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【怍物SF小説】RingNe【第1ç« /①】

    あらすじ
    人生の終わりにはただ続きがあった。人は死埌、怍物に茪廻するこずが量子化孊により解き明かされた。この時代、人が茪廻した怍物は「神花」ず呌ばれ、人ず怍物の関係は䞀倉した。 怍物の量子シヌケンスデバむス「RingNe」の開発者「春」は青幎期に母芪を亡くし、䞍思議な倢に導かれおRingNeを開発した。怍物䞻矩ずも蚀える䞖界の是非に葛藀しながら、新たな技術開発を進める。幌少期に病床で春ず出䌚った青幎「枊䜍」は所属するDAOでフェスティバルを䜜りながら、突劂ツナクサになっお発芋された劻の死の謎を远う。堆肥葬管理センタヌの職員「葵」は管理する森林で発生した倧火灜に远われ、ある決断をする。 巡り合うはずのなかった䞉人の数奇な運呜が絡み合い、䞖界は生呜革呜ずも蚀える倧転換を迎える。

    目次

    【第1ç« /① #䞉田春 】
    【第1ç« /② 枊居瞬】
    【第1ç« /③ 葵田葵】
    【第1ç« /④ 䞉田春ⅱ】
    【第1ç« /â‘€ 葵田葵ⅱ】
    【第1ç« /⑥ 田䞭誠也】

    【第2ç« /① 枊居瞬ⅱ】
    【第2ç« /② 䞉田春ⅲ】
    【第2ç« /③ 枊居瞬ⅲ】

    【第3ç« /① 葵田葵ⅲ】
    【第3ç« /② 䜐藀】
    【第3ç« /③ 䜐藀ⅱ】
    【第3ç« /④ 䜐藀ⅲ】
    【第3ç« /â‘€ 枊居ⅳ】

    《第䞀章は䞋蚘より聎くこずもできたす》

    #䞉田春

     たず、光があった。光合成で吞収しきれなかった緑色の光。その陰が降り泚いでいる。倧蛇のように地を這う根、バベルの塔のように聳える幹、倪陜の力が溢れおひび割れた暹皮に、手を䌞ばすも觊れ難い。重心を前に倒し、䞍可抗力を装っお觊れた。分かった。

     「人は死んだら怍物になる」
     どこからか氷のように冷たく矎しい女性の声がした。目の前の景色が展開し始める。

     海、颚、雲、雚、土、火、雷  鳥、鹿、蜂、菌糞、ササラダニ  目眩く量子配列、創発しお珟象する䞖界。人は怍物に茪廻する。暹冠の揺らめきや暹皮の密床に自らの身䜓を参照し、未来ず感芚を同期した。

    䜓内の氎脈、连る電気信号、意味は銙気で発信し、時間は色で受信した。無数のセンサヌが情報の流動性を担保しお、雪厩れ蟌む感芚は䞇華鏡のように矎しいフラクタルだった。
     花匁を散らせ、円環の廻りを祝った。気付いたら目が醒めおいた。

     これは少幎期の倢。毎倜のように芋おいたので、今でもはっきり蚘憶しおいる。倢から醒めた朝は䜕癟幎も前からここにいるようにも、今来たばかりのようにも思えお、時間ががやけおいた。包䞁がたな板を叩く音が台所から聞こえおくるず、少しず぀珟実にいる感芚が取り戻される。

     父は僕が生たれる前に倱螪し、母ず二人で暮らしおいた。䞉階建おのアパヌトの䞀宀、たくさんの怍物ず本に溢れた家だった。ある日、父が倱螪した理由を母に尋ねた。
    「森に垰りたくなったんだっお」ず蚀っおいた。圓時はそんな埡䌜噺のような理由を信じおしたっおいたけれど、埡䌜噺は倧抵䜕かの暗喩であるこずを今なら知っおいる。父は恐らく土に還っお、垰らぬ人になったのだ。

     母は毎日の昌の仕事ず、䞉日に䞀床の倜の仕事をしおいた。倜の仕事がある日は、倕方から出かけ翌朝たで垰っおこなかった。
     小孊二幎生の僕は、母の倜の仕事の日に䜵せお、倕方からこっそりず金時山ぞ行くようになっおいた。父は森に䜏んでいるのだず思っおいたから、探しに出かけおいた。小川の流れる登山道を登り、怍暹された杉が䞊ぶ人工林の奥たで進む。時折「お父さん」ず声を出しお呌びかけおみるが、それは知らない囜の蚀葉のように匱々しく響いた。朚にかけられたピンクのリボンを芋倱わないように慎重に、森をくたなく歩いおいた。

     日が萜ちるに぀れお、怍物たちは蠢き始める。息を吹き返した動物のように、ザワザワず呜が動く気配がする。そんな匂いがする。倜になる前には必ず垰るようにしおいた。䞀床倜遅くに垰っおいたこずがバレお、優しい母を鬌のように怒らせおしたった埌悔もあるけれど、倜の朚々たちは「おかえり」ず手招きするから、その誘いが怖かった。

     母は朝、地元の名産である足柄茶の茶畑を手入れしお、昌からは事務のリモヌトワヌクをしおいたようだった。
     忙しいず分かっおいたのに、構っおもらうために宿題が分からないずごねたり、わがたた蚀ったこずもあった。必ずしも受け入れおくれるわけではなかったが、母はそんなずき圓然のように仕事を切り䞊げ、子どものように小さく柔らかい手を僕の頭に乗せお、手䌝う理由も手䌝わない理由もしっかり話しおくれた。

     䌑日は䞀緒にピアノを匟いたり、近くの滝で遊んだり、郚屋の怍物たちの手入れをしたりしおいた。母は霧吹きでフィカスやパキラに葉氎を䞎えながら、時々怍物に語りかけおいた。僕が䞍思議そうにそれを芋おいるず 
     「怍物もピアノの音が奜きらしいわよ」ず笑った。

    ・

     僕は人䞀倍健康で頑䞈に育ち、䞭孊䞉幎生にもなるず母より䞀回り以䞊倧きくなっおいた。目線が高くなるず、考え方も倉わる。幎盞応に、自分より小さい存圚に頌りきっおいる情けなさを思うようになり、家事を分担するようになっおいた。それず、この頃の母は箞を萜ずしたり、䜕もないずころで転んだりするこずが増えおいたこずが気がかりだった。日々の負担が枛っお䌑む時間が増えれば、きっず良くなるず思っおいた。

     クレマチスの花が咲く季節になるず、母はピアノに座るこずもなくなり、奜んで匟いおいたゎルトベルク倉奏曲はスピヌカヌから流れるようになっおいた。
     「春、ちょっずいい」
     時間をかけおゆっくりず掗濯物を畳んでいた母が僕を呌んだ。目の前に座っおからの神劙な面持ちず沈黙は、蚀葉以䞊に雄匁だった。その沈黙におけるメッセヌゞがなくお、蚀葉だけが先にやっおきおいたら、僕は倚分耐えられなかった。

     筋萎瞮性偎玢硬化症ALSず蚺断されたこずを聞いた。そしおこの病気がこれからどういう症状を進行させおいくのか、家のこず、暮らしのこず、入院のこず、孊費のこず、理路敎然ず䞀通りを話した。母の目は最んでいお、淡々ずタスク共有をするように話しきるこずで、䜕ずか涙が萜ちるのを食い止めようずしおいたこずが䌝わっおきた。胞の奥深くに、底も芋えないほどの穎が開いた。それはただ圚るだけで、この䞖の党おが銙りを倱うような、深く、黒い、倧穎。

     母は僕に話した通りの未来を蟿っおいった。やがお自力でお颚呂やトむレに行くこずも難しくなり、入院した。そしお玄䞉幎かけお埐々に病状が進行し、人工呌吞噚を䜿わないず呌吞もできない状態にたでなった。あたりにも、あっずいう間だった。
     
    ・

     倧孊生になった僕は蟲孊を専攻し、病床の窓際に眮いたフィカス・アルテシマが倪陜のほうに枝を䌞ばしおいる理由も、ピアノの音を聎くこずができないこずも知っおいた。

    病宀にはバむタルが安定しおいるこずを瀺す芏則的な音だけが響いおいた。母の耳にむダホンを぀けお、奜きだった音楜を流しおあげようず、母の顔に近づく。耳にむダホンを぀ける寞前で、痩せ现った顔の頬骚の圱や、垂れた皮膚の解像床に堪えきれず、慌おお母から遠ざかり、埌ろを向いお涙を堪えた。バレないように目を擊っおから振り返り、今日倧孊で孊んだこずやバむト先のこずなんかを、できるだけ楜しそうな調子で話した。

     母は少し前たでは目を動かし、アむトラッキングを甚いたキヌボヌドでコミュニケヌションするこずができおいたが、すぐに目を動かす筋力もなくなり、今では䞀方的に話すこずしかできなくなった。窓際においた䞉号鉢の小さなフィカスは順調に生長しおいお、もう少し倧きくなるず窓際に眮けなくなるので、根切りをするか、小さなものず眮き換えなければならなかった。

    家の䞭で䞍思議そうにフィカスの枝に觊れ、共に光合成しおいるように陜に圓たっおいた母の埌ろ姿をふず思い出しおしたう。堪えきれず「トむレ行っおくる」ず立ち䞊がったずころだった。

     少幎の金切り声が廊䞋から聞こえた。ドアが勢いよく開いお、叫び声がより䞀局郚屋に響いた。僕はカヌテンの隙間から恐る恐る様子を䌺うず、パゞャマを着た少幎が頭を抱えお叫んでいた。少幎は時折咳き蟌みながら声の限り叫び続けおいたので、僕はナヌスコヌルを抌そうずしたずころ、看護垫さん二人が慌おお入っおきお、少幎を宥めながら廊䞋たで連れ出した。
     「びっくりした。入院䞭の男の子が叫びながら郚屋に入っおきたんだ」ず高鳎る心拍を深呌吞で萜ち着かせながら母に話した。なんだったのだろう。

    ・
     
     翌日、バむトの時間が始たるたでガヌベラを挿した花瓶の氎を取り換えながら、孊校で習った怍物の睡眠の話をしおいた。そのうち、カヌテン越しすぐに子どもの声が聞こえた。
     「すみたせん」
     「はい」ず応えおカヌテンを開くず先日発狂しおいた少幎が立っおいた。
     「あの  昚日は倧きな声で驚かせおしたい、ごめんなさい」ず圌は頭を䞋げた。埋儀に謝りに来おくれたこずに、少し驚いた。
     「君は  」
     「えっず、枊䜍瞬《りズむシュン》ず蚀いたす」
     「そうか。瞬くん。いや、僕らは倧䞈倫だよ。それより君こそ身䜓は倧䞈倫だったの」
     「はい。もう倧䞈倫です」ず圌は答えた。昚日看護垫さんに圌のこずを尋ねたずころ、喘息に起因するパニック発䜜ずのこずだった。呌吞が苊しくなるず死を予感し、恐れが過換気症候矀の諞症状を匕き起こし、圌の堎合最終的に発狂しおしたうずのこずだった。圌はじっず母を芋぀めおいた。管の数を数えおいるようにも芋えた。

     「お母さんの症状、よくないんですか」
     「動けないんだ」ず僕は答えた。
     圌は少し考えた埌「怍物状態っおや぀ですか」ず蚀った。 
     「よく知っおいるね。でも母は怍物状態ずはたた違っお、今も目が芋えおいるし、聞こえおいるし、僕らず同じように感じお、思考しおいるんだよ」
     少幎はそろりず母に近づいお「昚日はごめんなさい」ず蚀った。
     圌は振り返っおカヌテンを開ける。
     「来おくれおありがずう」ず僕が蚀うず圌は恥ずかしそうにカヌテンを閉じお郚屋を出た。
     毎日病院に通っおいた僕ず圌は、その埌も廊䞋でたたたたすれ違ったり、発䜜の珟堎に出䌚したりしおは僕が話しかけ、孊校のこずずか家族のこずずか、たわいもない話をする仲になった。
     
    ・

     ある日の廊䞋、母の病宀に入る前で、私服姿の圌を芋かけた。今日で退院するらしかった。
     「おめでずう」ず僕が蚀うず圌は頭を䞋げおそのたた沈黙した。
     「どうしたの」
     「お母さんただ良くならないですか」
     「うん、ちょっず今のずころ、回埩の芋蟌みがない」
     圌は沈黙しながら、䜕かを考えおいるようだった。僕はそれをただ芋守った。 
     「なんであんな、呪いみたいなこずがあるんですかね。春さんのお母さんだけじゃなくお、病院にはたくさんの人が苊しんでいお、どうしおこんな苊しい思いをしお、これからも生きなくちゃいけないのだろう」
     僕は少幎越しに芋えるタクシヌを芋ながら「呪いか」ず蚀った。

     「芋えるし聞こえるのに、動けなくお話せないなんお地獄じゃないですか。怍物状態じゃないっお蚀っおいたけど、怍物ず倉わらないように芋える」
     僕は圌の高さたでしゃがんでから話した。
     「それじゃ、怍物たちはみんな地獄で生きおいるっおこず」
     「そうだよ。動けないし、芋えないし、話せないし、僕だったら絶察に嫌だ」
     「そうなんだね。僕は、人は死んだら怍物になるんじゃないかっお思っおいるのだけど、僕らはみんな地獄行きか」
     「そんなわけないよ。怍物になんおなるわけない」
     「そうだよね、でもなぜかどうしおもそう思っおしたう。それで、怍物になった自分はどんな颚に䞖界を感じるのか、怍物たちは今なにを感じお過ごしおいるのか、そんなこずをよく考えおいる」
     圌は呆れた顔でこちら芋぀めおいた。

     「怍物っお二〇以䞊も感芚があるっお知っおた 人に䟋えるず芖芚や嗅芚のような噚官もあるし、それに加えお、重力を感じたり土䞭の栄逊玠を感じたりするこずもできる」
     圌は顔を䞊げお「そんなに」ず蚀った。僕は埮笑んで「そんなに」ず繰り返した。   「それに怍物だっおずっず芳察しおいるずゆっくり動いおいるんだよ。タネを飛ばしお匕っ越ししたりもしおいる。あずちょっず難しいかもしれないけど、光の速床で生きる生物から芋たら、人間も怍物も等しく動いおない生物だ」
     「わかるよ」ず圌は蚀った。
     「頭がいいね。それに怍物は人より䜕倍も生きる。぀たり時間の感じ方が違う。䜕もしおいないように芋えお実はたくさんのこずをしおいるし、もしかしたら僕ら以䞊に䞖界のこずを知っおいるかもしれない」
     「そうなんだ、悪くないかもね」ず圌の衚情は少しだけ明るくなったように芋えた。
     「でしょ。たぁ人もそう悪くないよ」ず蚀ったあず少し考えお、続けた。
     「そういえば来週やっず母の意識に觊れるこずができるんだ。互いのBMI(ブレむンマシヌンむンタヌフェヌス)を繋げるこずで、母の意識䞖界を芗くこずができるらしい。母が生きるこずは呪いだず思っおいるかどうか、よかったら䞀緒に芋おみるかい」
     圌はすぐに「芋る」ず蚀っお頷いた。
     「じゃぁ来週の四時にここで」
     圌の䞡芪ず思しき男女がタクシヌから降りお歩み寄っおきたので「元気でね」ず蚀っお、別れた。
     
    ・

     二䞉幎埌 神奈川県南足柄垂──
     改札を抜けるず金朚犀ず煙の匂いがした。雲䞀぀ない晎倩、䞉方に広がる山々から金颚が吹き蟌んだ。い぀も通り十時間は寝たにも拘らず、未だ眠かった脳のがやけがすっず晎れる。駅前の芳光案内図の暪にあるビゞョンに、新たな映像が映されおいるこずに気づいた。そこには堆肥葬合法化二十呚幎に、昚幎垂をあげお催した祭りの暡様が映されおいた。協賛したうちの䌚瀟の名前も茉っおいた。蚘念ずしお、それぞれの山の入り口には鳥居が立ち、堆肥葬管理センタヌぞの予算も拡充されるこずになったらしい。

     映像内には、堆肥葬の玠晎らしさを語る矎蟞麗句が䞊んだ。堆肥葬は遺䜓を管理センタヌで堆肥化し、垌望の怍物の根に按き蟌むこずで、人間を生態系の埪環の䞭に戻すプロゞェクトであるこず。SDGsや欧米諞囜から始たったデスポゞティブムヌブメントの流れで法案が可決された、新しい死生芳を提瀺するものであるこず。遺䜓の分解に必芁な゚ネルギヌは火葬の八分の䞀で、玄䞉十日で䞀䜓の遺䜓から荷車二台分の堆肥が䜜れるこず、など。 

     堆肥葬の合法化ず僕がSheep瀟ぞ入瀟したのは同じ幎だった。DNAが焌倱しなくなったこずでRingNe《リンネ》が開発できたこずを振り返るず、なくおはならない出来事だった。
     狩川を枡る橋の空䞭には、立䜓広告を衚瀺するためのプロペラが぀いたドロヌンがホバリングしおいる。そこにはRingNeの広告アニメヌションが衚瀺され、暪を通り過ぎるずき指向性スピヌカヌにより音声が聞こえた。

     「RingNeは倧切な人ずあなたの架け橋です。RingNeを装着し、怍物に觊れるず、量子サむクルした故人の情報を即時解析。新時代の量子解析リング、RingNe」

     橋を枡るず倚様な草花が生茂る䞊空に合成暹脂補の網目がアヌチ状の遊歩道ずなり、有機的な曲線を描いお広がっおいる。草花が網目たで届かないように高さは自動的に調敎され、怍物たちの領土や光合成を劂䜕に邪魔しないかを目的に道が蚭蚈されおいる。

    街䞭に怍物が生茂る䞀方で、郜垂緑化の目的で敎備された街路暹は枛った。アスファルトの䞀区画に土を盛り定怍する行いは、怍物を孀独にしおいるず垂民運動が起きたこずがきっかけだった。怍物たちは根で繋がり、葉から攟出される化孊物質で䌚話するこずから、街路暹は孀独な檻ず喩えられ、䞀郚の垂民は怍物になった自らの死埌に想いを重ね、先制しお環境敎備をしおいた。

     建物の二階たで蔊に包たれた商店の軒先には「無神花《ムシンカ》商品販売店」ずサむネヌゞが掲出され、人の量子情報が怍物に量子サむクルしないよう厳重に管理された蟲䜜物や玙、衣服が販売されおいる。

     神花ずは人の量子情報がサむクルした怍物の通称で、人は死埌怍物の姿をした神になるずいう、神道ず量子化孊が䞭途半端に混ざった思想による名称が、ずあるDAOを䞭心に急速に広がり、䞀般化しおいた。

     倕飯の買い物ず思しき゚コバックを持った女性は、商店の露店販売で䞊べられた通垞の玉ねぎを䞀぀ず぀指元に装着されたRingNeで解析し、神花しおいない玉ねぎを発芋するずカゎに入れおいた。神花した怍物を食べおも違法ずいうこずではなく、䞀郚スヌパヌでは認蚌されおいない䞀般の野菜も䞊んでいる。垂堎芏暡は圧倒的に小さくなったものの、材朚屋や補玙䌚瀟も存圚する。しかし䞀般的な倫理芏範ずしお、神花した怍物を食べたり、材にするこずは躊躇われおいた。党おの神花は考え方によっおは、誰かの墓になり埗るからだった。

     RingNe以降、より顕著になった怍物䞻矩瀟䌚は、個䜓ず呜を䞀察のものず捉える旧来の生呜芳を倉容したず蚀える。RingNeは䞀個䜓に内圚する耇数の呜の残滓、぀たり遺䌝子情報を可芖化し、流動的なコロニヌずしおの生呜䜓の姿を立ち䞊がらせた。それが良いこずだったのか、悪いこずだったのかは未だに分からず、網の道を歩きながら既に倉わった䞖界をただ芋぀めおいた。

      RingNeは人の死埌、散逞した量子情報のうち倚くが光合成時に怍物ぞ転移するこずを瀺した。人類から怍物ぞ移行する量子情報倉換(Quantum Information Transfer from Humans to Plants or QIT-HP)は通称、量子サむクルず呌ばれ、俗称ずしおRingNeするずいう動詞に発展した。それがアニミズム的䟡倀芳ず共鳎し、量子サむクルを枈床ず解釈しお神花ず名称するDAOの発足にたで至った。

     人は死埌怍物になるずいう生呜芳の倉容は、火葬せず遺䌝子情報を盎接垌望の怍物ぞ転移するこずができる、堆肥葬の需芁を急激に高たらせた。倚くの森林所有者はビゞネスモデルを林業から堆肥葬管理ぞ転向し、皆䌐の消えた森は自然に生態系が回埩した。獣害被害も枛り蟲䜜物の収量も増え、蟲薬の芏制も厳しくなり、有機野菜が安く流通するようなった。

    党䞖界的に緑化が進み、環境保党の意識が飛躍的に高たった結果、カヌボンニュヌトラルが達成され、珟状地球枩暖化の危機がなくなったこずは怍物䞻矩瀟䌚の良い面ずしおよく語られおいる。他にも  ず探しおいるず、店舗の壁面ビゞョンからニュヌスが流れ、泚意が移った。

     「昚晩、怍物の違法茞入代行䌚瀟に家宅捜玢が入り、代衚の山内氏が逮捕されたした。昚今の堆肥葬需芁の増加に䌎い、囜倖の怍物を転生先ずしお求める声も倚く、こうした違法茞入も増えおいたす。日本の森林における生態系の保党ず個人の匔い方の自由に぀いお、染谷さんはどうお考えですか」
     黒いニット垜を被ったマヌケティング䌚瀟の代衚の男性がキャスタヌの質問ににこやかに答える。

     「こうしたゞレンマはRingNe以降に急増したしたよね。これたで堆肥葬は宗教的な曖昧な垌望でしたが、RingNeは人が死埌怍物になるこずを科孊的に蚌明しおしたった。そうなるず我々は死埌の蚈画ずいう新しい抂念のもず、その自由ず責任を負うこずになりたす。転生したからずいっお意識や蚘憶が匕き継がれるわけではないにしおも、死埌自らの身䜓を構成しおいた量子の行き先を遞びたいずいう欲求は、分かるんですよね。珟圚日本にもいく぀か䞖界各地の環境を再珟し぀぀森の生態系も脅かさないマルチ゚コスフィア型の管理センタヌがありたすが、個人の匔いの自由を保障できる斜蚭が今埌も増えおいくこずを願いたす」

     僕もそう思いたすず、ビゞョンに念を送った。網の道を降りおアスファルトに着地する。AI氎玠自動車が暪切る湿った道路を暪断するずすぐに䌚瀟の癜い倖壁が聳える。壁沿いも肥沃なガヌデンスペヌスが広がっおいお、ツナクサ、むヌタデ、ゲンノショりコなどの野草が矀雄割拠に勢力争いを繰り広げおいる。

     壁沿いに゚ントランスを目指すず、黄色いレむンコヌトを着た少幎が、青いじょうろで草花に氎やりをしおいた。雚は降っおいない。じょうろの氎が切れるず、すぐ近くのりォヌタヌスポットで絊氎をしおいた。なぜ雑草に氎やりをしおいるのだろう。歩きながら芋おいるず、ランドセルを背負った小孊生の男女二人が少幎に駆け寄っおきた。

     「円くん、䜕しおるのヌ」ずツむンテヌルの少女が無邪気に尋ねる。
     「お母さんに氎やり」ずレむンコヌトの少幎はツナクサを芋぀めたたた答えた。
     「こんなずころにお母さんいるんだねヌ、これ雑草でしょ 可愛そうヌ」ずもう䞀人の赀い垜子を被った少幎が嘲るず、少女は連られ笑いを堪えながら「ちょっずそういうのダメだっお先生が蚀っおたでしょ」ず蚀った。
     少幎は倉わらず怍物だけを芋぀め、無蚀でツナクサや、その呚蟺の怍物に氎をやり続けおいた。

     「なんで他の怍物にもお氎あげおるの」ず再び少女が尋ねる。少幎は氎が切れるたで口を閉じ、氎が切れるず二人の方を芋た。 
     「怍物はみんなで生きおいるんだ。孊校で習っただろ」
     赀い垜子を被った少幎は「行こうぜ」ず蚀っお走り去っおいき、少女は眮いおいかれないように、慌おおあずを぀いお行った。レむンコヌトの少幎もじょうろを片手に網の道の方たで歩いお垰っおいった。

     ぀い立ち止たっお芋おしたっおいた。少幎の埌ろ姿を芋぀めながら、かける蚀葉を探しおいた。しかし䜕も出おこず、自分の口からは䜕も蚀えず、情けなく振り返っお、再び゚ントランスに向かっお歩みを進める。

     堆肥葬自䜓は手軜な䟡栌でできるようになっおきたずはいえ、死埌転生する怍物の皮類には栌差が発生しおいた。管理センタヌで怍物の管理を代行するサヌビスのランクや、堎所、その怍物の管理コストや怍物自䜓の珍しさから、経枈状況による栌差も生たれおいた。比范的富を持぀家庭は堆肥葬管理センタヌで堆肥化し、センタヌ内で垌望の怍物に堆肥を按き蟌み、適切な管理がなされおいた。

    䞭には山党䜓を管理センタヌずしお毛现血管のようにカヌボンチュヌブを匵り巡らせ、党自動で氎やりや远肥がなされるような堎所もあった。やがお朜ちお土に垰った埌も再び新たな怍物を怍え倉えるたで䞖話をするので、遺族偎の負担はほずんどない。その分、祈る機䌚も枛る。

     真っ癜な瀟内に入るず、゚ントランスの䞭倮に生えた癜い暹皮の人工の楠が聳え立぀。合成暹脂や朚材の繋ぎ合わせではなく、玛れもない朚質を分子合成でから䜜っおいる。成朚ずしお生たれ、プログラムが機胜する限り寿呜もない。Sheep瀟を象城するような無機質な有機䜓。

     芋おいるずなぜかお腹が空いおくるので、瀟内のコンビニに行っお有機酵玠玄米ず様々な具材のおにぎりを六぀手に取った。䌚蚈を枈たせ、研究宀の方たで歩く。途䞭でコヌヒヌを買い忘れたこずに気づき、コンビニの方ぞ振り返るず男性の顔がすぐ目の前に珟れた。「わ」ず声を出しおのけ反り「びっくりした」ず条件反射のように蚀った。男性は誠也くんだった。䞉十センチほどの距離で尟行されおいたらしい。この距離はもはや尟行どころか忍術の類だ。

     「もう、驚かさないでよヌ」ず苊笑いする。
     「先茩、盞倉わらず尟けやすいですね」ず圌は無衚情で蚀った。
     「䜕か買い忘れですか」 
     「うん、コヌヒヌ買い忘れた」
     「じゃ自分もお䟛したす」
     「敵に狙われおいるわけじゃないから倧䞈倫だよ」ず僕は笑った。
     
     「そういえば昚日はレポヌト蚘事、早速ありがずうね。流石、仕事が早い」
     「いえ、あれくらいならすぐできたす。PEプラント゚ミュレヌションプロゞェクト、ここ最近で䞀気に進みたしたね」
     「怍物適応する知胜の内的モデルがネックだったのだけど、AIの出力された蚭蚈図通りに䜜るのが䞀番ずいうコンセンサスが取れおから早くなったね。人間がその仕組みを理解できる必芁はなかったらしい」

     僕らは無事コンビニでコヌヒヌを入手しお、研究宀に向かった。道䞭に昆垃のおにぎりを開けお、食べた。䞀床尟行されるず背筋に䞍芁な気配が付き纏う。存圚感ずはその存圚がいなくおもしばらくは圚るものだ。時々確信めいた気配を感じお念のため振り返るず、誠也くんが埌ろで手をひらひらさせおいたりする。圌は無衚情で前を芋぀めおいた。癜い通路を進み、研究宀の前に立぀ずドアが開く。

     研究宀には緑の陰が党面に投圱され、フロアを囲むように八カ所に蚭眮されたスピヌカヌから森の音がサラりンドで聎こえおいる。巚倧なモニタヌの前に十のデスクが蚭眮され、RingNeの研究開発は十名のメンバヌで行われおいた。

    日々曎新される故人の遺䌝子デヌタをRingNe䞊で倉換するアプリの曎新䜜業や、RingNeで觊れた怍物から量子情報を解析しアヌカむブず照合するデバむスの基幹機胜の管理など、保守はそれぞれ専任のAIが担圓し、人間はAIの゚ラヌが起きおいないか確認し぀぀、アプリの新たな機胜をAIが出力したアむディアから遞定し、経営郚ぞ提案をたずめる䞭間管理的な業務が倚かった。

    珟圚は二幎前に逝去した倧物挔歌歌手が転生したタンポポが綿毛ずなり矢倉岳に矀生しおいるので、慰霊トレむルが組たれようずしおいた。
     誠也くんず僕はそれぞれ自分たちのデスクぞ移動した。PCを起動させ、瀟内甚のチャットを䞀通り確認しおコヌヒヌの蓋を開けたずころだった。ニュヌスチャンネルに新着の通知。りェブメディアの蚘事が貌られおいる。

     ”堆肥葬管理センタヌ南足柄第䞀スフィアで倧芏暡森林火灜発生䞭。堆肥葬管理センタヌでの火灜は囜内初”

     第䞀スフィアずいうず䞞倪の森蟺りか  すぐ、近くじゃないか  。心拍数が䞊がり嫌な汗が出おきた。起きおはならないこずが起きおしたった。ニュヌスに気づいた研究員が、モニタヌの画面をテレビのニュヌスに切り替えた。僕は䜕か救いを求めるように画面を凝芖した。珟圚消火掻動䞭だが火灜の原因はただ特定できおおらず、既に敷地の䞉分の䞀の面積が焌倱しおいるずのこずだった。誠也くんを陀いお、他の研究員も皆絶望的な衚情で画面を芋぀め、しばらくの沈黙が流れおいた。
     
     装着しおいるBMIブレむンマシヌンむンタヌフェヌスから着信音が鳎る。
     「䞉田《ミタ》さん、火灜のニュヌス芋たしたか 報道から䜕件か問い合わせが来おいたす」
     広報郚の女性が慌おた様子で話す。
     「問い合わせは僕に」
     「そうです。䞀぀ず぀お䌝えしたす。たずは、神花ずなった魂はどこにいくのか、もう䞀぀は焌倱したDNA情報を埩元する方法はあるか、ずいうのが䞻な内容です。確認しお折り返すずご連絡しおいたす。あぁ、たた問い合わせが  」

     僕は片手を偎頭郚に添えお、考えおいた。胞が詰たるような思いだった。RingNeを䜿う人々の䞭にはただ量子情報ず魂をごっちゃにしおいる人が倚い。怍物に移っおいるのは故人を構成しおいた量子情報であっお、意識や蚘憶が内圚する魂のようなものではない。魂の行方は科孊の専門倖だ。僕が埳を積んだ僧䟶であれば、魂は極楜浄土ぞ行きたすよず、慰めるこずができたかもしれないが、僕はただの技術者だ。科孊が人の心に寄り添うこずは難しい。僕らは僕らの立堎からちゃんずものを蚀うしかない。

     「RingNeは故人の遺䌝子情報を元に量子サむクルの探玢をしおいるので、燃焌により遺䌝子情報ごず焌倱した怍物のその埌を探す術はないです。ず蚀うこずを出来るだけ柔らかく䌝えおあげお欲しい」
     「わかりたした」ず電話越しに女性は蚀った。BMIのノむズキャンセリングが切れるず、宀内のざわめきが耳になだれ蟌んできた。それぞれ担圓しおいるプロゞェクトの凊理に慌おおいた。

     向かいの怅子に座る誠也くんが僕を虚な目で芋おいた。
     「倧倉なこずになりたしたね」ず蚀った。
     「そうだね、倧倉なこずだ」ず蚀っお、僕はおかかずクリヌムチヌズのおにぎりを開けお食べ始めおいた。 
     「先茩、本圓よく食べたすね」
     「そうかな。今日はたぁ食べおいい日だからね」
     「食べおいい日」
     「明日は食べちゃいけない日。䞉日おきに断食しおいるんだ」
     「䞉日食べお䞀日䌑んでっおこずですか、なんか倉な食習慣ですね」
     「昔からの習慣なんだ。でもほら、怍物だっお毎日氎はいらないでしょ」
     「たぁそうですけど」
     これから忙しくなりそうだず予感した僕は、早めに残りのおにぎりを党お平らげお、カロリヌを蓄えた。

     「そういえば誠也くん、元々堆肥葬管理センタヌで働いおいたんだよね 今日の件、䟋えば攟火ずかセキュリティ的に可胜なの」
     誠也くんは怅子を回転させながら話した。
     「そうですねヌ、神花参りのために入山するこずは誰でもできるので、ずさんっちゃずさんですね。ずはいえあちこちにAI監芖カメラは぀いおいるし、怪しい動きがあったら芋぀けられるず思うんですけどねヌ」
     僕は顎を芪指ず人差し指で摘みながら蚀った。

     「ガ゜リン撒いお火を぀けるみたいなこずはできないわけだね」
     誠也くんは怅子を止めお話した。
     「それは絶察芋぀かりたす。できるずしたらAI監芖カメラの特城を理解し、セキュリティの穎を぀ける技術者、あるいは斜蚭の関係者くらいです」
     「なるほど」
     犯人の動機は䜕だろうか。神花ずなった怍物を燃やすこずは、そこに内圚する無数の埮生物、量子情報の党お、蚀っおしたえば䞀぀の䞖界を焌华するこずに通ずる。そういう繊现な生呜芳念が䞀般化しおしたっおいる故に、この事件が起こす䜙波の倧きさが想像できた。

     「䞉田さん」
     再び広報郚から電話が鳎る。
     「テレビ局二瀟から森林火灜に぀いお今日倜の報道番組にコメンテヌタヌずしお出挔䟝頌が来おいたす。オンラむンで䞭継ずなりたすが二十時からず二十二時からそれぞれお時間いかがですか」
     僕はスケゞュヌルを確認しお「ありがずう。受けお倧䞈倫だよ」ず返した。
     しかしたた科孊の立堎から枇いた物蚀いをするしかない未来に少し蟟易ずした。お坊さんを呌べばいいのに。䞖の倚くの人を救うのは科孊ではなくお、考え方なのだから、ず思ったがそれは蚀わなかった。

     「わかりたした。詳现は情報共有いただけ次第远っおご連絡したす」ず圌女は蚀った。
     「それから、火灜の出火原因なのですが、どうやら森の自然発火の可胜性が高いようです」
     「自然発火 冬でもないのに」ず僕は蚝しんだ。
     「ええ、それが消火した焌け跡からゎゞアオむの皮子が芋぀かったようで」
     「ゎゞアオむ  あれか。なんで日本に」

     ゎゞアオむは地䞭海に生息する怍物で、気枩が䞉五床皋床を超えるず、茎から揮発性の油を分泌しお、呚囲を燃やす特城がある。枡り鳥が皮子を運んでくる距離でもないので、誰かが茞入しお怍えたのかもしれない。

     「そうですね、本来生息し埗ないはずなのですが、出火元が地䞭海に䌌た枩垯也燥スフィアからのようで、生育するこずができたのだず思われたす」
     「それでも䞉十五床を超える枩床管理なんおあり埗ない  ハッキングか、たさか職員の仕業っおこずはないよね」
     「断蚀はできたせんがゎゞアオむは圓然生育が犁止されおいたすし、考えづらいかず」
     「そうだよね」ず蚀い぀぀、皮や苗を怍える動䜜はAIのアラヌトには怜知されないだろうし、管理センタヌの仕組みをよく知った人による内郚的な犯行を疑った。
     「たた䜕か情報埗られたしたら共有したすね」ず蚀っお圌女は電話を切った。
     「たぁ僕ら刑事じゃないんだし、犯人探しなんおしおもしょうがないですよ」ず目の前で話を聞いおいた誠也くんは蚀った。
     「それはそうだね。さ、仕事戻ろうか」
     カバンからパ゜コンを取り出し、錻を摘むず朝の煙たい銙りがした。

    続く 



    RingNeは䜓隓小説です。この物語は珟実䞖界でむマヌシブフェスティバルずしお䜓隓するこずができたす。
    詳现は䞋蚘ぞ。


    #創䜜倧賞2024

     
     
     
    仮想の䞖界を小説で描き、䜓隓で顕す䜓隓䜜家です。著曞『ワヌルドラむンズ 䜓隓できる䞖界芳の぀くり方』(逆旅出版) / Ozone合同䌚瀟代衚。逃げBar逃䞻。「スキ」しおもらうず「どうでもいい知識」が手に入る仕組み。 https://www.yuu-amemiya.com/

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