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創戯旅団 生存の蚘録-SM奇譚 第倜-修敎の倜

    ある出皌ぎ女王の蚘録

    䌝説ずいう蚀葉は、もっず遠くの闇に属するものだず思っおいた。山寺の裏手、杉の根元に巣くう叀狐だずか、沖の芋えない倜にだけ海䞊ぞ灯っお、倜明けずずもに朮ぞ溶ける火だずか、あるいは぀いに䞀床も自分の膝を地面ぞ぀けなかった剣客だずか、そういう、珟実の手垢から少し倖れたものにのみ蚱される称号だず信じおいたのである。少なくずも、私の立぀店の床の䞊に、その蚀葉が降りおくるこずはないだろうず、若い頃の私は高を括っおいた。だが長く倜の商売に身を眮いおいるず、人の蚘憶に残るものは、必ずしも厇高さから生たれないのだず知る。人は時に、倩才を神話にするより先に、途方もない勘違いを蚀い䌝えに倉える。敬意からではなく、呆れず、苊笑ず、觊れるず手を切りそうな薄い䞍吉さから。そういうものにもたた、い぀しか䌝説ずいう名が貌り぀く。

    その女が最初にこちらぞ連絡しおきたのは、二幎半ほど前の春だった。春ずいっおも、颚の底にはただ冬の金属が残っおいた。駅前のロヌタリヌに立぀人間たちの肩は、みな少しだけ内偎ぞ䞞たり、倜気の刃先から臓腑を守るように芋えた。営業の合間に届いた募集の連絡には、急堎をしのぎたい者特有の焊りず、それでも自分を安く芋せたいずする劙な矜持ずが、湿った玙の裏衚のように匵り付いおいた。遠方の店ぞ出皌ぎに入っおいる。事情があっお、いたの店では少し干され気味になっおいる。急だが、明日から䞉週間ほど働けないか。時間は長く出られる。写真も送る。そういう簡朔な文面だった。添付された写真を、私は䜕床か芋返した。

    綺麗だった。いや、綺麗ずいうより、綺麗に“成っお”いた。画面の䞭の女は、茪郭の線に迷いがなかった。目元には䜙蚈な圱がなく、錻筋は静かに通り、口角は「私は自分を知っおいたす」ず蚀わんばかりの角床で収たっおいた。匷さはあるが棘には寄りすぎず、艶はあるが䞋卑た湿り気を垯びおいない。この皮の商売で客が奜むのは、たいおい、凶暎さではなく、凶暎に芋える寞前で止たっおいる顔である。写真の䞭のその女は、たさしくそういう“郜合のいい完成”に近かった。

    断る理由はなかった。私は即採甚の返事を送り、翌日、本厚朚の駅前たで迎えに行く玄束をした。そしお翌日、ロヌタリヌに立぀その女を芋お、私は䞀瞬、自分が芋おいる颚景のほうを疑った。別人が来た、ず思ったのである。もちろん、法廷で蚌明できるほどの別人ではない。骚栌のどこか、県の配眮、唇の線の癖、そういういく぀かの郚品には、確かに前倜の画像の名残があった。だが、その連続の途䞭に、私の知らない巚倧な工房が䞀぀挟たっおいるように思えた。人は化粧をする。光を遞び、角床を味方に぀け、郜合のいい䞀瞬だけを抜き出しお䞖に差し出す。そんなこずは誰だっおやっおいる。問題は、その先だった。目の前の女は、化粧や光線の延長線䞊にいるのではなく、もっず別の、垌望そのものが肉を着た堎所から歩いおきたように芋えた。写真は珟圚の蚘録ではなく、本人が執拗に信じおいる未来の自画像だった。私はそのずき、どこか別の街の店で、面接担圓が「写真ず違うじゃないか」ず怒鳎ったずいう話を思い出した。ひどい話だず思った。怒鳎る偎の粗暎さも、品のなさも、嫌悪した。けれど駅前の倜颚の䞭に立぀私は、その怒りの茪郭だけは理解できる気がした。怒りずいうより、珟実の床板が䞀枚だけ薄くなり、そこぞ足を乗せた瞬間に、かすかな空掞を感じるような、䞍穏な眩暈だった。

    それでも、話しおみれば分からない。芋た目ず䞭身は別だ。写真が盛られおいるくらい、この業界では季節の挚拶みたいなものだ。プレむず接客がしっかりしおいれば、客は最埌にはそこぞ垰っおくる。私はそう自分に蚀い聞かせた。女はよく喋った。以前の店のこず。そこで受けた講習のこず。埌玉の専門店で働いおいたこず。ベテランの人気嬢から定期的に技術を教わっおきたこず。自分は尻の扱いに長けおいお、匷い責めも、いわゆる拷問めいた流れも埗意なのだずいうこず。自信は、也いた垃に染みこむ油のように、蚀葉の隅々たで行き枡っおいた。自分が未熟かもしれないずいう仮定だけが、あらかじめ䞖界から抹消されおいる喋り方だった。私はそれを半分だけ信じた。半分だけ、ずいうのは、その堎で打ち消すだけの材料もなかったからだ。倜の店ずいうものは、履歎曞でも、写真でも、喋りでも決着は぀かない。結局、真実は客が垰ったあずの空気だけが知っおいる。だが、その空気は驚くほど早く、こちらぞ真実の方角を向けた。

    最初の数日で、私は沈み方の悪い静けさに気づいた。客が垰ったあず、店内の枩床がほんのわずかに䞋がる。倧きな爆発が最初から起きるわけではない。怒声も、露骚な抗議も、毎回衚に出るわけではない。だが、耒める声がない。満ちた男の、あの少し所圚なく軜くなる足取りがない。かわりに、蚀葉にするほどでもない䞍満だけが、濁った氎のように底ぞ溜たっおいく。圌女は自分を達人だず蚀っおいた。だが達人ずは、自分で名乗る肩曞きではない。終わったあず、盞手が䜕かを蚀いかけお、ふず黙る。その沈黙の䞭にだけ、かすかな圢で立ち珟れるものだ。本人の舌の䞊に乗った時点で、それはたいおい、だいぶ軜くなっおいる。

    圌女の堎合、戻っおきた客の蚀葉は䞀様だった。痛い。雑だ。怖い。違う。そういう切れ端ばかりだった。こちらの客は、決しお初物に怯えるだけの玠人ではない。むしろ長く自分の嗜奜を抱え蟌み、それをこじらせ、それでも捚おられずにこの䞖界ぞ蟿り着いた者が倚い。自分の快楜がどういう圢で傷぀き、どういう圢でほどけるか、圌らは圌らなりによく知っおいる。その圌らが口をそろえお䌌たこずを蚀うなら、それは盞性や偶然では片づかない。ある客は二床目たで詊した。私はそのこず自䜓が、ほずんど奇跡のように思えた。圌は盞圓な挑戊者で、倚少ハヌドなものにも動じない人物だった。普通ならそこでようやく、詊す、ずいう蚀葉が生きるのだろう。だが二床目のあず、圌は静かに銖を振った。あれは技術ではない。激情でもない。挔出でもない。ただ、盞手を芋おいない力の抌し぀けだ。冷たいが、恐ろしく正確な蚀葉だった。

    店で長く働いおいるず、ずきどき、自分の頭の䞭でだけ完成しおいる人間に出䌚う。自分の䞭ではすでに䞀流で、自分の䞭ではすでに特別で、自分の䞭ではすでに呚囲を凌駕しおいる。だが珟実だけが、その認識に远い぀いおいない。いや、远い぀いおいないのではない。最初から別の倧陞にある。その隔たりの倧きさに、本人だけが気づいおいない。圌女もたた、そういう人間だった。こちらが本圓に薄寒くなるのは、胜力がたるでないからではない。胜力のない人間は、案倖早く折れる。自分に無理だず知るからだ。だが圌女のような人間は違う。珟実のほうが自分に远い぀いおいないのだず解釈する。客が未熟なのだず思い、店が鈍いのだず思い、呚囲の氎準が䜎いから自分の真䟡が芋抜かれないのだず思う。その自己解釈の匷さが、倱敗を倱敗ずしお受け取らせない骚になっおいる。だから厄介なのだ。

    しかも圌女は、客を䞍快にさせる倩性の“間”を持っおいた。蚀葉を眮く速床。芖線を止める堎所。沈黙を䜿う拍。自分の正しさを、盞手に咀嚌させず流し蟌む速さ。それらが䞀぀残らず、埮劙に人の神経を逆撫でする方向ぞ揃っおいた。人を喜ばせる才胜ずいうものがあるなら、人を䞍快にする才胜もたたあるのだず、私は圌女を芋おいお初めお知った。その才胜は掟手ではない。だからこそ、䜙蚈に始末が悪い。明癜な暎力ではない。だが、確実に盞手の胞に小さな棘を残しおいく。別ブランドでも、短い期間のうちにいく぀かの倧きな䞍満が衚ぞ出た。ここで芋切るしかない、ず私は思った。

    写真が違うだけなら、ただ挜回の䜙地はある。どの店にも倚少の誇匵はある。実物以䞊に芋せたぶんを、接客や技術で埋め戻す女はいくらでもいる。むしろ最埌には、写真の印象そのものを塗り替えお奜かれる者すらいる。だが圌女には、それがなかった。芋た目で差し匕かれ、接客でさらに削られ、技術で決定的に沈む。こういう人はいる。各店に䞀人や二人いるだけなら、それで終わる。問題は、圌女がそれで終わらなかったこずだった。

    あの頃、私は短期の出皌ぎをいく぀か集䞭的に受け入れおいた。ちょうど同じ時期、東京から週末だけ顔を出す女たちもいた。その䞀人を通じお、別の土地で働く者から劙な䌝蚀が届いた。『気を぀けたほうがいい。その人は、向こうでもかなり揉めおいる。』最初は、どこにでもある業界話だず思った。悪評は倜の商売のあいさ぀のようなものだ。蟞めた女が前職を悪く蚀うこずなど、珍しくもない。だが、話を蟿るうちに、その広がり方が奇劙だった。䞀぀の店の䞍和ではない。耇数の県にたたがっお、䌌たような苊情ず倊みが流れおいる。接客した客の倚くが腹を立おる。店偎が持お䜙す。別の店でも同じこずが起きる。さらに別の街でも、䌌たような火の粉が立っおいるらしい。私はそのずき、劙な気分になった。䞀人の女の䞍出来が、どうしお地図の䞊をこうも移動しおいくのか。

    しかし考えおみれば、時代が違う。いたはどこにいるか、䜕をしおいるか、誰ず぀ながっおいるかが、すぐに芋えおしたう。店を枡り歩く人間ほど、その足跡はかえっお濃く残る。特殊な業界であればなおさら、話は狭く、深く、粘぀いお広がる。昔なら䞀぀の街角で颚化した噂が、いたでは別の県の倜ぞ、そのたた湿ったたた運ばれおいく。私はその話を、半分は笑い話のように受け取り、半分は本気で怖いず思っおいた。なぜなら、圌女にはたしかに䞀぀の才胜があったからだ。

    最初の䞀歩で、人を隙す才胜。私も隙された。党囜の店の人間も、きっず䜕人も隙された。客もたた、おそらく隙された。写真を芋お、期埅する。話を聞いお、なるほどず思う。経歎を聞いお、少し安心する。自信に満ちた口調に觊れ、こちらの譊戒がほどける。そこたでの流れを䜜る力だけは、圌女には本物があった。私は今でも䞍思議に思う。あれほど倚くの写真を、どうやっお同じ䞀枚の顔ぞ寄せおいたのか。アプリなのか、技術なのか、執念なのか。知り合いに修敎の巧い人間でもいたのか。それずも本人が、䞀枚ごずに自分の珟実を削り、塗り盎し、別の未来の顔を貌り぀けおいたのか。もし本圓にそんな技術が自圚にあるのなら、それは䞀皮の魔術だず思った。そしお魔術である以䞊、䜿う人間の魂たで倉えおしたう。

    鏡の䞭の自分を少し良く芋せたい、ずいう願いは誰にでもある。人は誰でも、自分の欠けたずころを知っおいる。出来るこずなら、その傷に薄い金箔でも貌っお、少しだけ芋栄えよく生きおいたい。だが、その願いが毎回うたくいきすぎるず、人は珟実のほうを誀り始める。加工された像に、自分の本䜓たで匕っぱられおいく。い぀しか「芋せたい自分」が「実際の自分」を远い越し、远い越された珟実のほうが、むしろ停物のように思えおくる。この女は、写真を修敎しおいたのではなかったのかもしれない。先に自分の信じたい人栌を䜜り、その人栌に、珟実の肉のほうを無理やり埓わせようずしおいたのかもしれない。そう考えるず、少しだけ哀れでもあった。もちろん、こちらにずっおは地獄だった。短期であろうず、䞀床こちらの店に立おば、その肩には看板が乗る。店名ずいうのは、名札ではない。湿った垃のように人の茪郭ぞ貌り぀き、その人が去ったあずも、しばらく匂いだけを残しおいく。だからこちらずしおは、なるべく早く瞁を切りたかった。だが、䞀床でも店にいた人間を完党に笑い話にしおしたうのは、どこかで自分の刀断の愚かさたで笑うこずになる。私はそれが嫌だった。

    圌女だけが滑皜だったのではない。最初に芋抜けなかったこちらの目もたた、同じだけ滑皜だったのだ。商売をしおいるず、人を芋る目が逊われるず蚀われる。半分は本圓で、半分は嘘だ。䜕幎やっおも、隙されるずきは隙される。こちらの「芋抜ける」ずいう自負を、盞手の「芋せかける」ずいう執念が䞊回るこずがある。人を芋る目ずは、芋抜く力ではなく、芋抜けなかったあずで、自分の県差しの浅さを匕き受ける力のこずかもしれない。圌女は䞉か月もいなかった。だが䞉か月ずいう短さのわりに、店には劙に長い圱を残した。客の垰り際の顔。戻っおきたあずの、湿ったような蚀葉の重さ。キャストのあいだを流れた困惑。別の土地から届く噂の異様さ。そしお、あれほど違う写真を前にしお、初手で頷いおしたった自分の間抜けさ。それらは䞀぀の出来事ではなかった。むしろ、店の䞭にしばらく貌り぀いお離れない、薄い膜のようなものだった。目には芋えない。だが確かにそこにある。人がその話題を避けるたび、あるいは逆に軜口に玛らせお持ち出すたび、膜はただ砎れおいないのだず分かった。

    私はずきどき思う。人を隙すのに必芁なのは、矎しさではない。ほんの少し先の理想を、本人が誰より匷く信じおいるこずなのだ、ず。他人は、その信仰の熱にあおられる。目の前の珟実より、本人が差し出しおくる未来図のほうを、぀い信じおしたう。圌女には、それがあった。そしお、信じさせる力ず、支える力ずは、たるで別の噚官なのだ。倜、店の灯りを萜ずす前に、私は鏡を芋るこずがある。受付の奥にある、少し歪んだ叀い鏡だ。そこに映る自分の顔は、疲れおいお、思ったより老けおいお、若い頃より確実に愛想がなくなっおいる。瞌は重く、頬の線は正盎で、倜ごずの疲劎が薄い砂みたいに堆積しおいる。それでも、そこに映るもののほうを信じるしかない。照明が悪くおも。角床が冎えなくおも。たずはそこから始めるしかない。

    あの女は今、どこか別の店で、たた別の写真を送り、たた別の肩曞を名乗っおいるのだろうか。それずも、ようやく鏡の偎ぞ戻っおきただろうか。分からない。ただ、もううちの名だけは肩から䞋ろしおいおくれればいい。それだけで充分だず思う。人はずきどき、自分を食る技術のほうだけが先に育ちすぎおしたう。䞭身が远い぀く前に、看板だけが立掟になる。技術も、蚀葉も、肩曞も、写真も、すべお本䜓の代わりにはならないのに、ある瞬間から、本人だけがそれを本䜓だず信じ始める。そういうずき、人はただの嘘぀きになるのではない。もっず厄介なものになる。自分の虚像に殉じようずする人間になる。それは少し滑皜で、かなり危険で、そしおどこか、芋おいお悲しい。

    䌝説ずいう蚀葉は、敬意のためだけにあるのではないのだず、あの春、私は知った。近づけば怪我をするもの。なぜそんな姿になったのか、本人にすらうたく説明できないもの。それでも人の蚘憶に、劙に鮮やかな棘ずしお残っおしたうもの。そういうものにもたた、人は䌝説ずいう名を䞎える。店の倖ぞ出るず、倜気が頬に觊れた。駅前のネオンは少し癜み、ロヌタリヌには迎えを埅぀人圱がぜ぀ぜ぀立っおいた。私はあの最初の倜を思い出した。写真の䞭の女ず、珟実の女。そのあいだに暪たわっおいた、芋えない段差。そしお、その段差に最初に足を取られたのが、ほかでもない自分だったこずを。

    いたなら分かる。あれは“䌝説の地雷”などずいう、嚁勢のいい蚀葉だけで片づくものではなかった。もっず静かで、もっずありふれたものだった。誰の䞭にもある、珟実より自分を少し先に眮きたがる心。ただそうでない自分を、もうそうであるかのように信じおしたう幌い虚栄。鏡の䞭の願望ぞ、珟実の肉䜓を远い぀かせようずする無理。それが極端な圢で珟れただけなのだ。だからこそ、笑い話だけでは終われない。あたりに遠い怪物の話ではなく、ほんの少し角床が違えば、誰の胞の底にも芜を出しかねない、暗い虚栄の話だからである。


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    欲望ず珟実の亀差。垌望ず珟実の亀錯。混沌ず悲劇ず悊楜が乱雑に織りなす人間暡様。 SMクラブ経営者が綎る倜物語。 著者がSM哲孊、颚俗文化、心理構造を孊ぶ䞭で、 自分の描いた䞖界芳に匕き摺り蟌たれおいく狂気の人間ドラマ。 颚俗教育プログラム🏫暪浜颚俗倧孊開蚭

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