
地味な恋愛|知覚の翻訳ー上海⑦ー
日本人ばかりの退屈な会話。
イタリア人と話すロン毛と一味は
ずいぶん盛り上がっていた。
酒とノリだけで、
妙に距離が近い。
ロン毛は城木と呼ばれていた。
中国人の彼女の腰を抱き、
瓶ビールを煽っていた。
彼女は近所のバーで働いているらしい。
派手な化粧
露出の高いインナーに革ジャン
インインと年は近いのだろうか。
上海人ではなさそうだった。
もたれ合う2人。
彼女が働いている店で飲もう
という話になった。
⸻
適当に理由をつけて帰ろう。
集団の最後尾についていく。
けたたましい音楽が近づく。
薄暗そうな店。
なんの店?
列が店内に吸い込まれていく。
バスドラムの音に混じり
何かが割れるような音がした。
同時に悲鳴が聴こえる。
店の中から
城木が倒れるように
僕の前へ飛び出してきた。
その後を追って、
見知らぬ男が、
叫びながら
灰皿を振り上げていた。
城木の頭を、
何度も殴りつけている。
ゴッ
ゴッ
ゴッ
ぼぉっと見ていた。
あ
しぬ
このまま
気づいたら
男を止めていた。
喉が詰まる。
ドドド…
胸がうるさい。
⸻
城木を殴ろうとする男の
両手を掴む。
押さえながら、
向き合う。
为什么?
なんで
単語しか出ない。
目が合わない。
男は叫ぶ。
血走って
ほとんど聞き取れない。
城木の彼女も、
男に向かって何かを叫んでいる。
強引に抑える。
瞼の裏
白くひかる
鈍い圧が来て
振り解かれる。
男は走って逃げていた。
城木の顔から
血が流れている。
泣き叫ぶ彼女。
立ち尽くしている
イタリア人たち。
もっといた筈の日本人は、
消えていた。
⸻
つんざく音。
パトカーが来る
取り巻きの1人が
「俺も殴られた」
と、血を抑える城木の前で話していた。
大勢の公安職員に囲まれ、
パトカーに乗せられていた。
僕は父に電話を入れた。
息が漏れる。
頬がピリつき始めた。