
世界遺産の飛鳥・藤原をレンタサイクルで回ってみた―感想と注意点―
はじめに
奈良の「飛鳥・藤原の宮都」が2026年夏に世界遺産に登録見込みという嬉しいニュースが流れました。
今まで意識していなかった地域ですが、「世界遺産」と聞くと急に興味が湧きます。しかし、登録後はおそらく観光客が増えて混雑するはず。
「ならばその前に行っておこう」ということで、飛鳥・藤原を日帰りで巡ってきました。
・観光には自転車がおすすめ
飛鳥・藤原は、狭いエリアに多数の史跡が点在しているのが特徴。そのため、自転車でのんびり巡る“ポタリング”が定番です。
そこで今回は、駅でレンタサイクルを借りてぐるっと一周してきました。
本投稿は、自転車で飛鳥・藤原を回った感想と、これから行く人向けの情報をまとめたものです。
この投稿で伝えたいこと
電動自転車は必須。なくなる前に早めに受付
地味な史跡が多いけど歴史の予習で10倍楽しめる
食事処は少なめ。弁当持参もおすすめ
そもそも「飛鳥・藤原の宮都」ってなに?
ところで、今度登録される「飛鳥・藤原の宮都」は19件の構成資産からなります。
いずれも飛鳥時代(593〜710年)に「日本という国ができていく物語」の舞台となった場所。公式には「宮殿・官衙(かんが)跡」、「仏教寺院跡」、「墳墓」の3種類に分類されています。
・宮殿・官衙(かんが)跡:
飛鳥宮跡、飛鳥京跡苑池、飛鳥水落遺跡、酒船石遺跡、藤原宮跡
⇒政治の中心
・仏教寺院跡:
飛鳥寺跡、橘寺跡、山田寺跡、川原寺跡、檜隈寺跡、大官大寺跡、本薬師寺跡
⇒仏教の中心
・墳墓:
石舞台古墳、菖蒲池古墳、牽牛子塚古墳、天武・持統天皇陵古墳、中尾山古墳、キトラ古墳、高松塚古墳
⇒権力者のお墓
構成資産の位置をピン止めした地図を示します。
飛鳥・藤原の史跡は全体的に地味で、歴史を知らないといまいち楽しめません。そこで、簡単に飛鳥時代をおさらいします。
① 仏教と大陸文化の受容(推古天皇即位)
6世紀の日本列島は、奈良盆地を拠点とするヤマト王権が各地の豪族を緩やかに束ねる連合体のような形で勢力を広げていました。
6世紀末、日本初の女性天皇とされる推古天皇が即位。補佐役の聖徳太子や有力豪族の蘇我馬子と協力し、仏教の普及や大陸(隋)の文化を取り入れた新しい国づくりを進めていきました。この頃から政治の中心は飛鳥に集まり出します。
関連史跡:飛鳥寺跡、橘寺跡、山田寺跡、石舞台古墳
② 中央集権化の時代(大化の改新)
国づくりに貢献した蘇我氏ですが、その権勢は次第に肥大化し、いつしか天皇を牛耳るほどに。
645年、危機感を抱いた中大兄皇子と中臣鎌足は、馬子の孫である蘇我入鹿を暗殺(乙巳の変)。これに続く一連の政治改革が、「大化の改新」です。
ここから、天皇を中心とする中央集権化が本格化。その流れで同年に難波宮に遷都しますが、勢力争いのあおりで飛鳥宮に政治中枢が戻ります(653年)。
関連史跡:飛鳥宮跡、飛鳥京跡苑池、飛鳥水落遺跡、酒船石遺跡、川原寺跡、檜隈寺跡、菖蒲池古墳、牽牛子塚古墳
③ 本格的な大陸風の都づくり(藤原宮遷都)
中央集権の仕上げとして、天武天皇・持統天皇は、大陸にならった本格的な計画都市・藤原宮を完成させます(694年)。
藤原宮の時代には大宝律令が制定(701年)され、法律に沿って天皇のもとに土地や人民を管理する「律令国家」が整備。「日本国」という国号が対外的に使用されたのもこの頃からです。
藤原宮はわずか16年間で平城京へ遷都したものの(710年)、「日本国はじまりの地」とされる重要な役割を果たしました。
関連史跡:藤原宮跡、大官大寺跡、本薬師寺跡、天武・持統天皇陵古墳、中尾山古墳、キトラ古墳、高松塚古墳
学生の頃に勉強して以来忘れていた知識ですが、戦国時代や幕末のような派手さはないものの、なかなかドラマティックです。
ルートと基本情報
飛鳥・藤原の観光では、近鉄の飛鳥駅からスタートするのがおすすめ。
飛鳥駅の近くには史跡が固まっていて、駅前には複数のレンタサイクル屋もあります。
今回使ったお店は、駅を出てすぐ右手の「明日香レンタサイクル」。
このお店のメリットは、隣接する橿原神宮前駅の営業所に返却できる「乗り捨て」が可能なこと。レンタサイクルでは借りた場所に返すのが原則ですが、このサービスを使うと一筆書きルートで巡れます。
・自転車:1200円/日
・電動自転車:1700円/日
・原付:3000円/日
・乗り捨て料金:200円
WEB限定クーポン(200円引き)もあるので忘れないようにしましょう(自分は忘れましたが)。
巡ったスポット
今回の訪問順に、各スポットの解説および感想と、個人的なおすすめ度を紹介します。
おすすめ度 ★★★:優先的に訪れたい
おすすめ度 ★★:できれば訪れたい
おすすめ度 ★:近くに来たら訪れてもいい
高松塚古墳(おすすめ度 ★★★)
最初の目的地。飛鳥時代末期の古墳で、埋葬者の氏名は不明です。
盛大な古墳作りが禁じられていた時期に作られたため、サイズは小さめ。代わりに、大陸文化の影響が見られる壁画が描かれているのがポイントです。
古墳そのものは地味ですが、隣接の壁画館で見られる再現壁画は色鮮やかでなかなか見ごたえあり。入館料は大人300円です。
なお、本物の壁画が近くの施設で修復中で、期間限定で公開されていることもあります。残念ながら今回は時期が合いませんでした。


文武天皇陵(おすすめ度 ★)
世界遺産には含まれませんが、高松塚古墳の隣なので足を延ばしました。
文武天皇は飛鳥時代末期に在位し、「竹取物語」に登場する帝のモデルともいわれています。
柵で囲まれていて立ち入りはできず、あまり見るものはありませんでした。

キトラ古墳(おすすめ度 ★★★)
高松塚古墳と同じような地味な古墳ですが、充実した資料館があって、しかも無料です。
高松塚古墳と同じく石室の壁画が歴史的に重要ですが、特に注目は天井に描かれた星図。本格的な星図としては東アジア最古級とのことです。万博で見たファルネーゼのアトラスの天球を思い出します。
期間限定で実物の星図を公開していたのですが、予約がないので泣く泣く断念…。これは見たかった。


亀石(おすすめ度 ★)
世界遺産には含まれませんが、ルート沿いにあって知名度も高いのでチェックしました。
亀の顔が彫られたコミカルな石で、諸説ありますが正体はよくわからないミステリーストーンです。現在は南西を向いているものの、西を向くと大災害が起こる…という言い伝えがあります。
道端にさりげなく置かれているので見逃し注意。

甘樫丘(おすすめ度 ★)
こちらは史跡ではありませんが、見晴らしがよいと聞いて立ち寄りました。
頂上の展望エリアからは、万葉集によく登場する大和三山(天香具山、畝傍山、耳成山)が一望。
広い休憩スペースがあるのでお昼休憩にもおすすめです。ただし、急な登りルートを歩かないといけないので気合が必要でした。
余談ですが、もともと今回の世界遺産に大和三山も入る予定でしたが、他の史跡と性質が違うということで外されたそうです。

橘寺跡(おすすめ度 ★★)
聖徳太子の生誕地とされるお寺です。
室町期に作られた聖徳太子像をご本尊として拝むことができました。拝観料は大人500円です。
そこまで大きいお寺ではありませんが、やはり聖徳太子という超ビッグネームに関連するスポットなので感慨深いものがあります。


川原寺跡(おすすめ度 ★)
飛鳥四大寺の一つであった「川原寺」という大きなお寺の跡地です。
現在は広大な跡地だけで面影はありません。中央に弘福寺(ぐふくじ)という別の小さなお寺がありますが、今回は時間の関係で写真撮影だけ。

石舞台古墳(おすすめ度 ★★)
蘇我馬子が葬られたとされる古墳です。入場料は大人500円。
本来は盛り土で覆われていたはずですが、なんらかの理由で石室がむき出しに。蘇我家は嫌われていたので後年に土を剥がされたという説もあります。

見どころは、なんといっても巨大な石室。ひと目で「権力者」と分かります。内部に入ることもでき、スケール感をより実感しました。
ただし、中から見ると隙間の多さが目につき、「これ、崩れたりしない…?」と嫌な想像。内部が涼しいこともあって少しひんやりしました。

飛鳥寺跡(おすすめ度 ★★★)
飛鳥四大寺の一つでもある日本最古のお寺です。拝観料は大人500円。
本尊は日本最古の仏像とされる「飛鳥大仏」。1400年以上この場所から動かずに世の中の移り変わりを見守ってきたありがたい仏様です。ただ、サイズ感としては大仏というよりは「中仏」くらい…。

お寺の外にある「蘇我入鹿の首塚」も要チェックです。天皇を脅かすほどの権力を持ったために大化の改新の前に暗殺された人物で、歴史的に悪役であるためかポツンと寂しい感じの場所にあります。
この首塚は鎌倉時代に慰霊のため作られたもので、実際に首が埋まっているわけではありません。

余談ですが、以前に蘇我入鹿の首が(物理的に)飛ぶシーンの絵巻がXでバズりました。「その首塚がここか~」と思うとテンションが上がります。
Q.飛鳥時代の国会で野次はありましたか?
— 卑屈な奈良県民bot🦌【小説『奈良千夜一夜物語』好評発売中!】 (@nntnarabot) June 10, 2026
A.野次はありません。文句があるなら基本的に剣でかかっていくスタイルです。 pic.twitter.com/qf3BAixFAd
藤原宮跡(おすすめ度 ★)
最後はかつての一大都市・藤原京の中枢であった藤原宮の跡地。
しかしここ、ガチでなにもない原っぱです。柱の跡を示す目印らしきものがかろうじて史跡であることをアピールするぐらい。
観光客よりも犬の散歩やボール遊びを楽しむ地元民が目立つ、のどかな風景です。

歴史的重要性の割には寂しい感じですが、ここは平城宮に遷都した1300年以上前からこんな感じだそうです。そう考えると感慨深いかもしれません。
「XR藤原宮」というアプリを使うと当時の宮殿が再現されて、ちょっと楽しめます。ただ、かなり重いアプリなので、そこは注意。

感想
結局、午前10時から午後4時まで6時間かけて、世界遺産に含まれる7か所と、その他のスポット3か所を訪れました。
地図で見ると16キロメートルは移動していて、電動自転車とはいえさすがにかなり疲れました。曇っていて6月にしては涼しめだったのが救いです。
ちなみに費用は、レンタサイクル1900円+食事1800円+入場料・拝観料1800円で合計5500円でした。
行く前に知っておきたい注意点
ここからは、実際に現地を自転車で回ってみて感じたことをまとめます。
1.電動自転車はマスト
飛鳥・藤原はアップダウンが結構あります。普通の自転車だと最初の高松塚古墳で心が折れかねないので、料金は多少高いですが迷わず電動を。
レンタサイクルは電動から無くなっていきます。今回訪れたときは午前10時前の段階でも在庫たっぷりでしたが、早いに越したことはありません。
なお、自転車のサドルが固めでお尻が少し痛くなったので、100均でいいのでクッションがあった方がいいかもしれません。
2.現地の標識は頼りになる
地図アプリでも史跡の近くまでは行けるのですが、肝心の「どこが入口なのか」「駐輪場はどこか」が分かりにくく、結構迷います。
そういうとき、現地の標識が一番頼りになったので、見落とさないようにしましょう。注意深く見ると標識はあちこちにあります。
3.食事できるお店が少ない
これは要注意です。飛鳥・藤原のエリアは食事処が少なく、ようやく見つけたと思っても並んでいることが多いです。
自分がようやくお昼にありついたのは、石舞台古墳の近くのお店。1800円と観光地価格のカレーを頼みました。味は美味しかったですが、これならお弁当を持参しても良かったかなと思います。

(ブランシエラ石舞台テラス)
4.トイレも休憩スペースも快適
行く前はトイレが整備されているか心配でしたが、これは問題なし。
各史跡にはだいたい休憩スペース+トイレ+自販機が併設され、観光地にありがちな女子トイレの行列も見かけませんでした。ただしコンビニは少ないので注意。
5.その他
これから夏にかけて怖いのは、やはり熱中症。電動自転車であっても一日中漕ぐとなると体力をかなり消費し、熱中症リスクも高まります。
春には桜、秋には彼岸花が楽しめるそうで、快適な季節を選ぶ選択肢もあります。ただ、世界遺産に登録後は混雑しそうなので、空いている今のうちに回るか、涼しくなるまで待つか、悩みどころです。
夏に回るのであれば、帽子、水分補給、日焼け止め、蚊対策は徹底しましょう。冷凍ペットボトルを保冷バッグに入れて持参するのもおすすめです。
なお、山が近いエリアなので熊が出るか気になって調べましたが、令和7~8年にかけて飛鳥・藤原での目撃情報はないそうです。スズメバチは普通に見かけたので、そこは注意しましょう。
まとめ
飛鳥・藤原は華やかなスポットではありません。
しかし、事前に歴史を押さえることで、地味な原っぱやお寺が「歴史の転換点」に見えてくるというハイコンテキストな楽しみがあります。
ただし、歴史に興味のない人は楽しめないかというとそんなこともなく、のどかな田園を自転車で走ること自体が気持ちよかったです。道路が整備されていて車もあまり多くなく快適でした。
「どうすれば効率的に19件の構成資産を回れるか」「地図アプリや道端の標識を活用してしっかり目的地にたどり着けるか」というスタンプラリー的な面白さもあります。

・19件ぜんぶ回るのは1日では無理?
なお、世界遺産の19件をぜんぶ回り、しっかり見学するつもりなら、最低2日、できれば3日は必要で、ルートもきちんと押さえる必要があります。
正直に言うと、今回は7件回りましたが、本当はもっと回る予定でした。
しかし、道に迷ったり、気になる場所に寄り道したり、途中でにわか雨に降られて雨宿りしているうちに、あっという間に時間切れ。
……まあ、こういう予定どおりにいかないところも、気ままな自転車旅の楽しみだと思っています。のんびり気ままに風景と歴史を楽しみたい人におすすめのエリアでした。