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【090】 鹿野苑と鹿鳴館

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    (*写真は偶蹄目シカ科アクシスジカ属アクシスジカ)

    鹿鳴館では 夜ごとの
    ワルツのテムポに 今宵も
    ポンパドールが 花咲き
    シルクハットがゆれるわ アハハン
    『タイムマシンにお願い』(作詞:松山猛)


    シャカの前世の物語(前生譚ぜんしょうたん)『ジャータカ』では、シャカは金色の鹿王ニグローダの生まれ変わりである。鹿の種は定まっていないが、私は北インド、ネパールに多く棲息し、現地語ではチタールと呼ばれるアクシスジカだと考える。この鹿の角で作られた弦楽器「シタール」の語源であろう。

    鹿野苑ろくやおんとは、シャカが悟りを開いた後に初めて説法を行った場所。「【086】 師子吼と狛犬」で言及した、「アショカの獅子柱頭」のある現在の北インドのサールナートで、鹿が多くいた林に由来する。

    シカ科は人類にとってもっとも身近な野生の哺乳類である。シカに纏わる神話、民話は世界中にある。なので神道の鹿信仰は仏教とは無関係だと私は考える。ちなみにシカ科はアフリカ、オセアニアにはいない。インパラやガゼルはシカっぽいけどウシ科である。オーストラリアには欧米から持ち込まれて野生化したシカはいるが、元々いた訳ではない。

    さて、鹿鳴館とは何か?
    これは『詩経』の「小雅」の冒頭「鹿鳴」が元ネタ。

    呦呦鹿鳴 食野之苹
    我有嘉賓 鼓瑟吹笙
    吹笙鼓簧 承筐是將
    人之好我 示我周行

    呦呦ゆうゆうと鹿しかは鳴なき 野の苹へいを食らう
    我に嘉賓かひん有り 瑟しつを鼓こし 笙しょうを吹ふかん
    笙しょうを吹ふき簧こうを鼓こす 筐きょうを承うけて是これ將おくらん
    人ひとの我われを好このめば 我われに周行しゅうこうを示しめせ

    鹿は餌を見つけると鳴いて仲間を呼び寄せる。この伝承から「鹿鳴=おもてなし」となり、中井櫻洲が「鹿鳴館」と名付けた。

    *

    私は「鹿鳴」を目の当たりで体験したことがある。関東近郊で登山中、山小屋のベンチで休憩中のことだった。10mくらい先で一頭の小鹿が、つかず離れず人間を観察していた。すると小屋の主人がドッグフードの大袋とスコップを持って出てきて、小鹿に向かって撒き始めた。

    すると小鹿は、「ピイーッ!」と大きな一声をあげた。

    それから続々と鹿が集まってくるのだが、十頭ほどの仲間が揃うまで、小鹿は餌を食べようとはしなかった。鹿の肉声を間近で初めて聞き、とても感動したシーンであったのだが、そもそも鹿にドッグフードを食わせてええんか? という疑問を主人にぶつけなかったが、主人の方が察したのか、「こうしないと新芽が全部食われるから、仕方がないんだ。」と釈明してきた。この行為が正しいのかどうかは、私は言及しないでおく。

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    Amazon Kindle でトリに関する本や写真集を出版しています。 昭和後期のサブカルチャーの研究をライフワークにしています。

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