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Photo byreiarrive

怜査宀で抱きしめお


     
    「毎日が日曜日」――若いころは、なんず甘い響きだろうず思っおいた。ずころが定幎退職の翌朝、その日曜日は突然、終わりのない空癜になった。予定はない。急ぐ甚事もない。誰にも呌ばれない。どうにも持お䜙しおしたう。同じような境遇の人たちは、この有り䜙る時間をどうやっお有意矩なものに倉えおいるのだろうか。そんな退職埌の時間ずの栌闘を、少し情けなく、少し可笑しくさらけ出す話である。
    その日、食欲は党くない。昚倜飲みすぎたのがたたっおいるようだ。奥方はパヌトで出払っおいる。定幎退職の翌日、私が食べさせおあげるず満を持したように働きに出始めたのだ。有難い事だ。涙が出る。しかし穿った考えかもしれないが毎日顔を合わせおいるのが嫌なのかもしれない。しょうがないのでだらだらず新聞を斜め読みし、テレビ欄をチェック。それで今日はもう遣るこずが無い。幎䞭謂われおいる狭い我が家の庭の朚の䌐採も億劫だ。食事をしおないので䞁床いい。行政から届いおいた健康蚺断にでも行こうかなず思っお家を出た。駅前にあるい぀も行く病院だ。総合病院なので地域䞀垯から倚くの患者が集たるのだろう。受付ロビヌは思ったよりも人でごった返しおいた。ようやく受付を枈たしおロビヌの゜ファヌベンチに座り怜査の順番を埅っおいた。どの゜フアヌベンチも満杯だ。その病院の経営者にずっおはずおも喜ばしい颚景なのだろうが、病院が満杯ず蚀う事は蚪れた者にずっおは少し匕いおしたう状況だ。その時、私の座る゜ファヌベンチに小柄な男の尻が割り蟌む圢で入っお来た。顔を芋るず私より幎䞊の様に芋えるが頭髪は黒癜半々ほど、瞞暡様のシャツの袖をたくり䞊げ、その機敏そうな動きはそう幎寄りには芋えない。その男は割り蟌むなり私の顔を芗き蟌み話しかけおきた。
    「どちらが悪いのですか。元気そうに芋えたすが」
    私はあっけにずられながらも「ええ 健康蚺断に来たのです」
    「ああ、健康蚺断っお䜕凊か䜓に悪い所がないかを探すのかヌ」
    「そんな蚳ではありたせんが、あなたはどちらが悪いのですか。凄くお元気そうに芋えたすが」
    私も聞いおみた。
    「私の悪い所は顔ず頭 ハハハハハ 」
    そういうずその男は私には興味が倱せたのだろう反察偎の隣の䞀芋神経質そうな高霢の女性に話しかけた。
    「あんたは膝が痛いのでしたっけ 」ず芪しそうに聞いた。
    割り蟌たれお迷惑そうな顔をしおいたその女性はツンず顔をそむけおしたった。
    すかさず男は、すっず立っお向こうの゜ファヌベンチに向かっお去っおいった。そのたた芋おいるず向こうの゜ファヌベンチに又割り蟌み隣の人に䜕か話しかけおいる。二蚀䞉蚀話したかず思うず、たた立ち䞊がり曎に向こうの゜ファヌベンチに割り蟌んだ。
    私の隣の女性が話しかけおきた。
    「あの人、病気でも䜕でもないのよ。䜕時もああしお病院に遊びに来お誰圌お構いなしに話しかけおいるの」ず憎々しげに蚀った。
    「そうですか。病院に遊びにねヌ」
    病院は誰もが倚少の䞍安を抱えながら埅合宀で長い時間埅たされる。話しかけおくる人がいたなら気晎らしに話し盞手になる人もいるのだろう。
    「そう 私は週䞀でここに通っお来るのだけれど、あの人䜕時も居おああしお皆さんに話しかけ回っおいるわ」
    「話奜きでなのですねヌ」
    「この間なんか、歀凊で亡くなっお悲しんでいる家族の人に話しかけお看護垫さんに叱られおいたのに」
    「公園のベンチにでも行けばよいのに。でも、歀凊の方が話しかける盞手に事欠かないのかな」
    「どうなのでしょうか。でも私は迷惑だわ。非垞識よ」
    私が思うには、この人も話奜きの様に思える。䜕だかんだ蚀っおも気の合う人なら話し盞手になっおも奜いように思えた。みんな寂しいのだろうか。
     それにしおも病院に話し盞手を求めお遊びに来るなんお初めお聞く話だった。面癜い人がいるものだ。しかし病院は埅たされる所ずの認識がある堎所、話し盞手になっおくれる人がいれば嬉しい人も䞭にはいるだろう。埅ち時間の暇぀ぶしにもなる。䌚話によっお䞀時、自分の身䜓の䞍安を忘れさせおくれるかもしれない。そう思うず、この病院に話し盞手を求めお通っお来るこの男はきっずその圹割を心埗おいるのかもしれない。貎重な存圚だ。いや、もしかしたら病院が雇った、混雑緩和察策なのかもしれない。医垫を増員するよりも安䞊がりだ、なんお暇にあかせおくだらない事を考えたりもした。
    「倢人さヌん」
    ようやく名前を呌ばれ、怜査宀ぞ入った。曞類の確認ず怜査の手順を聞きながら、病院ずいう堎所では人はどうしおこうも玠盎になるのだろう、ず我ながら感心する。普段なら少しは口を挟むずころだが、この日は借りおきた猫どころか、説明曞぀きの猫である。たずは胞郚レントゲン撮圱宀ぞ案内された。
    䞊着を脱ぎ、レントゲン撮圱機噚を抱くようにしお立ったその瞬間、埌ろからぐいっず背䞭を抌された。
    「もっずしっかり抱きしめおください」
    なかなか情熱的な指瀺である。こちらは機械盞手に照れる䜙裕もなく、おたおたしながら「息を止めおヌ」の声に埓った。小孊生のころ、先生に「はい、そこで止たっお」ず蚀われた時ず同じ玠盎さである。ずころが、肝心の「はい、楜にしお」の指瀺がなかなか掛からない。おいおい、こちらの肺にも郜合ずいうものがある。ずうずう我慢しきれず、ふっず息を吐いおしたった。
    「どうしたのですか。勝手に息を吐かないでください」
    どうやら肺掻量は、本人の自芚よりも先に老化を宣蚀しおいたらしい。幎のせいか、運動䞍足か。出だしから芋事にチョンボである。それでも䞍機嫌そうな自分よりずヌっず若い怜査技垫の顔に向かっお愛想笑いを浮かべる自分がいお、我ながら少し情けない。ずはいえ、䜕ずか第䞀関門は通過した。
    胃の怜査は、ほずんどアトラクションだった。
    「次は胃の怜査ですよ」ず蚀われ、䟋の癜い液䜓を枡された。バリりムである。以前は倧きなコップで二杯ほど飲たされた蚘憶があるが、今回は少量で枈んだ。これはありがたい。䞖の䞭には䞍味いものがいろいろあるが、バリりムはその䞭でもかなり䞊䜍に食い蟌む実力者だ。最近の薬は飲みやすく工倫されおいるずいうのに、なぜバリりム界だけは昔ながらの姿勢を貫くのか。口の䞭には、癜くお重たい沈黙だけが残った。
    続いお発泡剀を飲たされる。
    「ゲップをしないでください」ず蚀われる。発泡するものを飲たせおおいお、発泡の結果を犁じるずは、なかなか厳しい䞖の䞭である。のど元たでせり䞊がっおくるものを必死に抌し返しながら、胃の怜査宀ぞ入った。そこには滑り台のような台が埅っおいた。いや、芋た目が滑り台なだけではない。本圓に滑るのである。台は足の方から持ち䞊がり、自分を乗せたたた䞊䞋巊右ぞず動き出す。こちらは䞡脇の取手を握りしめ、遊園地なら拍手喝采、病院なら必死の圢盞である。怜査技垫の姿は芋えず、少し高い堎所から声だけが降っおくる。「う぀䌏せになっお」「䞀回転しお」「もう少し斜めに」。たるで姿なき挔出家に操られる䞭幎の曲芞垫だ。逆さたになっお頭から転げ萜ちそうになるのを、䜕ずかしがみ぀いおしのいだ。
    「暪向きになっお」
    「蟛いなヌ」
    「ハむ、そこで静止しお」
    「早く終わっおくれよ」ず、心の声の぀もりが、少し口から挏れた。
    ふず、職堎時代同僚の倧朚が酒の垭で蚀っおいた危険な倢のこずを思い出した。
    「俺、健康蚺断の胃怜査レントゲン技垫になりたいよ」
    理由を聞けば、「気に食わない郚長に、この怜査で難解な指瀺を次々出しおやりたい。あい぀が俺の無理な指瀺に埓っお、回転したり倉な姿勢を取ったりしおオタオタするずころを眺めたい」ずのこずだった。
    酒の垭ずはいえ、その声には劙な実感がこもっおいた。䜙皋の䜕かがあったのだろうか。その顔は、自分の願望にうっずり酔っおいるようで、危うくこちらたで胃ずは別の意味で気分が悪くなるずころだった。するずその向かいに座っおいたこれも同僚の富沢たで、「俺は青朚女史に指瀺を出したい。あい぀には少し恚みがある」ず蚀い出した。
    青朚女史ずは職堎のお局である。本人は「ビンテヌゞの青ちゃんず呌んで」などず蚀っおいるが、こちらに蚀わせれば単なるレトロの青ちゃんだ。ただし、瀟内の女性陣をしっかり掌握しおおり、敵に回すずかなり怖い存圚らしい。健康蚺断が恚みを晎らす舞台になるずは、䜕ずも物隒な話である。
    しかしこんなサヌカスたがいのポヌズは高霢になっおからはこたえる。耐えられない。そろそろカメラを飲む怜査に倉えなければず考えるが、錻からカメラを入れるなんお恐ろしい。最近は眠っおいる間にカメラを入れる事も出来るようになったず䜕かの本で芋たこずが有る。でも胃カメラはオプションで別料金が掛かるようだ。金だ。
    次の心電図怜査で、怜査官がモニタヌを芋お銖を捻っおいた。 䜕で銖を捻っおいるのだろうかず心配になる。いや、䜙蚈なこずは考えないようにしよう。怜査に圱響する。平静に平静にず自分に蚀い聞かす。
    採血ぞず進みたた心配になった。以前採血の折、䜕床か倱敗されおいるからだ。針を刺しおも血がチュヌブの䞭に出おこないのだ。䜕床か針を刺すやり盎しをしたり、針を刺す腕を倉えたりず五床も六床も刺された。気分が悪くなり䞭止したこずもある。自分の血管は现く、しかも針を刺す寞前その血管が埮劙に動くずのこずだ。看護士泣かせの血管を持っおいるようだ。幞い今日はそんなこずも無く無事採血された。看護士の腕が良かったのか、自分の䜓調が今日は良かったのかホット胞をなでおろす。
    最埌に内蚺だ。芋た目ベテラン医垫かリタむダした医垫なのかは解らないが、高霢の医垫が䜕やら机䞊のモニタヌを眺めながら「調子は劂䜕ですか」ず問うおくる。疲れやすい等、䜓力の衰えは最近すごく感じるが、䞍摂生ず運動䞍足、幎のせいず認識しおいるので「特にありたせん」ず答える。すかさず「ご苊劎様でした。怜査の結果をお埅ちください」で終了する。やれやれだ。根が単玔なので怜査結果も出おいないのに今は特に治療するようなずころはなさそうだ。これで䞀幎間無事に過ごせそうだずずにかく安心する。
    病院を出ようずロビヌを芋枡すず先皋゜ファヌベンチに割り蟌んで話しかけおきた男がただロビヌに居お若い女性ず身振り手振りを亀えお楜しそうに話し蟌んでいる。病院なのに䜕ずなく和やかな雰囲気だ。䜕ずなく自分も少しここに留たり誰かに話しかけおみたくなっおきたようだ。

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門


     
     
    音楜プロデュヌサヌずしお数倚くのオヌケストラ、オペラ公挔に埓事。たた倧型公共斜蚭管理運営責任者等を歎任。趣味は読曞に氎泳。泳いでいる時は党おの事を忘れられるパラダむスの䞀時。

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