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Photo byrina_nomura

二度としないの誠実さ

     私には恋人がいる。付き合ってまだ半年だ。

     先日、私はデリカシーのない発言で彼を傷つけた。それまでテンポの良かったLINEの返信がぴたりと止まり、翌日の朝になって一言だけ、「言われなくてもするよ」と返信が来た。
     ああ、やってしまった、と悟った。
     たった一言。そこに私を咎め、否定するような言葉は一つも入っていないけれど、彼が私に不快感を示したのは初めてのことだったから、それはもうショックだった。

     大切な人を傷つけてしまった罪悪感、嫌われたかもしれないという恐怖、相手を傷つけた側なのに「嫌われたかも」なんて考える利己的な自分への嫌悪感。
     心臓がきゅっとなって、ただただどこまでも申し訳なかった。

     私が「ごめん」と送信すると、コミカルな動きのついた「いいよ!」というスタンプがいつもよりも早い間隔で返ってきた。私が長くやきもきしないで済むように気を使って早めに返信してくれたのだろうし、コミカルなスタンプだって空気を軽くするために選んでくれたのだろう。
     私が彼を好きになった理由がここにつまっているし、このときはそのすべてがありがたく、同時にとてもいたたまれなかった。

     この話はそこで終わりで、それ以降特に触れることもなかった。彼の態度だってこの前後でほんの少しも変化していない。怒られたというにはあまりに些細で、きっと揉めごとのうちにも入らないくらいだ。

     けれど私の中で「彼を傷付けてしまった」というショックはなかなかに尾を引いた。
     なんとかして挽回したかったし、こんなにも反省していて、こんなにもあなたを大事に思っています、というのを伝えたかった。でも今回の一件で私が誠意を示す方法は、「二度としない」ことだけだ。それはすごく地味で、しかも継続することでしか示せない。今すぐ何かしたいのに、「しない」ことしかできないのだ。私はそれが歯がゆかった。

     「二度としない」は難しい。
     お詫びとして何かをプレゼントするとか、言葉を尽くして謝るとか、それも一つの誠意ではある。でもどちらもその場限りの行動で終わりだ。派手だし、わかりやすいけれど、その分簡単なことでもある。
     けれど、「二度としない」はその逆だ。地味だし、わかりにくい。しないことの証明はとても難しいから、時間をかけて、自分の態度で示し続けるしかない。一緒にいる間、ずーっと、「二度としない」が自分の体に染みつくまで。

     付き合ってから今までに何度か、ちょっと深刻な事態になったことがある。彼は私に怒らないから、基本的には私が彼に不満を話す形ばかりだった。それでもそのたびに彼は私の話をちゃんと聞いて、受け止め、「もうしないね」と謝ってくれる。そして態度で「二度としない」を示し続けてくれているのだ。
     一緒にいる間、ずーっと。

     私はひとこと言われただけであんなにショックだったのに、毎回もっとはっきり、しかもがっつり怒られている彼はきっといつももっとショックだろう。毎回私を傷付けたことに私以上に傷付いていたかもしれないし、嫌われたかもと怖くて今すぐ挽回したいといつも思っているのかもしれない。けれどそれでも彼はいつも、「二度としない」をしてくれている。
     地味で、難しくて、とてもエネルギーのいることを、他でもない私のために。

     地味でわかりにくくても、いや、地味でわかりにくいからこそ。
     「二度としない」は一番誠実な愛の形だ。
     もともとわかっていたつもりだったけれど改めて、その難しさと愛の大きさに気付かされた出来事だった。

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