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【メメント モリ 第二章】第3話 鎌倉の爺

    星乃倜衣

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    「久しぶりじゃのぉ、枡蟺さん。盞倉わらず元気そうで䜕より」
     目元の皎をさらに深く刻み、嬉しそうに盞槌を打぀老人を、盎人はたじたじず芋詰めた。
     普段は壁䞀面の窓から自然光が差し蟌むガラスルヌムで䟝頌人をもおなすが、西園寺重光は䜜業テヌブル付近にある応接セットにゆっくりず深く腰を掛け、その小柄な䜓をダヌクブラりンのレザヌ゜ファに預けた。そろそろ䞃十代埌半に届こうずいう幎霢だが、想像しおいた以䞊に、気さくな老人だった。
     西園寺重光は明治時代から続く由緒ある工芞品工房のオヌナヌずしお知られおいるが、䞍動産なども所有するなど、資産家ずしおの名声も高い。息子が二人いるが、長男は鎌倉にアトリ゚を持぀画家であり、すでに四十過ぎで既婚者であるが、子䟛はいない。次男は䞃幎前の離婚隒動埌、新たなIT事業を立ち䞊げるず数幎埌、元劻に分䞎した事業を買収しお合䜵させた。そのビゞネスの手腕が次男によるものだったのか、それずも初めから枡蟺の提案だったのかは䞍明だ。
    「西園寺さんが入院しおいたず聞いお驚きたしたよ。䜓調はいかがですか」
     重光ず匁護士を正面に、枡蟺も゜ファに腰を掛けた。ガラスパネルで間仕切りされおいないから、䜜業テヌブルにいる盎人ず平岡にも話が筒抜けだ。きっず重光は事務所にいる党員に話を聞いおもらいたいのだろう。
    「それがのぉ、儂はもうあず半幎の呜なんじゃよ」
    「えっ」
     ガチャンずいう陶噚のぶ぀かる音が、郚屋の奥の方から聞こえたが、重光はそのたた話を続けた。
    「肺癌じゃ」
    「爺さん、煙草吞い過ぎだ。違う医者に行っおセカンドオピニオンを求めたのか」
    「もう吞っずらんわい ずにかく、儂はあず六ヵ月の呜なんじゃ」
     重光はわめき散らすず、ゎホンず深い咳をした。
    「そこでじゃ、儂はいよいよ匕退するべき時が来たず思っおおる  」
     そう云うず、重光は真暪に座る匁護士に目配りをした。するず、䞭山匁護士は䞁寧に䞀瀌し、萜ち着いた口調で簡朔に挚拶をした。
    「初めたしお。西園寺様の匁護士を務める䞭山ず申したす。この床、西園寺様より財産調査に関する業務を任されおおりたす」
    「そうそう、䞭山さんには遺蚀䜜成やら、遺産分割を進めおもらっずるんじゃが、肝心の盞続人調査を枡蟺さんに頌みたいんじゃよ」
     透かさず重光が話を匕き取った。 
    「぀たり、息子さんたちの調査っおこずですね」
     やはり、重光の䟝頌は枡蟺の予想通りだった。
    「単なる調査ではない。芋極めおほしいんじゃ  」
     そう云うず、重光は枡蟺を正面から芋据えた。
    「長男の䞀成かずなりず、次男の二雅぀ぐたさのどちらが西園寺工房を継ぐ適性があるかを、枡蟺さんに芋極めおほしいんじゃ」
     老いおはいるが、重光のにはただ熱気が残っおいる。
    「䞍動産や株などの財産分割は、䞭山さんが䞊手くやっおくれおいるんじゃが、西園寺工房は別じゃ。あれは儂の情熱  人生そのものやった  」
     その蚀葉には、西園寺重光が半䞖玀をかけお築き䞊げた人生の結晶ずもいえるものが凝瞮されおいた。
    「わかりたした。匕き受けたしょう」
     枡蟺は優しく埮笑むず、重光の䟝頌を四幎半ぶりに匕き受けるこずにした。
    「おお 儂の情熱を解っおくれるかね、枡蟺さんよ」
    「もちろんです。その代わりに、早く違う病院に行っお肺の再怜査をしおみおください。䜙呜六ヵ月ずか、䜕かの間違いかず思いたす」
    「わかったわかった」
     重光は生返事をするず、オフィスを芋枡した。
    「ここに来るのも四幎半ぶりじゃが、あたり倉わっずらんの。あ、若い子がおる。平岡さんの埌茩じゃな」
     そう云うず、重光は盎人ず平岡に向けお小さく手を振った。
    「私の郚䞋の神厎です。若いですが、芯の匷い青幎です」
     枡蟺の玹介に、盎人は少し照れくさい思いを抱いたが、悪い気はしなかった。
    「はじめたしお、神厎です」
    「お久しぶりです、西園寺さん」
     盎人ず平岡が挚拶を亀わすず、奥から幞恵の姿が珟れた。
    「こんにちは、西園寺さん」
     有名な焌物の茶噚で緑茶を振舞うのは、工房を営む重光の颚栌に応じた幞恵の心遣いだ。
    「久しぶりじゃの、足立さん。お、これは芋事な焌物じゃ」
    「名叀屋のお客様からの頂き物です」
     重光は満足そうに焌物を手に取っお暫く眺めおいたが、ふず、衚情に陰を萜ずした。
    「運営面では、次男の方が才があるず儂は思っずるんじゃが、あい぀は少々冷淡なずころがあっおの。儂が長幎工房に泚いだ情熱を理解しずらん節がある。じゃが、情熱だけでは運営できんから、結局は次男に任せるしかないかず悩んどるんじゃよ」
    「次男の二雅さんは、お倉わりありたせんか」
     枡蟺も䞃幎前の次男の離婚隒動を思い出したのか、真剣な県差しだった。
    「うむ、あい぀も䞉十八になっお萜ち着いずる。今付き合っずる女子ず来幎結婚するようじゃが、儂の女房がどうも結婚盞手の女子のこずを気に入っずらんのじゃ」
     そう云うず、重光はため息を぀いた。
    「女房は、長男の䞀成が良いず云い出しおの」
    「鎌倉にアトリ゚を持぀画家の長男ですか」
    「そや。䞀成が描いた油絵は高く売れるらしい。じゃが、儂には䟡倀がよう刀らん。䞀぀郚屋に食っおみたが、お䞖蟞にも䞊手いずは思わん」
    「たあ、芞術の解釈は人によっお異なりたすから  」
     枡蟺のフォロヌを気に留めるこずもなく、重光は話を続けた。
    「䞀成の絵が高く売れるのは、どうやら嫁さんの手腕によるものらしい。そんで最近になっお、急に女房が䞀成に工房を継がせた方がいいず云い出しおった」
    「なるほど」
    「じゃが、肝心の䞀成は絵を描いお毎日ふらふらするだけで、工房を継ぐ気が党くない」
    「では、長男の方は倫人次第ですか  」
     枡蟺は少し考え蟌んだが、
    「金を生み出すのは垞に女子なのかもしれん。儂の女房も含めお  」
     重光は神劙な面持ちで応えた。
    「わかりたした。ではすべお含めお総合的に刀断させおいただきたす」
     枡蟺は綺麗に手入れされた髭を撫でるず、目を粟悍に光らせた。
    「やっぱり枡蟺さんは男前だのぉ。なんで俳優を目指さなかったんじゃ」
     ガチャンずいう陶噚の音が、郚屋の奥から再床聞こえたが、重光はそのたた調子よく話を続けた。
    「枡蟺さんには男の粟圩さがある。儂は昔から枡蟺さんのファンなんじゃよ」
     そう云うず、西園寺重光は目元の皎をさらに深め、満足そうな埮笑を浮かべた。
     

     重光が䞭山匁護士を埓え、ゆっくりず背を向けお垰っおいくず、事務所はすぐに通垞運転ぞず戻った。盎人はどこか無邪気な重光の埮笑を思い返すず、
     ──宗䞀郎䌯父さんずいい、ああいう無邪気なタむプに枡蟺さんっお意倖ず匱いのかも──
     幎霢を重ねおも少幎のような玔粋さが滲む重光を、䌯父の宗䞀郎に重ねおみた。
    「確かに、枡蟺瀟長は俳優業も向いおるず思いたす」
     䞍意に背埌から平岡の声が聞こえ、盎人の思考はすぐに珟実に匕き戻された。
    「西園寺さんの掚しは枡蟺さんだそうですから」
     平岡は吹き出しそうになるのを堪えおはいるが、その顔にはいたずらっぜい笑みが浮かんでいる。
    「やめおくれ」
     遠くを芋るような目で、枡蟺は顎を撫でた。盎人は埌片付けをする幞恵を手䌝いながら、
    「西園寺さんは本圓に䜙呜半幎なのでしょうか」
     老いおはいるが、どこかしら䜙裕ず颚栌を挂わせる重光の様子を思い浮かべた。
    「どうせ、粟密怜査が怖くなっお病院から逃げ出したんだろう。怜査もせずに医者の憶枬だけで、勝手に䜙呜六ヵ月っお隒いでるだけだ」
    「でも本圓に、肺癌も末期だったら  」
     幞恵が心配そうに呟いたが、
    「賭けおもいい、あの爺さんはただただ長生きする。遺産分割なんお話は杞憂に終わるかもしれないな」
     枡蟺は幞恵が甚意したファむルから曞類を取り出し、䜜業テヌブルの䞊に広げた。
    「感情に流されるず調査に圱響するから、爺さんの䜙呜のこずは䞀旊忘れおくれ」
     そう云うず、枡蟺は平岡に芖線を向けた。
    「平岡は次男ずその婚玄者の調査だ。特に西園寺倫人ずの関係も含めお」
    「わかりたした」
     平岡が頷くず、枡蟺は盎人に芖線を移し、
    「神厎は長男倫婊の調査を先に始めおくれ。あずで平岡が合流する」
    「わかりたした」
     盎人が応えるず、幞恵がファむルを差し出した。䞭身を確認するず、西園寺䞀成に関する曞類だった。
    「そしお俺は  途䞭採甚で新たに䞀名、远加するかもしれん」
    「ええっ」
     䞉人同時に驚きの声を䞊げた。幞恵も知らなかったようで、唖然ずした衚情で枡蟺を芋詰めおいる。
    「譊察官だったが、二か月前に怪我が原因でその道を断念した方だ。たあ、探偵業が合うかどうかは採甚しおみないず䜕ずも蚀えないが  」
    「荒朚さんの玹介ですか」
     平岡は眉をひそめたが、
    「間接的にだ。ずりあえず䜕か仕事を䞎えおくれず荒朚さんに頌たれたから、了解した」
    「じゃあ、僕が未熟だからずいう理由で、雇ったわけではないんですね  」
     盎人は安心したように胞を撫でおろした。
    「䜕を云っおるんだ お前は未熟じゃないぞ」
     枡蟺が䞀瞬驚いたように眉を䞊げたが、口元に埮笑を浮かべるず、経緯を話し始めた。枡蟺は、事務所の人手䞍足から、新卒の若手を春から雇う぀もりだった。だが、譊芖庁捜査䞀課長の荒朚譊芖に、たたたたその話を振ったずころ、探偵業に興味を持぀譊察官がいるず話題を返された。
    「ずにかく、神厎ず平岡は西園寺さんのご家族の調査だ。そしお幞恵さんは──」
    「はい」
     幞恵が緊匵亀じりに応える。枡蟺はただ最埌たで蚀葉を蚀い切っおいないが、秘曞ずしお長幎枡蟺を支えおきた幞恵は、次に䞊叞から䜕を求められるのか理解しおいた。
    「面接の甚意だ」
     そう云うず、枡蟺は埗䜓のしれない䞍気味な笑いを浮かべた。

    【第4話『画家の才』に続く】


     
     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

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