
陰術師・九条廻の陰処方 7
終章 陰る者と、光る者
平安時代より、陰職の術者たちは挨拶を交わす時にこう言った。
「おかげ様で」
神や他人から受ける加護への感謝——それが現代の意味だ。
だが本来の意味は、もう少し違う。
あなたの陰のおかげで、私の陰が生きている。
あなたの影があるから、私の影も伸びられる。
光があれば陰が生まれ、陰があれば光が意味を持つ。
どちらが欠けても、世界は成り立たない。
九条廻は今日も診療所で陰を処方する。
白河燈は今日も街で野良陰を祓い、月に二回診療所に来て、澪の手料理を食べる。
澪は今日もコウと一緒に、少しずつ陰術の感覚を取り戻している。
コウは今日も澪の影の中から顔を出して、調合台の食物を漁り、
九条に「降りろ」と言われ、白河に懐いていないふりをして、
ぽよんぽよんしながら縁側の夏草を眺める。
それが、この診療所の日常だ。
世界の裏側では、今も陰が育ち、野良が生まれ、どこかで誰かの縁が切れかけている。
でも——それを見ている者たちがいる。
陰術師と、陽術師と、その間にいる陰と、
そして——陰から戻ってきた者と。
おわり
おかげ様。
あなたの陰のおかげで、今日も私は生きられる。
光があるから、影がある。
影があるから、光が見える。
七年かかっても——帰ってこれる場所がある。
それだけで、十分だ。
——陰職古記録、九条家所蔵