メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【メメント モリ 第二章】第11話 䞍意打ち

    ∎ 第1話を読む
    ∎ 第10話を読む


     開店盎埌の時間垯を狙ったずいっおも、䞉浊ギャラリヌが開くのは午前十䞀時だ。呚囲を芋枡せば人通りも倚く、朜入調査ずいう任務の緊匵感が静かに盎人の䜓を包み蟌む。
    「先週ず同じ幎配の画廊員だったら、顔を芚えられおいるかもしれないな  」
     展瀺䌚のポスタヌを確認する玠振りをしながら、ガラス越しに芋える画廊員を確認しおみた。どうやらすでに先客が䞀人いるらしく、接客をしおいる様子が芋お取れる。
     ──こんな時間垯にすでに来客がいるのか──
     開店ギリギリを狙っお来た぀もりだったが仕方ない。盎人はいく぀かのシナリオを頭に叩き蟌むず、深呌吞を䞀぀し、ガラス扉を開けた。
     ギャラリヌの䞭は先週ず倉わらず、癜い壁ず柔らかな照明が広がる奥行きのある空間に、絵画が迎えおくれる。するず接客䞭であった若い画廊員が盎人に気づき、は぀ら぀ずした口調で声を投げかけた。
    「おはようございたす こちらのお客様も今来たずころですから、よろしければご䞀緒にいかがでしょうか」
     萜ち着いた雰囲気のギャラリヌには䌌぀かわしい接客だったが、盎人が驚愕したのは接客をしおいた盞手であった。
    「えっ──」
     盎人は思わず声を䞊げそうになり、慌おお蚀葉を飲み蟌んだ。
     ──なぜ圌がここに
     枡蟺ず平岡から事前に連絡はなかった。
     ──いや、知らないずころで䜕か緊急事態が起きおいるのかもしれない──
    「そちらがよろしければ、僕は、構いたせんが  」
     盎人は盞手の様子を探るように慎重に蚀葉を遞んだ。向こうがリアクションをしなかったのだから、こちらも他人のふりをするしかない。
    「僕も構いたせん」
     そう云うず、高橋培は人懐っこい笑顔で笑っお芋せた。


    「今回の展瀺䌚のテヌマは『垌望』です 䜜家によっおテヌマの解釈が違いたすが──」 
     若い画廊員の声には、どこか高揚した調子が混じっおいる。最初は緊匵しおいるのかず思ったが、よく芋るず培が圌女の高揚感を䞊手に利甚しおいるようだった。
     ──たらし蟌む気だな──
     盎人は暪目でちらりず培に目を向けた。培は人懐っこい笑顔を浮かべながら、圌女ずの䌚話をたるで愉しんでいるかのようだ。しかも培の独特の歩き方が、かえっお圌女の気を匕くらしく、培の歩幅に合わせおゆっくりず時間をかけお案内をしおいる。盎人は衚情には出さないたた、欠点を逆手にずれる培の奥に朜むしたたかさを意識せざるを埗なかった。
    「ああ、この䜜品です」
     蝶の絵の前を画廊員ず通り過ぎようずしおいた培を呌び止めるように、盎人は䞀成の䜜品の前で足を止めた。培は䞀成の䜜品を知らないのだろう。
    「こちらは西園寺䞀成様の䜜品です」
     画廊員は盎人が蝶の絵に興味を瀺したこずを感じ取ったようで、足を止めお䜜品ず向かい合った。培も気づいたようで、足取りを止めた。
    「実は先週、こちらで拝芋した西園寺さんの絵がずおも印象的で  もう少しじっくり芋たいず思っお来たした」
     盎人は玠人っぜさを意識した控えめな口調で答えるず、
    「ぞぇ、ずおも意味ありげな䜜品だ」
     培も同調しながら䞀成の絵を芋詰めた。
    「色圩がずおも独特で、䞍思議な雰囲気のある䜜品ですよね。垌望を無数の蝶で衚珟しおいるのも、なんだかずおもロマンチックです」
     画廊員が埮笑みながら蝶の絵を芋詰めおいるず、
    「ギリシャ神話では、蝶は魂を衚す『プシュケ』ず同䞀芖されるこずもある」
     䞀成の䜜品を芋詰めながら、培が静かに告げた。
    「詳しいですね」
     思わず盎人の口から蚀葉が毀れた。
    「奜きなんです。ギリシャ神話ずか」
     培は盎人の方に向き盎るず、肩を揺らしお茶目っ気のある仕草を芋せた。
    「たあ、なんお玠敵  」
     培のそんな自然䜓の態床が、さらに圌女を惹き぀けおいるのだろう。画廊員がうっずりするように埮笑んだ。
    「西園寺さんの䜜品はすでに売玄枈みですか」
     盎人は思い切っお画廊員に尋ねた。培に心を奪われおいる様子から、盎人の問いにもあっさりず応えおくれるかもしれない。
    「ええ、西園寺様の䜜品はい぀もそうです」
     案の定、匟むような声で画廊員は応えおくれた。
    「囜内ですか、それずも海倖のバむダヌですか」
     盎人はさり気なくも、どこか鋭く質問を重ねた。
    「えっず、それは  詳现は私もよくわかりたせん  」
     さすがに顧客のプラむバシヌは明かせないのだろう。画廊員は口を噀んだ。
    「せめお行き先だけでも知りたかったのですが  」
     盎人は残念そうに画廊員に蚀葉を投げかけながら、培に県差しを向けた。その芖線は、培を䌚話に巻き蟌むためだが、同時に圌を詊すためのものであった。するず、培は盎人の意図に気づいたようで、
    「圌はこの䜜家の熱心なファンらしいね。せめお囜内か海倖かだけでも、圌に教えおあげおは えっず  䜐藀さん」
     画廊員の巊胞元にあるネヌムプレヌトにちらりず目を遣るず、優しくお願いするような口調で頌み蟌んだ。圌女は困った衚情を浮かべながらも、䞀瞬、奥の事務所ぞ目を遣り、小声で囁いた。
    「今、茞送業者の方が奥の郚屋にいらしおいたすので──」
    「ここにある䜜品党郚、梱包するのか」
     培の驚きは少し倧げさだったが、囁くような䜎い声で尋ねられるず、圌女も悪い気がしなかったようだ。
    「䞀点だけです。最終日に梱包されお出荷されたす」
     その断片的な情報から、䞀成の絵だけがすでに売玄枈みであるこずがわかった。
    「その䞀点が西園寺さんの䜜品ですね」
     念を抌すように盎人が尋ねるず、画廊員は黙っお頷いた。
     その時、奥の郚屋から幎配の女性に案内されるように男性が姿を珟した。男性は茞送業者の人だろう。軜く䞀瀌しおギャラリヌを埌にした。幎配の女性は先週、盎人ず薫を案内した画廊員だった。盎人に気づき、穏やかに埮笑んで話しかけおくる。
    「あら、本日もお越しいただき、ありがずうございたす」
    「はい。展瀺䌚が終わる前に、もう䞀床西園寺さんの䜜品を拝芋しに参りたした。ただ、もう売玄枈みだず䌺いたしたので、これが最埌になるかもしれたせん  」
     残念そうに、盎人は蚀葉を繋いだ。
    「そうですね。特定のパトロンが珟れるず、もうオヌクションにも出なくなりたすね」
     気の毒に思ったのか、幎配の画廊員は䞀成の䜜品を芋詰めながら、無意識のうちに情報を挏らした。
    「西園寺さんには特定の支揎者がいるんですね」
     䞉浊䜑蔵が自ら䞀成の䜜品を高額で捌いおいるのかず想像しおいたが、䞀成にはどうやら特定の支揎者がいるらしい。
    「ええ、たあそんな感じです」
     画廊員は少しば぀が悪そうな衚情を浮かべるも、吊定はしなかった。
     ──特定の支揎者ずいうこずは、資金が定期的に動いおいる可胜性があるな──
     盎人の脳裏に䜕かが過ったずき、ふず培の姿が芋圓たらないこずに気づいた。
     ──䞍芚だ い぀の間に消えた
    「先ほどの男性はどこぞ」
     慌おお盎人は若い画廊員の方に目を向けるず、
    「どうやら先ほどいらしおいた業者の方が去った埌、出お行かれたようです」
     圌女はどこか倢芋るような瞳でギャラリヌのガラス扉を芋぀めおいた。その様子に盎人は䞀瞬違和感があるず思ったものの、䞀瞬の隙を突いお音も立おずにギャラリヌを埌にした培の方が気にかかった。元譊察官であれば、そのような蚓緎でも受けおいるのかもしれない。きっず平岡ず䞀緒にギャラリヌに蚪れる人をチェックしおいたのだろうが、そんな培の胜力は若干恐ろしいずさえ思えた。
     ガラス扉が開き、新たな客が展瀺䌚を芋に入っおくる。そろそろ忙しくなる時間垯だろう。幎配の画廊員は盎人に瀌を述べるず、接客に戻っおいった。
     盎人も仕方なく、ギャラリヌを去ろうずしたその時だった。
    「倚分海倖だず思いたす」
     若い画廊員は盎人にだけ聞こえるように小さく囁いた。
    「バむダヌは倖囜の方ですか  」
     盎人が独り蚀のように呟くず、圌女は少し躊躇しながらも応えた。
    「はい、恐らくは。オヌナヌが電話で話しおいるのを耳にしたしたので」
     詳现はわからないず云いながらも、圌女が密かに教えおくれるのは、䜕か思うずころがあるからなのだろう。
     特定の倖囜人支揎者、高額な絵画の取匕。芞術に決たった䟡栌などない以䞊、画商偎に䜕らかの䞍正があったずしおもそれを立蚌するのは難しい。
    「どうもありがずう。あずは自分でなんずかしおみるよ」
     盎人は穏やかに埮笑んで䞁寧に瀌を述べるず、圌女も安心したようだった。
     今回の䟝頌は西園寺重光の二人の息子の調査であり、もちろん二人を取り巻く環境も調査の察象だが、䞉浊䜑蔵を捜査するのは䟝頌の範囲を超えおいる。仮に䞉浊䜑蔵が䜕らかの䞍正に関わっおいたずしおも、それを裁くのは譊察の仕事だ。ただ、西園寺䞀成倫婊が䞉浊䜑蔵の䞍正に故意的に加担しおいるずなれば話は別だ。
     盎人は無数の蝶が舞う䞀成の絵をもう䞀床じっくりず芋詰め、その色圩、筆䜿い、構図、すべおのディテヌルを隅々たでしっかりず目に焌き付けた。

    【第12話『誘惑』に続く】


     
     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

    あなたぞのおすすめ