メインコンテンツへスキップ
見出し画像

外国人受刑者という存在 ――日本の刑務所、F級の現場

    最近、ニュースなどでよく報道されている、日本国内における外国人による犯罪。
    「移民によって日本の治安が脅かされていくのではないか」――そんな論調の報道も目立つようになりました。

    しかし、このような報道がされる以前から、外国人受刑者は日本の刑務所に一定数収容されてきました。

    日本国内で犯罪を犯し、実刑判決を言い渡された外国人が収容されるのは、日本の刑務所です。ただし、すべての刑務所に外国人受刑者がいるわけではありません。外国人受刑者を受け入れる施設は、あらかじめ限られています。

    刑務所でどの施設に収容されるかは、まず「収容分類」によって決まります。
    初犯はA級、累犯はB級、外国人はF級。
    そのほかにも、若年累犯はYB、若年初犯はYA、長期累犯はLBなど、管理上の必要に応じた分類が多数存在します。

    今回は、その中でもF級――外国人受刑者について書いていこうと思います。

    日本の刑務所におけるF級の現場は、単に「言葉が通じない」「文化が違う」という言葉だけで片づけられるものではありません。

    日本の刑務所には、さまざまな国籍の外国人受刑者が一定数収容されています。彼らの中には、日本語を十分に理解できないまま、いきなり刑務所での生活が始まる人もいます。

    しかし、日本の刑務所では、外国人だからといって不遇な扱いを受けることはありません。

    刑務所には外国人受刑者対応の専門部署があり、通訳者が外部から雇われています。常に通訳がついているわけではありませんが、さまざまな場面で通訳を利用することが可能です。

    受刑者には、刑務所で生活する上で必要な事項がすべて記載された冊子が、入所時に全員に貸与されます。
    動作時限やルール、刑務所の制度、遵守事項などが事細かに記載されており、その冊子は彼らの「母国語」で親切、丁寧に用意されています。英語、中国語、スペイン語、フランス語、ロシア語、タイ語など、すでに作成・印刷済みです。
    どの国籍の受刑者にも対応できるようにしています。

    刑務官は日本語で対応するのが基本ですが、各工場などには日本語や英語ができる外国人受刑者がいることも多く、通訳役として動いてくれる場面も少なくありません。

    居室での生活は、単独室での収容がほとんどです。
    本来、日本人受刑者は畳の部屋で生活しますが、F級受刑者の場合はベッドが設置され、室内ではスリッパで歩けるよう配慮されています。
    「日本人の文化に合わせて生活しなさい」という考えではなく、できる限り外国人の文化に合わせた環境が整えられているのです。

    食事に関しても、米が主食でない国の受刑者にはパンが支給され、宗教に配慮した食事内容に変更されます。
    たとえばイスラム教の受刑者には、豚肉を使用しないメニューが提供され、ベジタリアンメニューも用意されています。
    また、イスラム教の受刑者に対しては、ラマダン(断食月)にも対応しています。
    ラマダン期間中、イスラム教徒は日の出から日没まで一切の飲食を行うことができません。これは刑務所内であっても例外ではなく、本人の信仰として尊重されます。

    そのため、日本の刑務所では、ラマダン期間に入ると事前に本人へ意思確認が行われます。
    「ラマダンを守るかどうか」は強制ではなく、あくまで本人の申告によるものです。

    ラマダンを守ると申し出た受刑者に対しては、日中の食事提供は行われません。
    代わりに、日没後の時間帯に、朝・昼・晩の三食分をまとめて支給するという特別な対応が取られます。
    これは単なる時間変更ではなく、調理や配膳の段取り、管理方法まで含めた、刑務所側の明確な配慮です。

    当然ながら、周囲の日本人受刑者と同じ生活リズムで動くことはできなくなります。
    それでも、「刑務所にいるのだから宗教行為は認めない」という扱いにはなっていません。
    信仰は個人の内面に属するものであり、それを理由に不利益を与えない、という考え方が徹底されています。

    このように、日本の刑務所では、外国人受刑者の宗教や文化的背景に対して、可能な限り現実的な範囲で対応が行われています。

    本の貸与についても、外国人受刑者に配慮した体制が整えられています。
    刑務所には、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、タイ語など、さまざまな言語の書籍が用意されています。

    日本語が十分に理解できない外国人受刑者にとって、日本語の本しか読めない環境は、事実上の情報遮断に近い状態になります。
    刑務所では、それを避けるために、彼らが理解できる言語で書かれた本を読む機会が確保されています。

    新聞についても、施設によって多少の違いはありますが、外国人受刑者に配慮した対応が行われています。
    英語新聞や中国語新聞は、施設の予算で定期購入され、彼らが内容を理解できる形で読むことが可能です。

    もちろん、日本の大手新聞を読むこともできます。
    日本語が理解できる外国人受刑者であれば、日本人受刑者と同じ情報に触れることに、何の制限もありません。

    他の国ではどうなのでしょうか。
    ここまで外国人に配慮がある刑務所は存在するのでしょうか。

    ある中国人受刑者は、私にこう言いました。
    「日本の刑務所は、正直言って甘すぎる」と。

    それが事実かどうかを、私が検証できるわけではありません。
    ただ、その受刑者の話によれば、中国の刑務所では、看守に少しでも歯向かえば、容赦なく暴力を受けるのが当たり前だと言います。
    命令に従わない、口答えをする、態度が悪い――それだけで、集団で殴られることも珍しくない、という話でした。

    日本の刑務所では、そのような対応はもちろん許されていません。
    刑務官が受刑者に暴力を振るえば、それ自体が重大な問題になります。

    それはさておき、外国人受刑者と一口に言っても、その内実は実にさまざまです。
    日本語が堪能な者もいれば、ほとんど話せない者、そもそも話す気のない者もいます。
    中には、日本人を内心で見下している者や、その感情を態度に露骨に表す者もいました。

    多いタイプが、都合が悪くなれば「ニホンゴ、ワカリマセン」
    でも、調子が悪くなれば「アタマ イタイカラ クスリクダサイー」

    同じ「F級」であっても、背景も価値観も、刑務所での振る舞いも一様ではありません。

    私が、どの国の受刑者と多く接してきたのか。
    国によって、どのような違いを感じたのか。
    そして、日本の刑務所という特殊な環境の中で見えてきた「国民性」とは、いったい何だったのか。

    そうした外国人受刑者の実像についても、いずれあらためて書いていこうと思います。



    画像





     
     
     
    元刑務官として20年以上、刑務所の内側を見てきました。 更生や人権の建前と、現場の現実の間にあるものを書いています。 刑務所とはどんな所か。時代ともに変化していく 更正、社会復帰以前に刑務所がこれでいいのか。 マガジンにて、格安で有料記事まとめて読めます。

    あなたへのおすすめ