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【谷の巡礼】㉜結 積立NISA譚 ~複利の精霊と歩む、静かな旅の記録~

    ~谷の巡礼者~

    ある者は、
    肩へ深く食い込む荷を背負い、
    谷の巡礼に出たのでした。

    それは、
    静かな夕暮れを、
    心穏やかに迎えるための旅。

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    ~谷の地図~

    巡礼者の懐には、
    一枚の古びた地図がありました。

    それは、
    かつて、
    この谷を歩き抜いた多くの先人たちが、
    書き記したといわれる
    “指数の地図”。

    そこには、
    目が眩むような
    急勾配もなければ、
    一足飛びに頂上へ至る
    魔法の道も記されていません。

    ただ、
    どこまでも、
    どこまでも続く、
    “一本道”が、
    霞の向こうへと伸びているだけでした。

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    ~惑わす声~

    「おい、そこの巡礼者。
    そんな古ぼけた地図は捨てちまいな」

    不意に、
    横道から、
    派手な身なりの旅人が声をかけます。

    彼の後ろには、
    金細工を散りばめた
    豪華な馬車が停まっていました。

    「こっちの道を行けば、明日の朝には黄金の丘に着けるぞ」
    「あんな地味な坂道を一生かけて歩くつもりか?」

    また別の場所では、
    風に乗って甘い囁きが届きます。

    「近道があるぞ」
    「今だけ、この門が開いている」
    「流行りの靴に履き替えろ」

    それは、
    足を止め、
    視線を迷わせ、
    歩みのリズムを乱そうとする、
    惑わす声。

    けれど。
    巡礼者は、地図から目を離しません。

    巡礼者の耳に入るのは、
    靴底が、
    静かに土を踏みしめる音。

    冷たい風の中で、
    確かに鳴り続ける、
    自らの心臓の音。

    それを頼りに、
    巡礼者は歩き続けるのでした。

    豪華な馬車が、
    乾いた音を立てて
    自分を追い抜いていっても。

    その馬車が、
    霧の深い曲がり角で、
    谷の底へ
    消えていくのを横目にしても。

    巡礼者の背には、
    重たい荷が、
    深く食い込んでおりました。

    一歩進むたび、
    足取りは鈍く、
    肩は軋みました。

    けれど。

    ただ、
    地図に記された
    一本の線を信じ、
    自らの歩幅を数えるのでした。

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    ~嵐の日の過ごし方~

    嵐の日。

    谷では、
    提灯が折れ、
    馬車が崖から転がり落ち、
    旅人たちが叫んでおりました。

    「もう終わりだ!」
    「今すぐ逃げろ!」

    けれど。

    洞窟の奥では、
    ある巡礼者が、
    静かに火を灯しておりました。

    一冊の、
    古びた書の項をめくりながら……。

    ただ、
    嵐が過ぎるのを待つのでした。

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    ~退屈という名の平原~

    巡礼の道には、
    険しい場所ばかりが、
    待っているわけではありませんでした。

    むしろ。

    何日歩いても
    景色の変わらぬ、
    果てしなく、
    平坦な平原のほうが、
    続いていくのです。

    風も吹かず。

    誰とも出会わず。

    宝も見つからず。

    ただ、
    同じような
    朝日と夕日だけが、
    繰り返されておりました。

    旅人たちは、
    その退屈に耐えきれず、
    やがて横道へ逸れていきました。

    「もっと面白い道があるはずだ」
    「もっと早く辿り着けるはずだ」

    そう言い残して――。

    けれど。

    果てしなく
    平坦な平原を歩くうち。

    巡礼者は、
    あることに気づきました。

    かつて、
    肩へ深く食い込んでいた背の荷が、
    いつしか、
    重さを失い、
    谷の風に浮かぶための
    羽のような軽やかさへと、
    姿を変えていたのです。

    巡礼者は、
    自分が荷を運んでいるのか、
    荷が自分を運んでくれているのか、
    分からなくなるほどでした。

    景色が変わらぬ日にも、
    巡礼者は、
    足音だけを確かめながら、
    静かに歩き続けるのでした。

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    ~種を食べる者、植える者~

    道中、
    腹を空かせた旅人たちは、
    旅路で見つけた木の実を、
    次々と口へ運びました。

    「今、腹が減っておるのだから仕方あるまい」

    皆、そう言って、
    種までも
    噛み砕いてしまうのでした。

    けれど。

    ある巡礼者は、
    空腹を堪え、

    誰にも気づかれぬよう、
    その中の一粒を、
    指先で、
    静かに土を掘って埋めました。

    谷に響くのは、
    その小さな土の音だけでした。

    誰にも気づかれぬまま、
    小さな芽は、
    谷の片隅で根を張っていきました。

    そして幾年もの後。

    その一本の木は、
    巡礼者ひとりでは食べきれぬほどの、
    豊かな果実を実らせたのでした。

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    ~含み益の果実~

    巡礼者が育てた木には、
    時折、
    黄金色に透き通る果実が
    実ることがありました。

    それは、
    朝霧の中でだけ輝く、
    不思議な果実。

    手を伸ばせば、
    掴めそうにも見えるのですが、
    いざ触れようとすると、
    霧のように
    輪郭を失ってしまうのでした。

    旅人たちは、
    その輝きに目を奪われ、
    慌てて枝を揺らしました。

    「今のうちに摘み取れ」
    「消える前に手に入れろ」

    けれど――。

    巡礼者だけは、
    静かに木陰へ腰を下ろし、
    その果実を見上げるだけでした。

    いつか旅の終わりに、
    その輝きが、

    本当の糧へと変わる日を
    知っていたからです。

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    ~雪深い谷~

    谷は、
    雪で覆われました。

    巡礼者は、
    手のひらで転がすほどの雪の玉を作り、
    谷の坂道に転がしました。

    そして、
    その雪の玉の跡を追うように、

    ゆっくりと、
    谷の坂道を下りました。

    そこには、
    雪を踏みしめるような、
    小さな足音だけが、
    静かな谷に
    積もっていきました。

    やがて、
    雪の玉に追いつくと。

    それは、
    雪はさらに雪をまとい、

    いつしか、
    巡礼者ひとりを乗せても、
    なお崩れぬほどの、
    大きなものへと変わっていたのでした。

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    ~複利という名の精霊~

    巡礼者は、
    それを“複利”と呼びました。

    それは、
    巡礼の始まりでは、
    ほとんど姿を見せません。

    巡礼の始まりは、
    いつも孤独で、
    とても、
    歩き続けられそうには
    思えないからです。

    けれど。

    長い坂道を歩く者の背を、
    いつしか、
    静かに押し始めるのでした。

    気がつけば。

    あれほど重かった足取りも、
    どこか、
    軽やかになっておりました。

    精霊は、
    巡礼者が積み重ねた
    “月日”という風を、
    静かな追い風へと
    変えてくれるのでした。

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    ~人生後半の巡礼~

    若いうちに、
    この精霊と出会えなかったことを
    巡礼者は、
    悔みました。

    すると精霊は、
    静かにこう囁くのでした。

    「案ずることはありません」

    「今、この瞬間が――

    これからの人生で、
    一番若い時なのですから」

    精霊は、
    そう言って、
    また、
    静かに、
    谷の奥へ消えていきました。

    巡礼者は、
    その精霊を追うように、
    また歩みを続けました。

    いつしか、
    音もなく谷を滑るように……

    自ら歩くのではなく、
    運ばれるかのように、
    歩みを続けていたのでした。


    ~灯りを繋ぐ者~


    巡礼者が植えた木は、
    幾年もの月日を越え、
    やがて、
    一人では見上げきれぬほどの
    大樹へと育っていきました。

    その枝葉は、
    強い陽射しの日には木陰となり、
    激しい雨の日には、
    小さな屋根のように、
    巡礼者たちを守りました。

    気がつけば、
    巡礼者は、
    白髪が増え、
    腰が曲がり、
    右手には、
    杖を携えておりました。

    ある夕暮れ。

    巡礼者は、
    その木陰へ
    静かに腰を下ろしました。

    そして、
    後から谷へ入ってきた若い巡礼者へ、
    長年抱えてきた
    一枚の古びた地図を手渡したのでした。

    「近道は載っておりません」

    老いた巡礼者は、
    少し笑ってそう言いました。

    「けれど。
    道を見失わぬための線だけは、
    静かに記されております」

    谷の灯りとは、
    そうして、
    人から人へ
    繋がっていくものなのかもしれません。

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    ~谷を巡る作法~

    谷の喧噪に流されず。

    自らの灯りで、輪郭を描く。

    ――それが、
    最も難しい、
    巡礼の作法なのでしたとさ。

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    手鞠

     
     
    谷を彷徨い、谷を巡礼しながら。暮らしと、お金の輪郭を綴っています。

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