
地味な恋愛|生活の翻訳ー上海⑭ー
兄がフリーマガジンに
掲載する飲食店の広告営業のアルバイトを
紹介してくれた。
学校には行けない。
でも何かしようとは思った。
上海のオフィスへ。
一度顔を見せた。
兄の営業の話が続く。
翌日からオフィスに行かなかった。
父の通う
日式の焼肉屋のアルバイトを
紹介してもらった。
富裕層が集まる街。
スタッフが代わりに焼く。
日本の倍の人数で回している。
時々日本人が来る
どこかの社長が
同伴の中国女性を連れて来る。
KTVの話。
ボックス内に並べられる女性。
指を差す。
部屋に消える。
どの店がいいか
どんな接待があるのか。
肉を焼きながら
わざとらしく頷く。
そこかしこで語られる
欲求、野望が
肉が焼かれる音に霞んでいる。
誰も肉に興味はなさそうだった。
立派な一枚のロース。
手早くリズミカルにハサミで切っている。
キビキビと動き回る浅黒い肌の娘。
一目で上海人じゃないと分かる。
何でそんなに働ける?
日本人の学生でも珍しい。
時給は日本の5分の1。
店長はロイヤルホストに10年勤めていた。
日本式の経営に惚れ込んでいた。
店の改善点を聞かれた。
あの娘をリーダーにして欲しいと
頼んだ。
店長は困った顔で
彼女の出自を語った。
少女はひたむきに見えた。
ここに来る誰よりも。
閉店後の賄い。
軽い銀トレイの枠に収まる
冷めたおかず、パサパサのご飯。
カチャカチャと鳴る。
日々誰かが消えていた。
朱さんの家に帰らない日も増えた。
ビービーと鳴る鉄格子。
Rinと抱き合う。
同じ背丈。
柔らかい背中。
Rinは甘えること以外は
特別求めてこなかった。
アニメ制作の愚痴。
給料の安さ。
暇つぶしの映画。
白いMacBook。
パンダのロゴ。
部屋から出ずに
デリバリーを頼む。
熱々の鍋、辛口の料理が
心許ないビニールに入って運ばれる。
コンビニで探し回る。
コンドームが翻訳できない。
腹を抱えて笑われる。
カウンターの後ろに堂々と並んでいた。
自分で巻いてみるタバコ。
日によって吸い心地が違う。
汗で湿ったベッド。
身体が重い。
朱さんのマンションに帰る。
父が顔をだす。
何も言ってこない。
朱さんが僕を旅行に誘った。
山東省までの車の旅だった。