
【谷の巡礼】⑭~辺境のつぶやき~ 其の壱「徒労無効投資譚」
――もっとも、
この谷のさらに外れ。
霧が深く、
誰も立ち寄らぬ崖っぷちで、
誰に頼まれたわけでもなく。
今日もせっせと、
こんな話を石碑へ刻み続ける、
奇妙な巡礼者がおりましたとさ。
村人たちは、
そんな巡礼者を、
「昼行灯」
と笑いました。
夜を照らすはずの灯が、
昼間には役に立たぬように、
巡礼者の言葉もまた、
さほど役には立たず、
谷に沈んでいくのでございます。
誰も気付かず、
誰の目にも留まらぬまま、
忘れかけた頃――
間違えて迷い込んだ旅人が、
一文銭ほどの
“スキ”を置いてゆくばかり。
それでも巡礼者は、
“今日も誰にも届かない真実”を
ただ黙々と、
刻み続けているのでしたとさ。
それもまた、
報われぬ投資の、一つの形。

それでも巡礼者は、
今日もまた、
石碑を刻み続けるのでございました。
たとえ誰にも届かずとも。
たとえ谷に沈もうとも。
これは、
そんな石碑のひとつ――。
