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Photo byima_doco

ほたるのうた 〈1. アラーム〉


    あらすじ

    心配性でこわがりな小学6年生のちあには、転校した親友まみこがいる。ふたりをつなぐのは、キッズケータイで一日に三往復だけ送れる短いメール。6月の誕生日、ちあはまみこの新しい家へ泊まりに行く約束をしていた。

    けれど、その約束の背景には忘れられない出来事がある。5年生の秋、まみこの父が亡くなったこと。そしてあっけなく迎えた春休みにまみこが転校してしまったこと。親友のために何もできなかった後悔を抱えたまま、ちあは再会の日を迎えた。

    田んぼを舞うホタルの光。冷えた水を温め直して入るお風呂で、火のぬくもりを感じる。変わってしまったものと、変わらないもの。命のはかなさと強さを見つめていく少女の友情と成長を描く物語。



    1章 アラーム

     スマホのアラームが、ちあに、夕方4時をしらせている。
    「よっこいしょ……っと」
     自分でも小6女子とは思えないセリフをつぶやきながら、ちあは、部屋の明かりをつけるため立ち上がった。先に冷蔵庫からヨーグルトをひとつ取り、電気のスイッチをパチッとたたいてテーブルにもどる。

    「あとは音読。ママが帰ってきてからでいいやつ」
     ちあは、またひとり言を言って、ちらばった教科書やドリルを、すみに追いやった。カップのふたをあけると、蛍光灯に照らされて、ヨーグルトが白く光っている。まだだれもふんでいない、一面の雪みたい。スプーンをさしこんで、ひとすくい。
    「いただきまーす」
     ぱくっ。
    「んま! てか、うるさい」
     ちあはやっと、アラームをとめた。

     このアラームをセットしたのは、ちあのお姉ちゃん。きのうの夕方、たまたま会ったママと一緒に帰ってきて、お姉ちゃんは言った。
    「まっ暗! あんた、どうして電気つけないの。こわがりのくせに」
    「ちあは、いっつもそうなの。そうだ、りっちゃん、ちあのスマホに、アラームでセットしてくれない?」
    「オッケー」
     そういうわけだった。
    「あ~、スマホほしいなあ」
     これはキッズケータイだ。お姉ちゃんのりさは、高校の入学祝いで最新のスマホに買いかえをした。そしてちあには、これがあてがわれたが、黄色くコロンとして、いかにも保護下な感じ。
    「ヴォンッ!」
     犬のサリーが、庭でほえた。遊ぼうのアピールだ。
    「まってね、サリー」
     スプーンをくわえたまま、ちあが、そう言ったとき__
     ドンッ……ガタガタガタッ。家がゆれる。
    「ひゃ、地震!」
     ちあがあわてて庭に飛び出ると、サリーがかけより、しっぽをふった。
    (大丈夫だよ、ちあちゃん。遊ぼう)
    「……もう、止まった? あーこわかった。ママが帰ってくるまで、ひとりでいるのイヤだなあ」

     ちあはこわがりで、心配性。それだけじゃない。そんな自分にこまってもいる、心配性のこまり屋だ。
     ママもお姉ちゃんも心配性だけど、こまってるって感じがしない。家族が出かけるときは、百回くらい「気をつけてね」を言ってくる。「言い過ぎ!」って返しても「いいの!」と笑い飛ばす。そんなママたちの「気をつけてね」は多分すごく本気で、言霊がのってる感じ。そういう圧の強さからなのか、本人がそれに負けている感じがしないのだ。
     
     でも、ちあは、自分の心配グセを「イヤだなあ」と思った。だって、次から次へとこわいイメージ映像が、頭の中をめぐるのだ。自分で勝手にしているってことは分かっているけど、その止め方が分からない。
     サリーが庭のコンクリに入った、ひびのにおいをかいでいる。ほら、そこから地面がパカッ……と割れたらどうする? 家族みんなはあっち側、自分ひとりがこっち側。その深いみぞは、マグマまで届きそうな。学校も、友達も、み~んないない。こっちの世界で、ちあは、今日からひとり生きていかなければならない。
    「ヴォン!」
     ああ、サリー! サリーはいつだって、ちあのとなりにいてくれる。大型犬のサリーは、ぎゅっとだきしめると、本当に安心できる。サリー、ずっと生きていてね。わたしのこと、ひとりにしないで。
     ちあのクセとは、こんなぐあいだ。
     
     ふと空を見上げると、雲が夕焼け色にそまっている。
    「きれー……」
     ちあは、テレビで見た、戦争している国のニュースを思い出した。あの、がれきの町にも、こんな夕焼けが広がっているんだろうか。あの場所にも、ちあみたいな女の子もいるんだろう。その子には、家や家族があるんだろうか。どうして、その子はそこにいて、自分はここにいるんだろう。
     こわいことは、現実にも起きている。ちあは、そのことを知っていた。
     学校にいるときにサイレンが聞こえると、家が燃えているのではと心配になった。家にいるときに、ふと電話がなれば、だれかが亡くなったって知らせる電話じゃないかって思ってしまう。そういう想像を、ちあはいつだって、かんたんすることできた。
    (考えるの、やめよう。本当にそうなっちゃうかもしれないじゃない)
     ちあは、頭をぶんぶんふった。
    「ヴォン!」
     
    「サリー、ただいまー。あら、ちあが外にいる」
    「地震あった」
    「そうなの、気づかなかった。りさは?」
    「まだ」
    「ああ、こわかったね。……ちあ、ごめん、ちょっと塩」
    「あーい」
     ママは、看護師だ。この町の総合病院で、師長をしている。
     そんなママが仕事から帰って、チャイムを鳴らすと「お塩」の合図。だれか、患者さんが亡くなったってことを意味した。塩で清めて、家に上がる。でも、ママが病院での出来事を話すことは、まず、なかった。
     

    次章へ続く

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    絵本の文章、童話、詩を創作する者です。 暮らしのつれづれ、エッセイなど。 司書、森のようちえん、文庫の主宰。 webサイト「ほんとね。」https://hisanoookawa.themedia.jp/