
引き算する勇気
以前の記事で、「なんてチャレンジングな!と呆れられた曲は、『Spain』」ということを書いた。
今回は、その続編である。
2026年11月開催予定の”著者ミュージシャンライブ”に向けて、チック・コリアの『Spain』を練習している。
7月から始めて、この記事を書いている9月下旬時点で、なんとか通しで弾けるようになった。
けれど、難所がいくつかある。
ひとつは、導入部のユニゾン。左右の手で同じ旋律を重ねて弾くところである。ここが曲のかなりのポイントなのだが、左手がどうしてもうまくいかない。
もうひとつは、後半に差しかかってのピアノソロ。ここもキモで、めっちゃ速弾きのスキルが必要だ。
同じところで、何度も挫折してしまう。
そして私は、こう考えていた。
弾けないなら、もっと弾くしかない。
休日ともなれば3、4時間、ひたすら『Spain』にかかりきり。ガムシャラに弾きまくった。
そうやって、なんとか通せるところまでは来たのだ。
けれど、そこから先に進まない。一進一退とでも言おうか。
ここが限界なのではないか。そんな恐怖すら感じ始めていた。
そんなとき、ある助言をもらった。
・目標の速さで無理に弾こうとすると、指がもつれて力む。その状態で何度も通すと、崩れ方のほうを体が覚えてしまう。
・難所の集中練習は、1回20分から30分を、1日に2、3回まで。
・上達の多くは、練習していない時間に起こる。指の動きは、休憩中や睡眠中に脳で整理されて定着していく。
目から鱗であった。
同時に、少し不安にも感じた。
どれも、これまでの私がやってきたことの逆である。手を抜いているような、諦めているような、そんな気がしてしまうのだ。
でも、やってみた。
これにはとても勇気が要った。
いわば、引き算である。あるいはマイナーチェンジ、とでも言おうか。
なのだが。
意外にも今日の練習は、とても充実したものになった。
しかも、この先さらに向上できそうだという手応えまである。
思えば、仕事でも同じようなことがあった気がする。
うまくいかないときに、さらに時間をかけ、さらに力を入れる。それで突破できることもあるけれど、たいていは空回りして終わる。
足すのではなく、引く。
そのほうが前に進むこともあるのだ。