
【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー11ー
「漫画家 松田雪江」
松田雪江は編集部からの電話を切ると、
放心状態でゴーグルを外した。
嘘…ほんと?
漫画家としてデビューして十二年。
読み切りばかりの仕事と、
月に挿絵のバイトをしながら、
なんとか今まで生活してきた。
デビューしてすぐに、
ネームでOKが出て一本連載をもらえたものの、
ヒットまで至らず打ち切り。
公民館で月に一回、
イラスト教室も開催しているが、
バイトの延長くらいの月謝なので、
このままでは一生バイトで生計か? と、
半分あきらめていた。
そんな雪江に女神が微笑んだのだ。
神よ~私は今こそ感謝します!!
雪江はコンビニに向かう道を歩きながら、
小さくスキップした。
だが、喜んでもいられない。
締め切りまであと二週間。
アシスタントのヘルプが欲しい。
やります!! 描けます!!
と言ったものの、
急遽入った仕事なので、
すぐには見つからないだろう。
大久保出版は少しマイナーな、
コアなファンで持っている弱小出版社だ。
歴史ファンタジーなら大久保と言われるほど、
昔からの人気雑誌がある。
雪江はここで長期連載されている作家のファンで、
持ち込みで編集部に乗り込んだ。
作家になる夢をあきらめきれず、
バイトを掛け持ちしながら、
長い事コミケ作家として活動してきた。
漫画家になるには、
もう遅すぎる年齢ではあったが、
その時の作品が編集者の目にとまりデビュー。
だがそのあとが鳴かず飛ばず状態。
この前の大先生の穴埋めで描かせてもらった短編が、
読者の人気ランキングに入り、
今回この話の続きを長編でもらえた。
これがうまくいけば新連載の可能性もある。
デジタル作家、AI作家の時代。
昔ながらにペンで描いている作家など殆どいない。
絶滅危惧種?
だからこそ失敗したら、
漫画家生命も終わり……?
何とかアシスタントを探さないと。
「そうだ!! 」
雪江は以前にアシスタントをお願いした、
クリエイター専門の派遣会社を思い出し、
ゴーグルをかけ連絡先を探した。
――――――――――
タブレットを見ていた向井は、
葵が同じ作家のところで過去二度ほど、
アシスタントしているのを見つけた。
作家名 松田雪江。
今の状況を少し調べてみるか。
葵は派遣登録してから、
かなりの時間が経っているはずなのに冥界もいい加減だな。
その記録がないぞ?
タブレットを見ながら、
眉間にしわを寄せて考え込んだ。
葵が最後にした仕事は、
確か三年前と言っていたよな……
派遣回数は出ているのに日付が抜けてる。
大抵の霊魂は一回、
多くても二回で成仏するものだが、
山川葵にいたっては十回。
一向に来世に進もうとしない。
とっとと成仏してもらわないと。
向井がそんなことを考えていると、
タブレットが光った。
人間の時にはスマートゴーグルが一般的だったが、
死んだ後はタブレットが多くなった。
スマートゴーグルはスマホが無くなり、
新たに導入された端末だ。
メガネ、コンタクト装用のまま使え、
多くの国民がスマートゴーグルを装着していた。
ゴーグル一つで電話から通信全般使えるが、
反対に全てが国に管理されてしまうため、
国民の中には安価なタブレットを使用している者も多かった。
「おっと……!? ん? 松田雪江? 」
電話の相手が今まさに、
調べていた名前だったので慌ててタップした。
「助かったぁ~」
電話の向こうから安堵の声が聞こえてきた。
「はい、こちらは……」
向井の声に雪江が慌てるように喋りだした。
「あっ、すいません。
そちらクリエイターズファントムですよね」
「はい。向井と申します」
一応、社名をクリエイターズファントムとしている。
派遣課になる前は求人課だったらしく、
派遣課になって第一号の高田が、
「仕事を受けるのに社名があったほうがいいですよ」
と、冥王に提案。
高田がネーミングし、
クリエイターズファントムになったそうだ。
派遣霊の多くは作家、歌手、デザイナーなど、
創作者が多いこともあり、
クリエイターに決めたらしい。
冥王も、
「それ面白いよ。いいんじゃない」
と即決だったというから冥界もいい加減である。
クリエイターズファントムは冥界という特権で、
基本国内であればどこでも仕事は受けられる。
電話番号もそのままなので、
登録しておけばつながるが、
登録した本人に何かあればすぐに消滅されるので、
この世に形跡は残らない。
向井が何か言おうとしたところで、
相手が慌てた様子で話し始めた。
「あの、私、松田雪江と申します。
以前そちらで、
漫画のプロアシさんを紹介していただいて、
今回もお仕事をお願いしたいんです」
早口で一気に話す相手に、
一瞬驚いたものの向井は静かな口調で言った。
「漫画のアシスタントですか?
今一人、手の空いているものがおりますが」
雪江は安堵のため息をついた。
「急かす様で申し訳ないんですが、
急な仕事で時間がないので、
今すぐに現場へ入ってほしいんです。
大丈夫でしょうか」
「そういう事でしたら、
すぐにでもその者を向かわせます」
「助かります。
リモートでもいいんですけど時間がないので、
数日仕事部屋から出られなくなるかもしれません。
そのこともお伝えいただけますか? 」
「はい、え~と……」
向井は登録者名簿を確認すると、
「ご登録は松田様の仕事場になっていますが、
そこでよろしいですか」
「はい、以前と同じ住所です」
「わかりました。
では、山川という者を連れていきますので、
その時に書類にサインをお願いします」
仕事は終了と同時に、
相手の容姿もリセットされるので、
松田にも山川との接点はなくなっている。
電話口で簡単な料金説明をし、
「ちなみに差し支えなければ今回のお仕事内容、
時代背景など教えていただきたいんですが」
「大正ロマンのファンタジーになります」
時代物のファンタジー?
どんな物語なんだろう??
向井は首を傾げた。
「では、よろしくお願いします」
相手の電話が切れるのを待って、
端末から葵の位置情報を確認した。