
雨と犬
はっきりと、斜めに線が視覚化されるほど、強い雨だった。まだ昼なのに、あたりは薄暗い。傘で身を守っているため視野も狭い。
雨の音が強く、私の思考は低下していたと思う。ある種の催眠状態のように。
1匹の犬が男性に抱えられている。白い小型犬だ。犬種に詳しくない私には、それ以上の情報は引き出せない。
その犬が居る空間だけが、やけに色づいて見えた。光度が高かった。周りは変わらずに薄暗い。雨の音だけ聞こえるている。
犬は一瞬、こちらを見た。いや、私の勘違いかもしれない。そんな一瞬の間に、彼と私の間に、太い情報の束が繋がった。なんだかとても静かで満ち足りた「気持ち」が伝わってきたのだ。
「幸せとはこのようなものだよ」と、言葉ではなく態度で彼は語る。まるで熟達した仙人のように。
人は自分の外側を見てしまう生き物だ。他者と比較し、差を見つける。その結果として、幸せではないという気持ちを作り出してしまうことが多い。不幸になることが人の得意技なのだ。
完璧さ。それだけさ。
私がこうして、幸せだのなんだのと名指すことすら、その完璧さを汚してしまう。そういった何かの象徴に見えた。
もう一度、犬の方を見るともう姿はなかった。後には水たまり。そして、雨の音。
水たまりに向かって、感謝したくなった。その衝動はとても自然で内側からのものだ。私の身体だけでなく、まるで雨や空間の全体に静かな余韻が残っているようだった。
雨の中での一瞬の出会い。神や奇跡とは、気づきの視線さえあれば、ありふれた日常に宿るのだろう。