
【谷の巡礼】㉙~辺境のつぶやき~其の参「虚無PVの譚」
谷に“光回線”が通ってからというもの、
村人たちは、
昼も夜も、
流れてくる映し絵ばかりを
眺めるようになりましたとさ。
『三日で儲かる投資術』
『誰でも勝てる谷の裏道』
『驚愕。巡礼者が絶対に語らぬ真実』
そんな煽り文句が、
光に乗るように、
谷じゅうを駆け巡っておりました。
――その片隅で。
巡礼者が刻む言葉は、
誰にも絵踏みされぬまま、
電子の塵となり、
漂っておりました。
数字にならぬ言葉は、
この谷では、
昼行灯と呼ばれておりました。
「一文銭の価値にも、なりゃしない」
すれ違う旅人は、
そう言って鼻で笑います。
それでも、巡礼者が、
刻み続ける手を止めないのは……。
それが、この谷でもっとも、
“利回りの悪い贅沢な道楽”であると、
誰よりも知っているからでしたとさ。
――虚無PV。
それもまた、一興。

――それとも。
光というものは、
時として思いもよらぬ困りごとまで
運んでくるものでございます。
谷が賑わえば、
茶屋もまた賑わう。
そして茶屋が賑わえば――。
お内儀さんの悩みも、
また増えるのでございました。
