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医療機能の再定義|HRBPの視点から

    こんにちは
    HRBPの濱崎です。
    今日は少々長い内容となっておりますが、医療現場における
    課題や問題点などについて記載させて頂いております。


    「人手不足」は本当に人数の問題か

    医療の現場で「人が足りない」という声を聞かない日はない。経営者も管理職も、その言葉を何度となく耳にしてきたはずだ。
    そして多くの場合、その解決策として採用強化が議論される。
    求人媒体を増やす、人材紹介会社に依頼する、給与水準を上げる。
    確かにそれ自体は間違いではない。
    しかし、採用を重ねても問題が解決しないという経験を持つ経営者は少なくないはずだ。

    なぜか。
    それは、「人手不足」という言葉が、実態とは異なる問題を覆い隠しているからである。

    実際に現場を丁寧に観察すると、特定の医師には患者が集中し、別の医師には余力がある。
    特定の看護師に申し送りや調整業務が集中し、他のスタッフは動いていない時間帯がある。
    事務職のある一人が、誰も把握していない大量の業務を一人で抱えている。このような光景は、人員が不足しているというよりも、人の使われ方が設計されていないことを示している。

    典型的なのは、「この業務は◯◯さんしか知らない」という状態だ。
    長年の経験と慣習の中で業務が属人化し、その人が休めば回らなくなる。
    有給が取れない、育休から戻れない、体調不良でも出勤せざるを得ない。
    これは個人の責任感の問題ではなく、組織として業務を可視化・共有する仕組みが作られてこなかった結果だ。
    こうした構造が積み重なることで、現場は慢性的に「誰かが抜けたら回らない」状態に陥る。

    さらに厄介なのは、この状態が「頑張っている人」によって支えられているため、表面上は機能しているように見えることだ。
    優秀な中堅スタッフが無理をして穴を塞ぎ続けることで、組織の歪みが隠蔽される。
    管理職や経営者から見ると「うまく回っている」に映る。
    しかしその人が限界を迎えて離職した瞬間、組織は一気に機能不全に陥る。問題が顕在化したときにはすでに手遅れ、というパターンが繰り返されるのは、こうした構造に原因がある。

    また、「人手不足」という言葉は、それを口にした瞬間に思考を止める効果がある。「人が足りないのだから仕方ない」という諦念が組織全体に広がると、改善への意欲そのものが失われる。
    問題を「人数の問題」として定義してしまえば、できることは採用しかなくなる。
    しかし問題を「構造の問題」として定義し直せば、打てる手は一気に広がる。
    言葉の定義を変えることが、組織変革の入口になるのだ。

    ここで重要なのは、「構造の問題」を認識することが、誰かの責任を問うことではないという
    点だ。
    現場のスタッフが悪いわけでも、管理職の努力が足りないわけでもない。
    問題はあくまで「設計」にある。
    この視点を持つことで、責任のなすり合いではなく、建設的な改善へと議論が向かう。
    組織変革は犯人探しではなく、設計の更新だという認識を、経営者自身が持ち続けることが出発点となる。

    つまり問題の本質は「量」ではなく「構造」
    にある。
    リソースの総量ではなく、配分と役割設計が機能していないことが、人手不足のように見える状態を生み出しているのだ。

    この前提を見誤ったまま採用を続けるとどうなるか。歪みのある構造の中に新しい人材を投入しても、その人材もまた同じ歪みの中に
    取り込まれる。
    オンボーディングの負荷が増し、教育コストが発生し、既存スタッフの疲弊がさらに進む。
    採用したはずが、むしろ現場が重くなるという逆説が起きる。
    採用は問題の出口ではなく、構造を整えた後に初めて機能する手段なのだ。

    診療報酬制度が生み出すの罠

    保険医療には、他の産業にはない制約がある。価格を自由に設定できないという点だ。
    診療単価は制度によって固定されており、収益を増やすためには患者数を増やすか、業務効率を高めるかという選択肢しかない。

    この制約の中で経営を成立させようとすると、稼働率の最大化が至上命題になる。
    空き時間をなくし、一人でも多くの患者を診る。その判断自体は短期的には合理的だ。
    しかしこの運営方針が長期化すると、組織に深刻なダメージを与え始める。

    まず、教育の時間が削られる。
    新人を丁寧に育てる余裕がなくなり、十分に習熟しないまま現場に
    投入される。
    その結果、フォローする中堅層の負担が増す。中堅が疲弊すると離職リスクが高まり、また採用が必要になる。採用すれば教育コストが発生し、再び現場が重くなる。
    この悪循環は、稼働率を最大化しようとする経営判断そのものが起点になっている。

    さらに深刻なのは、このサイクルが「見えにくい」ことだ。
    短期の数字は回っているため、問題が顕在化するのは離職が相次いだ後、あるいはインシデントが発生した後になることが多い。「あの時期から何かがおかしかった」と後から振り返れても、渦中にいるときはなかなか
    気づけない。
    人が辞めていく速度が、採用できる速度をわずかに上回り続けることで、気づいたときには中堅が根こそぎ抜けていた、という事態が起きる。

    加えて、稼働率優先の文化が定着すると、スタッフが「休むことへの罪悪感」を内面化していく。有給を取れば同僚に迷惑がかかる。体調が悪くても出勤する。
    育休明けのスタッフが「迷惑をかけたくない」と時短勤務を遠慮する。
    こうした空気は制度の問題ではなく、稼働率を最優先にしてきた組織文化が生み出した副産物だ。
    そしてそれが、さらなる疲弊と離職を加速させる。

    もう一つ見落とされがちな問題がある。稼働率の高い状態が続くと、現場では「今のやり方を変える余裕がない」という思考が定着する。
    改善提案が出ても「今は忙しいから後で」となり、その「後で」は永遠に
    来ない。
    こうして組織は、忙しいがゆえに改善できず、改善できないがゆえにさらに忙しくなるという、二重の罠に陥る。
    この状態を打破するには、経営判断として「改善のための時間と余白を意図的に作る」という決断が必要だ。
    現場任せにしている限り、余白は生まれない。

    診療報酬制度の制約は変えられない。だからこそ、その制約の中でいかに組織を持続させるかという設計の問いが、経営の中心に置かれなければ
    ならない。

    専門職集団特有の「見えない権限空白」

    医療機関は、高い専門性を持つ職種の集合体である。
    医師・看護師・コメディカル・事務職、それぞれが専門的なトレーニングを経て業務にあたっている。
    この専門性は組織の強みである一方で、特有の機能不全を生みやすい。

    最も典型的なのが、権限と責任の不一致だ。
    現場で日々の業務を実際に回しているのは看護師や事務職であるにもかかわらず、意思決定の権限は上位職にある。
    現場が「この方が効率的だ」と気づいていても、変えられない。
    一方、意思決定者は現場の実態を十分に把握していないため
    判断がズレることもある。
    この構造の中では全体最適は生まれない。
    部分最適の積み重ねが、かえって全体の非効率を固定化させる。

    よくある光景として、現場の看護師が「この書類の処理、絶対もっと効率化できるのに」と感じながら何年も同じやり方を続けているケースがある。
    提案しても「今は忙しいから」と流され、やがて提案すること自体をやめてしまう。
    組織の中で改善の芽が摘まれ続けると、現場は「どうせ変わらない」という無力感を内面化していく。これが蓄積すると、離職率の上昇や、指示待ち文化の固定化として表れる。

    また、職種間の「壁」も見逃せない問題だ。
    医師・看護師・コメディカル・事務それぞれが自分の職域を守ろうとする傾向は自然なことだが、それが行き過ぎると「自分の仕事ではない」という意識が連携の障壁になる。
    患者を中心に据えた視点で考えれば、職種の境界線は本来柔軟である
    べきだ。
    しかし組織としての設計がなければ、その柔軟性は発揮されない。

    また、医療は院内だけで完結しない。訪問診療、在宅医療、介護との連携が不可欠であるにもかかわらず、実態としてこれらの領域は分断されていることが多い。
    その皺寄せはどこに行くか。特定の担当者の「調整力」と「人間関係」に依存する形で、かろうじて機能が維持される。
    その人が異動や退職をした瞬間、連携が崩壊する。

    これは個人の問題ではなく、仕組みが設計されていないことの問題だ。
    誰が抜けても機能が維持できる構造を意図的に作らない限り、組織は特定の人材に依存し続け、リスクを内包し続ける。

    また、評価制度の不在や曖昧さも、こうした構造問題と深く連動している。医療機関では定量的な評価が難しい業務が多く、結果として評価基準が不透明になりやすい。
    「頑張っているのに評価されない」「なぜあの人が昇給したのか分からない」といった不満が積み重なると、優秀なスタッフほど見切りをつけて離職する。
    残るのは現状に不満を持ちながらも動かないスタッフ、という
    逆選択が起きる。
    評価制度の整備は、離職防止と組織の質の維持という両面から不可欠な
    課題だ。

    さらに言えば、評価の問題は単に制度を作ればよいというものでもない。
    評価制度が存在しても、評価者のスキルが伴っていなければ機能しない。「何となく印象で決まっている」と感じさせる評価は、制度がない場合よりもむしろ不信感を生む。評価者が部下の業務実態を正確に把握し、フィードバックを丁寧に行える状態を作ることが、制度と並走して求められる。

    人件費はコストでない

    経営会議で人件費率が話題になるとき、多くの場合それは「削減すべきコスト」として議論される。しかしこの見方は、問題の本質を見誤らせる。

    医療は労働集約型のビジネスであり、価値の源泉は人そのものにある。
    人件費は単なる費用ではなく、組織がどのように機能しているかを映し出す指標だ。
    特定の職種の人件費が突出して高い場合、それはその職種に業務が集中していることを示している。
    逆に、ある職種の稼働率が低い場合は、役割設計に余白があることを
    意味する。

    つまり、人件費率は結果の数値ではなく、構造の結果として読むべき
    指標だ。
    数値を見てコストを削ろうとするのではなく、その数値が示している構造の歪みを診断することが先決である。

    例えば、看護師の残業代が慢性的に高止まりしている医療機関が
    あったとする。
    コスト削減の発想から残業を制限しようとすれば、現場は業務が
    終わらないまま退勤するか、サービス残業が増えるかという選択を
    迫られる。
    しかし本来問うべきは「なぜ残業が発生し続けているのか」という
    構造の問いだ。
    看護師に集中している業務の中に、他職種でも対応できるものがあるのではないか。
    記録業務の効率化で削減できる時間はないか。
    この視点なしに数値だけを操作しても、問題は解決しない。

    地方の医療機関においては、この問題がさらに複雑になる。
    採用競争力を維持するために給与水準を上げざるを得ないが、それは個別の経営努力の問題ではなく、市場構造に起因している。
    隣の病院が給与を上げれば、こちらも追随せざるを得ない。
    この競争は、規模の小さな医療機関ほど消耗が大きい。
    給与競争に勝てない医療機関が採用難に陥り、残ったスタッフへの負荷が増し、さらに離職が進むという負のスパイラルは、地方の中小医療機関にとって切実な問題だ。

    さらに人材紹介会社への依存が加わると、採用のたびに高額の紹介手数料が発生し、離職が起きれば再度同じコストが必要になる。
    人材紹介会社経由で採用した人材が短期で離職し、また同じ人材紹介会社に依頼するというサイクルに入ると、コストは際限なく積み上がる。
    このモデルを続ける限り、採用コストは「投資」ではなく「浪費」に近い性質を帯びていく。

    解決策は採用コストの圧縮だけではない。
    既存の人材をいかに活かすか、すなわち組織設計によって採用に依存しない体制を作ることが、長期的なコスト構造の改善につながる。
    採用チャネルの多様化(ハローワーク、自院ホームページ、SNS採用、リファラル採用など)と、内部育成の強化を並走させることで、紹介会社依存を段階的に減らしていくことが現実的なアプローチになる。

    タスクシェアリングとは

    単純な人員補充ではなく、業務の再設計=タスクシェアリングの視点が極めて重要になる。

    まず医師でなくても対応可能な業務が医師に集中しているケースは多い。
    書類作成、患者への定型的な説明、検査結果の一次確認といった業務が、医師の時間を大量に消費している。
    それを適切に再配分することで、医師は本来担うべき高度な判断や診療に集中できる。

    しかしここで注意が必要なのは、タスクシェアリングは「誰でもできる仕事を押しつける」ことではないという点だ。
    各職種の専門性を前提とした上で、「この業務はどの職種が担うことが最も価値を生むか」という問いに答える設計行為だ。
    看護師が本来の看護業務に集中できれば、患者へのケアの質が上がる。
    事務職が診療補助的な業務から解放されれば、患者対応や請求業務の精度が上がる。
    全体として、組織が出せる価値の総量が増える。

    タスクシェアリングを実現するためには、まず現状の業務を可視化することが前提となる。
    誰が何をどの程度の時間担っているのかを棚卸しし、「本来この職種がやるべきか」という問いを一つひとつの業務に当てていく。
    この作業は地味で時間がかかるが、これをやらない限り再設計は絵に描いた餅になる。
    また、再配分された業務を受け取る側の職種が、それを「仕事を押しつけられた」と感じないためのコミュニケーションと合意形成も欠かせない。設計と並走して、関係者の納得を作っていくプロセスが必要だ。

    また、タスクシェアリングは一度実施すれば終わりではない。
    業務量や患者数、スタッフの構成は常に変化するため、定期的に見直しを行うことが求められる。
    「半年前に決めた役割分担が今の現場の実態と合っていない」という状況は頻繁に起きる。
    設計したものを固定化せず、柔軟に更新し続けるサイクルを組み込むことが、タスクシェアリングを生きた仕組みにするための条件だ。

    効率化のための手段ではなく、価値創出のための構造設計として捉えることが、タスクシェアリングの本質的な意義だ。

    HRBPは何をする人か 

    ここまで述べてきた構造的課題に対して、どのようなアプローチが有効か。その中心的な役割を担うのがHRBP(HRビジネスパートナー)である。

    しかし、HRBPは採用担当の上位職でも、制度を管理する人でもない。
    組織の構造を読み解き、再設計し、現場に落とし込む実行者だ。
    その仕事は、大きく三つのフェーズに分けられる。

    第一は、実態の把握だ。 組織の問題は、データだけでは見えない部分が
    多い。
    誰がどの業務をどの程度担っているのか、どこに負担が偏っているのか、なぜその状態が続いているのか。
    これを把握するには、現場に入り込み、観察し、対話することが不可欠だ。会議室の中で数字を眺めているだけでは、本当の課題は見えてこない。
    スタッフが「なんとなくしんどい」と感じている背景に、具体的にどの業務がどう積み重なっているのかを言語化することが、出発点となる。
    離職した人間がいれば、その理由を表面的な言葉だけで受け取らず、「なぜそう感じるようになったのか」という経緯まで遡って理解しようとする姿勢が求められる。
    退職者へのヒアリングを在職中に行うことが難しい場合でも、退職後しばらく経ってから話を聞く機会を作るだけで、組織が見えていなかった課題が浮かび上がることがある。

    第二は、構造の設計だ。 実態を把握した上で、業務の再配分(タスクシェアリング)、役割の明確化、情報共有の仕組み化、評価制度の整備といった設計を行う。
    ここで重要なのは、理想論ではなく現実の制約の中で機能する設計をすることだ。
    完璧な制度を一気に導入しようとすれば、現場は混乱し反発する。「まずここだけ変えてみる」という小さな起点から始め、優先順位をつけ、段階的に整えていくことが求められる。
    設計の質よりも、現場が「これなら動かせる」と思えるかどうかの方が、実際には重要だ。どれだけ理論的に正しい設計であっても、現場が動かなければ存在しないのと同じだ。

    第三は、継続的な調整だ。 制度や仕組みを設計しただけでは終わらない。それが現場で実際に機能しているかを観察し、機能していない部分を修正し続けることが必要だ。
    組織は生き物であり、設計した瞬間から環境が変わり始める。
    HRBPの仕事に「完成」はなく、常に現場との対話の中でアップデートを続けることが求められる。
    この継続性こそが、HRBPの最も本質的な価値だ。単発のプロジェクトとして組織改革を捉えるのではなく、組織と共に伴走し続ける存在として機能することが、長期的な成果につながる。

    現場との信頼なくして、設計は機能しない

    HRBPが直面する最大の壁は、技術的な問題ではなく信頼関係の構築だ。どれだけ論理的に正しい設計をしても、現場がそれを「外から押しつけられたもの」と感じた瞬間、形骸化する。

    特に医療機関においては、現場の専門職が高い自律性と誇りを持っている。その文化の中に入り込み、「この人は現場のことを分かっている」と思ってもらえるかどうかが、改革の成否を分ける。

    そのためには、まず聴くことから始めるしかない。課題を指摘する前に、現場が何に困っているかを丁寧に聴く。
    改善策を提案する前に、なぜ現状の形になっているのかを理解する。長年その形でやってきたことには、必ず理由がある。それを頭ごなしに否定せず、「なるほど、そういう経緯があったんですね」と受け取ることが、信頼の入口になる。

    信頼構築において見落とされがちなのが、「約束を守る」という当たり前のことだ。
    「検討します」と言ったら必ず持ち帰り、結果を報告する。
    「改善する」と言ったら実際に動く。
    小さな約束の積み重ねが、「この人は言ったことをやる」という信頼につながる。
    逆に、言いっぱなし・やりっぱなしを繰り返せば、現場はどれだけ良い提案をされても「どうせ何も変わらない」と感じてしまう。
    HRBPの信頼は、言葉ではなく行動によってしか積み上げられない。

    また、HRBPは「組織全体を見ている立場」であるがゆえに、特定の部署や職種の肩を持つように見られることを避ける必要がある。
    「HRBPはいつも看護師の味方だ」「事務職の意見ばかり聞いている」と受け取られた瞬間、他の職種との信頼関係が損なわれる。フラットな立場を保ちながら、それぞれの職種の視点を等しく拾い上げる姿勢が求められる。
    これは実際には難しいことだが、意識的に取り組み続けることが重要だ。

    また、小さな成功体験を積み重ねることも重要だ。
    一つの会議の進め方を変えてみる、一つの申し送り書式を整理してみる。
    そういった小さな変化を現場が実感することで、「変わることは悪くない」という空気が少しずつ生まれる。大きな改革は、その積み重ねの先にしか存在しない。

    組織が変わるとはどういうことか 

    組織改革において、最も誤解されがちなのが「変化の速度」についての
    認識だ。
    経営者は往々にして、変化を急ごうとする。
    課題が明確になれば、すぐに手を打ちたくなる。
    それは当然の感覚だが、組織変革においてスピードを優先しすぎることは、かえって変化を遅らせる。

    現場は変化に対してエネルギーを消費する。
    日々の業務をこなしながら、新しいやり方を覚え、慣れ親しんだ手順を変え、不確実性と向き合う。
    それは決して小さな負担ではない。
    変化のペースが現場の吸収速度を超えたとき、スタッフは疲弊し、表面上は従いながらも内面では抵抗する。
    その結果、制度は導入されたが誰も使っていない、という状況が生まれる。

    では、どう進めるか。答えは「変化の順序を設計する」ことだ。何を最初に変え、何を後に回すか。
    誰を最初に巻き込み、どのタイミングで全体に展開するか。変化のロードマップを描き、現場の負担を分散させながら進めることが、結果として最も速く組織を変える方法になる。

    また、変化に際して見落とされがちなのが「現場の感情」への配慮だ。長年の慣習を変えることは、それまでのやり方を否定されるように感じるスタッフにとって、感情的な抵抗を生む。
    「今までのやり方が間違っていたわけではない。環境が変わったから、やり方を更新する」という文脈を丁寧に伝えることが、変化への受け入れを促す。変化のロジックだけでなく、変化のナラティブを設計することが、HRBPの重要な仕事の一つだ。

    「人を増やす」から「人を活かす」へ

    最終的に伝えたいことはシンプルだ。

    「人を増やすこと」と「人を活かすこと」は、まったく別の問題だ。

    同じ人員であっても、適切に配置され、役割が明確で、情報が流れ、評価が納得できるものであれば、組織のパフォーマンスは大きく変わる。
    逆に、どれだけ人を増やしても、構造が歪んでいれば問題は解決しない。
    むしろ増えた人数分だけ、歪みの影響を受ける人間が増えるだけだ。

    「人を活かす」という発想は、スタッフへの敬意とも直結している。
    せっかく入職した人材が、機能しない構造のせいで力を発揮できないまま疲弊し、去っていく。
    これは組織にとっての損失であるだけでなく、その人の職業人生にとっても損失だ。
    構造を整えることは、コスト削減や効率化のためだけではない。
    働く人が「ここで働いてよかった」と思える環境を作ることでもある。その視点を経営の中心に置けるかどうかが、中長期的な組織の強さを決める。

    医療という仕事は、本来やりがいに満ちたものだ。人の命と健康に関わり、感謝される機会も多い。
    しかし構造が機能していない組織の中では、そのやりがいが消耗感に上書きされていく。
    「なんのためにこの仕事をしているのか」という問いが生まれる前に、組織としての基盤を整えることが、スタッフが本来の仕事に向き合える条件を
    作る。

    また、組織の構造が整っていることは、採用広報という観点からも重要な意味を持つ。
    求職者は「給与」だけでなく「働きやすさ」や「成長できる環境か」を重視するようになっている。
    口コミサイトや現職スタッフからの評判が採用に直結する時代において、職場の実態が評判として外部に伝わることは避けられない。
    「あの病院は人が定着している」「スタッフが生き生きしている」という評判は、採用競争においてどんな求人媒体よりも強力な武器になる。
    逆に「すぐ辞める」「ブラックだ」という評判は、どれだけ給与を上げても払拭するのが難しい。
    組織を整えることは、内部の問題を解決するだけでなく、外部への発信力にも直結するのだ。

    医療機関における組織課題は、構造・業務・コミュニケーション・評価が複雑に絡み合っている。
    だからこそ、部分的な対応ではなく、全体を俯瞰した上での設計が必要であり、その中心にHRBPの役割がある。

    そして最後に、経営者・管理職に問いかけたいことがある。あなたの組織の「人手不足」は、本当に人数の問題か。
    それとも、構造の問題が「人手不足」という言葉に置き換えられて
    いないか。
    その問いに正直に向き合うことが、組織を変えるための最初の一歩になる。

    変化は一夜にして起きない。
    しかし、問いを立てた瞬間から始まる。経営者が「採用で解決しようとしていた問題は、実は設計の問題ではないか」と気づいたとき、組織は変わり
    始める。
    その問いを持ち続け、現場と対話しながら少しずつ設計を更新していくことが、持続可能な医療機関を作る道筋だ。

    医療は人で成り立ち、人で崩れる。

    この前提に立ったとき、人事機能はサポート部門ではなく、
    経営そのものだ。
    HRBPという役割を通じて人事機能を再定義し、組織全体の最適化を
    図ること。
    それが今後の医療機関経営において、避けては通れないテーマである。


     
     
    HRBP|人事組織支援。採用・制度・人件費・組織設計まで伴走。医療/成長企業の組織改善が強み。 50歳となり・・更にスピードをあげて・・ #HRBP #医療法人 #採用 #組織改善 #医療

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