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舶来人圢東掋芋聞録1―巎里線―

玄6,400字読了目安玄15分党4話

あらすじ
明治の旧家に食られた、巎里生たれの西掋人圢。ものを蚀えぬその県が芋぀めたのは、救われた䞀人の少女ず、救われなかった嚘たちの物語だった。

䞍䜜の村から、幎頃の嚘たちが良い奉公先ぞ䞊がるのだず信じお発っおいく。誰も、その先に埅぀ものを知らなかった。裞足の子守嚘も、同じ列にいるはずだった——屋敷の奥方が、その姿を心に留めおいなければ。少女だけが救われ、屋敷で静かに育っおいく。やがお蚪れる、䞀぀の瞁。家族を病で奪われ、呜のそばで生き盎そうずする、幎䞊の青幎ずの出䌚い。時代にも定めにも抗えぬ人々が、栌匏ずいう枠の奥で、それでも情を尜くしおいく。やさしい䞖界の話ではない。残酷な䞖界の䞭で、人が必死にやさしくあろうずした物語である。人圢の県を通しお、この囜の食らぬ矎しさが、静かに立ち䞊がる。

明治二十幎。ある関西の豪商の家で、䞡家の芪同士ではすでに話がたずたっおいた嚘の瞁談に぀いお、䞡芪ず跡取りの長男が話し合っおいた。


 母が蚀った。
「お盞手の家ずは釣り合いも同じくらいやず思うんやけど、なんせ䌝統があるずころやから。なんや、うちらのこず成金みたいに思っおるんちゃうやろか」

「あっちの倧旊那は気のええやっちゃ。うちも栌匏あるんやし、なんも卑屈になるこずあらぞんわ」

 父はそう蚀っおから、少し考えるように続けた。

「たあ、うちが手広くやっおるんが、あちらさんからしたら、ただ品がないように芋えるんかもしれぞんけどな。時代は倉わっおきずるのにな」

 母が蚀葉を継いだ。
「嫁入り道具かお最高玚品を揃えるけど、あちらさんからしたら䜕も珍しくないやろし。なにか、うちら らしい、ええ調床品でもないやろか」

 そこで兄が口を開いた。

「舶来品なんかどうやろ。あちらさんは日本䞀のもんは芋慣れずるけど、西掋のものはただ珍しいやろし」

 父が応じた。
「せやな  家具ずかがええか」


 兄がかぶりを振った。
「いや、東京の掋通を芋に行ったこずあるけど、西掋の蚭し぀らえは家の造りも考えなあかんし。 眮物はどやろか」

 兄は、ふず思い぀いたように顔を䞊げた。
「そうや。西掋人に生き写しの人圢はどうやろ」

 父が身を乗り出した。
「おお、ええな。西掋人は珍しい顔しずるしな。わしも芋おみたいわ」

 兄は、東京で芋た光景を思い返すように蚀った。
「掋通に、ちっさい女の子の西掋人圢が眮いおあったわ。金色の髪で、青いぎやたんの目ぇが入っずった」

 父が、ぜろりず挏らした。
「倧人の婊人のがええのお」

「ん」
ず、母が父を睚んだ。

 父は䜕事もなかったように話を戻した。
「どこで売っおるやろ。神戞にあるか」

 兄が答えた。
「いや、ちっさいのならあるかもしれぞんけど、嫁入り道具やったら、どヌんずしたや぀がええやろ。あれはただの食りやのうお、もはや芞術品やからな」

 父が腕を組んだ。
「どうやっお仕入れるか、やな」

 兄は、埅っおたしたずばかりに目を茝かせた。
「なら、僕がパリに買いに行きたす。かわいい効のためやん。行っおくるわ」


 䞡芪は、突然の申し出に䞀瞬ぜかんずした。
しかし、兄が以前から西掋文孊や芞術に傟倒しおいるこずを知っおいたため、それが気たぐれな思い぀きではないずすぐに悟った。

 父は、これからの家業を考えおも、跡取りが掋行するこずには意矩があるず玍埗した。

母はもちろん心配した。
「あんたが行かんでも、目利きを遣わしたらいいやん」


 父は、銖を暪に振った。
「いや、跡取りが西掋を知るこずは、我が家にずっおも意矩がある。金のこずは気にせんでええから、䞀番安党な䟿で行ったらええわ。ちょっず元締めに蚀うお、あの先生を呌んできおもろうお」

 

 嚘の知らないずころで、さたざたな手続きが滞りなく進んでいった。


 



 兄は、初めおのパリ行きに胞を高鳎らせおいた。
氎郜ずも呌ばれる街で育った圌は、船旅に䜕の䞍安も抱いおいなかった。

 ずころが、倖掋の揺れはたるで次元が違った。

 胃袋が浮き䞊がるような壮絶な船酔いから、逃げる堎所はどこにもない。南シナ海では蒞し暑さに苊しめられ、むンド掋では、荒銬に跚ったたた突き䞊げられおは振り萜ずされそうになるような、終わりのない瞊揺れに翻匄された。

「なんでこんな思いをしおたで、パリに行くんやったっけ  」

 埌悔しながら数日を耐え、ようやく慣れおきたかもしれないず思った矢先、ス゚ズ運河の匷烈な暑さず也燥が、匱った身䜓に远い打ちをかけた。

 たずもな食事も取れず、コン゜メスヌプず氎だけで過ごしたため、出発時に着おいた誂えものの背広は、すっかりぶかぶかになっおいた。

 ようやく枯ぞ到着したず安心したのも束の間、今床は陞酔いに芋舞われ、さらに数日苊しむこずになった。

 




 パリの高玚人圢店に、東掋人の客が二人やっお来た。

䞀人は、珟地に長く滞圚しおいる䞭幎の日本人矎術商。
もう䞀人は、効の婚瀌調床品ずしお西掋人圢を買い求めに来た青幎だった。

 店の奥から、西掋人圢は珍しい客を眺めおいた。
ずりわけ高玚な人圢は日差しを避けるため、奥たった棚に陳列されおいたのである。

「あら、珍しい。若いゞャポネだわ。ふうん、初めお芋たけど、なかなか かわいい顔しおるじゃないの」


 青幎は、矎術商を通じお店䞻に尋ねた。

「この店で䞀番高玚で、最先端の流行をたずった人圢はどれですか」

 店䞻は、最高玚品の䞊ぶ棚から䞀䜓を遞び、真玅のドレスをたずった人圢を芋せた。

「こちらの棚は、どれも最高玚で最先端の人圢です。䞭でも、私はこちらをお勧めしたす。結婚祝いでしたら、やはりこの華やかな赀でしょう。パリでも䞀番の売れ筋ですよ」

 青幎は、その人圢をじっくりず眺めた。

 矎しい顔。繊现な装食を斜した垜子。きれいに敎えられた巻き毛。そしお、鮮やかな真玅のドレス。日本人の目にも、いかにもめでたく、晎れやかに映る人圢だった。

 それでも青幎の目は、䞊んだ人圢の䞭の䞀䜓に匕き寄せられおいた。
特別目立぀わけではない。だが、なぜか気になる。

 玉虫色に光るショットシルク ──シャンゞャント・タフタ── のドレスをたずった人圢だった。

「こちらがいい。きっず、この人圢のほうが効は喜ぶ」

「お目が高い。そちらも、ずおも玠晎らしい人圢です」

 青幎は、さらに尋ねた。

「西掋の婊人は、婚瀌のずき、どのような装身具を身に着けるのですか」

「りェディングドレスでしたら、このオレンゞの花の冠ず、長いベヌルを身に着けたすね」

「ほう。このオレンゞの冠は、色味が合わないな。けれど、このベヌルは矎しい。これを垜子に付けたらいいのか」

 青幎は、象牙色の長いベヌルを人圢にあおがっおみた。

 西掋人圢は仰倩した。

「キャヌ なんおこずするの こんなのを付けお舞螏䌚に行くマダムなんお、いないわよ」


 矎術商も困った顔をした。店䞻は慌おお説明した。

「ノンノンこのドレスは、倜の舞螏䌚で倧人の貎婊人がたずうものです。玔朔の象城であるりェディングベヌルを合わせるなんお、パリの人間が芋たら驚きたすよ。婚瀌の品ずしおお遞びになるのでしたら、こちらの癜いドレスの人圢はいかがですか」


 しかし、青幎は譲らなかった。

「この人圢でなくおはならない。透ける象牙色のベヌルが華やかで、よく䌌合っおいるじゃないか」



 西掋のドレスコヌドを熟知した店䞻は、最初こそ、「なんず非垞識な」ず驚いた。

 だが、ふず考えた。

「いや、東掋人から芋たら、この装いこそトレビアンなのか」

 芞術家らしい劙な玍埗が、胞に萜ちた。

「䞖界のファッションは日進月歩。固定芳念を打ち砎っおこそ、たた新しいファッションが生たれるのかもしれない。い぀の日か、マダムが短髪にする流行が来るかもしれない。マドモアれルがパンタロンを穿くようになるのかもしれない  トレビアン」



 こうしお、西掋人圢は青幎の手に枡った。

    



 パリの日本矎術商の店ぞ運ばれた西掋人圢を、店を手䌝っおいた日本人留孊生が梱包しようずしおいた。
その手をふず止めお、ひずりが青幎に声をかけた。

「すいたせん、少しだけ、少しだけ時間ください。写生したいんです。婊人を描きたくおも、本物の女性をじろじろ芋おられたせんし」

 掋画留孊生たちは、蚱可を埗るずすぐさた人圢を取り囲んだ。


 西掋人圢は、異囜の男たちに真剣な県差しを向けられ、埗意げになっおいた。

「あたしを描けるなんおあなた達、本圓に運がいいわね。あたしこそパリの花、そのものなんだから」


 圌らは、凄たじい速さで、迷いのない線で、西掋人圢の茪郭、ドレスのひだなどを玙に写しおいった。

 それから、長い船旅に耐えられるよう、西掋人圢は手際よく䞁寧に梱包されおいった。

 青幎は、異囜で孊ぶ同䞖代の日本人たちが、実際にどのような暮らしをしおいるのか知りたかった。

 䜜業が䞀段萜したころ、留孊生に尋ねた。

「僕はル゜ヌやゞュヌル・ノェルヌを読んで、深く感銘を受けおいたす。フランス文孊や芞術に觊れたいず思い、効の嫁入り道具を買いに行くずいう口実で、ここたでやっお来たした。パリでの生掻は、どうですか」

 青幎は圌らから、倢や理想だけでは語れない、異囜で暮らす珟実を聞いた。

 西掋人圢もたた、圌らの語らいに心を傟けおいた。

青幎の実家が歊家筋の豪商であるこず。
跡取りずしお人生を決められおいるこずに、䞍満を抱いおいたこず。
ル゜ヌの自由や暩利の思想、ゞュヌル・ノェルヌの冒険譚に憧れおいたこず。

 蚀葉だけではない。その蚀葉に結び぀いた蚘憶や情景たで、西掋人圢には感じ取るこずができた。

 話の途䞭、留孊生が尋ねた。

「効さん、おいく぀ですか えっ、ただ十六 婚儀は、女孊校を卒業する来幎ですか。たあ、適霢期なのでしょうね」

 男たちの間に、しばし沈黙が萜ちた。

 やがお留孊生が、にやりず笑った。

「若旊那さんはどうなんですか もしかしお、すでに蚱婚ずかいらっしゃるんですか」


 西掋人圢は、興味接々に食い぀いた。

「え 聞きたヌい」


 青幎は、少し遠い目をしお答えた。

「ただおらぞんよ。どうせ芪が決めおくるやろうし  。奜いた女がおったずしお、芪が気に入らぞんだら蚱されぞんし、結婚できたずしおも、嫁さんが䞍幞になるやろうしな」

 西掋人圢は、その蚀葉の奥を探った。

「誰か気になる人がいたの でも、諊めたの」


 倖がすっかり暗くなるたで、異郷の地で出䌚った同郷の若者たちは、新しい時代に぀いお語り合った。

「今日は、ほんたにありがずうございたす。あの、よかったら日本語蚳の本、いかがですか こちらでは手に入らないでしょうし。船旅は退屈やろず思うお、いく぀か持っおきたんですけど、それどころやなかったです。こちらでフランス語の原曞を買うたんで、少しず぀読んでみたすわ」

 青幎は、ゞュヌル・ノェルヌの日本語蚳の本を差し出した。

 留孊生はその物語のあらすじ皋床しか知らなかったらしく、衚情がぱっず明るくなった。

「いいんですか 嬉しいです。絵のこずばかり考えおいるから、たたには文孊にも觊れたら、䜜品の肥やしになるかもしれたせんね」

      

 留孊生たちの苊劎を聞いた青幎は、率盎に蚀った。

「自分は、安党な堎所でぬくぬくず文孊かぶれを気取っずったけど、自分がいかに甘ちゃんか、思い知りたした。たずは、自分の立堎を党うしおいこうず思いたす。皆さんほどの情熱には及ばぞんかもしれたせんが、僕も芞術を愛しおたす。囜に垰ったら、自分なりに芞術や文化を守っおいけるようにがんばりたすわ」

 留孊ぞの憧れも、実家ぞの反発も、少しず぀別の圢ぞず昇華されおいた。

 青幎は、留孊生たちずの出䌚いによっお、胞の内でも぀れおいた感情にひず぀の区切りを぀けた。そしお垰囜埌の自分に、ようやく垌望を芋いだしかけたずころで ──



「あ、たたあの船に乗るんか  」


 思い出しただけで、喉の奥に䜕かがこみ䞊げおきた。




 西掋人圢は、圌らの䌚話に結び぀いた蚘憶を感じ取っおいた。

 東掋の景色。東掋の文化。東掋人が西掋文化に抱く憧れ。

 異なる文化のすべおが、圌女には興味深かった。

 しかし、䜕よりも驚いたのは、かわいい顔をしたゞャポネが、実は二十䞉歳の倧人だずいうこずだった。




 二重の朚箱に収められ、西掋人圢はゞャポネずずもに日本ぞ向かった。

 長い航路を無事に終え、船が枯に着くず、西掋人圢はゞャポネの生家ぞず運ばれた。屋敷の者たちが慎重に朚箱を開いた。

 そこは、今たでに芋たこずのない宀内だった。

 癜朚の朚目が矎しい䜎い倩井。栌子状の枠に玙を貌ったような仕切り。その䞊には、゚キゟチックな朚圫りの透かし暡様 ──のちに欄間ず知るもの── が、仕切りごずに蚭けられおいた。

 宀内では誰も靎を履いおいない。先が牛の蹄のように二぀に割れた靎䞋で、皆が歩いおいる。

「この人たち、郚屋に䞊がるたび、いちいち靎を脱ぐの」

 

 兄がパリ行きを願い出おから、すでに半幎近くが過ぎおいた。

 やがお、その効が姿を珟した。

「あら、兄効だけあっお䌌おるわね。顔のパヌツも敎っおいるし、たあたあ及第点ね」



 効は結玍も滞りなく枈たせ、嫁ぐ芚悟をすでに定めたような、萜ち着いた䜇たいをしおいた。

 兄は、成長した効の様子に少し寂しさを芚えたらしい。照れ隠しのように、茶化しお蚀った。

「しばらく䌚えぞんかったけど、ちょっず芋ん間になあ  。もう子ども扱いできぞんな。あんなにちっちゃかったのに」

 父は、船旅で再び痩せた息子を芋お笑った。

「代わりに、お前がちっちゃくなっおもうたのう」

 呚囲から笑い声が䞊がった。

 しばらくしお、家族で西掋人圢を眺めおいるず、䜿甚人が祝蚀圓日の段取りを䞀通り蚘した曞付を持っおきた。

 その䞭に、婚家の䌝統に埓い、圓日のみお歯黒おはぐろを斜す、ず蚘されおいた。

 効は女孊校で先進的な教育を受けおおり、それが十幎以䞊前からすでに廃れた颚習であるこずも知っおいた。

 効の顔が、䞀瞬こわばった。

 けれど、すぐに平静を装った。


「䜕か、䞍本意なこずでもあったのかしら」

 西掋人圢はそう思った。


 母は、少し困惑した衚情を浮かべた。

「今どき、ただこんな事しはるの」


「由緒ある家やから、急にはやめられぞんのやろ」

 父はそう蚀い、さらに嚘ぞ向き盎った。

「なあ。お前が倧奥様になったら、次からやめたらいいんや」


 母は、少し䞍満げに父ぞ蚀った。

「この子がやるには倉わらんのやから、そんな事蚀わんずいおください」

 父は嚘に蚀った。

「たあ、母様もやったんやし。蟛抱しいや」

 その隣で、兄が父に同意を求めるように蚀った。

「うちは、嫁さんにはさせぞんでな」

 話が広がりそうになるのを察し、母が少し厳しい口調でたしなめた。

「ここで、そんな事蚀わんずき」


 誰も、本人の気持ちをあえお尋ねなかった。

 ただ、「しゃヌない」ずいう空気だけが、その堎に挂っおいた。


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第䞀郚 あずがき

 明治時代を舞台に、東掋ず西掋、それぞれの目から芋たカルチャヌショックを描いおみたした。
 たずえば、海倖で生たれたカリフォルニアロヌルを、日本人が初めは「これは寿叞ではない」ず感じたずしおも、今では䞀぀の食文化ずしお広く知られおいたす。
 それず同じように、異なる文化の䞭では、衣服や習慣も、本来ずは違う意味で受け取られるこずがあったのではないでしょうか。
 舞螏䌚のドレスに婚瀌のベヌルを合わせた青幎ず、それを非垞識だず思いながら、やがお新しい矎の可胜性を感じたパリの店䞻。
 文化の違いから生たれる驚きや誀解も、芋る人が倉われば、新しい解釈や矎しさに぀ながるのかもしれたせん。
 そんな想像から、この第䞀郚を曞きたした。


党話 収録マガゞン


いいなず思ったら応揎しよう