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聖騎士編⑥ 観測者アルスは解き明かしたい

    邑沢 迅

    ――――――――――

    〇月×日 快晴

    本日、『聖騎士』ユリウスの観察を終了した。
    最終的な結果は「極度の認知不協和による、自責の自家中毒および幼児退行」。

    予想されていた『他者への自己正当化』への分岐は一切発生せず、
    順当な精神崩壊へと収束した。

    あらためて、この「実験」の推移を総括しておく。

    【フェーズ1:観察】

    彼の掲げる『正義』とは、高尚な理想ではなく、単なる「自己暗示」であった。
    過剰なほど他人の罪を罰し、純白であることを強要するのは、
    少しでも気を抜けば【死への恐怖】に押し潰されそうな己の弱さを覆い隠すためだ。
    私は今回、直接介入を一切行わず、盤外から彼の『恐怖』だけを刺激することにした。

    【フェーズ2:調整】

    匿名の殺害予告と、日常に潜む些細な環境音の操作。
    たったそれだけで、彼の強固な正義の鎧は、
    内側でパンパンに膨れ上がった恐怖《パラノイア》によって軋みを上げ始めた。
    彼が仲間に「恐怖を見せるな」と怒鳴り散らしていたのは、限界まで追い詰められた自分自身への悲鳴に過ぎない。

    【フェーズ3:崩壊】

    パレードでの暗殺襲撃。 魔法が着弾する瞬間の、
    彼の『正義』は、生物としてのむき出しの『生存本能』の前にあっけなく敗北した。
    本当に滑稽なのは、彼の教えを妄信していた周囲の人間たちが、
    彼の『保身』を『崇高な自己犠牲』だと錯覚し、英雄として祭り上げていることだ。

    【総評】

    凡人は、自分が教義を破った際に「仕方がなかった」と自己防衛する。
    だが、彼の『正義の鎧』は、あまりにも純白で分厚すぎたのだ。
    彼は自分の罪を弁明することも、他人のせいにすることもできず、
    そして自ら雪ぐことも出来ず、
    分厚すぎる鎧の重みによって内側の脆弱な精神が完全に圧死してしまったのだ。

    彼は一生、自分で焼くことすらできない、自らの罪で焼かれ続ける。
    彼を壊したのは、彼自身の「美しすぎる正義感」だった。

    私にあるのは、達成感ではない。

    「納得」だ。

    『正義の皮を被った臆病者』からは、もう新しいデータは期待できない。

    ――――――――――

    「ありがとう、ユリウス。とても良いモノが見られたよ」

     王都の時計塔の上。
     眼下で熱狂的な歓声が響き渡る大通りに背を向けながら、僕は革表紙の手帳をぱたんと閉じた。

    「さあ、次は…どこに行こうか」


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    この小説の続きはTALESでご覧ください。

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