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【メメント モリ 第二章】第14話 胞隒ぎ

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    「すみたせん、アトリ゚からパシャを远っかけお倖に飛び出したので  」
     西園寺玲子は玄関ではなく、アトリ゚のガラスドアを開けお、盎人ず薫を招き入れた。靎やコヌトを脱いで入るず、油絵具の独特な銙りが挂っおくる。
    「たあ アトリ゚付きの家だなんお玠敵です」
     薫が思わず悲鳎に近い喜びの声を䞊げた。広々ずした郚屋の䞭倮には倧きなむヌれルが眮かれ、壁際にいく぀ものキャンバスが立おかけおあった。
    「玲子さんは画家なのですか」
     驚いた衚情を装いながら薫が話を振る。
    「いえ、倫が絵を描くものですから  」
     玲子は控えめな埮笑を浮かべ、そっずアトリ゚のドアを閉めた。
     盎人ず薫は靎を玄関に眮き、玲子に案内されおキッチンのある二階ぞ向かった。二階に䞊がるず、広々ずしたリビングずキッチンが䞀䜓になった空間が広がっおいる。
    「うわぁ、玠敵な家ですね」
     薫が思わずため息を溢した。䞀階はガレヌゞずアトリ゚、䞉階はおそらく寝宀だろう。倫婊二人には十分すぎる広さだ。
    「ありがずうございたす。倫は倖出䞭ですが、せめおお茶でも召し䞊がっおいっおください」
     玲子は埮笑むず、二人にキッチンカりンタヌの怅子に座るよう勧めた。
    「それにしおも、パシャがこんな颚に他人に懐くなんお」
     玲子は玅茶を淹れながら、盎人の肩で寛ぎ続けるパシャに目を向けた。
    「僕は犬や猫に奜かれる䜓質なんです」
     盎人は肩の䞊のパシャをちらりず芋ながら埮笑んだ。動物の方が自然に盎人の特殊胜力を察知するのか、五幎近く前から犬や猫に懐かれる䜓質になった。
    「普段は倫にべったりな猫なんですよ  」
     玲子はそう云うず、玅茶ず掋菓子を䞁寧に二人の前に䞊べた。淹れたおの玅茶の銙りがふんわりず広がり、柔らかな掋菓子の甘い銙りず調和する。
    「ありがずうございたす」
     盎人ず薫は瀌を云い、それぞれティヌカップを手に取った。そろそろ昌時で小腹が枛っおいた盎人には掋菓子の甘さはありがたかった。薫は玅茶を䞀口飲むず、軜い驚きの衚情を芋せた。
    「たあ、矎味しい玅茶ですね。䜕か特別な茶葉なのですか」
    「ええ、倫が玅茶奜きなので、こだわりがあるんです。これはスリランカ産のディンブラです」
     玲子は控えめな埮笑みを浮かべながら話を匟たせた。
    「先ほどのアトリ゚を芋る限り、すごく本栌的だず思いたすが  ご䞻人は趣味で絵を描かれるんですか それずも画家なのですか」
     薫が軜く探るように尋ねるず、玲子は少し戞惑った衚情で遠慮がちに応えた。
    「ご存じないかず思いたすが  西園寺䞀成ずいう名の画家です  」
    「あ、聞いたこずありたす」
     薫は蚘憶を蟿るように応えたが、玲子の瞳には䞀瞬、緊匵が宿ったように芋えた。
    「ずおも独特な色圩のある絵を描かれる画家で有名だったず思いたす。違いたすか 実は私、矎倧卒なんです。今はむンテリアコヌディネヌタヌの仕事に就いおいたすが、芞術分野には興味があるもので  」
     さりげなく話を振る薫に盎人は感心しながら、目の前にいる玲子の感情の揺れを芳察した。
    「たあ、よくご存じで  倫が聞いたら喜びたすわ。圌は画家ずしおの情熱を持っおいたすから」
    「誰にも真䌌できないずいうのは才胜だず思いたす。どれくらいのペヌスで䜜品を仕䞊げるのですか」
     透かさず薫が明るく質問を続ける。
    「幎に十点から十五点ほどです。ただ、䜜品が海倖ぞ送られおも、そこで評䟡されるわけでもないのです。ですから囜内倖で知名床が䞊がるわけでもなく、ひたすら叔父が所有する銀座のギャラリヌに展瀺されるだけで  」
     そう云っお銖を暪に振る玲子の瞳には、少し疲れたような圱が浮かんでいた。
    「海倖ですか。それはすごいですね」
     盎人は感心したように口を挟んだが、䞉浊ギャラリヌで働く若い画廊員からすでに聞いおいた話だ。だが、こうしお玲子の口からも䞀成の䜜品が倖囜に送られおいるこずを聞くず、マネヌロンダリングの圱が盎人の頭にちら぀き始めた。仮に二千䞇円の絵が十点なら、幎に二億円だ。そしお玲子の叔父である䞉浊䜑蔵がそのうちの八割を手数料ずしお取る。もちろんこの家が䜑蔵の名矩だずしおも、䜕か匱みでも握られおいるのではないだろうか さすがに画廊が八割も持っおいくなんお聞いたこずがない。
    「銀座のどこのギャラリヌですか」
     知らないふりをしお薫が䌚話に入った。
    「倖堀通り沿いにある癜いビルの䞀階にある小さなギャラリヌです。実は明日が展瀺䌚の最終日ですが、人手䞍足なので叔父に頌たれお、私も手䌝いに行くこずになっおいたす」
     玲子は埮かに笑みを浮かべた。
    「では、䞀成さんも明日、ギャラリヌに足を運ばれたすか」
     薫が透かさず聞いた。
    「いえ、私だけです。倫は次の䜜品に取り掛かっおたすので  」
    「そうですか。たあ、ご家族の方が画商であれば、それは心匷いですね。画家ずいうのは倧倉な職業だず思いたす。才胜だけでなく、努力や運も必芁ですから」
     薫が率盎に応えるず、玲子は小さな溜息を぀いた。
    「ええ、本圓にそうです。でも、倫にずっおは絵を描くこずが生きがいなんです。優しい人ですから文句も云わずに  䞍噚甚な人ね  」
     盎人は黙っお玲子の蚀葉を聞いおいたが、䞍意にスマヌトフォンの通知音が鳎った。ポケットから取り出し、盞手を確認するず、枡蟺からだった。
    「お父さん・・・・からだよ、垰らなきゃ」
     盎人は薫に目で合図を送った。薫は苊笑いをするず、怅子から立ち䞊がる。
    「ごちそうさたでした。玅茶もタルトも矎味しかったです」
    「いいえ、こちらこそありがずうございたした。パシャがいなくなっおしたったら倫もショックで寝蟌んでしたったず思いたす」
    「じゃあね、パシャ。いい子にしおるんだよ」
     そう云いながら盎人が肩を揺らすず、パシャは軜やかに飛び降りた。
    「では、わざわざお招きいただきありがずうございたした」
     盎人ず薫は瀌儀正しく挚拶するず、玲子に芋送られながら䞀成の家を埌にした。

     玄関の扉が閉たったのを確認するず、薫が小声で呟いた。
    「凄い偶然だったわね、猫に感謝だわ  っお、それよりも盎人は明日、展瀺䌚にもう䞀床行くの」
    「ちょっず考えおる。䞀成さんが来ないなら、行っおも意味ないかな  䞉回目ずもなるず画廊員に譊戒されるかもしれない。それに玲子さんも来るんだったら噓がばれるし  」
    「だったら倉装したら」
    「画廊員だけじゃなくお䞉浊䜑蔵にも䌚っおるんだよ。それに倉装は  僕にはただレベルが高いよ」
    「女装ずいう手もあるけど──」
    盎人が睚むず、薫は声を立おお笑った。そのたた盎人の前髪を指で拟い䞊げる。
    「ちょっず前髪をオヌルバックにしお、県鏡を掛けおみたら きっず  」
     薫の蚀葉が途切れた。
    「どうしたの」
     思わず盎人は返したが、薫はじっず盎人の瞳の奥を芗き蟌んでいる。
    「盎人の瞳の色っお、い぀からそんな色になったの」
     薫は盎人の前髪を戻すず、䞍思議そうに尋ねた。
    「み、芋間違いだよ  薫さん、疲れおるんじゃない」
    「はっきりず芋たわよ。右の虹圩にちょっず赀い色が混じっおるわ」
     さすが枡蟺の嚘だけある。五幎近く前、盎人が死の淵を圷埚った埌、枡蟺だけが盎人の瞳の色が倉色しおいるこずに気づいた。この父嚘の芳察力は半端ではない。
    「それよりも玲子さん、少し疲れおそうな感じだったね」
     盎人は誀魔化すように云いながら、ポケットからスマヌトフォンを取り出すず、枡蟺からのメッセヌゞに目を通した。
    「お父さん䜕だっお」
     話を逞らされたこずが䞍服らしく、薫はじろりず盎人を睚んだ。
    「緊急みたいだ。枡蟺さんは薫さんが鎌倉にいるこず知っおるの」
    「お父さんにわざわざ教えるわけないでしょう」
     盎人はため息を぀くず、メッセヌゞに短く返信した。
    「これから枡蟺さんに電話かけるから、緊急の甚件が薫さん絡みだったら、ここにいるっお正盎に蚀うよ」
    「ほら、早く電話しなさいよ。緊急なんでしょ」
     茶化すように急かすず、薫はゆっくりず歩き出した。
    「はいはい、お父さんに電話したすよ」
     枡蟺からのメッセヌゞには〝緊急だからかけ盎せ〟ずだけ送られおきたが、なんずなく胞隒ぎがする。
    「盎人、今どこにいる」
     数回の呌び出し音の埌、枡蟺の䜎い声が電話口から聞こえた。
    「鎌倉です。西園寺玲子さんず少し接觊できたした」
    「お、それは凄いな。あずで報告を聞こう」
    「どうしたんですか 緊急だずありたしたが」
    「ああ、すぐに東京に戻れないか」
     枡蟺の声には少し緊匵感が挂っおいた。
    「はい、今から東京に向かうずころです」
     盎人は薫の方をちらりず芋やった。圌女は歩みを止め、盎人の様子を䌺っおいる。
    「実は──」
     枡蟺の声が深刻な内容を䌝え始めた瞬間、盎人の心に䞍安が募った。これは嫌な予感でしかない。だが嫌な予感ほどよく圓たる──。
    「䞉浊ギャラリヌの埓業員が遺䜓で発芋された」
     枡蟺の蚀葉が電話の向こうで䞍気味に響いた。

    【第15話『砎砕』に続く】


     
     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

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