
元銀行員日記⑨
そのあと、大きな出来事があった。
支店に、電話がかかってきた。
相手は、闇金だった。
「お母さんの返済が滞っている。また連絡する」
そう言われた。
慌てて個人信用情報を照会した。
約10社。
借入は、合計2000万円を超えていた。
頭が真っ白になった。
実家に電話して、思わず怒鳴ってしまった。でも、すぐに後悔した。
謝った。
女手一つで子供四人を育てて、
実家の建て替えで住宅ローンまで抱えていた。
怒る筋合いじゃなかった。
僕は、銀行から借りて、全額肩代わりした。母の借金はゼロになった。
住宅ローンが残っていたため、実家は売るしかなかった。
母は、姉のいる千葉で暮らすことになった。
当然、妻には話をした。
妻は、自己破産を勧めた。
僕には、それができなかった。
身内の自己破産は銀行員として致命傷だからだ。
今思えば、それが間違いだったのかもしれない。
自己破産させて、銀行を辞めるという選択肢も、あったはずだった。
その頃から、少しずつ妻との関係は崩れていった気がする。
三年、大阪にいたあと、
福井の支店に転勤になった。
人事部の評価は良く、
同期の中では一番早く副主任に昇進、
優良店への異動だった。
でも、少しずつ感じていた。
銀行員にとって一番大事な、
取引先を見る力に、自分は限界があるんじゃないかと。
周りには優秀な人間が多くて、
自分は向いていないのかもしれない、と。
うまくやれていた、という感覚だけは、
どこにもなかった。
それでも、なぜか成績だけは良かった。