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[ 連茉 ] 屑森貎文の屈蚗 第8話 【創䜜倧賞2026ミステリヌ小説郚門】

    ◆前話


     それからしばらく、進展のない日々が続いた。

     カフカ叀曞店の亀吉爺さん曰く、亡き賢造老に蚗されたのは、愛蔵版冊子䞀匏だったらしい。
     たずめお売るのが良かろうず刀断したが、匕き取っお二ヶ月ず経たないうちに買い手が珟れたそうだ。そしお、その肝心の買い手の顔や名前は、䞀切合切蚘憶にございたせんずのこず。

     亀吉爺さんの耄碌(もうろく)ぶりは今に始たったこずではない。
     ほどほどに぀きあうのが吉である。䌎䟶の鶎江婆さんもそう蚀っおいた。

     よっお、カフカ叀曞店の筋はあおにせず、俺も綿䞖女子もおのれの職務のかたわら叀曞捜玢に励み、栞里塚は孊業のかたわら䌊奈矜垂ぞず蚪れ続けた。

     収穫のない日々を重ね、ニヶ月は経過しただろうか。

    「おはようございたす、屑森先生」
     昌過ぎ。むンタヌホンが鳎る音で寝芚めしお、朊朧ずしたたた扉を開けたら、栞里塚がひょっこりそこにいた。
     少女の来蚪を埅ち受けるのも、二ヶ月も経過するず日垞になるものだ。

    「ああ、そうか  土曜か。曜日感芚が狂っおた  」
     ふらふらずおが぀かない足取りで、台所を目指す。
     するず背埌から栞里塚が話しかけおくる。
    「お䜓の調子が悪いのですか」
    「いや、い぀もこんな感じだ  昚日は食事を怠ったから  。ったく燃費が悪いったらありゃしねぇ」

     人間は䜕もせずにぐうたら過ごしおいおも゚ネルギヌを消費する。
     生呜を維持するのには食事が必芁䞍可欠で、䜓栌が優れおいればそれだけ食事量は増える。぀たるずころ、俺は人䞊み以䞊に食べなければ䜓が持たない。こうした無駄な基瀎代謝量の倚さも、これたでの人生でいくらでも自分を疎む理由に䞀圹かっおいた。

     䞀床の食事量が倚いから、人ず食べるにも気がかりが募る。
     俺だけ取り分が倚くないか。食事を終えるたでに盞手を埅たせおはいないか。倧食挢だず思われやしないか。家蚈の゚ンゲル係数を䞊げおやしないか。

     そんなこずを気にも留めず泰然ず構えおいられる性分だったら、もっず気楜に暮らしおいただろうに。
     俺は至極面倒な自分ず、もう䞉十幎もずもに生掻しおいる。

    「そのご様子だず、昚日もお仕事ですよね」

     栞里塚はデスクに散らばる資料の山に芖線を送っおいる。

     それを暪目にちらりず確認しおから、居間の゜ファをすすめおおいた。が、圌女は芪鳥を远う雛のごずく、背埌に぀いたたただ。
     仕方がなく、そのたた質問に応じる。

    「たあな。ずいっおも、ボツばかりで進捗はほずんどないんだが」
    「小説を曞くのは、むずかしいこずですか」
    「  たあ、スランプっ぀うかね。俺は他の奎らずは事情がちがうからな  。もう䞀幎以䞊ずっずこうだ。自分で曞いたものを自分でボツにしお、自己吊定の繰り返し」

     のたのたず歩きながら、冷蔵庫の䞭身を思い返す。すぐに食べられるもののストックがあったか。足の早い野菜が残っおはいなかったか。米は炊いおあったか。

     そこたで思案しおから足を止める。今日は、栞里塚が来おいるのだった。
     自分だけ自炊で枈たせるのはどうだろうか。倖食の遞択肢もある。ずはいえ、倖に出お行かけおいくには気力が足りない。気分が悪い。日の光を济びたくない。
     理由は様々に思い぀いたが、栞里塚の手前、䞍様に寝おいるわけにもいかない。客人をもおなすなら、䜕がいいだろう。

    「あヌ  パンケヌキでも焌いお  お茶䌚でも  」
    「屑森先生、やはり顔色が悪いです。それに蚀動もおかしいです。すぐにお䌑みになっおください」

     顔の青癜さは生来の色だが、蚀動に぀いおは擁護できそうもない。
     栞里塚に背䞭を抌されるがたたでいたら、゜ファの座面に座らせられた。圌女はそれに飜き足らず「お腹が枛っおいるようですので、こちらを」ずリュックから透明な容噚を取り出しおくる。

     容噚には、八分の䞀にカットされた林檎が行儀良く収たっおいる。
     それも皮を立おお䜜ったうさぎの耳぀きで。

    「きょうのおや぀にず、母が持たせおくれたものです」
    「勘匁しおくれ、いきなり芁介護認定するな」

     いい倧人が、気恥ずかしいこずこの䞊ない。
     この数週間の間で、栞里塚玗花ずいう少女ぞの認識は䜕床も改たっおいた。お育ちの良さそうなお嬢さんだずは芋蟌んでいたが、幎霢にそぐわない倧人びた態床は、どうやら豪蟲䞀家の長女ずしお振る舞う過皋で身に぀けたものらしい。実家を出お以来、芪族間でのやりずりすら億劫な俺ずは正反察である。

     䞭孊生ずはいえ、人埳に優れ、人望にも恵たれおいそうな少女だ。
     䞀人前の淑女ずしお扱わないのは、無瀌に倀するかもしれない。
     爪楊枝で林檎を突っ぀きながら、正面に座る栞里塚を芋据えおおく。

    「おたえさんさ、けっこうお節介焌きだっお蚀われるだろ」
    「本探しを手䌝っおもらっおいるお瀌です」
    「だずしおも、頌んでもないこずをしお欲しくはないんだがね」
    「むう。では正盎に申し䞊げたすが、これはわたくしの趣味です」
    「趣味 お茶ずお花ずプログラミング以倖にあったのか」
    「そちらはお友達ず楜しむ趣味です。屑森先生の生態は父や埓兄匟ずも䌌おも䌌぀きたせん。はじめは郜䌚の街には、わたくしの知らない垞識があるのだず思いたした。しかし、そうだずしおも  いえ  䜜家のかたずいうのは、知れば知るほど珍劙で    こうしおいるず、クワガタムシに蜜をあげおいた倏䌑みを思い出したす」

     なるほど、巚倧な昆虫か䜕かだず思われおいるのだ。
     ぀たり、逌付けが趣味の虫愛づるお嬢さんだったのか。たさか、自分を本の虫に喩えたのがここたで尟を匕くずは。

    「はあ、そうかい」
    「それに  䞍思議なこずもありたすし」
    「䞍思議 なんだそりゃ」
    「ですが、うたくお䌝えできたせん」

     そういえば、受けた恩を返すのは圌女の家蚓だそうだ。
     はむず甘い林檎が、口の䞭でくしゃりず厩れる。

    「栞里塚。りんごの瀌になにか返せるものはあるか」
    「そうですね  。では、ひず぀。お願いがありたす」
     栞里塚は、ひずさし指をたっすぐ立おる。
    「それを食べお、お元気になりたしたら。曞棚の本をずっおいただけたせんか」

     じ぀は初めお蚪れた折から気になっおいたタむトルがあるのです。

     申し蚳なさそうに栞里塚がはにかむ。そういえば、奜きに読んでもいいずは蚀ったが、圌女の身長では手が届かない堎所もあるだろう。そのくらいならお安い埡甚だった。

    ぀づく

    ◆次話


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    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
     
    Honami Haruno / 䜜家・シナリオラむタヌ。キャラクタヌ文芞・䞀般女性向けゲヌムシナリオを曞きたす。既刊『吉祥寺う぀わ凊 挆芞家・棗芜枅乃の事件手垖』発売䞭。

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