
【谷の巡礼】⑩分割払い最強ノ事
~青天井の灯り~
むかしむかし、
あるところに、
それはそれは、
深い闇に包まれる谷がありましたとさ。
空に近い都の灯が、
いつもより近く、
澄んで見えた頃のこと。
「この谷の闇を商いに」
と、都で手広く商いを営む、
灯り問屋の長男が、
谷へと下って参りました。
長男の荷車には、
深い闇を照らすための提灯が、
山のように積まれておったのでございます。

その提灯は、
ひとつ、十万。
村人たちには、
たやすくは手の出せぬ、
誠に値の張る代物でございました。
~よか智慧~
「ご安心ください。
“割賦”という仕組みがございます」
「月々、わずかな銭で、
この提灯をお持ちいただけます」

「月々の支払いは、これだけ。
家計にも、ほとんど響きません」
灯り問屋の長男は、
鼻息も荒く、
揉み手しながら、
こう言いました。
村人たちはその言葉の意味こそ、
よく理解できませんでした。
だけれども、
“時代のキーワード”に、
村人たちはめっぽう弱かった。
「ありがたか。これはよか話ばい」
「今ば豊かにする、よか智慧ばい」
「無理せんで手に入るけん、助かるばい」
村人たちは、
月賦で提灯を買い求めました。

~積もる明細~
そうして、
月賦の灯りが
谷へ広がるにつれ、
月賦で物を手に入れることが、
いつの間にやら、
この村では、
“公然の支払い方”
となっていったのでした。
ある者は、家電を。
ある者は、車を。
ある者は、保険を。
かくして、
村人たちは、
未来の自分にお金を借りて、
豊かな暮らしを
手に入れていったのでした。
「割賦の仕組みは、悪くない。
だけども、
……総額がぼやけることもある」
谷を訪れていた巡礼者が、
ぽつりと、こう言いました。
「こげな便利な仕組み、
使わんと損ばい」
そう言って、
村人たちは笑いました。
——やがて、
支払いの明細は、
静かに、
律儀に、
積み重なっていったのでした。
今日も、
村人たちは、
月賦で物を買い求めます。
月賦は、
とても、とても、お値段以上。
プライスレス。
めでたし、めでたし。

灯り問屋の長男は、
谷でいちばん繁盛する
『月賦相談所の若旦那』と
呼ばれるようになりました。
提灯だけではございません。
ありとあらゆる品が、
月々わずかな銭で
手に入るようになったのでございます。
やがて、
月賦相談所の若旦那は、
あることに気づきました。
「多くの村人を知ることは、
もっと大事ではなかろうか」
そうして若旦那が目を付けたのは、
村人たちが毎日のように集う、
一軒の茶屋でございました。
――次の、『茶番の茶屋』の物語へ
