メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【198】 獺祭魚

    【このブログの目次はこちら】

    (*写真は食肉目イタチ科オオカワウソ属オオカワウソ)
    南米に棲む大型のカワウソ。化け物臭がすごい。

    *

    輻やぼねの下に流るる道は、細き水銀の川のごとく、柱の黒い家の状さま、あたかも獺かわうそが祭礼まつりをして、白張しらはりの地口じぐち行燈あんどんを掛連ねた、鉄橋を渡るようである。

    爺様の乗った前の車が、はたと留とまった。

    あれ聞け…寂寞ひっそりとした一条ひとすじ廓くるわの、棟むね瓦がわらにも響き転げる、轍わだちの音も留まるばかり、灘なだの浪を川に寄せて、千里の果はても同じ水に、筑前の沖の月影を、白銀しろがねの糸で手繰ったように、星に晃きらめく唄の声。

    (中略)

    「湊屋、湊屋、湊屋。この土地じゃ、まああすこ一軒でござりますよ。古い家じゃが名代なだいで。前せんには大きな女郎屋じゃったのが、旅籠屋になったがな、部屋々々も昔風そのままな家うちじゃに、奥座敷の欄干てすりの外が、海と一所の、大いかい揖斐いびの川口かわぐちじゃ。白帆の船も通りますわ。鱸すずきは刎はねる、鯔ぼらは飛ぶ。とんと類のない趣おもむきのある家じゃ。

    ところが、時々崖裏の石垣から、獺かわうそが這込はいこんで、板廊下や厠かわやに点ついた燈あかりを消して、悪戯いたずらをするげに言います。が、別に可恐おそろしい化方はしませぬで。

    『歌行燈』(泉鏡花)

    *

    獺祭だっさいとは、『礼記らいき月令げつれい』の「孟春もうしゅんの条」に由来し、春の訪れの現象を並べたもの。

    東風解凍 蟄虫始振 魚上氷 獺祭魚 鴻雁来

    東風こち凍いて解とけ 蟄すごもり虫むしの振ふるい始はじみ 魚うお氷こおりを上あがり 獺かわうそ魚うおを祭まつり 鴻雁こうがん来きす

    *

    カワウソは春になると、獲った魚を並べてソロパーティをする=獺祭だっさい、という俗信が昔のチャイナにはあったらしい。

    またチャイナに生息するユーラシアカワウソとニホンカワウソが同種だったのかどうかは結論が出ておらず、さらにニホンカワウソは絶滅しているので、獺祭が事実に基づくカワウソの習性なのかは、日本では確認のしようがない。

    私が調べた限りでは、そのような習性は外国のカワウソ属には見当たらない。

    次のブログはこちら。

     
     
     
    Amazon Kindle でトリに関する本や写真集を出版しています。 昭和後期のサブカルチャーの研究をライフワークにしています。

    あなたへのおすすめ