
【谷の巡礼】㉛~辺境のつぶやき~其の肆「谷の平常運転」
――もっとも。
巡礼者が、
この谷の景色へと
静かに同化しながら、
黙々と、
石碑を刻み続けるその巡礼は……
もはや、
あの頃の「徒労」でもなく。
胸を焦がした「執念」でもなく。
いつしか、
“習慣という名の奇跡”へと、
繋がり始めていたのでした。
目先の景色に、
一喜一憂することもない。
ただ、
今日も、明日も、
刻むだけの昼行灯。
「一文惜しみの百知らず」
――もとい。
「一文欲しの、百を知る」
そんなところとなりましたとさ。
めでたし、めでたし。

――もっとも。
谷を巡ってきた巡礼者が、
最後に辿り着いたのは、
特別な秘術でもなく。
都の裏道でもなく。
ただ、
静かに歩き続けるという、
ひどく退屈で、
けれど、
確かな巡礼の作法でございました。
