メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

䞀぀䞀぀発する蚀葉の倧切さ 

    ステレオず友人

    第12話 呜の恩人 最終話

    呜の恩人、ずいう蚀葉がある。
    呜を救っおくれた人のこずを、そう呌ぶ。
    私にも、呜の恩人がいる。
    でもその人は、私の呜を救ったわけではない。
    手術をしおくれたわけでも、事故の珟堎で助けおくれたわけでもない。
    ただ、䞀蚀だけ蚀っおくれた。
    公園のベンチで、空を芋䞊げながら。
    「コンピュヌタかな」
    それだけだった。
    しかし、私は田䞭の呜の恩人になれなかった。

    田䞭が死んでから、䜕幎経぀だろう。
    数えるず、子どもたちの幎霢より長い。
    私の瀟䌚人生掻のほずんどず重なる。
    それだけの時間、田䞭はいない。
    いないのに、いる。
    頭の䞭に、いる。
    墓の前に立぀たびに、いる。
    仕事で぀らいこずがあったずき、誰かに話せないこずを抱えたずき、ふず「田䞭ならなんず蚀うだろう」ず思う瞬間がある。
    答えは出ない。
    でも、考える。
    それが、田䞭が今も私のそばにいるずいうこずだず、私は思っおいる。

    田䞭の無念を、私は晎らせなかった。
    これは、ずっず思っおいるこずだ。
    田䞭が䜕に远い詰められおいたのか、私には最埌たでわからなかった。
    䌚瀟のこずか、人間関係のこずか、それずも別の䜕かか。
    「最近、しんどいな」ず蚀ったずき、私はそれ以䞊聞かなかった。
    男同士だから、ず思っおいた。
    深く聞かない方がいい、ず思っおいた。
    その刀断が正しかったのかどうか、今でも答えが出ない。
    もし聞いおいたら、䜕かが倉わっおいたかもしれない。倉わっおいなかったかもしれない。
    わからない。
    わからないたた、時間が経った。
    わからないたた、これからも生きおいく。
    それが、残された人間の宿呜だず、今は思っおいる。

    悔しい、ずいう気持ちは、消えない。
    消えないが、圢が倉わった。
    最初は、鋭かった。胞に刺さったたた抜けない、ずがった悔しさだった。
    それが幎を重ねるうちに、䞞くなった。
    䞞くなったが、なくならなかった。
    今も、ある。
    田䞭の分たで生きる、ず私はあの倜に思った。
    生きる、ずいうこずが䜕を意味するのか、そのずきはわからなかった。
    でも今ならわかる。
    劻ず出䌚ったこず。子どもたちが生たれたこず。
    仕事でぶ぀かった壁を、䞀぀ひず぀越えおきたこず。
    呜日に墓ぞ行くこず。䞊の子に田䞭の話をしたこず。
    党郚が、田䞭の分たで生きるずいうこずだった。
    特別なこずではなかった。
    ただ、生きるこずだった。

    田䞭がくれたものを、私は数えたこずがある。
    䞀぀目は、道だ。
    コンピュヌタずいう蚀葉が、私の道を䜜った。
    専門孊校、囜家資栌、䞀郚䞊堎䌁業、今の仕事。
    党郚が、あの䞀蚀から぀ながっおいる。
    二぀目は、ラむバルだ。
    田䞭に負けたくない、ずいう気持ちが、私を動かし続けた。
    受隓のずき。専門孊校のずき。就職のずき。
    ぀らい仕事の倜も、田䞭ならもっずやるだろう、ず思った。
    根拠のない話だが、それで動けた。
    䞉぀目は、墓前の蚀葉だ。
    誰にも蚀えないこずを、田䞭に蚀えた。
    答えが返っおこないから蚀えた。
    それが毎幎の呜日を、私にずっお必芁な時間にした。
    四぀目は、子どもぞの話だ。
    䞊の子に田䞭のこずを話した倜、私は初めお田䞭のこずを声に出しお誰かに枡した。
    蚀葉っお、残るんだよ、ず蚀いながら、田䞭の蚀葉が私を通しお䞊の子に枡っおいった。
    これは、田䞭が意図したこずではない。
    でも、起きた。
    田䞭は知らない。でも、起きた。

    呜の恩人、ずいう蚀葉の意味を、私はずっず考えおきた。
    呜を救う、ずいうのは、手術をするこずだけではないのかもしれない。
    道を䜜るこずも、呜を救うこずだ。
    道がなければ、人は歩けない。
    歩けなければ、たどり着けない堎所がある。
    劻も、子どもたちも、今の私も、たどり着けなかった。
    田䞭は私の道を䜜った。
    知らないうちに、芚えおもいないうちに、䜜った。
    それを呜の恩人ず呌ばずに、䜕ず呌べばいいのか。
    私には、蚀葉が芋぀からない。

    今幎も、呜日が来る。
    私は電車に乗る。坂道を䞊る。霊園に入る。
    田䞭の墓の前に立぀。
    線銙に火を぀ける。煙が、秋の空に现く䞊っおいく。
    手を合わせる。
    目を閉じるず、い぀ものように田䞭の顔が浮かぶ。
    高校の制服を着た、あの顔。
    家電量販店でスペック衚を読む暪顔。
    公園のベンチで空を芋䞊げる顔。
    「コンピュヌタかな」ず蚀ったずきの、どこか遠くを芋おいた目。
    目を開ける。
    「来たぞ」ず蚀う。
    それから、話す。
    今幎の仕事のこず。
    子どもたちのこず。
    䜓のこず。
    歳を取ったこず。
    䞀通り話しおから、最埌にい぀も同じこずを蚀う。
    「お前はいいよな。悩みも、人間関係もないだろう。幎も取らないし。そっちはどうだ」
    田䞭は答えない。
    颚が来る。
    朚の葉が䞀枚、萜ちる。
    私はもう䞀床、石を芋る。
    石には、田䞭の名前が圫られおいる。
    名前を、指でなぞる。
    冷たい。
    でも、ここにある。

    垰り道、坂を䞋りながら、私は思う。
    田䞭がいなければ、私はここにいない。
    「ここ」ずいうのは、この坂道のこずではない。
    今の仕事のこずでも、今の家のこずでもない。
    今の私、ずいうこずだ。
    劻を愛しおいる今の私。
    子どもたちを抱きしめおいる今の私。
    仕事でぶ぀かりながら、それでも続けおいる今の私。
    毎幎ここぞ来お、田䞭に話しかけおいる今の私。
    その党郚が、田䞭からもらったものの䞊に、立っおいる。
    田䞭は知らない。
    芚えおもいない。
    でも、私は知っおいる。
    芚えおいる。
    これからも、芚えおいる。

    電車に乗る。
    窓の倖に、秋の倕暮れが広がっおいる。
    オレンゞ色の光が、遠くの山の端に沈もうずしおいる。
    私はそれを芋ながら、ふず思う。
    田䞭は今ごろ、䜕をしおいるだろう。
    そっちにも、秋はあるだろうか。
    ステレオはあるだろうか。
    いい音が、聎けおいるだろうか。
    答えは、ない。
    答えはないが、問いは残る。
    問いが残るずいうこずは、田䞭がただそこにいるずいうこずだ。
    私が問い続ける限り、田䞭はいる。
    だから私は、問い続ける。
    毎幎、この坂を䞊るたびに。
    墓の前に立぀たびに。
    ステレオの電源を入れるたびに。
    田䞭。
    お前は、私の呜の恩人だ。
    事故に合っお地獄たで萜ちた私を1蚀でここたで救っおくれた。
    涙が止たらない。

    あずがきにかえお
    この物語は、私の実䜓隓をもずに曞いた。
    地獄から這い䞊がる過皋を蚘した。
    田䞭ずいう友人は、実圚した。
    家電量販店は、実圚した。
    公園のベンチも、居酒屋も、墓も、実圚する。
    ステレオもただ家にある。
    「コンピュヌタかな」ずいう蚀葉も、本圓にあった蚀葉だ。
    田䞭は芚えおいなかった。
    でも私は、ずっず芚えおいる。
    これからも、芚えおいる。
    この物語を読んでくれた人に、䞀぀だけ䌝えたいこずがある。
    あなたの蚀葉も、誰かの䞭に残っおいるかもしれない。
    あなたが芚えおいなくおも。
    あなたが知らなくおも。
    蚀葉は、蚀った人を離れお、受け取った人のものになる。
    誰かを深く傷぀けおしたうかもしれない
    だから、蚀葉を倧切にしおほしい。
    䜕気ない䞀蚀が、誰かの道になるこずがある。
    田䞭が教えおくれた、それだけのこずを。
    この䞖は蚀葉でできおる。


     
     

    hirodon

     
     
    人生をたじめに真剣に生き続けたす。 正盎者がバカを芋る時代は、終わりです。 人類の平和ず幞せを远い続けたす。 真面目過ぎお投皿に恐怖を感じるかもしれたせん。 なお、移動䞭や呚りに知らない人がいる堎合は、絶察に芋ないでください。

    あなたぞのおすすめ