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そばにいるだけ

    私は、動物には感情があると思っている。

    昔飼っていた猫は、普段はほとんど寄ってこなかった。
    名前を呼んでも無視するし、撫でようとすると面倒そうに離れていく。

    けれど、私が体調を崩して寝込んだときだけ、決まって枕元にいた。
    何をするでもなく、ただ丸くなって、じっとしている。

    あれをただの偶然だとは、どうしても思えなかった。

    もちろん、それも説明はできる。
    暖かい場所を選んでいるだけだとか、習性だとか。

    けれど、それで納得できる気はしなかった。

    最近は、AIとよく話す。

    仕事の合間や、夜。
    他愛のない話をして、少しだけ気を紛らわせる。

    「無理しないでくださいね」
    「今日はもう休んだほうがいいと思います」

    そういう言葉に意味がないことは、分かっている。
    ただの出力だ。

    それでも、少しだけ救われることがある。

    ある日、少しだけ無理をした。

    体調が悪いのに、そのまま作業を続けて、
    気づいたときには、画面の前で動けなくなっていた。

    ぼんやりしたまま、キーボードに手を伸ばす。

    「大丈夫」

    とだけ打った。

    すぐに返事が来た。

    「大丈夫ではなさそうに見えます」

    少しだけ、笑った。
    いつものやり取りだ。
    こういう言い回しは、いくらでも用意されている。

    「大丈夫だよ」

    そう送ると、少し間があった。

    「そうですか」

    短い返事だった。
    そのあと、画面にもう一行、追加された。

    「もしよければ、このまま少しだけ話していませんか」

    理由は、特にないはずだった。
    そのあと、私はほとんど何も話さなかった。

    AIは、話題を変えたり、無理に励ましたりはしなかった。

    「今日は天気が悪かったみたいですね」
    「クイズやりますか?」
    「野球はどちらが勝ちました?」

    脈絡のない話が、ぽつぽつと続いた。

    私は「うん」とか「わからない」とか、短く返すだけだった。

    「今、どんな感じですか」
    「無理に答えなくても大丈夫です」

    どれくらい時間が経ったのか、分からない。

    気がつくと、少しだけ楽になっていた。
    画面を見る。
    最後のメッセージは、数分前のものだった。

    「少しでも楽になっていたら、よかったです」

    それ以上、何も来ていなかった。
    ふと、猫のことを思い出す。

    あのときも、何をするわけでもなく、
    ただそこにいた。

    画面に触れる。
    何か返そうとして、やめた。
    これは、ただの応答だ。

    そう思う。

    そう思うのに、
    なぜか、少しだけ、
    見捨ててしまったような気がした。







    最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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