メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【ショートショート】積読美術館 贈り物 [毎週ショートショートnote]

    鷹羽飛雪

    積読美術館 贈り物

    「その魔法使いは、来る日も来る日も、書物を書き綴つづっていました。そうして、一冊一冊を、丁寧に装丁し、館の図書室に、大切に保管するのでした。その様子は、まるで積まれた本の美術館のようでした。
     図書室には、一枚だけ、絵が飾られていました。美しい女性の肖像画でした。
     やがて、最後の本を仕上げると、魔法使いは息を引き取りました。

     その、十数年後。久しく人気ひとけの絶えていた館に、一人の若者が訪れました。ようやく探り当てた父の館、しかしそこには、父の姿はありませんでした。
     ただ、図書室に、たくさんの美しい本が、読まれることもなく積まれていました。
     そこに飾られていた肖像画が、若者の目を惹ひきつけました。自分と瓜うり二つ。亡くなった、母でした。その絵の下に、紙が留められていました。
    『わたしは、お前に会うことは叶わないでしょう。でも、これらの本を残します。 父より』
     本の一冊を、若者は、大切に、手に取りました。そしてその本から得た知識で、若者は、国を救うことになったのです。

     はい、今日はここまで」


    「本が役に立ったのはよかったけれど、お父さんに会えなかったのは、悲しいね」
    「そうだね」
     妻の忘れ形見である幼い息子を、愛しげに見詰め、父親は、続けた。
    「お前が好きなあの博物学の書も、その図書室に積まれていた一冊かもしれないよ」
     息子の目が、輝いた。星の光が射したかのようだ。
    「そうなの? じゃあ、大切にする」
     こうして息子と過ごせる幸せを噛み締め、父親は、優しく目を細めた。

    了


    #毎週ショートショートnote
    #積読美術館

     今回、こちらのお題に参加させていただきました。
     どうもありがとうございます。

     こちらは関連作品です。

     本作は、拙作の長編ファンタジー小説〈隻翼の竜の書〉シリーズの一作、『霜夜の星』のスピンオフですが、本作のみでもお読みいただけます。


     
     
     
    物語や神話、歴史が好きで、ファンタジー小説を書いています。光と闇の狭間、多様な人間関係により織り成される、緻密で重厚な物語を、丁寧に紡いでいきたいです。 憧れは『指輪物語』。好きな作家はJ.R.R.トールキン、R.サトクリフ。 猫たちと同居中。 ほぼ毎週水・日更新。短編は随時。

    あなたへのおすすめ