
🪡あなたの優しさが、夜空を救う🪡
その少女は、誰もが眠りにつく午前零時になると、屋根の上へ登っていた。
名前は、紬(つむぎ)。
昼間はどこにでもいる、ごく普通の少女だった。
けれど夜になると、彼女には誰にも言えない仕事があった。
月明かりに照らされる小さな木箱を開く。
中には、銀色に輝く一本の針と、星の光を細く撚って作られた糸。
少女はそれを手に取ると、空へ向かってそっと針を走らせる。
チクリ。
チクリ。
静かな音だけが夜に響く。

実は夜空は、人々が思っているよりずっと壊れやすい。
悲しみに暮れる人が流した涙。
誰にも届かなかった「ごめんね」。
伝えられなかった「ありがとう」。
そんな想いが空へ積もるたび、夜空には小さな裂け目が生まれるのだ。
もし、その裂け目を放っておけば。
星はこぼれ落ち、月は欠け、朝は二度と訪れなくなる。
だから紬は、誰にも知られず夜空を縫い続けていた。
「今日も、大丈夫。」
縫い終えた空を見上げるたび、少女は小さく微笑む。

けれどある夜。
今まで見たこともないほど大きな裂け目が空を横切っていた。
まるで世界そのものが、真っ二つに裂けてしまったようだった。
「どうして……?」
木箱の中の糸を全部使っても、とても足りない。
少女は必死に縫い始めた。
一本。
また一本。
けれど裂け目は広がるばかりだった。

その時だった。
街のあちこちから、小さな光が浮かび始める。
病室で眠る少年が願った「また歩けますように」。
遠く離れた祖母を想う少女の「元気でいてね」。
仲直りした友達同士の笑顔。
赤ちゃんの誕生を喜ぶ家族。
誰かを信じる気持ち。
誰かを許す勇気。
誰かを愛する心。
それらが淡い金色の糸となって空へ昇り、紬の前へ集まってきた。
「……そうか。」
少女は涙ぐみながら笑った。
「夜空は、一人で縫うものじゃなかったんだ。」
人は知らないうちに、毎日少しずつ世界を支えている。
優しさは目には見えない。
けれど確かに、世界をつなぎ合わせる糸になっている。
紬は集まった光の糸を一本一本、大切に針へ通した。
夜空はゆっくりと閉じていく。
裂け目は消え。
星々は以前よりも優しく瞬き始めた。

その夜。
流れ星が一つも落ちなかった理由を知る人はいない。
朝になると、紬はいつもの少女に戻る。
学校へ向かい、友達と笑い、お母さんの作った朝ごはんを食べる。
昨夜、自分が世界を救ったことなど、一言も語らない。
けれど。
誰かに優しくできた日。
誰かを許せた日。
誰かへ「ありがとう」を伝えられた日。
その夜の星空は、いつもより少しだけ美しく輝くという。
それはきっと。
どこかで一人の少女が、
あなたの優しさという一本の糸を受け取り、
今日も静かに、
夜空を縫っているからなのだ。 ✨

💗柊紅葉💗

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