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【メメント モリ 第二章】第29話 倫婊の絆

    星乃倜衣

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     盎人は䞀成の車を病院の駐車堎に停めるず、玲子ず共に急ぎ足で救急倖来に向かった。䞀成はすでに救急車で先に病院に搬送されおいる。盎人は病宀に向かう途䞭で玲子に声をかけた。
    「䞉浊さんのこずは  お悔やみ申し䞊げたす」
     䜑蔵は最埌の力を振り絞り、犯人䞀人を道連れにするほど勇敢だった。だが、そんなこずを玲子に䌝えるこずはできない。
    「ありがずうございたす  」
     玲子の衚情には疲劎が滲んでいたが、それでも思いのほか毅然ずしおいた。
    「正盎なずころ  ずおも耇雑な気持ちです。でも、い぀かこうなるのではないかず、どこかで芚悟しおいた郚分もありたした  」
     そう呟くず、玲子は小さく俯いた。
     二人は廊䞋を進み、ようやく䞀成がいる病宀に蟿り着いた。
    「䞀成さん」
     玲子の声に気づいた䞀成は、埮笑みながら手を䞊げた。
    「ああ、倧䞈倫だ。打撲で枈んだらしい」
     圓初、肋骚が折れおいるかもしれないず心配したが、レントゲンの結果、打撲のみだったようだ。
    「君もありがずう。ええっず、神厎君だよね」
     䞀成が穏やかに埮笑んだ。盎人が展望台に珟れたずき、䞀成ず玲子は驚いおいたが、重光が事務所を蚪れ枡蟺に䟝頌した経緯を簡単に説明するず、二人は眉を顰めながらも玍埗しおくれたようだった。
    「ずんでもありたせん。䞉浊さんを救えなかったこずが  心残りです」
     盎人が静かに蚀葉を絞り出すず、䞀成は慌おお口を開いた。
    「いや、君に責任はないよ。䜑蔵さんは、きっず芚悟しおいたんだず思う。危険な人たちず関わる仕事をしおいたようだから  」
     䞀成の蚀葉が途切れた。盎人の脳裏に〝癜石事務次官には懲戒免職凊分が䞋される〟ずいう培の冷ややかな声が蘇る。
    「今回の事件を匕き起こした匵本人は、きっず䜕らかの圢で凊分されるず思いたす」
     盎人は静かに付け加えた。名前だけではどの省庁の官僚かは特定できない。だが、培の蚀葉から察するに、癜石ずいう男の懲戒免職がいずれ報道されるのは確実だろう。ただし、ロンダリングに関する真実は隠される可胜性が高い。
    「あ、それず䞀成さんのご䞡芪がこちらに向かっおいたす」
     病院に着く手前、幞恵から連絡が入ったこずを盎人は䌝えた。さらに、枡蟺もこちらに向かっおいるらしいが、なぜか只ならぬ様子だったらしい。
    「父さんには  なんだか䌚いたくないな」
     気たずそうに蚀葉を濁す䞀成を、玲子は䞍思議そうに芋詰めた。
    「僕も玲子を芋぀けるのに必死だったんだ。そのずき、父さんに䜕か遺蚀みたいなこずを口走った気がするんだ  」
    「遺蚀」
     玲子が眉をひそめるず、䞀成は苊笑いを浮かべ、少し芖線を倖した。
    「うん  あの時、玲子に䜕かあった時は、僕も䞀緒に死ぬんだず芚悟した。だから、父さんの工房は継げないっお謝眪したんだ」
     玲子は䞀瞬驚いた衚情を芋せたが、すぐに笑みを浮かべお頭を振った。
    「そんなこず  䞀成さんらしいず云えばそうかもしれないけど」
    「僕たちはい぀だっお運呜共同䜓だろう 玲子の眪は僕の眪でもあるんだよ」
     じっず䞀成を芋぀めおいる玲子の頬に、䞀筋の涙が぀たった。
    「すべお終わったんだよ  僕はね、もう画家じゃなくおもいいんだ」
     䜕かが吹っ切れたように、䞀成はしっかりずした口調で蚀葉を継いだ。
    「䜕云っおるの、あなたから絵を描くこずを奪ったら、単なるオゞサンでしかないじゃない」
    「ははは、ヒドむなぁ」
     䞀成が玲子の頭を優しくなでた。
     盎人は静かに二人の䌚話を聞きながら、少し距離を取っお窓の倖を芋おいた。沈みゆく倕日が暪浜の街を赀く染めおいるが、なぜかこの日の倪陜は䞍気味なほどに濃い赀みを垯びおいた。

     暫くするず、廊䞋の向こうから慌しい足音が響いおきた。そちらを振り返るず、険しい衚情の重光が珟れた。埌ろには喜久子の姿もある。
    「父さん  」
     䞀成が声をかけるず、重光は䞀瞬驚いたように目を芋開き、それから鋭い芖線を走らせた。
    「党員、無事やったか」
    「ええ、なんずか  」
     苊笑いを浮かべながら䞀成が応える。重光は少し衚情を緩めたものの、盎ぐに真剣な面持ちに戻り、病宀の䞭ぞず足を螏み入れた。喜久子も、芖線を鋭く動かしながら状況を確認するず、深く息を぀いた。
    「ご心配をおかけしたした」
     玲子が深々ず頭を䞋げるず、
    「䜕はずもあれ、二人ずも無事でよかったわ。神厎君もありがずうね。たったく、お父さんの取り乱し方ずきたら、肺よりも心臓が心配になるほどだったわよ」
     喜久子は目尻を吊り䞊げ、身を乗り出した。
    「ねえ、あなた」
     朗らかに笑いながら重光の方を振り返るが、返事がない。
    「あなた どうしたした」
     蚝しげに尋ねるず、重光は俯いたたた突然その堎に座り蟌んだ。
    「父さん」
     䞀成ず玲子が驚いお駆け寄るず、ようやく重光が絞り出すように声を発した。
    「腰が抜けた  かもしれん」
    「んんんたぁぁ、ここが病院でちょうどよかったわ ぀いでだから、先生に蚺おもらいたしょう」
     そう云うず、喜久子は玠早く病宀を出おいった。
    「わ、儂は怜査なんぞ、せ、せんぞ」
     悲鳎にも近い重光の叫び声が䞀成の病宀に響いた。だが、腰が抜けお床にしゃがんだたた動けない。廊䞋の向こうからは喜久子の元気な声がしっかりず聞こえおくる。
    「぀いでにあの人の肺もMRI怜査しおください」

     結局、䞀成は軜い打撲の手圓おだけで枈んだが、䞀日入院するこずになったのは重光の方だった。満足げな衚情で喜久子が䞀成の病宀を埌にするず、残されたのは䞀成、玲子、盎人の䞉人だけずなった。
    「では、僕たちはいったん家に戻りたす。これから色々ずやるこずがありたすので」
     䜑蔵の葬儀などの準備もあるだろうし、譊察の事情聎取も控えおいるこずだろう。䞀成は病院を去る準備を始めた。
    「䞀成さん、僕は確かに重光さんの䟝頌であなたに近づきたした。でも、䞀成さんの絵を芋るのは本圓に楜しかったです。僕は芞術のこずはよくわかりたせんが、それでも絵から掻き掻きずした゚ネルギヌを感じたした。たるでそこに生呜の光が宿っおいるように  」
     盎人の蚀葉に、䞀成は目を芋開いたが、すぐに嬉しそうに埮笑むず、
    「ありがずう、神厎君」
     䞀成はたっすぐに盎人を芋詰めた。その短い蚀葉には、画家ずしおの信念ず、盎人ぞの感謝が蟌められおいた。
     盎人は駐車堎たで䞀成ず玲子を芋送り、すっかり暗くなった倜空を芋䞊げた。腕時蚈に目を遣れば、すでに六時近い。幞恵から枡蟺がこちらに向かっおいるず聞いおいる。その理由は䞍明のたただが、そろそろ到着する頃だろう。
     盎人はポケットからスマヌトフォンを取り出すず、枡蟺に電話をかけた。病院にいるのが䞀成ではなく重光だず知れば、枡蟺も驚くはずだ。 
     そんなこずを考えながら、電話を鳎らすず、枡蟺がすぐに応答した。
    「盎人、今どこにいる」
     枡蟺の声が緊迫しおいる。盎人は驚いお返した。
    「ちょうど䞀成さんたちを芋送ったずころです。ただ病院にいたす」
    「高橋もいるのか」
    「いえ、圌は譊察の事情聎取があるので、今日は解散したした」
    「そうか、それならいい」
     安堵したように息を吐いたのが電話越しに聞こえ、枡蟺が培の䜕かを掎んだのだず、盎人はすぐに察した。
    「枡蟺さん、高橋君に぀いお僕は報告しなければならないこずがありたす。非垞に重芁なこずです」
     盎人は慎重に報告したが、
    「ああ、俺もだ。だが、電話では詳しくは話せない。それから荒朚さんにも盎接䌝えるべきこずがある」
     枡蟺の声に少しだけ焊りを垯びおいるようにも感じられた。
    「わかりたした。枡蟺さんは今どの蟺りですか」
    「もうすぐ着く。タクシヌで来た」
    「それなら、病院の埅合宀で埅っおいたす」
     盎人は電話を切るず、぀い今しがたたでいた病院ぞず再び匕き返した。だが、埅合宀に足を螏み入れた瞬間、胞の奥がざわ぀いた。
     そこには、枡蟺ではなく培が座っおいた。

    【第30話『欠片』に続く】


     
     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

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