
ねこのトムの冒険
午後の終わり、そろそろトムが近所の散歩に出かける時間だ。
「キャセロール」の空き地は、四軒の古い建物が四角形に立ち並んだ真ん中にあり、トムはそこを通り抜けた。そのまま、薄黄色のファサードの二軒の家の間にある「三匹のネズミ」の路地へと入っていく。格子はよく曲げられていて、トムはそこを通って「ヒナゲシ」の通りへと出ることができるのだ。そこから「カタツムリ」の低い塀に沿って歩きはじめる。日が傾いてトムの柔らかいオレンジ色の毛並みを輝かせた。そよそよと吹く風がふわふわとその毛をゆらした。
人の気配はないので、わざわざ石垣の上を渡る必要はなかった。しかし、トムは電柱のてっぺんにとまっているカラスをちらっと見た。そいつはトムに向かって乾いた声でカアカアと鳴いた。その鳥はコリーに違いない。ここから二ブロック向こうにある「栗の木」公園に家族で住むカラスだ。一年前、トムが三歳だったとき、初めてそこへ行きたがった。やっと着いたとき、カラスたちが大騒ぎしていたので、トムはまるでウサギのように一目散に逃げ出した。それで身に染みて分かったのだ。「ヒナゲシ」の通りから出さえしなければ何も怖くないと。
突然、トムの視界に影が現れた。それは低い塀の端の辺り、彼から約六メートル先の場所にあった。あっという間に、トムは動けなくなり、縮み上がってしまった。ビー玉のような丸い目は大きくなり、ひげはピンとのびた。足音を忍ばせて用心深く近づいた。捕食者のような視線はそのシルエットに定められて片時も離れない。あと二メートルというところまで距離を縮めたときに、再び止まった。そしてできるだけ体を低くした。でこぼこな球の形をした「何か」は風に流されてかすかに揺れた。もし、それが何か、トムがすぐに分からなかったら、彼は攻撃していただろう。
通りでのけんかの経験がトムにはあまりなかった。彼は外でほとんどの時間を過ごすが、決して殴り合いのけんかをしたことはなかった。そして他の縄張りの一員でもなかった。公園近くのこの一帯はむしろ喧騒から離れていると言えるだろう。カラスたちは、猫たちの問題には無関心であるが、この地域の静かな番人の役割を務めている。このように、いくつかの小競り合いを除いて、トムのけんかの経験は、血気盛んな母親ときょうだいのそれを見ていたことだけである。
だが今、彼の勇気を見せるときがきた。いざ、目の前の敵へと飛び込んでいこうとしたところ…
キャンディーの包み紙!?
止まるには遅すぎた。猛スピードで突進したトムは、すべての爪をむき出しにして、しわくちゃの紙の上へと飛び込んだ。前足の重さで押しつぶされたプラスチックはきいきいと音を立て始め、アスファルトの上を滑りながら、トムの攻撃を横にかわした。あわてて、一メートル後ろの方へとジャンプした。それが生き物であろうと何であろうと、トムにはもうどうでもよかった。とにかく目の前の相手を威嚇して屈させてやるしかなかったのだ。つま先立ちで背中を丸め、毛を逆立てて斜め向きの姿勢で、敵の様子を窺いながら、前後にぴょんぴょん跳ねていた。
反応はすぐに返ってきた。突風が吹いてキャンディーの包み紙はトムの方へと吹き飛ばされた。予想より早い反撃を受けたため、その方向へとニャー!と大きな声で叫びながら再び後ろへ向かってジャンプした。しかし、紙は風によってくるくる回りながら舞い上がり、低い塀の向こうへと消えた。
カラスのコリーは四度ほどカアカアと鳴いて、戦いの終わりを知らせた。そして飛び立ち、公園へと帰っていった。相手の棄権によって勝利したトムは、腰を下ろし、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。頭をぶるぶるとふるわせて、毛繕いを始めた。今日という日に満足したトムは、胸を張って道路沿いを小走りに、彼の家へと帰って行った。もう夕方だが、頭の中はもちろんお昼寝のことでいっぱいだ。今日の彼の戦績にふさわしいご褒美である。太陽が遠くの建物の後ろへと沈んでいく。トムは「カタツムリ」の低い塀の角を曲がった。
作者: Pierric
翻訳: Rumiko