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【谷の巡礼】⑮Canvaの絵踏み

    むかしむかし、
    あるところに、
    深い深い谷がありましたとさ。

    その谷には、
    腕利きの絵師がおらず、
    村の看板や御札は、
    どれも尊いものでありました。

    都から絵師を招き、
    高い金貨を払わねば、
    手に入らなかったのでございます。

    ある日のこと。

    月賦相談所の若旦那が、
    『魔法の筆』を持って現れました。

    「これさえあれば、
    絵心のないあなた様でも、
    一瞬にして、
    都の絵師のような
    見事な看板が作れるのでございます」

    「しかも今ならタダ同然、
    魔法の『フリープラン』を
    ご提供いたしましょう」

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    村人たちは、
    狂喜しました。

    若旦那が差し出した
    『見本帳』の枠に、
    自分の名前を書き込むだけで、
    なんと不思議なことでしょう。

    誰の家にも、
    キラキラと輝く、
    立派な看板が掲げられたのです。

    誰もが表現者になれる、
    素晴らしい時代の
    幕開けでございました。

    けれど、
    しばらくすると、
    奇妙なことが起こり始めたのです。

    村の端から端まで、
    八百屋も、
    魚屋も、
    挙句には、
    葬儀屋までもが――

    みな同じ、
    『親しみやすい丸文字』を使い、

    みな同じ、
    『爽やかな青空の背景 』を
    掲げるようになったのです。

    同じ型で埋め尽くされた谷。

    「どれが自分の家か、
    分からんごとなった……」

    「隣の家の御札と、うちの御札が、
    見分けのつかん……」

    気が付けば、
    谷の景色そのものが、
    一枚の巨大な、
    『おすすめ見本帳』に
    なっていたのでした。

    そこへ、
    若旦那が、
    再びやってきて囁きました。

    「周りと差をつけたいあなた様へ、
    『プロプラン』を
    ご案内いたしましょう」

    「このプランに切り替え、
    みなが持たない特別な、
    『金の素材』を使えばよいのです」

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    村人たちは、
    埋没していく自分を
    “差別化”するため、
    またしても、
    若旦那に、
    月賦を
    払い続けるのでございました。


    ――誰もが、
    クリエイターになれる時代。

    “特別なはずの自分”を
    表現しようと、
    思い描けば、
    描くほど、

    同じ枠組みの中に
    閉じ込められていく、
    自己承認の円環か。

    それとも、
    型をなぞるだけの
    “個性”はインフレを起こし、
    誰もが、
    同じ表現をする時代が
    訪れたのか。

    はたまた、
    表現とは元より、
    誰かの真似を重ねた先に、
    ようやく見つかるものなのか……。

    答えのない問いを繰り返し、
    巡礼者は、
    また谷を巡るのでしたとさ。

    めでたし、めでたし。

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    けれども谷の者たちは、
    いつの時代も、

    何かしらの魔法を
    買うものでございます。

    そしてその頃、

    谷のはるか向こう、
    都の灯りが瞬く方角から、

    また一人、

    魔法を売る旅人が、
    下って来ようとしておりました。

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    手鞠

     
     
    谷を彷徨い、谷を巡礼しながら。暮らしと、お金の輪郭を綴っています。

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