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地味な恋愛|理由の翻訳ー上海⑥ー

    上海にはたくさんの理由があった。

    静岡の地方銀行から
    留学を命じられた。

    中国ではもう日本と同じレベルで
    何でも作れるらしい。

    教室の中庭は活気に溢れていた。

    僕には明確な理由がなかった。

    親が上海に住んでいたから。
    幼少期に北京に住んでいたから。
    何一つ中国語を喋れなかったから。

    時折り目が合う日本人は、
    漏れなく誰かとつるんでいた。

    ⸻

    目の下のクマが、
    こちらを睨んでいる。

    声がかかる。
    目的、理由。
    挨拶のように話し始める。

    自分のデザインを
    工場に発注して造らせている。
    手を抜かれて、キレている。

    ロン毛のうねる髪。
    ファー付きのロングコートを着て
    地肌が見えている。

    校内をうろついて
    誰彼かまわず話しかけている。

    唾を吐き捨てる。
    ダルそうに中庭へ座り込む。

    上海に来る前から
    HSK六級を持っていた。

    僕よりはるかに高い。

    同意を求められる。

    授業の分からなさ。
    学校への愚痴。
    中国人の悪口。

    朱さんやインインが浮かぶ。
    上海に来るまで
    楽な会話をしていたことに気づく。

    ⸻


    大麻。
    ヘロイン。
    聞き慣れない単語が飛び交っている。

    煙を吐きながら、
    ふらつき、中庭に座り込む。

    子分のような取り巻きが二人いた。
    関西弁の尖ったメガネ。
    目つきが落ち着かないモヒカン。

    市場や株価がどうのこうの。
    説明の多い時間。

    ⸻

    日本人というだけで
    三人に当たり前のように
    声をかけられるようになった。

    中国語で会話しているのを見られたのか。
    メガネが大袈裟に褒める。

    ロン毛が混じれとばかりに睨む。
    何かとダルそうに唾を吐く。

    伸びる糸を眺めている。

    ⸻

    朱さんに買ってもらった
    携帯が鳴る。

    インインから。

    予測変換の中国語。
    メールの方が伝えやすい。

    返信を打っていると、
    数和音の着信音が鳴る。

    サッカー好きのイタリア人だった。

    飲みの誘い。
    大学で初めての誘い。

    中国語のケータイを操り、
    繋がりが広がっていく。

    交友に、留学に
    自信が湧く。

    ⸻

    学校の裏門には、
    食堂や屋台、飲み屋が
    ひしめき合っていた。

    豚の角煮を挟んだ、
    万頭生地のハンバーガー。
    行列ができていた。

    ジンジンが一緒に行きたがっていた。

    人混みをかき分け、
    酒場の2階へと登っていく。

    日本人が沢山いた。

    あの三人も。

    酒を煽っていた。



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