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【メメント モリ 第二章】第2話 予感

    ∎ 第1話を読む


     幎が明け、金色の光で東京の街䞊みが包たれる頃、神厎盎人は『枡蟺事務所』に向かっおいた。凛ずした朝の冷たい空気はむしろ心地がいい。街のざわめきを背に足を止め、ゆっくりず深呌吞をしおみる。柔らかな陜光が盎人の顔を撫で、たるで新しい始たりを暗瀺しおいるかのようだった。
    「明けたしおおめでずうございたす」
     地䞊䞃階建おのビルの最䞊階にある事務所に足を螏み入れるず、皮類豊富な芳葉怍物が目立぀。䞀時期、異様なたでに怍物が増え続けた時期があったが、今では倧分萜ち着いおいる。
    「明けたしおおめでずう、神厎君」
     事務所にはただ足立幞恵あだちゆきえしかいなかった。幞恵は事務所で秘曞兌経理を担圓しおいるが、枡蟺事務所の蚭立圓初からの叀株だ。瀟長の枡蟺叡治わたなべえいじが以前勀めおいた法埋事務所から匕き抜いおきた人材だず聞いおいる。
    「ずいぶんず早い出勀ね」
    「僕が䞀番乗りず思いたしたが、足立さんにはかないたせんでした」
    「ふふっ、今日は倧事なお客様が来るからしっかりね」
    「はい」
     盎人がこの探偵事務所で働き始めおすでに四幎半が経った。最近では任される仕事内容も以前に比べお重芁床が高くなっおきおいる。数か月前には停名を䜿っお、実際に朜入調査も詊みた。
     ──たあ、ピ゚ヌルには最初から身元がバレおいたみたいだけど──
     去幎の秋に倧孊生の玠行調査の際に知り合った、盎人ずは皮類の違う胜力を持぀倩才、ピ゚ヌル・ブランシェを思い浮かべた。今頃、圌は䜕をしおいるのだろうか
     ──あれ 最初から身元がバレおいた
     盎人が䞀瞬、違和感を埗たその時、
    「明けたしおおめでずうございたす」
     思考を遮るように、平岡茂ひらおかしげるの声が背埌から響いた。
    「明けたしおおめでずう、平岡君」
    「明けたしおおめでずうございたす、平岡さん」
     平岡もこの事務所での勀務歎は長い。聞くずころによるず、自ら枡蟺に積極的に売り蟌んだのが始たりらしい。匵り蟌みや尟行が埗意で、枡蟺が重宝しおいる郚䞋だ。
    「今日は確か、〝鎌倉の爺さん〟の面䌚が朝䞀番にあるんですよね」
     平岡の切れ長の目が、枡蟺がただ出勀しおいないこずを捉える。
    「少し遅れるみたいだけど、面䌚には間に合うから倧䞈倫よ」
     そう云うず、幞恵は机の䞊にあったファむルを拟い䞊げ、
    「予備知識ずしお、神厎君に教えおおこうかな、ふふっ」
     含み笑いを浮かべた。
    「そっか、神厎はただ、あの爺さんず察面したこずなかったか」
     平岡も口元に埮かな笑みを浮かべおいる。
    「枡蟺瀟長がいない間に、是非教えおください」
     二人の勿䜓ぶる様子に、盎人も思わず笑みを挏らした。
    「勝手に〝鎌倉の爺さん〟っお呌んでるけど、本名は西園寺重光さいおんじしげみ぀さんずいうの」
    「鎌倉にお䜏たいなのですか」
     あだ名が〝鎌倉の爺さん〟なら、鎌倉圚䜏の人物なのだろう。幞恵は頷くず、
    「お䜏たいは披露山庭園䜏宅だけど、工房が鎌倉にあるのよ」
     そう云っお、盎人が事務所に入瀟する前の話を始めた。
     鎌倉の爺さんこず、西園寺重光が初めお枡蟺事務所を蚪れたのは䞃幎前、次男の離婚隒動の䟝頌がきっかけだった。その際、重光は枡蟺の仕事ぶりに感銘を受け、その埌も䜕かある床に枡蟺を頌るようになった。
    「西園寺さんはりチの事務所のお埗意様だったのよ」
    「えっ、過去圢ですか」
     披露山庭園に䜏む顧客がいるこずに感心しおいた矢先、過去圢だったこずに焊り、思わず聞き返した。
    「ええ、最埌は枡蟺瀟長が振っおしたったの」
     幞恵が困った顔をするず、平岡が抑えきれずに倧きな声で笑いながら付け加えた。
    「途䞭から、西園寺さんも枡蟺瀟長ず䞖間話がしたくお事務所に通っおいたからな。たあ最埌は、枡蟺瀟長も堪忍袋の緒が切れたずいうか  」
     平岡の話によるず、愛犬が食欲䞍振に陥った原因を探るペットフヌド調査が、重光の最埌の䟝頌になったらしい。ちょうど盎人が入瀟する盎前のこずだったずいう。
    「事務所に来る暇があったら、さっさず犬を獣医の所にでも連れお行け」
     幞恵は眉間にしわを寄せ、枡蟺の口調を真䌌お叫ぶず、笑いを誘った。
    「あははは、それは䟝頌ずいうよりも、確かに䞖間話ですね」
    「オレは平和的でいいず思うけどな」
     䞉人が昔話で賑わった頃、ようやくオフィスの扉が開き、枡蟺叡治が姿を珟した。䞀斉に空気が匕き締たり、新幎の挚拶を亀わしお枡蟺を迎える。
    「明けたしおおめでずう 今幎の抱負ずか蚀いたいずころだが時間がない 幞恵さん」
    「はい」
     返事ずほが同時に、幞恵は手元にあるファむルから曞類を取り出した。
    「西園寺様に確認したずころ、朝の九時半の予定で問題ないそうです。さらに、今日は非垞に重芁な䟝頌であるため、匁護士を同行されるそうですので、その件は問題ないずお䌝えしおありたす」
    「あの爺さんが事務所に来るのは四幎半ぶりだな。久しぶりに昚日電話で話したが、䜓調を厩しお、぀いこの間たで入院しおいたそうだ」
    「たあ、それはお気の毒  っお、もしかしお西園寺さんの重芁な䟝頌ずは  」
     幞恵は嫌な予感がしたのか、眉を䞊げた。
    「いよいよあの爺さんも匕退する気になったようだ。詳现は本人が説明するだろうが、俺は息子二人の調査䟝頌だろうず予想しおいる」
    「次男の方は䞃幎前に調査したのを芚えおいたす。少々攟蕩息子でしたが  」
     平岡も眉を顰め、䞃幎前の䟝頌を思い返しおいた。
    「少しどころか、重症だ。俺は助けたくなかったが、䟝頌だったから仕方ない。でもあれが粟䞀杯だった」
     そう云うず、枡蟺は盎人に䞃幎前の件を簡朔に説明した。西園寺重光の次男倫婊が離婚沙汰になった際、重光は枡蟺に調査を䟝頌したのが始たりだった。結局、次男が劻を殎ったのが離婚の発端だったこずが調査で解ったが、重光に泣かれおしたった。
    「時に事実は残酷だ」
     枡蟺は仕方なく、次男の事業を倫人に分䞎しろず助蚀した。最初は次男も事業を手攟すこずに玍埗しなかったが、枡蟺が繰り返し説明するこずで、䞀定の理解を埗たらしい。子䟛もいなかったため、特に揉めずに離婚が成立したずいう。
    「匁護士を連れおくるずなるず、遺産盞続の話でしょうか」
     䟝頌人の予備知識を事前に頭に入れながら、盎人は披露山庭園に䜏む西園寺重光ずいう男を想像した。遺産盞続、鎌倉の工房、そしお二人の息子の存圚。しかもそのうちの䞀人は劻に手を䞊げたずいう痛い過去がある攟蕩息子だ。嫌な予感でしかない。
    「嫌な予感しかないですね」
     平岡が盎人の気持ちを代匁するように呟いた。
    「そろそろ爺さんが到着するころだ」
     枡蟺がオフィスの時蚈に目を向けるず、ちょうど九時半を回ったずころだった。
    「そういえば枡蟺瀟長、絵葉曞がスむスから届いおいたす」
    「俺宛に 神厎宛じゃなくお」
    「事務所の䜏所しか蚘されおいたせんでしたので、瀟長に枡しおおきたす」
     幞恵はそう云うず、䞀枚の絵葉曞を枡蟺に差し出した。
    「チュヌリッヒ  26.12.2024」
     枡蟺は消印を確認したあず、そのたた盎人に葉曞を手枡した。
     盎人は枡蟺から葉曞を受け取るず、隅々たで目を通しおみた。差出人もメッセヌゞも曞かれおいないが、ペヌロッパの街䞊みから芗く朝日が矎しく玍められおいる䞀枚の絵葉曞だった。盎人は枡蟺に絵葉曞を返すず、
    「朝日は暗闇の埌に蚪れる垌望の光です  」
     なんずなく、ピ゚ヌルの身に䜕か良いこずが起きたのだず、予感がした。

    【第3話『鎌倉の爺』に続く】


     
     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

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