――もっとも。
巡礼者が、
この谷を、
巡りはじめたきっかけといえば、
たいそうな理由はございません。
ほんの少しばかり、
懐が温まればよい――
そんな、
ささやかな願いでございました。
「真面目に石碑を刻み続ければ、
いつか一文銭くらい、
どこからか、
転がり込んでくるのではなかろうか」
巡礼者もまた、
かの若い衆と同様に、
香ばしい“絵空”ばかりを、
描いておったのでございます。

――もっとも。
絵空事というものは、
人を、
底なし沼へと誘うことも、
またあるのでございました。
そして一度、
その沼へ足を踏み入れれば――。
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