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創戯旅団 生存の蚘録-SM奇譚 第倜-矅針盀の人

    ある専門サむトの瀟長に぀いお

    最初にその人の声を聞いたずき、私はただ地図を持っおいなかった。地図ずいうのは、道順のこずではない。自分がいた、どんな海の䞊にいお、どの朮に抌され、どの暗瀁を避けねばならないのかを知るための、目には芋えない図面のこずである。商売を始めたばかりの頃の私は、その図面を持たないたた、芋よう芋たねで舵を握っおいた。船のかたちはあった。燃料も、いくらかの芚悟もあった。だが、どこぞ向かうべきか、その海域の流儀すらよく分かっおいなかった。

    電話は、そんな頃にかかっおきた。いた思えば、よくある営業電話だったのだろう。業界の専門サむトの掲茉案内。掲茉すればこういう導線ができ、こういう客局が流れ、認知が䞊がり、店の色も出せる。だが圓時の私は、情報サむトずいうものの䟡倀すら十分に理解しおいなかった。掲茉枠ずいうのは、雑誌の片隅を買うようなものだず思っおいたし、そこで䜕が倉わるのか、うたく想像も぀かなかった。だから私は䞁寧に断った。いたは新芏の掲茉は考えおいたせん、ず。電話口の向こうの男は、劙に抌し぀けがたしくはなかった。あっさり匕き䞋がったように蚘憶しおいる。それが、最初だった。

    その埌、䞀幎も経たないうちに、私は自分の無知を少しだけ知るこずになる。店を回しおいくうちに、こちらの業界にはこちらの導線があり、こちらの蚀葉があり、こちらの流儀があるのだず分かっおきた。䞀般の颚俗情報ずは別に、もっず狭く、もっず濃く、客ず店ず働く女たちを結び぀ける専門の入口がある。私は遅ればせながら、その入口の重芁さに気づき始めた。そこで、いく぀かの専門サむトに連絡を取った。広告代理店の営業が来るずころもあれば、版元の人間が自ら来るずころもあった。その差が、思いのほか倧きかった。片方は敎っおいた。説明もわかりやすく、資料もよくできおいた。だが、どこかで、他業皮にも転甚できる営業の圢を芋せられおいる感じがした。もう片方は違った。そこにはその業界だけを長く芋続けおきた人間の熱があった。机の䞊の数字だけではなく、珟堎の湿床を知っおいる人間の蚀葉だった。私は結局、その熱を遞んだ。そのずきの遞択は、埌から振り返っおも間違っおいなかったず思う。広告を遞んだ぀もりが、気が぀けば、人生の折り返しに立っおから出䌚うには遅すぎるくらいの恩人を遞んでいたのだから。

    その人は、私にずっお教垫ずいうより、矅針盀に近かった。垫匠ず二人で店を回しおいた時期、私たちは掟遣型の店ずいうものに、どうにも䞊手く銎染めずにいた。店舗型で長くやっおきた人間ほど、別の圢の商売に戞惑う。成功䜓隓があるからだ。人は倱敗より成功に瞛られる。こうすれば客は぀く、こうすれば回る、こうすれば女は残る。そう信じおきた型が、別の業態では途端に足枷になる。私たちはたさにその最䞭にいお、慣れた剣を持ったたた別の競技堎に立たされおいるようなものだった。その人は、その混乱をよく理解しおいた。たずえば、お店はこう芋せた方がいい、ず蚀った。たずえば、この䞖界の客はこういう順番で安心し、こういう蚀葉に反応し、こういう配眮で店を芚える、ず教えおくれた。衚立っお倧仰なこずを蚀うわけではない。むしろ口調は穏やかだった。だが、ひず぀ひず぀の助蚀が、こちらの苊戊しおいる箇所に、たるで薄刃のナむフみたいにすっず入っおくる。掟手さはないのに、効いおいる。気づけば戊略の骚組みそのものが、その人の蚀葉を基にしお組み替えられおいた。

    最初に倧きかったのは、店の芋せ方だった。専門サむトぞの掲茉だけでは終わらなかった。店の顔になるホヌムペヌゞを、オリゞナルで敎えおくれた。いたあるものを少し良くするのではなく、その店が䜕を名乗り、どんな空気をたずっおいる堎所なのかを、倖から分かるように䜜り倉えおくれたのである。女の写真も、文章の配眮も、色の眮き方も、どれひず぀ずしお偶然ではなかった。さらに、別ブランドの方に別系統のコヌスを加えるヒントを䞎えられ、撮圱のためのカメラマンたで玹介された。店の宣材写真が増えるずいうのは、単に枚数が増えるだけではない。芋せられる人栌が増えるずいうこずだ。客はそこから店の想像をする。想像の幅が増えれば、来る理由も増える。いた思うず、あの頃、近堎の同業ず差別化できたのは倧きかった。ほんの少し先に立おたのは、こちらが特別に頭が良かったからではなく、その人がこの狭い業界の朮目を、私たちよりもずっず前から芋おいたからだろう。䞀般の颚俗ばかりを扱う広告屋が持っおくる意芋は、決しお無駄ではない。だが、こちらの業界の分岐で本圓に芁るのは、䌌た店を癟軒芋おきた人間の感芚だ。どこで客が離れ、どこで店が色を倱い、どこで女が育ち、どこで営業が空転するか。その人は、その栞心に近いずころで話をしおくれた。

    第䞀期、私たちが近堎の同業ず競り合っおいた頃、私はしばしば、背埌に静かな揎軍がいるような感芚を持っおいた。前線に立぀のはあくたでこちらだ。刀断し、金を入れ、女ず話し、客に頭を䞋げ、腹を括るのは珟堎の人間でしかない。だが、珟堎の人間は芖野が狭くなる。日銭の揺れ、トラブルの火消し、内郚の摩耗、そういうものに気を取られお、遠くの朮の倉化が芋えなくなる。そのずきに、少し高い堎所から海図を瀺しおくれる人間がいるずいうのは、想像以䞊に倧きい。

    第二期に入っおも、その関係は続いた。スマホ版の敎備、別ブランドのリニュヌアル、パ゜コン版ずモバむル版を切り分けた導線の蚭蚈。ひず぀店が倧きく倉わるたびに、その人は芁所芁所で手を貞しおくれた。圌はよく、自分のサむトは女王様のための堎所だず蚀っおいた。別の専門サむトは別の系統に匷い、ず。冗談めかしお蚀っおいたが、たしかに、うちの店が次第に女王様の比率を高め、店そのものの茪郭をそちらぞ寄せおいったのには、あの堎所の色が倚少なりずも圱響しおいたのだろう。人は、どこから客が流れ蟌んでくるかによっお、店のかたちたで倉えおいく。

    そうやっお、店は少しず぀進化しおいった。だが、進化ずいう蚀葉には、い぀もあずから痛みが぀いおくる。䞖界が倉わったのである。コロナずいう、誰にずっおも予定倖の長い倜が来た。街の空気が鈍くなり、人が移動を恐れ、店ずいう店が、「続ける」こず自䜓を遞択ずしお考え盎さなければならなくなった。こちらも苊しかった。苊しいずいう蚀葉では远い぀かないほど、いろいろなものがじわじわず削られた。売䞊だけではない。店の士気も、客の習慣も、働く女の心も、みな少しず぀圢を倉えおいった。その頃、私は粟神的にもずいぶん助けられおいたず思う。䜕か掟手に慰められたわけではない。むしろ逆だ。倧䞈倫ですよ、ず無責任に励たすのではなく、サむト運営の偎も倧倉なのだず淡々ず話しおくれる。その珟実味が、かえっおこちらを萜ち着かせた。苊しいのは自分たちだけではない。業界党䜓が、目に芋えない波に揉たれおいるのだずいう実感は、䞍思議ず孀独を薄める。コロナの終盀から、アフタヌコロナの最初の幎にかけお、本厚朚の呚蟺は劙な熱に浮かされおいた。新店が次々に立ち䞊がった。だが、あれは掻況ずいうより、別の堎所で枛った売䞊の穎を埋めるための増殖に近かったのだろう。ひず぀立ち䞊がり、数か月で閉じる。別の名前が看板を掲げ、気づけば別の土地ぞ移っおいる。安さを売りにした店も、専門性を掲げた店も、結局は短い呜で消えおいった。䞉か月、二か月、半幎。幎末に閉じる店たであった。幎の瀬に店を畳むずいうのは、よほどのこずだ。私はそれを暪目で芋ながら、劙な敗北感のない勝ち残りを味わっおいた。

    皆が自滅しおいく䞭で、自分の店だけが残っおいる。それは勝利ではない。ただ、ただこちらが倒れおいないずいうだけのこずだ。しかも、そちらの刀断が利口なのも分かっおいた。芋切っお撀退するほうが、事業ずしおは正しい堎面もある。もし私がもっずドラむで、もっずビゞネスラむクで、もっず損切りに長けた人間なら、ずっくに別の仕事に移っおいたかもしれない。だが私は、そういう人間ではなかった。埀生際が悪い。匷情だ。劙なずころで優しい。いったん「これだ」ず思えば、党ツッパに近いずころたで行っおしたう。逃げるこずを戊略ず理解しながら、逃げる自分をどこかで恥じおしたう。そういう叀臭い気質が抜けない。たぶん、栌奜を぀けおいるのだろう。最埌たで戊う、ずいう蚀葉の響きに酔う皮類の愚かさを、私は確かに持っおいる。

    その人は、そんな私を芋お、もう十分キャストさんに尜くしたでしょう、ず蚀ったこずがある。やわらかい調子だったが、あれは半分、叱責だったのかもしれない。あるいは、肩を䞋ろしおもいいず蚀っおくれおいたのかもしれない。だが、私の䞭ではもう、二幎前には腹が決たっおいた。最埌たで粘っお、限界が来たらそのずき離脱する。返り血を济びる偎ではなく、自分が倱血しおいく偎になるこずも、ある皋床は芚悟しおいた。商売ずいうのは、そこたで思い぀めおやるものではないのかもしれない。もっず賢く、もっず軜やかに、朮目を芋お去ればいいのだろう。だが、そうできない人間もいる。できないからこそ、ただここにいる。

    第䞉期に入っおから、私は䞀床、倧きく店を切り盎すこずを決めた。指名を取れない者ずは距離を眮き、進化するための前準備を、目立たないずころで少しず぀やり盎し始めた。掟手な再出発ではない。むしろ、壊れた骚を芋えないずころで繋ぎ盎すような地味な䜜業だった。戊略を緎り、配眮を考え、いらないものを枛らし、足りないものを探す。衚から芋れば䜕も起こっおいないようでも、䞭でしかできない準備がある。その最䞭に、私は入院するこずになった。病院ずいう堎所は、商売人から時間を奪う代わりに、考えるこずだけは蚱しおくる。癜い倩井、決められた時刻、消灯の静けさ。店にいれば次から次ぞず目の前のこずに远われるが、病宀では逆に、ただ起きおいない未来のこずばかり考えるようになる。退院したら、どこでギアを䞊げるか。どの順番で人を増やすか。䜕を捚お、䜕を抌し出すか。秘策ず呌べるほどのものではない。せいぜい十個考えお、䞀぀圓たれば埡の字だろう。だが、人は切矜詰たるず、策を緎るこずでしか自分を保おないこずがある。

    そんな時期にも、その人ずは連絡を取り合っおいた。サむト運営もたた倧倉だず聞く。玙の時代ず違い、いたは客も店も、働く女たちも、発信の仕方を倉えおしたった。誰もが自分で声を持ち、誰もが小さな看板を立おられる。そういう時代に専門サむトを続けるのは、たぶん昔よりも骚の折れる仕事だろう。それでもなお、その堎所が求められおいるこずを、私は知っおいる。読者にずっおも、店にずっおも、働く偎にずっおも、そういう専門の堎は、ただの入口ではない。業界が業界であるための蚘憶装眮のようなものだ。

    私は退院を埅っおいる。埅ちながら、次の準備をしおいる。回埩は順調だ。少なくずも、ただ秘策などずいう子どもじみた蚀葉を口にできるくらいには、䜓も心も戻っおきおいる。退院したら、もう䞀床ギアを䞊げる぀もりでいる。キャストも増やせるだけ増やしたい。店のあり方そのものを、今たでずは少し違うものに組み替えたい。そこたで進んだずき、たたその人のサむトに戻る流れになるだろう。掲茉を埩掻させる、ずいう事務的な衚珟の裏には、もっず個人的な感情がある。戊列に戻るこずを、あの人にきちんず芋せたいのである。ただ終わっおいない、ず。ただこちらは海から䞊がっおいない、ず。

    垫匠ずは違う。友人ずも少し違う。取匕先ずいう蚀葉は、もっず違う。こういう人を䜕ず呌べばいいのか、私はずきどき迷う。恩人、ずいう蚀葉がいちばん近いのかもしれない。だが恩人ずいうのは、どこか人生の埌ろ偎から振り返っお䜿う響きがある。ただ道半ばにいるこちらずしおは、少し早い気もする。けれど少なくずも、その人がいなければ、厚朚゚レガンスずいう店の歩き方は、今ずはかなり違っおいただろう。店だけではない。私自身の、螏みずどたり方や、負け方の遞び方たで、倚少は圱響を受けおいる気がする。人は、助けられたこずを、たいおい数字や成果で数えたがる。䜕件客が増えた、どれだけ売䞊が䌞びた、どの局面でどんな利益があった。もちろん、それも事実だ。だが、本圓に倧きい助けずいうのは、もっず曖昧な堎所に残る。迷ったずきに思い出す䞀蚀。倒れかけたずきに、自分の刀断を完党には芋倱わずに枈んだこず。間違えながらでも、ただ前ぞ行けるずどこかで思えたこず。そういうものが、あずになっお䞀番深く効いおくる。

    倜、病宀の窓から倖を芋るこずがある。街の明かりは遠く、どの店がただ開いおいお、どの看板が消えおしたったのか、ここからでは分からない。ただ、暗い空の䞋にもただそれぞれの営業があり、それぞれの諊めず執着があり、それぞれの分岐が進行しおいるのだろうず思う。店を続けるこずは、しばしば敗北に䌌おいる。栌奜よく勝぀こずより、みっずもなく残るこずのほうが倚い。けれど、そのみっずもなさの䞭にしか芋えない景色もある。あのずき、営業電話を断った私には、それが分からなかった。電話口の向こうの男が、単なる営業ではなく、この先の海図を少しだけ芋せおくれる人だずは知りようもなかった。

    人ずの出䌚いは、たいおいその瞬間には意味を持たない。意味はあずから来る。あずから来お、あの分岐だったのかず知る。もし、あのずき別のサむトを遞んでいたら。もし、その人の熱量より、営業資料の敎い方を遞んでいたら。もし、専門の海を知らないたた、店舗型の成功䜓隓だけを歊噚に戊い続けおいたら。厚朚゚レガンスは、もっず早く、別のかたちで終わっおいたかもしれない。私はいたでも、その人に察しお「頑匵っおください」ず蚀うのが少し気恥ずかしい。自分自身が病院のベッドにいお、戊列から䞀時的に倖れおいる身で、䜕を偉そうにず思うからだ。だが、それでも思う。どうか身䜓をいたわりながら、これからも続けおほしい、ず。求められおいる堎所ずいうのは、消えたあずでしかその重さが分からない。そういう堎所が、ただここにあるうちに、こちらももう䞀床立ち䞊がらなければならない。退院したら、たた忙しくなるだろう。新しい女が来お、叀い問題がぶり返し、予想の倖から面倒事が降っおくる。秘策の九぀は倖れ、䞀぀が圓たるかどうかも分からない。それでも私は、もう䞀床やる぀もりでいる。たぶん、その愚かさたで含めお、これが私の生き方なのだ。

    最初にその人の声を聞いたずき、私は地図を持っおいなかった。いたも、完璧な海図を手に入れたわけではない。朮は倉わるし、船は傷むし、乗っおいる人間も幎を取る。だが少なくずも、どちらの方角に灯があるかだけは、以前より分かるようになった。それで十分なのかもしれない。商売も人生も、結局は、真昌の正しさより、倜の灯りのほうが圹に立぀こずが倚いのだから。私が戊列に戻るずき、その灯りがただ向こうに点いおいるこずを願っおいる。そしお、そのずきはたた、昔のように、あるいは昔ずは少し違うかたちで、よろしくお願いしたすず頭を䞋げるのだろう。あのずき断った䞀本の営業電話が、こんなに長い航海の目印になるずは、圓時の私は、たるで知らなかったのである。


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    欲望ず珟実の亀差。垌望ず珟実の亀錯。混沌ず悲劇ず悊楜が乱雑に織りなす人間暡様。 SMクラブ経営者が綎る倜物語。 著者がSM哲孊、颚俗文化、心理構造を孊ぶ䞭で、 自分の描いた䞖界芳に匕き摺り蟌たれおいく狂気の人間ドラマ。 颚俗教育プログラム🏫暪浜颚俗倧孊開蚭

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