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【小説】矅針盀の瀺すその未来(さき)ぞ



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     父ずの別れはあっずいう間だった。
     告別、ずいえるような時間ではなかった。

    「ご本人さたに間違いがないかご確認ください」
     棺の小窓をあけお、事務的に告げられる。
     叔母を䞀番にず思っお䞀歩匕いたのに、叔母はあなたがたが先にず曎に埌ろに䞋がった。
     譲り合いをするわけにもいかず、棺に近づき芗きこむ。
     ──ああ、お父さんだ。
     幎を取り、ガリガリに瘊せおこけた頬。枋いずたわりに評刀がいいんだ。そう自慢しおいた髭はない。治療や介護に邪魔だから剃られおしたったのだろう。
     倢に芋た姿でも、か぀お䌚っおいた頃の穏やかな顔でもない。それでも間違いなく、父がそこにいた。
     小さく頷いお、埌ろに䞋がる。絢子が、玘䞀が、そしお叔母ず埓姉効が同じように父の顔を芋お、確認は終わった。
    「花ず手玙を入れたいんですが」
     絢子が係員に尋ねる。
    「できたせんよ。お断わりしおいたす」
     にべもなく蚀われお息をのんだ私の暪で、絢子が即座に蚀い返した。
    「できるっお聞いおたすけど。だから甚意しおきたんです」
     玘䞀が持っおいる花を瀺す。私ず効の手にはそれぞれ、封筒に玍めた手玙があった。
    「誰にです?」
    「叞法曞士さんから」
    「棺の䞊に眮くのでしたら構いたせんが」
     だったらそう蚀っおよず内心で毒づきながら、玘䞀が手早く簡易包装を剥ぎ取り眮いた花束の䞋に、手玙をすべりこたせた。
    「では、合掌ください」
     小窓を閉じお、係員が操䜜盀のスむッチを抌す。
     それで、終わりだった。
     蚀われるたた手を合わせお黙祷した私たちのむこうで、ガチャンず金属の扉が閉たる音が響いた。


    「うちの方だったら、棺開けお、呚りにみんなでお䟛えの花を党郚入れながらお別れするのに」
     二時間ほどかかりたすので控宀でお埅ちくださいず退出を促され、廊䞋に出たずころで絢子がひそりず蚀う。
     確かに、いたたで参列しおきた芪族の葬儀はそんな感じだった。同じ盎葬だった矩父ず矩匟の時は、棺をいっぱいにするほど䟛花はなかったけれど、それでももう少し、別れを惜しむ時間があった。
     地域性か、それずも混んでいるのか。
     時間も、十䞉時からず聞いおいたのにそれよりずいぶん早い。棺が着いたらすぐだった。十五分前では、間に合わなかったかもしれない。
     斎堎によっおも違うのだろうけれど、あたりのあっけなさに思わずため息が出た。
    「行こうか」
     ゚レベヌタヌホヌルぞ歩いおいく叔母たちに頭を䞋げる。
     収骚したいなんお、厚かたしいこずを蚀う぀もりはなかった。
    「どこぞ行くの」
     螵を返した私たちに、叔母が䞍思議そうな声をかける。
    「え  あの  」
     お別れだけさせおほしいずお願いしお、蚱しおもらったはず。
     戞惑いに䞉人で顔を芋合わせる。
    「いらっしゃい。枡したいものがありたすから」
     叔母の蚀葉に、ためらいながら埌に続いた。


     萜ち着いた雰囲気の控宀に入るず、担圓なのか先皋の係員がお茶を淹れおくれた。
    「来おくれおよかったわ。特に玘䞀くん。本圓に倧きく立掟になっお。最埌にあった時はただ小孊生だったかしら。兄はあなたずは疎遠なたただったから、きっず喜んでいるでしょう」
    「──そう、なんですかね」
     困惑したように玘䞀が答える。
    「祥子ちゃんは入院しおたんですっおもう倧䞈倫なの」
     先日、絢子ちゃんから聞いたけどず、案じた衚情で叔母が私を芋る。
    「はい。なんずか」
     わだかたりを埮塵も感じさせない叔母の察応に、困惑しながら頷く。治療が終わったわけではないけれど、ここでそれを話す必芁はない。
    「春子叔母さんには、本圓にお䞖話になりたした」
     深々ず頭を䞋げるず、䞊んで座っおいた絢子ず玘䞀も、倣うようにしお頭を䞋げた。
    「本圓にね。たさか兄がこんなふうになるずは思わなかったわ」
     茶噚を傟けた叔母が、深々ずため息を぀く。
     そうしお、郜さんず祥子ちゃんには話したこずだけど、ず前眮きをしお、父が保護された時の詳现を話し始めた。

     保護されたのは、かかり぀けの病院の近く。父を芋知った看護垫が、午埌の勀務のために出勀しおきたずころで芋぀け、様子がおかしいこずから、譊察に連絡したのだずいう。
     倜、倖出から垰宅したら譊察から電話がかかっおきた。断ったけれど、パトカヌに乗せお連れおきた。頭を抱えおうずくたったから救急車を呌んだ、ずいうのはこれたでに聞いた話ず同じ。
     財垃ずスマホず家の鍵を持っおいたずいうから、私はおっきり、習慣のりォヌキングに出たずころで、突然垰り道がわからなくなり、迷子になっおいたのかず想像しおいた。けれど違ったようだ。
     脳梗塞の埌遺症で、蚀語野の機胜は倱われた。声は出せるようになったけれど、思ったこずを蚀葉で䌝えられなくなり、意思の疎通はたったくできなかったずいう。
    「あのひず、足腰だけは䞈倫でしょうだから斜蚭から抜け出しお、どうやったのか電車に乗っお随分遠くたで行っおしたっおね。倧隒ぎだったわ。䞋りた駅で改札を出られなくお、駅員さんが譊察に通報しお私に連絡がきたけれど、迎えになんおいけないし」
    「え! 」
     初耳の話に䞉人しお驚く。
     斜蚭から抜け出した駅たで誰も䞍審に思わなかったの電車の䞭で、誰も気に留めなかったの
     歩き方が達者だずいっおも、認知症の老人。芋た目に違和感はなかったのだろうか。郜䌚ではそんなにも、他人のこずは我関せずなのか。
    「それで、どうしたんですか」
     絢子が問う。
    「斜蚭に預かっおもらっおいるんだからっお譊察に散々蚀っお、斜蚭から迎えに行っおもらいたした」
     家に垰ろうずしたのか、それずもどこかぞ行こうずしたのか、わからない。
     その他にも、色々あったのだず叔母は語る。

     父の䜏たいがあったのは隣の垂。たびたびアパヌトたでポストの確認には行けないからず、郵䟿局に転居届を出したら次々ず請求曞が届きはじめた。
     クレゞットカヌド、携垯電話、アパヌトのむンタヌネット通信費、定期賌入しおいるらしい健康食品の䌚瀟。銀行口座が凍結されお匕き萜ずしができなくなった支払いすべお。それらはやがお督促状になった。
     埌芋人が決たるたで立お替えた病院や斜蚭の支払い。埌芋人が決たっお粟算されおも、それは領収曞があるものだけ。病院や斜蚭、手続きのために圹所などぞ行った際の亀通費や、手数料は自腹のたた。ひずりで心蚱ないずきは倏垌や由玀子に同行しおもらった。その亀通費も持ち出しだった。
     資産管理を叞法曞士に任せおからも、月々の斜蚭の入居費が高額で気になった。そこしか入れなかったから仕方ないが、兄の資産ず幎金でい぀たで賄えるのかずっず䞍安だった。
     思い぀くたたに語られる話を、私たちは黙っお、時には盞槌をうっお聞く。申し蚳なさで胞が苊しい。
     そのうち、どうしお叔母が今嫁を探さなかったのかがわかった。
     母ず離婚しおあっずいう間に再婚した父は、再婚を報告した実家で、元々折りあいが悪かった兄に絶瞁を蚀い枡されおいた。
    「お前ずは兄匟の瞁を切る。匟ずは思わない。もう二床ず実家ここに顔を出すな。うちの墓には入れない」
    ず。
    「あの方、氎商売のひずだったでしょう。浮気ずか離婚ずかも、長兄はそういうこずが蚱せなかったんでしょうね」
     䞉十幎前、そしお圓時五十代ぐらいの男性なら圓たり前に蚀いそうな蚀葉に、玍埗する。
     そういえば、墓参りには行くが実家には寄らない、ずいう話を聞いた気がする。理由は特に気にならなかったから、聞きもしなかった。
    「それずい぀だったか、家のたわりを探っおいるような䞍審者がいお。幎を取った女性ず若い男の人だったずご近所の方から聞いたのだけど、どうもうちを探しおいたようなの。気味が悪いでしょう」
    「叔父さんの盞手の人かなっお、思ったんだよね」
     盎感でしかないけど、ず由玀子が口を開く。次いで知らされた事実に、私たちは絶句した。

    「叔父さんの別居しおる奥さん、叔父さんちの近くに䜏んでるんだよね」


    続く


    ぞ

    ぞ

     
     
    信州圚䜏の物曞き。゚ッセむ、掌線小説など思うたたに綎りたす。創䜜倧賞2025 䞭間遞考通過(フヌド郚門)。 2026幎は小説『矅針盀の瀺すその未来さきぞ』をオヌルカテゎリ郚門に応募。桜や花、航空機、颚景などを䞭心に撮圱も。蚘事䞭の写真は基本、本人撮圱。たたに倫(掲茉了承枈)。

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