
【谷の巡礼】⓪前日譚 インデックス投資の伝道師 〜元へと続く足跡〜
~谷が生まれるまで~
私は、
お金のことを、
本当に何も知りませんでした。
おそらく、
金融リテラシーは、
人並み以下でした。
そして、
キラキラと映えるものに、
どこか苦手意識を抱いてしまう性格でした。
そんな私が、
資産形成を始めた頃、
一人の経済評論家の言葉に出会いました。
そこにあったのは、
華やかな成功談ではなく、
「未来は予測できない」
「だから、予測しない方法を選べばいい」
そんな静かな考え方でした。
その人は、こうも言いました。
「不安を煽る人から、距離を取りなさい」
「手数料を払ってまで、未来を当てにいかなくていい」
「普通の人は、普通に勝てる方法を選べばいい」
「投資で成功する秘訣は、途中でやめないこと」
胸に刺さった言葉を思い起こせば、
きりがありません。
その言葉は、
投資だけではなく、
生き方そのものを
少しずつ変えてくれました。
ほどなくして、
その方は、
旅立たれました。
もう新しい言葉を聞くことはできません。
けれど、
その考え方は、
私の中で一つの物語になりました。
それが、『谷の巡礼』です。
金融リテラシーを、
自分なりに学びながら──
学んだことを、
自分の中で確かめるように。
その一つひとつが、
やがて、
寓話という形になっていきました。
そしてその始まりを
『谷の巡礼 』の前日譚として、
ここに形にしようと思いました。
私が救われたあの言葉たちを、
この物語へ託しました。
最後まで、
読んでいただければ幸いです。
インデックス投資の伝道師
~聳え立つ山~

その谷をゆく巡礼者たちは、
決して急ぐことはありません。
彼らの行く手には、
常に高く聳える「山」がありました。
それは人々の欲望が
積み上がった象徴であり、
山頂を見上げる者ほど
「早くあそこへ辿り着きたい」と焦り、
足元の小石に躓いて、
谷底へ転げ落ちていきます。
しかし、
真の巡礼者は知っています。
山は征服するものではなく、
季節が巡るように、
一歩ずつ、
静かに踏みしめて、
越えてゆくものだということを。
~惑わす崎~

幾度となく、
谷の縁から突き出した崖――
「崎」が現れます。
その先端には、
煌びやかな旗を振り、
近道を教えると叫ぶ
相場師たちが立っていました。
彼らは崎の危うさを、
スリルという名の輝きに
すり替えて巡礼者を誘います。
けれど、
巡礼者は、
その崎に近づきすぎません。
強い風が吹けば、
真っ先に吹き飛ばされるのは、
その崎に立つ者だと
知っているからです。
~元へと帰る~

彼らが何より大切にしていたのは、
懐に抱いた「元」という名の種火でした。
それは派手な飾りではありません。
日々の営みの中で育まれた、
ささやかな原点です。
「どこへ向かっているのか」
と問われれば、
彼らはみな、
同じ答えを口にするでしょう。
「私たちは、
元へと帰る道を歩いているのです」
それは人類が積み上げてきた
知恵の根元であり、
巡り巡って、
自分たちを生かす
大きな流れそのもの。
派手な魔法を信じるのではなく、
ただ自分たちの信じた根元を、
ただひたすらに積み上げ、
持ち続ける。
長い谷を越えた先に待っているのは、
豪奢な王宮ではなく、
静かで揺るぎない元の景色。
そこには、
谷を照らすほどの
眩い灯りはありません。
けれど、
足元を見失わないだけの、
小さな火が、
確かに灯っているのでした。
それこそが、
静かに積み重ねた者に訪れる、
真の豊かさなのです。
山を越え、
崎に惑わされず、
元に帰る。
伝道師は、
旅立ちました。
けれど、
その言葉は、
今も谷で生き続けています。