メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【068】 アカハラ

    【このブログの目次はこちら】

    (*写真はスズメ目ツグミ科ツグミ属アカハラ)

    *

    「こなひだあの集會堂オオヂトリアムの裏のところで、小鳥の巣を見つけたんだけれどね。花のさいた野茨の茂みの中で、もう五六羽雛に孵かへつてゐたんだがね、――あんなところに巣をこしらへるのは何かしら?――」

    「どんな鳥でしたな?」

    靴屋は何を言ふかといつた顏をして、眼鏡ごしにぢろりと彼の方を見た。

    「胸にちよつと赤みのあるね、羽はさあ? ……」

    彼はすこし上づつたやうに彼女の方へふりかへつた。

    「おい、ありあ鳶色だつたかなあ?」

    彼女も説明に困つて、ただ氣まり惡さうに首をかしげてゐるきりだつた。

    「アカハラかなんかでせう」

    靴屋はあんまり興味もなささうに答へた。

    「アカハラなら僕も知つてゐるけれど、どうもアカハラぢやなかつたなあ」

    「そんなところに巣をつくるのはアカハラ位なものですよ」

    と靴屋は彼を輕く一蹴した。自分の小鳥の觀察の仕方の出たらめだつたのに、われながら呆れ返つてゐた矢先だつたので、それに文句の言ひやうもなかつた。彼はもう靴屋の説に抗はないことにした。

    『巣立ち』(堀辰雄)

    *

    「アカハラ」をネット検索すると、「アカデミックハラスメント」ばかり出てくるが、昔は日本固有種のイモリとツグミの仲間を指した。

    有尾目イモリ科イモリ属アカハライモリ(通称アカハラ)と、スズメ目ツグミ科ツグミ属アカハラは同じ名前を共有している。鳥類と植物の同名は結構あるが、両棲類は珍しい。

    和名・チャイナ名・英名を並べると、

    赤腹・紅腹蠑螈イモリ・Japanese fire-bellied newtイモリ
    赤腹・赤胸鶫ツグミ・Brown-headed thrushツグミ

    Bellied:下腹の
    Headed:頭部の

    色も部位も微妙に違うのが興味深い。

    では前章の続き。両棲類をざっくり分けると、

    無尾目むびもく:カエル
    有尾目ゆうびもく:カエル以外

    有尾目はざっくり以下に分類される。

    オオサンショウウオ科
    サンショウウオ科
    イモリ科
    サイレン科

    サイレン科は日本人に馴染みがない。中北米のみに棲息する後ろ足二本がない、前足二本だけの細長い不思議な生物。

    両棲類の中で、体内受精をするのは原則としてイモリだけ。サンショウウオは魚類と同じ、体外受精なのだ。だから「いを」なのかも知れない。

    チャイナではどんな字が用いられているか。

    オオサンショウウオ:大鯢
    サンショウウオ:小鯢
    イモリ:蝾螈
    サイレン:鰻螈

    鯢は山椒魚の意、魚篇だ。蝾、螈はいずれもイモリの意で虫扱いである。サイレンは、鰻うなぎ+螈いもりで、なかなかナイスなネーミングだ。ユーラシアにはいない生物なので、最近できた当て字であろう。

    鯨鯢の鰓に掻く

    この読み方と意味は分かるだろうか?

    次のブログはこちら。

     
     
     
    Amazon Kindle でトリに関する本や写真集を出版しています。 昭和後期のサブカルチャーの研究をライフワークにしています。

    あなたへのおすすめ