
【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー12ー
「妖怪 虎獅狼」
向井は再びアーケードに戻るとカフェのあたりを見回した。
すると、
妖怪相手に何やら楽しそうな葵の姿があった。
見ると送り犬のようだ。
山道でもないのに何でこんなところに?
向井はそう思いながら近づくと、
妖怪はちらりと向井を見てから去っていった。
「おっ、向井さんじゃない」
「妖怪相手に何してるんですか。
下手にかまうと再生する前に取り込まれますよ」
「あたしを誰だと思ってんのよ。
送り犬ごときにやられるわけないでしょ」
幽霊も年季が入ると簡単にはいかないな。
まあ、悪霊にならないだけいいか。
「そうだ。仕事を見つけてきましたよ」
「えっ? どんな? 」
「時代は大正ロマンだそうです」
「ええ~あたしが言ったのと違うじゃない。
十二単が描きたかったのに」
「袴だって同じようなもんでしょ。
街並みだってレンガとか出てくるんじゃないですか。
まあ、どんな話か分からないんで何とも言えませんけど」
「なによそれ」
葵はふくれっ面になった。
「それより今回の派遣先は山川さんが過去二回、
お仕事されている作家さんなんですけど」
「二回……あぁ、松田雪江だ!! 」
思い出すように言った。
「そう、その方です。
で、死神はいつも誰にお願いされているんですか?
こっちで空いている死神にお願いしてもいいですけど 」
「死神は三号のトリアに頼んでた。
ほら、あたしも三番じゃん。
あの子可愛いんだよね。
私の若い頃にそっくり? 」
「…………」
「何よその顔。あんたあたしの若い頃知らないでしょ」
「それはそうですけど」
「まあいいわ。久しぶりのお絵かきだ~」
葵は嬉しそうに走り出した。
「あまり遠くに行かないでくださいよ。
全く……」
向井がトリアを呼び出していると、
背後に先程の妖怪の気配を感じた。
「俺を転ばせて何か企てても無駄ですよ」
「ふん! 承知しているわ。
冥王にこき使われている人間が気になっただけだ」
「そうですか。
で、君はここで何をしているんですか? 」
「この辺りも昔は自然が多かったものよ。
俺の祖が狼だったのを知らんのか?
お前らのせいで妖怪も住む場所を奪われ、
気が付いたら犬の姿よ。
送り狼から送り犬……
まぁ、送りイタチよりはマシだがな」
「人間に恨みがあるんですか? 」
「恨み? そんなものはない。
時は刻むもの。
恨むほどお前らと近しいわけでもないしな。
人間を使わなければならないほどに、
冥界も人員不足なんだと知って、
仲間内では笑い話になっているぞ」
「噂話になるほど俺達は人気者ですか」
「そうだな」
妖怪は面白そうに笑った。
「君はあそこにいたものと、
いつからの知り合い? 」
向井は葵が座っていた場所に視線をやり聞いた。
「ああ、葵か。あれとはどこだったかなぁ~
思い出せん……が、
一緒にあちこち回って楽しかったぞ」
向井が渋い顔をしたのを見て、
「名前くらい。葵も俺の名前を知っている」
向井が驚く表情をした。
「だったら俺にもその名前を教えてくれませんか?
噂になっているくらいだ。
俺の名前も知っているんでしょう? 」
「ふふふ」
狼を少し小さくしたような姿かたちの妖怪は、
細身でスタイルもいい。
落ち着いた態度から年齢も高いのだろう。
「まあいい。
ただし教えたところで使役に使おうなぞ考えても無駄だぞ。
俺の名は虎獅狼だ」
「また随分と人間くさい名ですね」
「何を言うか。そもそもお前らが、
俺達の名を使っているんだぞ。
お前らの言葉でいうパクリだ。パ・ク・リ」
葵と虎獅狼が共に行動をしていた。
いったいどこでどんな悪さをしていたのか。
向井がじっと虎獅狼を見下ろしていると、
「なぁに、心配はいらんさ。
ちょいと人間どもを驚かせていただけよ」
「ずいぶん俗世に馴染んでいるじゃないですか」
「まぁな」
虎獅狼が笑うと突然目の前に、
小柄な二十代半ばと思われる女性が現れた。