聞き上手なら、それでいい?|会話をほどく・後編
前編では、「何を話そう?」ではなく「何を話してくれた?」という視点について考えました。
相手が話してくれた言葉を受け取って、そこから質問したり、感じたことを返したりする。それだけでも、会話への苦手意識は少し軽くなるかもしれません。
でも、ここでもうひとつ気になることがあります。
じゃあ、聞き上手になればそれで会話はうまくいくのでしょうか。
聞いているのになぜか疲れる会話
自分は普段、相手が話してくれたことの中から気になったところを聞くことが多いです。
「それっていつ頃の話?」
「そのあとどうなったの?」
「それ、結構大変じゃなかった?」
そうやって聞いていくと、相手が楽しそうに話してくれることがあります。それ自体は、自分もうれしい。
でも、ときどき少しだけ引っかかる会話があります。
相手の話を聞いて、質問して、また話を聞く。そして今度は自分のことを少し話してみる。
すると、
「へえ、そうなんだ」
で終わる。
何かを聞き返されるわけでもなく、少しすると、また相手の話に戻っていく。

その場では普通に話しているし、別に嫌なことを言われたわけでもありません。
それなのに、帰ってからふと思うことがあります。
「今日、自分の話、ほとんどしてないな」
そして、もうひとつ。
「この人は、自分にはあまり興味がないのかな」
前編で「聞くこともコミュニケーション」と書きました。
だったら、自分が聞けばいい。
そう考えることもできます。
でも、一人がずっと聞き役になって会話を支えることと、「聞くことが大切」という話は、少し違う気がするのです。
「質問されない=興味がない」とは限らない
ここは、決めつけないようにしたいところです。
相手が質問してこないからといって、それだけで「自分に興味がない」とは言い切れません。
質問するのが苦手な人もいます。自分の経験を話すことで「分かるよ」と伝えようとする人もいます。緊張していたり、沈黙を埋めようとして話し続けてしまったりすることもあるでしょう。
だから、
「質問してくれなかった」=「自分に興味がない」
と結論を出す必要はないと思います。
ただ、それとは別に、
「自分ばかりが相手の話を受け取っている気がする」
という感覚まで、なかったことにしなくてもいい。
では、なぜそんな会話は疲れてしまうのでしょうか。
会話には「受け取ってもらえた」という感覚がある
会話を考えるうえで、ひとつ興味深い研究があります。
2022年に『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載された研究では、知らない人同士と友人同士の自然な会話などを調べ、会話の応答時間と「相手とつながっていると感じる感覚」との関係を調べています。
その結果、会話の応答が速い場面ほど、参加者は相手とのつながりを強く感じる傾向がありました。そして、その感覚には自分がどれだけ速く返したかよりも、相手が自分にどれだけ速く応答したかが強く関係していました。
もちろんこれは、
「すぐ返事をすればいい」
という話ではありません。
研究で扱われている応答時間は非常に短く、意識してコントロールするような会話術として読むべきものではありません。研究では、こうした短い応答時間を会話する二人がどれだけ自然につながっているかを示すシグナルとして検討しています。
ここで面白いと思ったのは、別のところです。
この研究が扱っているのは応答の「速さ」ですが、そこから考えると会話の「つながっている感じ」は自分一人の頑張りだけで生まれるものではないのかもしれません。
たとえば、自分が話したことに相手が反応してくれる。
少し笑ってくれる。
驚いてくれる。
「それで?」と続きを聞いてくれる。
「分かる」と受け止めてくれる。
そんな小さな返事があることで、
「自分の言葉が、ちゃんと相手に届いた」
と感じられることがあります。
会話は、50:50じゃなくていい
では、お互いが同じだけ質問して、同じ時間だけ話せばいいのでしょうか。
たぶん、そんなにきれいには分けられません。
今日は相手に話したいことがあって、自分がほとんど聞いている日もある。逆に、自分が悩んでいて相手にたくさん聞いてもらう日もある。仲のいい人なら一方が夢中になって話して、もう一方がずっと笑いながら聞いている時間だってあるでしょう。
それで二人とも楽しいなら、何も問題はありません。

大切なのは、
「何分話したか」
「何回質問したか」
を同じにすることではないと思います。
気にしたいのは、もっと単純なことです。
自分が投げた言葉を、相手が一度受け取ってくれているか。
そして相手から投げられた言葉を、自分も受け取れているか。
そのやり取りがあるだけで、会話の感じ方はずいぶん変わります。
でも、その往復が片方からしか起きないとき、会話はどうなるのでしょうか。
一人で会話を支えなくていい
会話が途切れそうになると、「何か聞かなきゃ」「話を広げなきゃ」「気まずくならないようにしなきゃ」と考えてしまうことがあります。
前編で書いたように、そんなときは相手が話してくれた言葉の中から、気になったところを拾ってみる。
それは、自分自身もよくやっている方法です。
でも、それをずっと一人で続けなければ成立しない会話なら、疲れてしまうのも不思議ではありません。
質問する。
相手が答える。
また質問する。
相手が答える。
これだけが続くと、いつの間にか「会話」というより、自分が進行役をしているような感覚になることがあります。
本来の会話は、もっと行ったり来たりするものなのだと思います。
話す。
受け取る。
返す。
また受け取る。
きれいな順番でなくてもいいし、同じ量でなくてもいい。
でも、その往復があるからこそ、「二人で話している」という感覚が生まれる。
「自分に興味がないのかな」と思ったとき
もし会話のあと、「自分ばかり聞いていたな」「自分には興味がないのかな」と感じたとしても、すぐに相手との関係を決めなくていいと思います。
一度の会話だけでは分からないこともあります。
その人なりの話し方なのかもしれない。今日はたまたま話したいことが多かったのかもしれない。
でも、毎回同じような疲れを感じるなら、少しだけ自分の感覚にも目を向けてみる。
「この人が悪いか」ではなく、
「自分はこの会話で、何に疲れているんだろう」
そう考えてみる。
もしかすると、「話せなかったこと」よりも
自分の言葉を受け取ってもらえなかったように感じたこと
に疲れていたのかもしれません。
それは、相手が悪いという話でも自分がダメという話でもありません。
ただ、
「自分は、どんな会話なら心地よくいられるんだろう」
その感覚に気づくきっかけにはなると思います。
すぐに相手を「合わない人」と決めなくてもいい。でも、自分が感じた疲れまで無視しなくてもいい。
自分が心地よく話せる距離を探していけばいいのだと思います。
会話は、二人でつくる
話すのが上手いことも、コミュニケーションのひとつです。
聞くことも、もちろん大切です。
でも、前編と後編を通して考えてみると自分がいちばん大切にしたいのは、そのどちらが上手いかではありません。
相手の言葉を受け取る。そこから何かを返す。今度は相手が、それを受け取ってくれる。

その小さな往復です。
だから、会話がうまく続かないときに、
「自分はコミュ力が低い」
「もっと話さなきゃ」
「もっと聞き上手にならなきゃ」
と、全部を自分の課題にしなくてもいい。
前編では、
「何を話そう?」ではなく、
「何を話してくれた?」
と書きました。
そこに、もうひとつ加えるなら
「自分の言葉も、相手に受け取ってもらえている?」
ときどき、そんなふうに考えてみてもいいのかもしれません。
会話は、どちらか一人が頑張って成立させるものではありません。
会話は、二人でつくるものだから。
参考資料
Templeton, E. M. ほか(2022)
“Fast response times signal social connection in conversation”
Proceedings of the National Academy of Sciences
知らない人同士と友人同士の自然な会話などを用いて、会話の応答時間と社会的なつながりの感覚との関係を検討した研究です。相手からの速い応答が、より強いつながりの感覚と関連していました。
【YouTubeでも公開しました】
この記事の内容を、前編・後編をまとめて一本の動画にしました。
文章で読むより、音声や映像のほうが入りやすい方はこちらからどうぞ。
▼「コミュ力が高い」って、話すのが上手いこと?|会話をほどく
「ほどく。」には、ナギという小さな相棒がいます。
暮らしの中で出会う「どうしよう」に、そっと寄り添いながら、一緒に考えてくれる子です。

これからも、ナギと一緒に。
暮らしの「どうしよう」を、ひとつずつ。
