれ。
赤城山の神 人間の俺よ。赤城山を、そして華厳を頼む。
赤城 神体。
猿丸 いいのか?
赤城山の神 構わん。
猿丸 あ~あ赤城山の神、その名前、忘れねえでいてやらあ!さらばだ!
華厳 赤城!(赤城山の神に対して)
華厳の叫び声に対しふっと華厳を見る赤城山の神。雷鳴。猿丸の仏の御霊が赤城山の神を切り裂く。なかよしたちの登場に合わせ音楽(ガンダムUCからユニコーン)
なかよし (上手平場)今じゃ!赤城山の神よ貴方は妖魔ではない!行くぞみんな!君達の言霊が赤城山の神を救う。愛!
愛 (上手中段・共感の言霊)赤城!あんた誰よりも頑張ったよ!ずっと見てたから!きっとやり直せる!
なかよし 龍之介!
龍之介 (下手中段・生活力の言霊)赤城!俺んちは赤城山で豚を育ててるんだぜ!赤城のトンカツ食えば元気百倍!
なかよし 美森!
美森 (下手二階・自然愛の言霊)赤城!山の木も風も、みんなあなたを待ってるよ!もう一度、山の声を聞いて!
なかよし 勇気!
勇気 (上手二階・勇気の言霊)こ、こわい…。(音楽切れる)
なかよし そう、こわい!なっ勇気君!
勇気 こわい、でも!(怖くてハアハアしている)
なかよし 思いを伝えるんじゃ!
愛 勇気、しっかりして!
子供達 勇気!
勇気 僕は勇気だ!僕、赤城山が…大好きなんだ! だから、守りたい!
華厳の石が激しく光り輝く。音楽(ガンダムUCよりBIGINING)
なかよし 赤城山の神よ!聞いたか!この子らこそあなたがくれた未来の光!赤城と華厳の子孫!あなたは妖魔の力に頼らずとも未来を作ったのだ!
子供達 僕らは未来の赤城山から来たんだ!
赤城山の神 …未来。
赤城山の神の顔から妖魔の仮面が剥がれ落ちる。同時に上手二階の妖魔も倒れる(消える)。
なかよし 妖魔がはがれた!今こそすべての力を!甦れ赤城山の神!
光の輪が幾重にも赤城山の神を包み込む。
赤城山の神 暖かい、これは華厳の神通力…そして…チュウゼン…お前は私のために千年も神通力をためてここに来たのか?
ゆっくり頷く、なかよし。
赤城山の神 神、人となりこの世にあらわれ、人より神の真実を知る。
立ち上がり、倒れている華厳の手を取る赤城。見つめる赤城山の神。
赤城・赤城山の神(同時) 俺はこれまで命こそ一番大事なものと思っていた。が、違うのかもしれない。強い思い、響きあう命の輝き。命の限りは、命より大切なことがある証か。
赤城山の神 教えられたよ、人間。赤城山の命たちよ、行こう、未来へ。
仏の御霊に切られたカラス、フクロウを従え、微笑みながら光の中(舞台中央)に消えていく。
龍之介 お、おい、おじさん!赤城山の神、消えちゃったぞ!
なかよし 赤城山の神は、赤城山に帰って行ったのじゃ。
美森 赤城山の神は助かったの?
なかよし ああ、赤城山の神は救われたよ。そしてわしの心もな。
子供達 やったーっ!
赤城 どうなっているんだ?君達はいったい?
カッコウが鳴き続ける。
なかよし おおっと!時間切れじゃ、みんな元の世界に帰るぞ!
龍之介 ええ!なんで?
愛 いいから、行くわよ龍之介。
去っていくなかよしと子供達。
男体 不思議な格好をした童たちじゃったな。
赤城 ええ本当に。
男体 …貴様、何普通に話しかけとる!
華厳 お父さん止めて!
男体 おお、華厳、大丈夫なのか?
華厳 ええ、体は大丈夫よ、神通力は無くなっちゃったけど。
男体 そうじゃ!赤城、貴様なんかのために!
華厳 だから止めてって言ってるでしょう!
女峰 あなた!華厳!
華厳 お母さん。
女峰 猿丸様。私はあなたに謝りに来たの。実は華厳と赤城は…。
猿丸 待て~い!それ以上言うのは野暮ってもんだぜ女峰さん。その二人をみてればこの猿丸、自分の立ち回りは心得てるつもりだぜ。
観猿 さ、る、ま、る、さ、ま…。
猿丸 おおっと、悪かったな、三猿よ。今その体の毒を取ってやらあ、そしてここいらの妖魔も一気に片付けるぜ!いくぜ!おめえらの未来、祝ってやらあ!神剣天空!仏の御魂!(剣が上昇する)天にはじけて降り注げ!仏の涙(フツノナミダ)!
剣が爆発し舞台一面に銀色の雨(照明)が降り注ぐ。妖魔達は一人づつその場で一回転し、退場していく。
赤城 この銀の雨は…。
女峰 仏の涙…。
男体 ん、んん?(体を障って)痺れが、痺れが消えた!
猿丸 仏の心は母心。落ちて命の泉湧く~ってな。これでここいらの妖魔は仏の涙で浄化されるだろうぜ。さあてと、三猿、動けるようになったろう。国へ帰るぜ!
観猿 さ、る、ま、る、さ、ま!お父様に叱られるわよ!仏の涙なんて使ったら仏の御魂はもうう~う~。
猿丸に口を押さえられる観猿。
猿丸 だから野暮な事言ってんじゃねえぜ観猿。仏の御魂は今やおいらの心にあるって事よ。
岩猿 カ、カッコええで猿丸様。仏の御魂は鹿島から借りてたんやなかったのか?
貴家猿 あ~ん、猿丸様はやっぱり最高よ~。私をお嫁さんにして~。
猿丸 な~に、鹿島の野郎もこうなることは概ね分かってたろうよ。さ~て、馴れ初めはなんにせよ、仏の御魂を取り戻せっていう親父の命令は果たせたんだ!これで国へ帰れるってもんだろう!
観猿 う~ん。まあ、これで良かったのね。
猿丸 では、依頼は果たしたぜ、女峰さんよ。華厳の姫は残念だが、嫁は国へ帰って探すとするぜ。赤城!華厳の姫をもう泣かすんじゃねえぜ。じゃあな、筋斗雲~!
去っていく猿丸たち。
男体 気持ちのいいやつらだったのう。さすが鹿島の神…?やつら何者じゃ?
女峰 何者でも良いではないですか?彼らは二荒を救ってくれたではありませんか。
男体 まあ、これから二荒では猿を大事にせねばならんな、ぶわははは。さてと、赤城、とどめを刺してくれる!
華厳 お父さん。
男体 なんじゃ。
華厳 私、できてるの。
男体 できてるって何が?
華厳 赤城の赤ちゃん。
男体 ぱおーん。(絶叫)
倒れる男体。抱き合う華厳と赤城。家来達が男体様と口々に叫ぶが、その声はどこか楽しげである。
上手花道のなかよし達に照明切り替え。
なかよし ふふふ、では、父さん、母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん。未来でお会いしましょう。さあみんな、帰ろう、未来へ!ユバ君、これが最後のお仕事じゃ!
ユバ イエス、オール・ライト。アテンション・プリーズ、アテンション・プリーズ、ウィー・アー・カンバック・トゥー・ザ・フューチャー。オープン・ザ・ドリーム。
静かな湖畔フェードイン。舞台中央奥が光輝く。光の中に消える子供達となかよし。静かな湖畔フェードアウト。
暗転。
十.エピローグ ── 現代・戦場ヶ原に帰る声
静かな湖畔フェードイン。舞台中央奥が、光輝く。光の中から現れる子供達。静かな湖畔フェードアウト。周りをキョロキョロする子供達。
龍之介 う~ん。真っ暗だ。
愛 私達、本当に現代に帰ってきたのかしら?
勇気 あれ、なかよしのおじちゃんは?
周りをキョロキョロする子供達。ふと上手二階にスポットが当たる。なかよしが、ピクリともせずに、うなだれてしゃがみこんでいる。
美森 おじさん?
愛 なかよしのおじさん?
龍之介 どうしたんだよ、おじさん!
勇気 おじさーん!
ユバ みなさん。お疲れ様でした。
勇気 ユバ君!おじさんが動かないんだ!
ユバ なかよしは、私の仮の姿。高性能の人形です。
子供達 人形!
龍之介 人形はユバ君じゃないか!
ユバ それはちょっと訳ありでね、本当の姿で家族や猿丸に会うと面倒なことになるから、仮の姿で旅をさせてもらったの。
愛 仮の姿って?本当の姿は?
ユバ 私の名はなかよし、漢字で仲良しの仲と善悪の善。音読みでなんと読むかしら?学校で習ったでしょう。
龍之介 仲良しの仲と善悪の善?わからない。
愛 だめねえ。
美森 チュウゼン?
勇気 チュウゼン…ジコ?
ユバ そう、人は私を中禅寺湖の神と呼ぶ。
舞台中央奥が光輝く、華厳そっくりな美しい女神が現れる。
ユバ 私は赤城と華厳の長女、仲善。人となった母に代わり、この湖の神となりました。赤城と華厳の血を受け継ぐ、あなた達のおかげで赤城山の神は救われ、そして…私の心も救われました。神の夢は未来。…あなたは、どんな未来を描くのでしょう。ありがとう、我が魂の片割れ達。また私たちの元へ帰るその日まで、この湖とこの空の下で、いつまでも見守っています。ずっと…。
二荒の神々(赤城、華厳、女峰、男体)が光の中に浮かぶ。光の海に待つ家族の元に帰る仲善。フェードアウト。
ユバ クローズ・ザ・ドリーム。
龍之介 え、ちょ、ちょっと、置いてかないでよ!
騒ぎ出す子供達。舞台が明るくなる。
勇気 あ、光…。
愛 ここはオリエンテーリングのスタート地点?
美森 あれは、夢だったのかしら?
先生 いた!あなた達!いったいどこに行っていたの!
子供達 先生!
先生に抱きつく子供達
先生 もう、心配したわよ。みんな大騒ぎだったんだから!
龍之介 先生!すごいんだ!俺らみんな、赤城と華厳の子孫なんだぜ!
先生 何を言っているの?お話はバスの中で聞くから、早く戻るわよ。みんな心配してるんだから。
子供達を煽って退場。勇気だけ残る。戦場ヶ原を名残惜しそうに見つめる。
先生 勇気ーっ!
勇気 はーい!
戦場ヶ原(客席)を見続ける勇気。
音楽(BIGINING ガンダムUCから)。
緞帳下げ。
-幕-
おわり
カーテンコール。
音楽(流星のナミダ ガンダムUCから)。
緞帳上げ。
テーマ曲「時の傷痕」で客出し。
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■大谷川一聡の作品
▶ 冒険したい:青い石と祈りの女神
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