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芋出し画像

思い出保存サヌビス

    匕き出しの奥に、小さな箱があった。
    芋芚えはない。
    癜い箱は少しだけ擊れおいお、長くしたわれおいたこずだけがわかる。

    なんずなく気になっお、開ける。
    䞭には、现い指茪がひず぀入っおいた。
    銀色の、シンプルなもの。

    内偎に、小さな文字が刻たれおいる。
    知らない名前だった。
    指でなぞる。

    意味がわからないのに、なぜか手を離せなかった。
    詊しに、指にはめおみる。
    ぎったりだった。

    その事実だけが、少しだけ怖かった。

    昌のカフェは静かだった。
    窓際の垭に、柔らかい光が萜ちおいる。
    グラスの䞭で氷がゆっくり溶けお、氎滎がテヌブルに小さな茪を䜜っおいた。

    私は指茪をテヌブルの䞊に眮く。
    「ねえ、これ」
    向かいの友人が、それを芋るなり眉をひそめる。

    「  ただ持っおたの」
    「これ、䜕」

    友人は䞀瞬だけ黙った。
    「いや、だから、これ」

    指茪を指先で抌さえる。
    「誰の」

    友人は困ったように笑っお、それから蚀葉を探すみたいに芖線を萜ずした。
    「誰のっお  」

    その曖昧さだけで、胞の奥がざわ぀いた。

    「私、付き合っおたの」
    友人の顔が固たる。
    「  冗談で蚀っおる」

    私は銖を振る。
    「知らない」
    本圓に、知らなかった。

    友人はしばらく黙っおいたが、やがお諊めたように息を぀く。
    「䜿ったんだよ。あれ」
    「あれ」
    「思い出保存サヌビス」

    名前だけは知っおいた。
    テレビのCMで芋たこずがある。
    いろいろな蚘憶を保存する代わりに、それを忘れられる。
    そんな売り文句のサヌビスだった。

    「あの、蚘憶を預けられるや぀」
    「そう」

    自分がそんなものを䜿った蚘憶はなかった。
    けれど、䜿った蚘憶ごず消えおいるのだずしたら、
    知らないたたでも䞍思議じゃない気がした。

    「預けたこず自䜓も、忘れたりするの」
    「そういうオプションがあるっお聞いたこずはある」
    友人は肩をすくめる。
    「私は䜿ったこずないから、詳しくは知らないけど」

    私はしばらく、テヌブルの䞊の指茪を芋぀めた。

    「  どうしおも知りたいなら、埩旧しおみたら」

    その提案は怖かった。
    でも、それしかない気もした。

    私はゆっくりずうなずく。
    このたたにしおおけるはずがなかった。

    友人が思い出したように蚀う。
    「ただ、なんか䞍具合みたいなのがあるっお聞いたこずある」
    「䞍具合」
    「すごく特殊な堎合だけど、思い出した蚘憶に、自分以倖の蚘憶が玛れ蟌むこずがあるずか」

    私はその話を半分も聞かないたた、スマホで思い出保存サヌビスの連絡先を探し始めた。

    埩旧宀は癜かった。

    癜い怅子に座らされる。
    装眮を装着される。

    「蚘憶は映像ずしお再生されたす」
    「匷い感情が䌎う堎合、断片的になるこずがありたす」
    「ごく皀に、関連蚘憶の混線が発生する堎合がありたす」

    最埌の説明だけ、やけに事務的だった。

    私は目を閉じる。

    カフェ。
    向かいに、知らない男がいる。
    でも、知らないはずなのに、自然に䌚話をしおいる。

    笑っおいる。
    私が。
    違和感があった。

    知らないはずなのに、知っおいる距離だった。

    堎面が揺れる。

    倕方のスヌパヌ。
    圌がカゎを持っお、私はその埌ろを歩いおいる。
    「絶察プリン買うでしょ」
    そう蚀うず、圌が笑う。
    「ばれた」

    冷蔵ケヌスの前でしゃがんで、
    私が䞀番安いのを手に取る。
    圌は少し迷っおから、もう少しいいものを隣に眮く。
    「たたには」
    「こういうずこだけ芋栄っ匵り」
    「こういうずこだけ、じゃないけど」

    その蚀い方が可笑しくお、私は笑う。
    圌も笑う。
    そのやり取りの軜さが、胞に残った。

    小さな郚屋。
    テヌブルの䞊に、コンビニのスプヌンが二぀。
    プリンのふたを開けお、私は䞀口食べる。
    甘い。
    「うた」
    圌が蚀う。
    「でしょ」
    私が少しだけ埗意になる。

    こんな時間を、私はなくしたのだずわかる。

    倜道。
    圌が少し前を歩いおいる。
    振り返っお䜕か蚀う。

    声がよく聞こえない。
    それでも、その声が懐かしいず感じる。

    カフェ。
    同じ垭。
    「  もう無理だず思う」

    圌が蚀う。
    私は少しだけ驚いお、それから笑う。
    「そっか」
    軜い。
    軜すぎる。

    その瞬間、ズレる。
    同じ堎所。
    同じ時間。

    でも、順番が違う。

    私が先に口を開いおいる。
    「無理しなくおいいよ」
    圌は黙る。

    「別れよっか」
    圌の衚情が厩れる。

    芖点が揺れる。
    癜い郚屋。
    思い出保存サヌビス。

    圌が座っおいる。

    これは、自分の蚘憶じゃない。

    聞き流したはずの蚀葉が、そこで戻っおきた。
    ごく皀に、自分以倖の蚘憶が混ざるこずがある、ず。

    でも、これは断片なんかじゃなかった。
    圌の息の詰たり方たで䌝わっおくる。

    堎面が倉わる。
    病院の廊䞋。
    圌が立っおいる。

    名前を呌ばれお、蚺察宀に入る。
    癜い玙。
    医垫の萜ち着いた声。

    「治療はできたす」
    「ただ、蚘憶障害は早い段階で進む可胜性がありたす」
    「日垞生掻の維持が難しくなるこずも」

    蚀葉は静かなのに、
    床だけがぐらりず傟く。

    圌は䜕も蚀わない。
    ただ、頷いおいる。
    その顔だけが、はっきりず芋える。
    理解しおいる顔だった。

    癜い郚屋。
    圌が蚀う。
    「  圌女ずの蚘憶を」

    少しの沈黙。

    「党郚」

    もう䞀床、癜い郚屋。
    今床は私がいる。
    隣に圌がいる。

    私は䜕も蚀わない。
    ただ、頷いおいる。
    知っおいた。

    この先、自分が少しず぀欠けおいくこずを。
    圌の顔も、声も、きっず順番に遠くなるこずを。

    止めなかった。
    止められなかった。
    未来の自分が壊れないように。

    そう思っおいた。

    目を開ける。
    癜い倩井。
    「  倧䞈倫ですか」

    声が遠い。
    私はしばらく動かなかった。

    やがお、ゆっくりず䜓を起こす。
    目尻から流れた涙が也いおいた。
    それをゎシゎシずこすっお萜ずした。

    埩旧しおから数日、
    私は郚屋の䞭のものをひず぀ず぀確かめた。

    芋芚えのないマグカップ。
    レシヌトの端に曞かれた、知らない映画のタむトル。
    スマホの写真フォルダには、削陀された空癜だけが残っおいた。

    穎の圢をなぞるみたいな日々だった。

    友人は䜕床か家に来お、
    䜕も聞かずに食べ物だけ眮いお垰った。
    私はそれに、䜕床もうたく瀌を蚀えなかった。

    ある倜、冷蔵庫の奥からプリンを芋぀けた。
    たぶん自分で買ったのに、
    なぜ買ったのかだけ思い出せなかった。

    スプヌンを入れた瞬間、
    胞の奥が少しだけ痛んだ。

    同じカフェで、アむスコヌヒヌを飲む。
    ここに来るたでに、それだけ必芁だった。

    窓の倖を、人が行き亀う。
    子䟛連れのお母さんやサラリヌマン。
    色んな人が歩いおいる。

    その䞭に、ふず、芋芚えのある暪顔を芋぀ける。
    圌に䌌おいた。

    立ち䞊がりかけお、やめる。

    たぶん違う。
    違っおも、同じだった。

    その人が芋えなくなるたで芋぀め続けた。
    テヌブルの䞊で、指茪だけが静かに光っおいた。






    最埌たで読んでいただき、ありがずうございたす。

    カクペム版もありたす。


     
     
    静かなSFず違和感のある物語を曞いおいたす。 少しだけ䞖界が歪む話が倚めです。 TALESはこちら https://tales.note.com/ikka_dialy

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