
【万博】日本館バイオガスプラント見学ツアー ごみを食べるパビリオンの裏側へ
半年前に閉幕した大阪・関西万博。
その中で特に印象的だったのが日本館です。
「循環」をテーマとする充実した展示と、和を感じさせる美しい建物に魅了されました。
しかし、日本館は単なる展示施設ではありません。
なんと、本格的なバイオガスプラントを併設。
会場で発生した生ごみを、水やエネルギーに「循環」させていたのです。
その異名は「ごみを食べるパビリオン」。

見学には特別ツアーへの参加が必要で、その参加者は半年間でわずか1000人程度でした。
とんでもない高倍率でしたが、自分は幸運にも9月に見学できました。このnoteでは、もう二度と見られない日本館の真の姿を紹介したいと思います。
潜入した先はガチのプラント
バイオガスプラントの入口はシャインハットの横。
プラントはカナデビア社(公式HP)により運営されており、その社員の方が案内してくれました。

ものものしいゲートをくぐった先では、ヘルメットを渡されます。本格的なプラントであるため、見学者にも安全対策が求められるのです。

そして、いよいよ内部へ。
複雑に張り巡らされた配管やタンクが並び、あちこちに「メタン」「バイオガス」と表示されています。





周囲からは低いうなり音が聞こえ、これらの設備が確かに稼働していることを物語っていました。
なお、「生ごみ」や「メタンガス」という単語から悪臭を覚悟していましたが、実際にはあまり臭くはなかったです。
・日本館の裏の玄関
少し歩くと、黒い建物に到着しました。
正面は洗練されている日本館ですが、バイオガスプラントは地味なたたずまいです。

ツアー開始まで時間があるので、少し内部を探索。
入口付近しか歩けませんが、本格的な装置がたくさん並び、ごみの入った容器や汚水の入った瓶も展示されています。





やがて司会進行のスタッフが現れてツアー開始。
このバイオガスプラントでは、生ごみを発酵させてバイオガスを作り、それを燃料として活用していることが説明されます。
ここからは、実際の生ごみ処理の流れに沿って、ツアーの雰囲気を再現していきます。
生ごみの行方
万博のレストランやコンビニなどから発生する生ごみは毎日約5,000kg。
このうち日本館は最大1,000kgを受け入れ、夜に運び入れていたそうです。
実際の生ごみも展示。肉や野菜に混じってワッフルが見え、ベルギー館あたりのものと思われます。

・異物の除去
まず行うのは、生ごみを床に広げ、動物の骨、植物の種、卵の殻などの異物を除去する作業。
こうした硬いものは微生物では分解できないため、あらかじめ取り除く必要があるのです。
それにしても、生ごみの山から手作業で取り除くのは、なかなか地味でしんどそうです…。

しかも、生ごみには、空き缶や食器、そしてなぜか石ころまで混ざっていることも。もちろん、これらも取り除かないといけません。
実際に回収された多くの缶や食器を見ると、分別の大切さを痛感します。

・破砕作業:生ごみを細かく砕く
異物を除いた生ごみは、破砕装置によって元の形が分からなくなるほど細かく砕かれます。

さらに、発酵しやすくするために適量の水を加え、どろどろとしたペースト状にします。
ここまでやってようやく前処理が完了です。
「生ごみを発酵」というからそのままタンクに投入するのかと思っていましたが、ここまで丁寧な前処理が必要ということで少し驚きです。

・いよいよメタン発酵へ
水分調整後の生ごみは屋外にある「メタン発酵槽」という金属タンクに投入します。
この発酵槽は、温度が37℃に保たれ、内部が空気に触れない構造で、「温かく、酸素のない環境」になっています。
こうした環境で生ごみを発酵させると、メタン菌と呼ばれる微生物がメタンを作る「メタン発酵」が行われます。
このバイオガスプラントで最も重要な工程です。

・生ごみから生まれるバイオガス
タンク内は直接見ることができないため、モニター越しの見学となります。
内部には黒い液体が満ち、その表面では白い泡がぷつぷつと発生しては消えていきます。
この白い泡こそが発酵で生じたバイオガス。
バイオガスには可燃性のメタンが大量に含まれるため、燃料として利用できます。

・展示とプラントがつながる瞬間
ところで、日本館には「発酵で発光中?」という展示がありました。
暗い空間に無数のタンクが並び、その上で光が点滅を繰り返す部屋です。
実はあの展示は、メタン発酵槽の中で白い泡が湧いては消える様子をイメージした演出だったのです。

・メタン発酵クイズ
ここで唐突に「メタン発酵クイズ」が始まります。
発酵槽に投入された生ごみが、完全に発酵し終わるまでにかかる日数は次のうちどれでしょうか。
A:16日
B:26日
C:96日
正解は、Aの16日。
ちなみに自分は、「こういうクイズは一番極端な数字が正解だろう」と妙なメタ読みをしてCを選び、見事に外しました。
今になって考えると、さすがに96日は非効率すぎてあり得なさそうですね。
バイオガスの活用法
こうして回収されたバイオガスは、日本館に設置されたバイオガス発電機で燃料として使われ、得られた電力は日本館で利用されます。

さらに、バイオガスには地球温暖化の原因となる二酸化炭素も含まれます。
この二酸化炭素はCO₂分離装置によって回収され、大阪ガスが運営する「化けるLABO」へ運ばれます。

化けるLABOでは、二酸化炭素から未来の都市ガス「e-メタン」をつくる「メタネーション」の実証実験を実施。
こうして、日本館で作られたバイオガスは、メタンとともに二酸化炭素も有効活用されます。
化けるLABOの見学ツアーもレポートを書いていますので、興味のある方は以下のリンクからどうぞ。
廃液まで有効活用
こうしてバイオガスが生み出されたあと、発酵槽の中には「発酵液」が残ります。濁ったドブのような黒い液体です。
日本館のバイオガスプラントでは、この見るからに汚い発酵液すら無駄にしません。

・固形分を取り除く
発酵液には生ごみに由来する固形分が含まれます。
そこで、まずは「発酵液スクリーン」という装置で比較的大きなカスをふるい分けて回収します。

次に、下水処理でも使われる凝集剤を加えます。
すると、細かなカスが集まって大きな塊になり、分離しやすくなります。

その後、「汚泥脱水機」でこれを絞り取り、水分と固形分に分けます。
回収した固形物は「脱水汚泥」と呼びます。窒素などの栄養分が残っているため、肥料として利用するそうです。
一方、汚泥を取り除いた後の水は、最初の黒い液体よりはましになっているものの、まだ緑っぽく濁っています。


・微生物の力で浄化
次の工程では生物処理が行われます。
これは、微生物の力で汚れの成分をさらに分解する工程です。メタン発酵に続き、ここでも微生物が活躍するのです。
生物処理により、汚水は黄色っぽい液体に。まだきれいではありませんが、濁りはなくなっています。


・最後はきれいな水に
そして最後に登場するのが、膜分離装置です。
ここではRO膜(逆浸透膜)と呼ばれる非常に細かい孔を持つフィルターで、水中の不純物をさらに除去していきます。
スタッフの方が自信満々に見せてくれた処理後の水は、最初の汚水から想像もつかない透明度でした。
RO膜は一般的な浄水器に用いられるもので、今回の水も飲用可能なレベルだそうです。



これでようやく、水への循環も終わりです。
日本館を訪れた方はご存じと思いますが、この浄化した水はパビリオン中央の水盤に使われています。

ちなみに、バイオガスプラントで使われていた生物処理装置や膜分離装置は、日本館の展示にも登場しています。

ただし、日本館に展示していた装置とバイオガスプラントの実物は明らかに形状が異なっていました。
実機と展示用モデルの違いなのか、残念ながら質問しそびれてしまい、今となっては心残りです。
バイオガスプラント概略
最後に、プラントの概略フローを紹介します。
もともとは焼却するはずだった生ごみですが、メタン発酵を行うことにより、電気、CO₂、養分、水と有効活用されていることが分かります。

・日本館を見学
ツアーが終わると、日本館に入館できます。
すでに訪れていたのですが、裏側の処理を知ったあとでは、「あの演出は、こういう意味だったのか」と気づく場面が出てきます。
色とりどりのBE@RBRICKたちも、よく見れば処理のプロセスに沿って色を変えており、循環の物語を構成していたことが分かります。
【#日本館 展示紹介 Plant Area - 6】
— 日本館|Expo2025 大阪・関西万博 (@japanpavilion_j) April 21, 2025
元気よく飛び出してくる、色とりどりのBE@RBRICK(ベアブリック)。
微生物が生ごみを分解することによって生まれる物質やエネルギーを表しています。
ディテールまで遊び心満載で、かわいい鳴き声も聞こえてきます。#大阪・関西万博 #EXPO2025 pic.twitter.com/UtJTnSA0lK
おわりに
日本館の「循環」というテーマ自体は決して珍しいものではありません。
けれど、実際にバイオガスプラントで生ごみを処理するというぶっ飛んだ発想には圧倒されました。
日本館は、建物やユニフォームに至るまで、解体や再利用を見据えて設計され、まさに「循環」を体現したすばらしいパビリオンだったと思います。
万博は閉幕しましたが、日本館をはじめ、建物や展示の一部は各地で新たな役割を担っていきます。
そして、会場で味わった感動、人とのつながり、未来への希望は、多くの来場者の間でレガシーとして巡り続けていくのではないでしょうか。
これらが残り続ける限り、「また日本で万博を」というムーブにつながるのではと期待しています。
