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【メメント モリ 第二章】第17話 絵葉曞

    星乃倜衣

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     金曜日の朝、この日は久しぶりに党員が揃った。
     幞恵が倧事に育おおいる芳葉怍物が事務所の空間を和たせおいるが、二週間ぶりに党員が出瀟するずなるず、い぀も以䞊の緊匵感がそれずなく挂う。盎人ず幞恵が暪に䞊び、反察偎には平岡ず高橋が座るず、四人の芖線はガラスルヌムを背景に䜜業テヌブルの正面に座る枡蟺に集䞭した。綺麗に手入れされた髭に、粟悍な光を湛えた目が時に鋭く光る枡蟺には、独特のオヌラがある。
    「党員揃うのは久しぶりだな」
     枡蟺が軜く声をかけるず、皆がそれぞれ軜く頷いた。幞恵も盎人が二週間近く事務所に顔を出さなかった理由を薄々ず理解しおいる様子だった。
    「さお、早速だが、進捗状況を報告しおもらおうか」
     枡蟺の蚀葉に応え、たず平岡が次男の西園寺二雅に぀いおの報告を始めた。
    「たず、次男の西園寺二雅さんですが、IT事業の他に、珟圚は健康管理食に特化した食材宅配サヌビスを手掛けおいたす。事業展開もしおいくようで、なかなかの野心家だず思いたす。誰かの䞋で働くよりも、垞に自分が運営する偎に回る起業家タむプですね。䞃幎前に比べおずいぶんず萜ち着いおいたす」
    「今、次男は䞉十八歳か」
     枡蟺は顎を撫でながら平岡を芋た。
    「はい。来幎結婚する予定でしたが、どうやら雲行きが怪しいようです」
     平岡の䜎い声が郚屋に響くず、枡蟺が興味深げに眉を䞊げた。
    「ああ、䟋のモルディブでの結婚匏の話か」
    「ええ、重光さんの䜓調などを考慮しお、囜内の結婚匏堎を探しおいるようですが、婚玄者の工藀博矎さんがなかなか劥協しないようです。このたただず匏は再来幎になるかもしれないずのこずで、毎日喧嘩が絶えないようです」
    「うわぁ、倧倉そうね  圌女は初めおの結婚なのかしら」
     幞恵が気の毒そうに口を挟んだ。
    「いえ、バツむチです」
    「なんだ、二床目なのか  」
     率盎な平岡の蚀葉に、幞恵は癜けた顔をしながら呟いた。
    「工藀博矎さんは二雅さんの二぀幎䞋の䞉十六歳です。栄逊コンサルタントずしお幅広くやっおいたす。圌女は友人関係も倚いので情報が集たりやすかったです。結婚匏の話や、二人が毎日喧嘩しおいる様子も、圌女の友人から簡単に聞き出せたした」
     平岡は二雅の䞃幎前の離婚から、博矎ずの出䌚い、そしお新事業立ち䞊げには博矎の協力が必芁だった経緯、そしお二人の友人関係に至るたで詳现に報告を終えるず、今床は話題を西園寺喜久子に移した。
    「喜久子倫人は、将来の矩理の嚘ずなる工藀博矎さんず折り合いが悪く、工房の埌継ぎは長男の䞀成さんに任せたいず考えおいるようです。぀たり、矩理の嚘を工房の運営に関わらせないために長男を掚しおいるのであり、玔粋に䞀成さんを評䟡しおいるわけではないずいう点が重芁です」
     喜久子にずっおは、この二人が砎局するこずが理想の展開のようだ。結婚前から嫁姑の関係が険悪では、結婚埌の家族関係がさらに耇雑になりそうな気配である。
    「次男には継ぐ意思はあるのか」
     枡蟺は怅子にもたれながら、テヌブルの䞊に眮かれた曞類を手に取るず、目を通しながら尋ねた。
    「䞀応あるようです」
     平岡はそう云うず、長男には発䜜の埌遺症があるため、画家に専念させおあげたいずいう匟なりの心遣いがあるず付け加えた。
    「あの攟蕩息子も、なかなか良いずころがあるじゃないか。で、長男はい぀発䜜を起こしたんだ」
     枡蟺が興味深げに尋ねるず、平岡が曞類を確認しようずしたため、代わりに盎人が応えた。
    「十六幎前です。珟圚四十二歳ですから、二十六歳の時ですね」
    「やっぱり神厎は蚘憶力がいいな」
     平岡が小さく笑みを浮かべた。
    「長男の方はどこたで調査が進んだんだ」
     枡蟺が盎人に芖線を向けた。
    「長男の西園寺䞀成さんは十六幎前に発䜜を起こした埌、手足に埌遺症が残り、䞀時は画家の道を諊めかけたそうです。しかし、埌遺症の圱響から独特の色圩感芚を埗たようです。圓時亀際しおいた珟圚の玲子倫人の叔父である䞉浊䜑蔵氏にその才胜を芋出され、銀座にある䞉浊氏の画廊で䜜品を展瀺するようになりたした。玲子倫人によれば、䞀成さんの䜜品は叔父の画廊限定で展瀺されるようですが、どうやら䞉浊氏を通じお海倖にパトロンがいるようです。だからずいっお倖囜で高く評䟡されおいるわけでもないようですが  」
     䞀成にパトロンがいるずいうのは幎配の画廊員から埗た情報だが、今は䞉浊ギャラリヌの埓業員の話題を避けるこずにした。
    「なるほど、倖囜にいるパトロンか  興味深いな」
     枡蟺は顎を撫でながら、䜕かを思案するように䜎く呟いた。
    「䞀成さんはすでに次の䜜品に取り掛かっおいたす。䞀幎に倧䜓十点から十五点ぐらいのペヌスで創䜜しおいるようですが、それだけで時間的にも䜓力的にも粟䞀杯なようです。工房を継ぐ䜙裕はないのではないかず思いたす」
    「倫婊関係は良奜か」
     枡蟺が問いかけに、盎人は玲子ずの䌚話を思い出しながら応えた。
    「はい、仲が良さそうだず思いたした。子䟛はいたせんが、猫が䞀匹いたす」
    「ふふっ、私も猫掟だわ」
     幞恵が笑いながら返した。
    「オレは犬掟だな」
     平岡が応えるず、
    「僕もどちらかずいうず犬の方が奜きですね」
     培も人懐っこい笑顔を芋せた。
    「それで䞉浊䜑蔵に぀いおは䜕か報告はあるか」
     枡蟺は曞類の䞭から、䞉浊ギャラリヌの詳现を匕き抜いた。
    「ギャラリヌでお䌚いした時に少しだけ蚀葉を亀わしたした。どこか鋭い感じのする人で、ずおも六十九歳には芋えたせんでした」
     盎人が率盎に応えるず、枡蟺は怅子に深く腰掛けたたた、考え蟌むように目を现めた。
    「今回の䟝頌に盎接関係ないのなら、䞉浊䜑蔵の調査は深入りしない方がいい  」
     枡蟺の䜎い声が、静かな宀内に響き枡った。その蚀葉が、䜐藀優子が遺䜓で発芋された件を暗に指しおいるのか、それずも別の理由なのかは分からない。枡蟺の勘は鋭い。そんな圌が慎重な態床を取るのなら、䜕か危険な匂いを嗅ぎ取っおいるのだろう。
    「䞀応、長男の䜜品がどこに送られるのかは調査したした。ルクセンブルグのフリヌポヌトに送られたす。ただ、流石にむンボむスは入手できたせんでしたので、受取人たでの情報はわかりたせん」
     平岡が頷きながら蚀葉を補足するず、枡蟺の眉がわずかに動いた。
    「神厎が先皋、長男の絵が海倖に送られおも評䟡されおいないず云っおいたな」
     枡蟺は手元の曞類に目を通しながら、軜く指で机を叩いた埌、静かに顔を䞊げた。
    「これは俺の勘だが、フリヌポヌトをグルグル回っおいるんだろう。たあ、実際に動いおいるのは契玄曞だけかもしれんが、ロンダリングに利甚されおいる可胜性が高い」
     事務所内の空気が緊匵に包たれた。フリヌポヌトずは、免皎倉庫ずしお矎術品や貎金属が保管される堎所だが、その匿名性ず法的な耇雑さから、䞍正取匕やマネヌロンダリングに悪甚されるこずも倚いずされおいる。だがそうなるず、探偵の調査の範囲を超える。これは西園寺工房を誰に継がせるかずいう䟝頌であっお、ロンダリングを暎く䟝頌ではない。
    「぀たり䞀成さんの䜜品は、実際には〝高額で売られおいる〟わけではなく、単なる資金移動の道具ずしお䜿われおいるずいうこずでしょうか」
     幞恵が眉を顰めお慎重に確認をする。
    「やっぱり次男の二雅さんの方が条件が揃っおるず思いたす」
     培は枡蟺に芖線を向けるず、慎重に意芋を述べた。
    「そうね  婚玄者の工藀博矎さんが玍埗すれば、二雅さんの方が盞応しいかもしれたせんね。それにしおも、䞀成さんはそんな危険なこずから足を掗えないのでしょうか」
     幞恵はロンダリングの話の方に興味があるようで、瞋るように枡蟺を芋た。
    「いや、䞀成さんは画家ずしお掻動しおいるず思いたす。ロンダリングのこずも知らないんではないでしょうか」
     培は皆を芋枡すず、苊笑いを浮かべた。
     盎人は培を静かに芋詰めた。元譊察官であり、自分より二぀幎䞊だ。普段は人懐っこい笑顔を振りたき、右足を少し匕きずるように歩く。だが今の培は、冷静でいながらどこか冷たい光が目に宿っおいるように芋えた。
    「知らない方が郜合がいい堎合もある」
     枡蟺は静かに告げるず、近々重光ずアポむントを取るよう幞恵に指瀺した。

     䌚議が終わり、枡蟺が平岡を連れおガラスルヌムに入ったのを暪目に、盎人も仕事に戻ろうずしたその時、
    「あ、神厎君、これ忘れおたわ」
     幞恵が突然声をかけ、䞀枚の絵葉曞を手枡しおきた。盎人は葉曞を受け取るず、衚面に印刷されおいる写真を芋詰めた。そこには栌匏ある建物が映っおいる。 
    「テアトロ・゜リス  」
     写真の右䞋にあるロゎを読み䞊げた。倪陜らしき半球䜓から攟射線が二等蟺䞉角圢を䜜っおいる。
    「モンテビデオのテアトロ劇堎ですか」
     近くにいた培が口を挟んだ。
    「高橋さん、色々ず物知りですね」
     盎人は感心したように云いながら葉曞を裏返しお差出人を確認した。案の定、差出人の名前も䜏所も蚘されおいない。
    「そんなこずないですよ」
     培は人懐っこい笑みを浮かべるも、控えめに笑った。

     The inside is different from the outside.
     P.

     前回ず違っお今回の絵葉曞には綺麗な筆蚘䜓で曞かれた短いメッセヌゞが添えられおいる。Pはピ゚ヌルの頭文字だろう。ただ、消印はサンパりロになっおいた。
    「りルグアむに友達がいるんですか」
     培の問いかけに、盎人は䞀瞬蚀葉に詰たったが、すぐに答えをひねり出した。 
    「えっず、パブロ君ずいうスペむン人の文通友達がいるんです。今、りルグアむに旅しおいるみたいですね」
     ずっさの嘘だったが、培は特に疑問を抱いた様子もなく、葉曞を芋せおほしいず頌んできた。䞀瞬躊躇したが、短いメッセヌゞずPしか蚘されおいない。ここで断ったら逆に怪したれるだろう。盎人は絵葉曞を培に差し出した。 
    「テアトロ・゜リスはりルグアむの囜立劇堎です。有名な建物ですよ」
     培が穏やかに説明しながら葉曞を裏返すず、
    「消印はブラゞルのサンパりロになっおたすね。The inside is different from the outside  内偎は倖偎ずは違う」
     ポツリず独り蚀のように呟くず、もう䞀床テアトロ・゜リスを眺めた。
    「きっず、テアトロ・゜リスの倖装は比范的シンプルだから、内装は豪華で内ず倖が違うずいう意味かな」
     そう云いながら、培は絵葉曞を盎人に返した。
    「英語、すごく䞊手なんですね  」
     培の流暢な英語の発音に盎人は驚きを隠せなかった。暪にいる幞恵も目を芋開いお培を芋おいる。短いメッセヌゞだったずしおも、いずも簡単に筆蚘䜓をスラっず培は読んだ。
    「実は公安を目指しおいたしたので、英語はかなり勉匷したした」
     そう云うず、培はにっこりず埮笑んだ。
     培の蚀葉に、幞恵は玍埗しながら頷いたが、盎人の心の䞭には、䟝然ずしお培に察する䜕か疑念のようなものが枊巻いおいた。そんな思いを振り払うように、ガラスルヌムの方に芖線を移すず、ちょうど平岡がガラスルヌムから出おきたずころだった。
    「今日が展瀺䌚の最終日だよな」
     平岡がい぀もの萜ち着いた衚情で盎人に尋ねた。
    「はい、今日は玲子倫人も来おいる筈です」
     鎌倉の家にお邪魔した時、人手䞍足だから展芧䌚の最終日には䞉浊䜑蔵のギャラリヌで手䌝いをするず云っおいた。突然人手䞍足になったのは、䜐藀優子が死亡したからだろう。
    「僕は画廊に二床も足を運び、オヌナヌの䞉浊䜑蔵だけでなく、昚日は鎌倉で玲子倫人にも䌚っおたすので、遠慮しおおきたす。代わりに䞀成さんに䌚いに行こうかず思っおたす」
     䞀成は鎌倉にいる。盎接蚪問しお展瀺䌚で絵を拝芋したず切り出せばいい。すでに猫の件で、玲子から䜕かしら話を聞いおいるかもしれない。
    「じゃあ、僕ず平岡さんず二人で行きたすか」
     培が尋ねながら平岡に歩み寄った。平岡は軜く頷き、オフィス内を䞀床芋枡しおから、足早に倖ぞ向かった。盎人は二人の埌ろ姿を芋送るず、葉曞に目を萜した。
     ──なんで今回はメッセヌゞを曞いたんだろう
     ピ゚ヌルから送られおきた短いメッセヌゞの意味を考えながら、ガラスルヌムの扉を開けるず、枡蟺はデスクで曞類を敎理しおいた。
    「枡蟺さん、たた葉曞が送られおきたした。これで二通目ですね」
     盎人が手枡すず、枡蟺はピ゚ヌルからの葉曞を受け取り、絵柄を眺めた。
    「マメな男なのか、それずも暇人なのか」
     そう云いながら、葉曞を裏返しお消印を確認した。
    「りルグアむにいるのかもしれないが、ブラゞルから送ったようだな  たあ、ブラゞルの方が郵䟿事情は比范的敎備されおいるからな  この葉曞も十日で届いおいる」
     枡蟺は葉曞を匄ぶように指でひらりず揺らすず、
    「The inside is different from the outside  面癜いこずを云う男だ。どこかの建築評論家にでもなった぀もりか」
     枡蟺は顎を撫でながら軜く笑い飛ばした。
    「枡蟺さんもやっぱり英語が堪胜ですね」
     盎人が軜く笑みを浮かべるず、枡蟺は䞀瞬だけ懐かしそうな衚情を芋せた。
    「俺は芪父の仕事の関係で小孊校たではアラスカにいたからな。〝枡蟺さんも〟ずいうこずは、高橋も英語ができるのか」
    「はい、ずおも流暢な発音でした。公安を目指しおいたそうです」
    「ぞぇ  公安  それは初耳だな」
     枡蟺が絵葉曞を裏返しながら呟いた。
    「たあ、盎人が高橋の過去に深入りする必芁はない。もちろん、仕事においお倉な動きがあれば別だがな。もう䞀床、荒朚さんに俺から尋ねおおこう」
     蚀葉の通りではあったが、枡蟺の蚀葉はどこか暗瀺的にも聞こえた。
    「それよりも、なかなか良い玙質だな、この絵葉曞。あたり傷んでいない」
     枡蟺は指先でしっかりず厚みのある葉曞を確認しながら眺めた。
    「単なる遊び心か  それずも別の意図があるのか  」
     そう云うず、枡蟺は机の匕き出しを開け、幎明けにチュヌリッヒから届いた絵葉曞を取り出し、机の䞊に䞊べおみた。ペヌロッパの街䞊みから芗く朝日の写真ず、テアトロ・゜リスの倖装の写真。枡蟺は暫くじっず二枚の葉曞を芋比べおから、重ね合わせお匕き出しの奥にしたい蟌んだ。
    「平岡さんず高橋さんは䞉浊ギャラリヌに行きたした。僕はこれから鎌倉ぞ行っお䞀成さんを蚪ねおみたす」
     盎人が告げるず、枡蟺は怅子にもたれながら軜く頷いた。
    「わかった。あずで報告を聞こう。猫に土産でも持っおいけば喜ばれるかもしれないぞ」
     枡蟺の冗談亀じりの蚀葉に、盎人は埮笑んで軜く頭を䞋げるず、事務所を埌にした。
     盎人は廊䞋を歩きながら、ピ゚ヌルが送っおきた葉曞に぀いお考えおいた。遊び心からなのか、それずも䜕か意図があっおピ゚ヌルは葉曞を送っおくるのかずいう枡蟺の蚀葉が脳裏に浮かぶ。
     ──いずれにしおも、たずは西園寺重光の䟝頌を終わらせるこずを優先すべきだ──
     そう自分に云い聞かせるず、盎人はその足で鎌倉ぞず向かった。

    【第18話『情熱』に続く】


     
     
     
    文筆家。埌玉県出身。アメリカ圚䜏30幎以䞊 ミステリヌやサスペンスを䞭心ずした小説を執筆 創䜜倧賞20242025䞭間遞考通過ミステリヌ郚門 お問い合わせ https://lit.link/hosino8

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