
地味な恋愛|所属の翻訳ー上海⑧ー
青白い蛍光灯。
深夜の公安の一室で罵声が響く。
城木が頭を抑え、
彼女を抱えながら
大声で被害を訴えていた。
彼女も口添えしていた。
どうにも「反日」と言う言葉が
行き交っている。
城木を殴った中国人は、
彼女の店の客だったらしい。
取り巻きのメガネも
知っている中国語を連呼する。
お前が何もしなかったのは
知ってるからな
と、城木に釘をさされ、
尖ったメガネは
下僕の様な扱いを受けていた。
城木はソファに座りながら
語りかけてきた。
天井を見上げ
あーいてぇ
血凄くね?
お前も殴られさ
日本人だからってな。
意味わかないよな。
曖昧な相槌をする。
俺たち有名になっちゃうな。
首元の血が引く。
日本人だけが騒いでいた。
上海の公安は落ち着いていた。
イタリア人たちは隅でそわそわしていた。
混乱する警察署に
父が来た。
全く物おじしない
冷静な目つき。
公安職員と親しげに話し始め、
イタリア人とも英語で話し始めた。
イタリア人は
事件とは関係ないことを説明して
帰っていった。
父の後ろには、
インインとセンスー
朱さんとジンジンも来ていた。
インインを見つけると
胸の冷えが渦巻く。
そっと手を握る。
震えながら握り返す。
温まらない
目を瞑る。
(巻き込まれただけなんだ)
そんな北京語もスッと出てこない。
父は城木達に言い聞かせた。
これ以上騒ぎを大きくしない方がいい。
公安の職員は、
殴った本人には他にも理由が
あるだろうと聞いてる。
なんで君の彼女が
殴った本人の電話番号を知ってるのか?
それを聞きたがっている。
理由が他にもあるんじゃないかって。
はっ?
おいおい、お前の親父頭だいじょうか?
何言ってくれてんの?
城木の彼女が泣き出す。
アイツの言うことは信じるな
シャンシンウォー
シャンシンウォー バ
俺を信じて
俺を…
隅っこで抱き合いながら
撫で合う。
城木はマスコミに駆け込もう
と息巻いた。
訴えような!
俺らは何も悪くない。
関係ないのに殴られたんだ。
なのにコイツらは尋問ばかりで
アイツを捕まえようとしない。
取り巻き達は上海の日本大使館に
電話をかけている。
反日の暴力を揉み消されていると
怒声をあげていた。
父は僕に耳打ちをした。
上海公安は今、
この手の事件に繊細になってる。
おまえな。
もう関わるな。
公安は、単なる男女関係のもつれだって
思っているぞ。
それにアイツなんか変だぞ?
何だあの態度。
(そう)
城木くん。
ごめん。
悪いけど俺はもう関わらないから。
は?
お前、親父連れてきて
散々引っ掻き回して
これで済むと思ってんのか?
(きた)
巻き込まれただけなんだ。
もう十分協力した。
(おわろう)
本当のところわからない。
後ろの列にいて何が起こったのか。
俺から言えることはもうないよ。
帰るね。
朱さんとジンジン、
インイン。
みんながいる。